<<目次へ 【意見書】自由法曹団
2002年5月
政府は、本年4月16日、国会に有事法制関連3法案(武力攻撃事態法案、安全保障会議設置法「改正」案、自衛隊法「改正」案)を提出し、今国会で成立させようとしています。
しかし、これらの法案は、自衛隊や米軍支援のために様々な法律の規制を取り外すとともに、国民や地方自治体を動員しようとするものです。地方自治体にも、これらの活動を実施する責務があることを明記し、内閣総理大臣の指示や防衛庁長官の要請に従って活動することを義務づけるものです。結局、軍事が最優先され、住民の生活や権利が犠牲にされ、住民の安全や福祉、環境を守るべき地方自治体の役割や職員の仕事が無視されることとなります。
私たちは、全国各地に約1600名の弁護士の参加している法律家団体ですが、これらの法案には、地方自治体や住民・職員にかかわって、到底看過することのできない問題があると考えています。
次ページ以下に「地方自治を破壊する有事法制関連法案の重大な問題点」を指摘させていただきます。なお、参考資料として、日本弁護士連合会の本年4月20日付理事会決議を添付させていただきました。
これらをご参照のうえ、法案の問題点をご検討下さい。そして、政府や国会に対して見解の表明、議会での意見書(後記案)採択等をしていただくようお願いします。
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今国会に提出された有事法制関連3法案(武力攻撃事態法案、安全保障会議設置法「改正」案、自衛隊法「改正」案)は、いわゆる「有事」の際に、国民を動員し、国民の財産を収用するとともに、これに対処する行政及び自治体・公共機関などの責任や役割を明らかにした法案です。地方公共団体については、「武力攻撃事態への対処に関し、必要な措置を実施する責務を有する」としています(武力攻撃事態法案5条)。
ところが、法案のいう武力攻撃事態とは、「武力攻撃を受けるおそれのある場合」も、「事態が緊迫し、武力攻撃が予想されるに至った事態」も含むとされています(同2条2号)。その判断によっては、アジアでの軍事紛争が拡大するおそれのある場合も含まれることになります。いわゆる周辺事態と同様な事態ともいえる概念です。
そもそも、日本が武力攻撃を受けることは、ソ連が崩壊する以前ですら「万万万が一」といわれていたほどありえない事態であり、今日では、いっそう考えられないといわれています。いま、そのような「おそれ」を拡大して「予測」の段階まで「有事」扱いし、戦争のための法体制づくりをすすめることは、逆に、戦争の危険を拡大するのではないかとの指摘もされているところです。
本土で行われている米軍海兵隊の実弾砲撃演習、日本の民間港に対する米軍の空母や艦船の寄港などについて、地方自治体や民間の協力がすでに実施されています。他方、武装した自衛隊はインド洋まで派遣され、アフガニスタンで武力攻撃を続ける米軍に燃料を補給する活動などを進めています。
今回の法案で地方公共団体が実施することとなる「対処措置」には、自衛隊の行動のためのみならず、米軍が円滑かつ効果的に行動するために物品、施設又は役務の提供その他の措置をとることも含まれています(武力攻撃事態法案2条6号)。法案は、米軍支援をさらに進め、日本がアメリカのために本格的に戦争できる体制をつくるものといわざるをえません。これらによって地方自治体及び職員がその体制に組み込まれ、重大な影響を受けることは必至です。
(1) 首相による指示と執行
武力攻撃事態法案は、地方公共団体の長等に対する内閣総理大臣の指示権を認め、これに地方公共団体が従わず実施できないときには内閣総理大臣自らが実施できるとし、あるいは他の大臣を指揮して実施させることができるとしています。緊急を要する事態のときには、直接執行できるとしています(15条)。これは、地方自治体が自主的に判断し対応するという地方自治の基本的な仕組みそのものを否定するものです。住民の福祉を増進する立場や住民の生命、身体及び財産を保護する立場も無視されることとなります。
現行自衛隊法のもとでは、地方自治体については、自衛隊の防衛、治安、防災の出動・行動に際しては、関係地方自治体の機関は、「相互に緊密に連絡し及び協力するもの」とされています(86条)。周辺事態法においても、地方自治体に協力を求める関係にとどめられています(9条)。本法案は、このような関係を越えた強力な上下関係を地方自治体に強いるものであり、地方自治体の本来的な役割を否定するものといわざるをえません。
(2) 強まる自衛隊の関与
武力攻撃事態法は、自衛隊の武力行使、部隊等の展開その他の行動、自衛隊及び米軍に対する物品、施設又は役務の提供指定などを「対処措置」として、実施するとしています(2条6号)。そして、武力攻撃事態対策本部においては、対処措置を実施するために、権限委任を受けた指定行政機関や指定地方行政機関の職員が、地方自治体との総合調整を行うこととなります(同法2条4号、14条、)。そして、この仕事を担当する職員には自衛隊の方面隊や師団の幹部らがあてられ、主導的役割を果たすことになるでしょう。このようにして、自衛隊が、地方自治体の組織や施策に関与し、あるいは影響を与える状況が想定されます。
軍事を最優先させるということは、このように地方自治体の組織や運営にまで及ぶこととなります。
(3) 許されない自治体の「非協力」
後述のように、自衛隊法「改正」案では、道路・河川・海岸・公園などについて、管理権を有する地方自治体の長の許可手続き等の適用が排除され、特例が設けられています。
のみならず、地方自治体が負わされる「責務」により、既存の法律にもとづいて、自治体の自主的な判断が否定される事態も生じます。例えば、核兵器を排除する非核神戸方式が問題とされるでしょう。神戸市は神戸市港湾施設条例に基づき外国艦艇が入港する際には港湾管理者である市長が非核証明書を請求し、その送付があったものに入港許可通知を出し、非核証明書の提出のない艦艇の入港は認めないという方針を取っているのです。米軍は核兵器の存在を「肯定も否定もしない」方針のため、神戸市に対して非核証明書を提出しません。そのため、米軍艦は神戸港に入港していないのです。しかし、本法案によって軍事を最優先させる事態となれば、国土交通大臣は、米軍の艦船の入港を拒否するのは不平等な取り扱いであるとして、そのような扱いを止めさせるよう求めることになるでしょう(港湾法13条、47条)。また、自衛隊や米軍に対する水道の供給についても、水道用水の緊急応援として、厚生労働大臣が知事に指示したり、同大臣自らこれを執行するなどという事態にもなりかねません(水道法40条)。
自治体の自主的な判断を許さない事態がおこりうるのです。
(4) さらに拡大される「法制整備」
武力攻撃事態法案(21〜23条)では、武力攻撃に対処するため、警報や住民避難の指示についてばかりか、保健衛生の確保や社会秩序の維持、輸送・通信、船舶・航空機の航行、そして米軍の行動が円滑かつ効果的に行なわれるための措置に至るまで、2年以内に法制度を整備することを定めています。これらの法制度が「整備拡張」されれば、地方自治体にとっても、軍事優先の仕組みがいっそう強化・拡大されることになります。
3 住民の権利剥奪の先兵に
次に、地方自治体は武力攻撃事態法案における「責務」を実施するために、自らが住民の権利を侵害する立場に立たされることとなります。
例えば、自衛隊法103条により、都道府県知事は、「病院、診療所その他政令で定める施設(以下本条中「施設」という。)を管理し、土地、家屋若しくは物資(以下本条中「土地等」という。)を使用し、物資の生産、集荷、販売、配給、保管若しくは輸送を業とする者に対してその取り扱う物資の保管を命じ、又はこれらの物資を収用することができる。」また、「施設の管理、土地等の使用若しくは物資の収用を行い、又は取扱物資の保管命令を発し、また、当該地域内にある医療、土木建築工事又は輸送を業とする者に対して、当該地域内においてこれらの者が現に従事している医療、土木建築工事又は輸送の業務と同種の業務で長官又は政令で定める者が指定したものに従事することを命ずることができる」とされています。しかも、本法案では、知事の発する保管命令やその実施のための立ち入り等を拒否したものに対しては、処罰規定まで設けているのです。このように戦争のために住民に仕事を命じ、土地や物資などを取上げることを命ずるのが地方自治体の長(知事)ということになるのです。
地方自治体は、戦争のための動員や施設・物資の取り上げなどを住民に命令し強制する立場に立つことになります。住民の権利を剥奪する仕事を地方自治体が先頭に立って実施することになるのであり、その先兵の役割を担わされることとなるのです。
自衛隊法「改正」案では、地方自治体が管理している道路、海岸、河川、港湾、漁港、森林、公園などについて、知事や市町村長との事前協議や許可手続きなどの適用を排除して特例をもうけています。自治体の管理権限等を無視して、これらを使用したり、様々な工事等を実施できるようにしているのです(115条の6、同8、同10〜15、同17〜21)。また、医療法による病院開設の許可手続き等も、建築基準法や死体の埋葬・火葬についての手続きも適用除外となります(115条の4、同5、同7)。
例えば、地方自治体が管理している道路について、管理者である知事や市町村長の承認がなければ工事をすることはできません(道路法24条)。実際まだ道路となっていなくとも道路として予定されている区域で、同じように承認を得なければ、工事をして土地の形状を変更したり工作物を新築・改築することはできないのです(道路法91条)。ところが、「改正」案では、これら道路法の規定について適用を排除し、承認なしで、自衛隊の部隊が通行するために道路工事をしたり、施設を建築するなど様々な工事をできるようにしようとしています。
保安林や自然公園の樹木を伐採し、湖や海岸を埋め立てて軍事基地や演習場に使用したり、河川や海岸に陣地をつくったり、指揮所・倉庫等建築すること等も、管理権者に対する通知一つでできることとなっています。港湾や漁港、都市公園、緑地保全地域や区画整理の土地などにおいても、同様です。管理権権者(知事など)による事前協議ないし許可等の手続きを不要にしているのです。
しかし、例えば、河川法は、「洪水、高潮等による災害の発生が防止され、河川が適正に運用され、流水の正常な機能が維持され、及び河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管理することにより、国土の保全と開発に寄与し、もつて公共の安全を保持し、かつ、公共の福祉を増進することを目的とする」(1条)と定め、この目的が達成されるように適正な管理が求められています(2条)。このような立場から、管理者である自治体の権限も行使されなければならないのですが、法案によれば、その権限自体が無視されることとなってしまいます。洪水や土砂崩れなど様々な自然災害の危険が発生し、それが現実のものとなっても、住民の立場に立って、それを事前にチェックするべき自治体の役割そのものが否定されてしまうのです。
自衛隊法103条は、物資や土地の収用、従事命令などについて、国民一般を対象にしていますが、これには、地方自治体の財産や職員も当然対象となります。むしろ、国民一般よりも優先して対象とされることになるでしょう。つまり、有事法制のもとでは、自治体は、その有する財産も職員も軍事最優先で使用・動員されることとなります。
例えば、公営バスなども、兵員の移動などのために動員されることになります。もちろん、公立病院、会館・体育館・公園など自治体の施設は、米軍や自衛隊が優先して使用することとなります。そのために自治体や住民による本来の利用はできなくなってしまうのです。現に、沖縄海兵隊が本土で行う実弾砲撃演習を警備するために警察官が使用するといわれ、体育館で予定していた市民の行事が中止された例も発生しています。
また、例えば、自衛隊や米軍のために水道を供給することも、自治体に求められることになるでしょう。住民には水不足となっても、軍事最優先で水道を供給する事態になりかねません。もちろん水道局の職員も動員されます。実際、小樽港に入港した米軍の航空母艦のために、小樽市の水道局が夜間も含むフル稼動で水の供給作業を進めたという例もあります。
しかも、これらの仕事を拒否した職員は、処分される危険があるのです。
憲法は、住民の意思に基づき住民自らの生活を守る立場にたって地方自治を認めています。それが「地方自治の本旨」(憲法92条)です。地方自治体の基本任務は「住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」(地方自治法1条の2、1項)とされているのです。
武力攻撃事態法案でも、地方公共団体が「住民の生命、身体及び財産を保護する使命を有することにかんがみ、国及び他の地方公共団体その他の機関と相互に協力し、武力攻撃事態への対処に関し、必要な措置を実施する責務を有する」(5条)としています。また、国と地方公共団体の役割分担についても、「地方公共団体においては、武力攻撃事態における当該地方公共団体の住民の生命、身体及び財産の保護に関して、国の方針に基づく措置の実施その他適切な役割を担うことを基本とする」(7条)などとしています。一見すると、この法案は、地方自治体の基本任務と矛盾しないかのように見えます。
しかし、今回の有事法制関連3法案は、憲法や地方自治法で定められた地方自治の原則を真っ向から踏みにじるものです。
そのことは、すでに指摘した以下の問題点からも、明確です。
第1に、地方自治体の自主性を無視して、軍事を優先する責任を課し、政府や自衛隊からの指示に従わざるを得なくなります。指示を拒否したりすれば、自治体を無視して、政府自らが実施できる仕組みを導入するのです。
第2に、国民の動員や財産の取り上げという住民の権利侵害を自治体自らが先頭に立って行うことを余儀なくされます。
第3に、国土や環境の保全、住民の安全等のために行使されるべき自治体の管理権限が剥奪されます。
第4に、自治体の施設使用も職員の動員も、軍事最優先で行われ、住民へのサービス機能は破壊されます。
これらの問題点について、是非ご検討いただき、本法案に対して明確な態度を表明してくださるよう要請します。
(意見書案)
政府が去る4月16日に国会に提出した有事法制関連3法案(武力攻撃事態法案、自衛隊法改正法案、安全保障会議設置法案)は、自治体住民の福利、生活や安全を確保する自治体の役割に重大な影響を及ぼす。
武力攻撃事態法案は、戦争を進めるための様々な仕事を地方自治体が遂行する責務を明記し、内閣総理大臣が自治体に対して指示権や直接執行権を行使することまで認めるものである。また、自衛隊法「改正」案は、道路や海岸・河川、港湾、森林や公園などについて有する自治体の管理権を無視し、これらに対する工事などを実施できることとしている。これらは、住民の生活や安全、自然環境の保全をないがしろにするものに他ならない。
そもそも、日本に対する侵略戦争を企てる国の存在を政府自ら否定する一方で、戦争を放棄した日本国憲法のもとで本格的に戦争を進める体制をつくり、住民や自治体を動員する制度をあえて立法化することには、疑問を抱かざるを得ない。
このような有事法制関連3法案に対しては、住民の生活を守る立場から異議を唱えざるを得ないのであって、国会での法案成立に反対するものである。
(参考資料)
2002年4月20日
日本弁護士連合会
4月17日,政府は衆議院に「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案」(「武力攻撃事態」法案という),「安全保障会議設置法の一部を改正する法律案」(安全保障会議設置法「改正」法案という),「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案」(自衛隊法等「改正」法案という)を上程した(以上を有事法制3法案という)。
有事法制3法案には,憲法原理に照らし,少なくとも以下に指摘する重大な問題点と危険性が存在する。
1.「武力攻撃のおそれのある事態」や「事態が緊迫し,武力攻撃が予測されるに至った事態」までが「武力攻撃事態」とされており,その範囲・概念は極めて曖昧である。政府の判断によりどのようにも「武力攻撃事態」を認定することが可能であり,しかも国会の承認は「対処措置」実行後になされることから,政府の認定を追認するものとなるおそれが大きい。
2.いったん内閣により「武力攻撃事態」の認定が行なわれると,陣地構築,軍事物資の確保等のための私有財産の収用・使用,軍隊・軍事物質の輸送,戦傷者治療等のための市民に対する役務の強制,交通,通信,経済等の市民生活・経済活動の規制などを行なうことにより,市民の基本的人権を大きく制限することとなるが,これは憲法規範の中核をなす基本的人権保障原理を変質させる重大な危険性を有する。
3.曖昧な概念の下で拡張された「武力攻撃事態」における自衛隊の行動は,憲法の定める平和主義の原理,憲法9条の戦争放棄,軍備及び交戦権の否認に抵触するのではないかとの重大な疑念が存在する。
また周辺事態法と連動して,米軍が主体的に関与する戦争あるいは紛争に我が国を参加させることにより,日米の共同行動すなわち個別的自衛権の枠を超えた「集団的自衛権の行使」となり,我が国に対する攻撃を招く危険を生じさせる。
4.武力の行使,情報・経済の統制等を含む幅広い事態対処権限を内閣総理大臣に集中し,その事務を閣内の「対策本部」に所掌させることは,行政権は合議体である内閣に属するとの憲法規定と抵触し,また内閣総理大臣の地方公共団体に対する指示権及び地方公共団体が行なう措置を直接実施する権限は地方自治の本旨に反し,憲法が定める民主的な統治構造を大きく変容させ,民主政治の基盤を侵食する危険性を有する。
5.日本放送協会(NHK)などの放送機関を指定公共機関とし,これらに対し,「必要な措置を実施する責務」を負わせ,内閣総理大臣が,対処措置を実施すべきことを指示し,実施されない時は自ら直接対処措置を実施することができるとすることにより,政府が放送メディアを統制下に置き,市民の知る権利,メディアの権力監視機能,報道の自由を侵害し,国民主権と民主主義の基盤を崩壊させる危険を有する。
以上のように,有事法制3法案は,武力又は軍事力の行使を許容するための強大な権限を内閣総理大臣に付与する授権法であり,基本的人権侵害のおそれ,平和原則への抵触のおそれだけでなく,憲法が予定する民主的な統治構造を変容させ,地方公共団体,メディアを含む指定公共機関の責務と内閣総理大臣の指示権,直接実施権及び国民の協力・努力義務を定めることにより,国家総動員体制への道を切りひらく重大な危険性を有するものである。当連合会は,法案の持つ重大性,危険性に鑑み,法案の問題点を国民に明らかにし,上記理由に基づき,有事法制3法案に反対し,同法案を廃案にするように求めるものである。