自由法曹団通信:1161号        

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小林 克信 速報「ビックカメラ」残業代不払い事件 解決の報告 ―再び、蟻が象を動かした
岩田 研二郎 中国残留孤児国家賠償訴訟 大阪地裁で結審 ―七月六日に判決期日指定
杉島 幸生 「軍事大国化と『構造改革』」(山田敬男、石川康宏、牧野広義著・学習の友社刊)によせて
村田 智子 五・七集会にご参加、ご賛同をお願いします
山田 秀樹 岐阜・大垣発「グローバル・9map・キャンペーン」




速報「ビックカメラ」残業代不払い事件 解決の報告

―再び、蟻が象を動かした

東京支部  小 林 克 信

1、未払残業代推定約三〇億円の支払い

 長時間労働で身体を壊して退職した一人の元従業員G氏が、労働サポートセンターに、ビックカメラの全社的な不払い残業問題の相談のメールを送ったのが二〇〇三年一二月。その後、白木屋争議(多額の不払い残業事件)を解決した東京西部一般労働組合に加入して始まったビックカメラの争議が、本年三月一五日に、当該の元従業員の問題だけでなく、現在の全従業員及び退職した従業員に対してまでも未払い残業代を支払わせる完全勝利の内容での組合と会社間の協定書の調印により解決しましたのでご報告します(会社の支払い総額は、推定約三〇億円程度)。

 労働サポートセンターは、若者の労働組合離れが進行する中、より広く若年労働者をサポートし、誰でも気軽に労働相談をできる場の提供を目的として立川に設立されたNPO法人です。スタッフ五名も若者中心です。三多摩法律事務所及び八王子合同法律事務所の有志の弁護士が、労働サポートセンターのバックアップ弁護団を組織しています。その中で、私が過去に白木屋事件を担当したことから、ビックカメラ事件も担当することになりました。

2、「ビックカメラ」における労働実態

 パソコンやカメラを持っている人でビックカメラを知らない人はほとんどいないと思います。東京に本社をおき、全国約二八〇〇名の従業員を雇用し、二〇〇四年八月期のグループ合算での総売上高は四五八二億円のカメラや家電製品などを販売する大型専門店を経営する会社です。

G氏は、平成一三年四月一日に(株)ビックカメラに入社し、平成一五年九月一〇日に退社するまでの約二年半、池袋の店舗に勤務していました。入社から平成一四年五月一〇日までの約一年一ヶ月は、接客・販売などの一般職でしたが、同月一一日付で「主任」へと昇格しました。その途端、G氏は、「管理監督者」という位置付けになり残業代が支払われなくなりました。主任は、出勤時刻が強制的に毎朝八時と決められ、さらに全ての一般職を退勤させた後に主任が残りの業務を行わなければならなくなり、一日の労働時間が一五〜一六時間、月の残業時間が八〇〜一三〇時間の長時間残業をしなければならない状態となりました。主任には、残業代が出ない代わりに「役職者残業手当」が月に六万三八三〇円程度が支給されましたが、年間を通しての総支給額は一般職であった頃と殆ど変わらず、残業時間が増加しただけ、実質的な賃金ダウンの結果となりました。主任への昇格が会社による残業代対策だとG氏は感じ、退職後に労働サポートセンターに相談して計算したところ、未払い残業代は約四〇〇万円にも上るものでした。

3 主任は管理監督者か?

 勤務していたビックカメラ池袋本店の従業員構成は、店長一名、店長補佐一名、店長代理四名、主任一五名、一般職約七〇名の計約九〇名です。主任の主な業務は、接客・担当フロア販売員の管理・指導・クレーム対応等です。もちろん会社の経営方針の決定についての参画はなく、人事権についてもアルバイトらの人員配置やシフト調整をする程度で、新たに人員を雇用(または解雇)する権限等も全く与えられていません。出退勤時にはタイムカードの打刻を義務付けられて労働時間の管理がなされており、「管理監督者」に該当しないことは明らかでした。

4 団体交渉、調停、告発、提訴、そして解決へ

東京西部一般労働組合は、会社に対し、G氏の未払い残業に関しての団体交渉の申し入れが行いました。同時期に、会社は、残業代支払債務がないことの確認を求める債務不存在確認調停を東京簡裁に申し立て、調停申立てを理由に、団体交渉を拒否しました。会社側からの調停申立が団体交渉拒否の正当な理由にならないことは明らかであるため、組合は都労委に対して、団交拒否の不当労働行為の申立を行いました。都労委の指導のもとに、労働委員会の場を利用して双方の弁護士が立ち会った上で、実質的な団体交渉を実施するとともに、簡裁の調停手続きでは、タイムカード等による客観的な労働時間の確認作業を行いました。会社は、未払い残業代の一部に相当する解決金支払いの提案をしてきましたが、あくまでも「主任」は「管理監督者」であるとの立場を崩さず、残業代の未払いが「犯罪」であることの認識も不十分でした。そのため、G氏や組合は団体交渉や調停での解決を断念して、昨年九月に調停を不調にさせた直後に、池袋労働基準監督署に刑事告発し、また一〇月に残業代請求の民事裁判を東京地裁に提訴したところ、会社側の代理人が、経営法曹に変更となりました。東京労働局は、以前にビックカメラに対し二度も是正勧告を出していましたが改善されなかったために、昨年一一月二五日に会社の本社ビルなど四カ所について強制捜査を行いました。大手企業が労基法違反で強制捜査を受けるのは異例であるため、新聞報道もなされ、ビックカメラの不払い残業は、白木屋の場合と同様に、グループ全体では数十億にも達することが明らかになりました。会社からは低水準の和解申し出がありましたが、組合が拒否したところ、会社は、さらに別の経営法曹に代理人を変更しました。G氏も組合も会社の不正を正すために安易な妥協はしないとの方針で望んだ結果、最終的に本年三月、会社は労基法違反について謝罪し、退職者した組合員三名の問題だけでなく、在職者二八七四名及び退職者八六七名に対し、二〇〇三年一月(時効との関係)に遡って未払賃金の支払いをすることを確約し、実際に三月中に推定合計約三〇億円程度の支払いがなされました。

 一人の元従業員の勇気と地域の労働組合の団結により、大会社の労基法違反の違法行為を是正させ、今後の労働関係法規の遵守を約束させることができました。そして当該組合員だけでなく、他の従業員や退職者にまで争議の成果を波及させたことは、一二〇%の勝利として評価してよいと思います。白木屋事件に続き、蟻が象を動かした事件でした(弁護団は、三多摩法律事務所の山口真美弁護士と私です)。


中国残留孤児国家賠償訴訟 大阪地裁で結審

―七月六日に判決期日指定

大阪支部  岩 田 研 二 郎

一 全国九番目の提訴

 全国一三の地裁で、一八九九名の残留孤児らが訴訟を起こしていますが、本年三月二五日、大阪地裁において審理されてきた訴訟(大阪原告総数一四〇名、西岡芳樹弁護団長、久保井聡明事務局長)の第一次提訴分(原告三二名)が結審しました。判決日は、三ケ月後の七月六日と指定されました。

 二〇〇二年一二月に東京地裁に初提訴後、全国に広がり、大阪訴訟は、一年遅れた二〇〇三年一二月二五日に、全国で九番目の訴訟として提訴されましたが、それから一年三ケ月(一〇回の口頭弁論・証拠調べ)というスピード結審です。

二 裁判長の迅速な審理方針

 私たち大阪弁護団としては、東京地裁で行われている関東原告団の訴訟にゆっくりついていけばよいと思っていたところ、本件事件が係属した大阪地裁民事八部の大鷹一郎裁判長(三五期)の熱心な訴訟進行があり、年明け早々の裁判所面談で、二年で審理をしたいとの意向が示され、第一回口頭弁論も二月に指定するという迅速な審理が始まりました。早期帰国実現義務違反、自立支援義務違反という法的構成や訴状の組み立て、準備書面は関東弁護団のそれを参考にさせていただくとともに、立証活動も関東弁護団の調査と立証の蓄積のもとに、書証などを中心に出していきました。他の地裁では、国の法律的な釈明に裁判所が乗っかって、入り口論でもたつくところもあったようですが、大鷹裁判長は、「被害の各論立証を進めてほしい。各論立証の中に総論の立証がある」と原告本人尋問から立証に入る方針が示され、私たち弁護団も、昨年夏は、通訳を連れて、原告らの陳述録取書づくりにおわれました。

三 法廷通訳つきの原告本人尋問

 一〇月から一四名の原告の本人尋問が始まりました。日本語がかろうじてできる数名を除き、中国語の法廷通訳を介して、中国での苦労や日本に帰国しての苦労を話してもらいました(原告一人あたり通訳つきで一時間)。悲惨な逃避行や難民収容所生活や辛い肉親の死、殺害、日本人であるがゆえの差別迫害など、中国では誰にも口にすることもできず、小さな胸に封印されていた事実を六〇年もたって話すことで、胸が張り裂けんばかりに感極まる孤児たちの姿がそこにありました。四〇歳で帰国して生活保護を受けながら、必死になって日本語を勉強し、職業安定所に職さがしにいったところ「もっと日本語が上手くないと仕事はない」と冷たく拒否されたとき、「なんと日本はわたしたちに冷たいのか」と絶望したことを忘れないと悔しさと怒りをぶつける松田団長の姿がそこにありました。

四 東京地裁の結審延期と大阪地裁の結審

 大阪地裁では四回にわたる本人尋問で深刻な被害事実を証明するとともに、孤児の支援運動に長年たずさわり、関東訴訟を起こすために尽力されてきた菅原幸助さんを、東京地裁に続き、大阪地裁でも証人尋問することになり、一二月に尋問して、証拠調べは終了しました。

 当初は、東京地裁も本年三月結審の予定で、大阪とほぼ同時に本人尋問に入り、証拠調べが終了していましたが、東京地裁の小島裁判長が、本年二月に突如、転勤となってしまい、関東訴訟の結審が延期され、大阪単独の結審となってしまいました。

 そこで、大阪弁護団は、本人尋問以外の残りの一八名の陳述録取書つくりとともに、一月末からは全国の弁護団の智恵を借りながらの最終準備書面作成にとりかかりました。

 また、大阪地裁での勝利判決をなんとしても勝ち取るために、三月二一日には、全国九〇〇名の原告と支援者が、大阪城公園に集い、中国語のシュプレヒコールを発しながらのデモ行進を行い、引き続き開催された全国一三の原告団と提訴予定の東北地区の代表が集った全国決起集会も満員の盛況のうちに成功しました。

 マスコミの関心も非常に高く、原告弁護団が、最終弁論で、「生存情報があるものまで戦時死亡宣告した」ことなどを指摘すると大きく取り上げたり、原告を登場させた特集的な番組を企画するなど、さまざまな観点から、この問題を取り上げ、急速に、この問題に対する関心は広がってきています。

 また日本語が理解できない原告らに法廷の日本語での弁論や証人尋問が分かるように、関西では大阪(原告弁護士による法廷での中国語要約説明)、京都(日本語証言の中国語への法廷通訳)、兵庫(ワイヤレスマイクとイヤホンによる中国語通訳)などで、日本語が不自由な原告らを当事者として実質的に扱う工夫が始まっています。

五 あとには引けない原告ら

 残留孤児たちは、敗戦時に生まれたものも今年で六〇歳になり、仕事を失うと年金もわずかで、七割の世帯が生活保護を受給しています。年金の加入年数の短さから言って、残留孤児が経済的に自立できないのは帰国当初から分かっていたはずなのに、一般の救貧施策である生活保護しか適用して来なかったのです。

 結審日の記者会見でも、原告は「わたしたちの中国や日本での苦しみは、孤児の責任か、国の責任かを明確にしてほしい」「日本語が話せないのは、孤児たちの責任か国の責任かはっきりさせてほしい」と訴えています。

 私たち大阪弁護団も、全国に対する大きな責任を負っており、今後、大阪地裁への要請署名運動などに全力をあげて取り組むつもりです。全国の団員や団員事務所のご協力をお願いする次第です。


「軍事大国化と『構造改革』」

(山田敬男、石川康宏、牧野広義著・学習の友社刊)によせて

大阪支部  杉 島 幸 生

1、本書のテーマ

 本書は、歴史学者(山田敬男)、経済学者(石川康宏)、哲学者(牧野広義)が、日本の軍事大国化と「構造改革」の原動力それぞれの専門分野から追究しようとするものである。本書を「卓見」と評価するむき(例えば、雑誌「経済」三月号書評)もあるようだが、私にはそれとは逆に、本書のような見解は、私たちのたたかいを誤った方向に導くものになっているように思えてならない。

2、軍事大国化の原動力をどうとらえるのか

 この数年の団内論議を通じ、日本の軍事大国化の原動力が、@アメリカによる軍事的分担の要求と、Aグローバル化した日本企業の要請(新自由主義)のふたつにあることがほぼ私たちの共通の認識となってきたように思われる。ところが、本書は、こうした私たちの認識とは逆に、日本の軍事大国化の原動力をグローバル化した日本企業の要請ととらえることを誤りであるとする。日本の軍事大国化は、もっぱらアメリカの対日要求の結果であり、軍事大国化に向けた「日本の支配層の独自性、『固有の論理』などは存在していない」(四〇頁)というのが本書の基本的な認識である。

 本書は、軍事大国化に向けた日本資本主義の「固有の論理」を否定する論拠として三点をあげているが(三八頁以下)、それらはいずれも日本資本主義のもつ軍事大国化への願望(「固有の論理」)を否定するものとはなりえない。

 本書が指摘する第一の論拠は、「日本政府のなかにも、防衛庁のなかでも、アメリカと別に自衛隊だけの海外派兵構想は存在していません。現段階において、日本の支配層の公式、非公式の派兵構想は、そのすべてが日米同盟の枠内なのです」というものだ。しかし、「自衛隊だけの海外派兵構想」が存在していないことが、軍事大国化にむけた日本支配層の「固有の論理」を否定することにはならない。

 最近、財界は、国際秩序の維持に対する日本の軍事的貢献をしきりにとなえるようになっている。それは、アメリカが求める国際秩序が、日本資本主義の多国籍化にとっても必要となるからにほかならない。自らの利益のために必要となる国際的経済秩序をアメリカと共同して軍事的に維持しようとすることは、まさに日本資本主義の「固有の論理」にほかならない。

 本書が指摘する第二の論拠は、「日本の多国籍展開の特徴は、アメリカ主導であり、そのもとでアジア展開が行われている」ということだ。確かに日本の多国籍展開が量的な面でアメリカ市場中心であることはそのとおりである。しかし、日本経済とアジア市場の結びつきは量的にも質的にも年々拡大している。日本資本の対外進出が、アメリカ市場中心だからアジアへの軍事的覇権の要求はないということにはならない。

 本書が指摘する第三の論拠は、「アジア地域は、ASEANを中心に、経済、政治、安全保障の共同体を目指す動きが活発化しており、これに対抗して自衛隊を派兵することが難しくなっている」ということだ。しかし、「自衛隊を派兵することが難しくなっている」ことが、どうして日本支配層の「固有の論理」を否定することになるのか。私にはまったく理解不能というほかない。

本書は、こうした論拠にならない論拠をもって、日本の軍事大国化と日本資本主義の多国籍企業化との結びつきを否定しようとしている。私には、こうした見解が日本資本主義の侵略性・暴力性を覆い隠すものとなっているように思えてならない。

3 「構造改革」の原動力をどうとらえるか

 本書は、「構造改革」の原動力についても「『構造改革』を日本大企業の多国籍化を主たる原動力とするものととらえる見地」(八二頁)、「『構造改革』の全体を『新自由主義の改革』だと特徴づけること」(一八七頁)を誤りであるとする。本書はその論拠として二点をあげているが、これも誤りというほかない。

 本書が指摘する第一の論拠は、新自由主義を構造改革の原動力であるとする立場からは、「『構造改革』が従来の大型公共事業を温存している現実が説明ができない」ということにある。しかし、政府が積極的に予算を投入してある分野の市場(この場合大型公共事業)を開拓・確保することは、新自由主義的改革と矛盾するものではない。新自由主義は、国家の経済への規制的介入には対立するが、国家が積極的に市場の形成を行うことを排斥するものではないからである。

 本書は、構造改革を新自由主義的改革ととらえてはならない第二の論拠として、「『構造改革』に見られるアメリカの覇権主義的な対日介入がとらえられなくなる」という点をあげている。しかし、自らが対外進出をするためには自国の市場も開放しなければならない。金融の自由化や労働法制の緩和要求などに典型的にみられるアメリカの対日要求は市場開放と規制緩和という新自由主義路線にもとづくものにほかならない。日本の支配層がこうしたアメリカの要求を積極的に受けいれているのは、そのこと自体が日本資本主義の多国籍企業化に必要となる経済秩序の形成をすすめることになるからである。

 本書の見解とは逆に、アメリカの対日要求に財界が積極的に応えようとしていることこそが、日本の「構造改革」が新自由主義的改革であることを実証していると言わなければならない。

4 本書の立場からはとらえられないもの

 本書の立場は、要するに日本の軍事大国化や構造改革は、どちらもアメリカの圧力にもとづくものであって、日本資本主義自身が進もうとしている方向(多国籍企業化)とは直接の関係がないというものだ。しかし、これでは、今、わが国におきている事態を十分に説明することができない。

 例えば、教育基本法の全面改悪を打ち出した中央教育審議会の最終答申は、教育の階層化をすすめることで国際競争にうち勝つ人材と、高望みをしない従順な労働力を育成することを提言している。構造改革をもっぱらアメリカの対日介入から説明する本書の立場からは、こうした教育の階層化の危険性を説明することができない。

 また、石原都政による日の丸・君が代の強制などに典型的にみられる最近のわが国における国家主義(ナショナリズム)の高揚も、「構造改革」をアメリカの対日介入の結果であるとする本書のような立場からは説明することはできない。

 さらには、本書の立場からは、日本の軍事大国化を日本の帝国主義的野望を復活させるものであるとした韓国国会議員有志の声明は、お門違いの批判ということになってしまう。

5 運動をあやまらせる本書の立場

 日本の軍事大国化と「構造改革路線」を、日本資本主義の多国籍業化や新自由主義的改革と基本的には無関係とする本書の立場からは、当然のことながらそれに対する警戒心もたたかいも不必要ということになる。しかし、これでは「構造改革」になんとなく共感するといった層を取り込んでいくことはできない。

 例えば、現在の教育運動のなかには、保護者の選択権を保障するものとして教育の階層化につながる種々の改革を肯定的に評価する傾向が存在している。新自由主義的改革が示す将来像の全体を批判的に示していくのでなければとても、こうした層をつかみなおすことはできない。それどころか、私たち自身が、そうした改革にとりこまれていく危険性も否定できない。民主勢力のなかに教育基本法改革をいまだに愛国心教育の復古主義的側面からのみる傾向があるようだが、本書のような見方が影響を与えているのではないだろうか。同様のことは、社会保障の市場化の問題にも言える。

 また、日本の多国籍企業化が新自由主義的改革を要請しないとする本書の立場からは、各国政府と大企業がおしすすめる国際的経済秩序への対抗を掲げる反グローバルの民衆運動との連帯という課題も生まれてはこない。

 本書が、EUの経験をアメリカの政界戦略に対抗するものとして肯定的に紹介するだけで(一一五頁)、欧州の社会運動が、EU議会の非民主制を批判し、EU諸国がすすめる新自由主義的政策(労働市場の規制緩和、福祉の後退など)に反対の声をあげていることについて共感をしめしていないこともその結果である。

 今年一月にブラジルのポルトアレグレで開催された第五回社会フォーラムでは、平和の問題が大きな国際課題として議論された。そこには経済のグローバル化と平和の問題が実は重なり合っているという認識の深まりがある。しかし、本書の立場では、日本の軍事大国化も構造改革も日本資本の多国籍企業化とは直接の関係がないとするのであるから、多国籍化が求める経済秩序(経済のグローバル化)に対抗する世界の社会運動と日本国内の平和運動、反構造改革のたたかいとは重さならないこととなる。こう考えると本書が社会フォーラムに触れていないことも偶然ではない。本書の立場からは、そもそもそうした運動との連帯という課題はでてこないからだ。また、本書のような立場は、東アジアとの連帯、とくに東アジア共同体に対する見方という点でも大きな問題を生じさせる。日本の多国籍企業化は、新自由主義的改革とも軍事大国化とも無関係だというのであるから、そこで対立点となるのは、アメリカの影響力をどこまで認めるのかということにしかならないからである。本書が、マレーシアのマハティール前首相の提起した「東アジア経済共同体構想」を「アジアにおける『連帯・友好』型の共同体」として無批判に肯定するのもその現れといえる(一三三頁以下)。

 しかし、東アジア経済共同体構想は、財界が提唱するものせよ、マハティールやノ・ムヒョン(韓国大統領)の提唱するそれにせよ、域内の自由貿易化、規制緩和を前提としており、国際的に広がる新自由主義的経済秩序を補完するものとなっている。日本の「構造改革」がそうであるように、東アジア共同体をすすめる過程で、各国民衆の階層化、労働市場の流動化が押し進められていくであろうことは容易に想像できる。本書には、東アジア経済共同体実現の過程で苦しめられるであろうアジア民衆との連帯という視点もない。

5 私たちはどちらを向かなければならないのか

 現在、日本資本主義は急速に多国籍化しているが、それは、先進資本主義国に共通の方向であり、日本だけのことではない。その点ではアメリカだろうとフランスだろうとドイツだろうとかわりはない。そうした各国の多国籍企業の活動を円滑にすすめるためには、新自由主義的な国際的な経済秩序が必要であり、それはアメリカ政府をはじめとする各国政府だけではなく、IMF、世銀といった国際的経済機関、WTO、FTAといった国際協定によって押し進められている。日本の軍事大国化、構造改革をこうした流れと切り離して考えることは誤りであり、それへの対抗を各国政府による調整(東アジア経済共同体構想はその典型)に期待することはできない。

 私たちがしなければならないことは、各国政府に期待して、よりよい東アジア経済共同体構想を実現させようとすることではなく、国際的な新自由主義に対抗する運動や新自由主義的経済秩序のなかで苦しめられていく各国民衆との連帯を強めていくことである。そのためには、アジアの強国である日本にすむ私たち自身が、過去に対する反省に加え、日本資本の進出と日本資本主義が求める経済秩序がアジア民衆に与えるであろう苦しみを自覚をすることが必要となる。しかし、こうした視点は本書の立場からはでてこない。

 昨年秋、韓国労働界は、日韓FTA反対するための訪日団を組織し日本への連帯を求めたが、日本の民主勢力はそれにほとんど反応を示さなかった。それどころか、日韓FTAに先行する日韓投資協定は、それが日韓政府に労資協調路線をすすめること内容とするものであるにもかかわらず、そして韓国の二大ナショナルセンターがこぞって反対しているにも関わらず、日本の国会で全会一致で承認されている。日本資本主義がすすめる新自由主義路線の危険性を軽視する本書のような立場が、こうした日韓民衆の温度差を生じさせている一つの要因になっているのではないだろうか。

 今、私たちが目を向けなくてはならないのは、世界とアジアの民衆との連帯であって、各国政府間のつなひきなどではないはずである。私には、本書の立場が、アジア民衆間の連帯を構築していくこととは別の方向をめざすものと思えてならない。本書の著者らが、これまで勤労者教育の分野で精力的に努力してきた人たちであり、「学習の友社」という権威(?)ある出版社からの刊行であるだけに、本書のような見解が日本の民主勢力のなかに浸透していくことが危惧される。私たちは本書のような見解を運動のなかで克服していかなければならない。


五・七集会にご参加、ご賛同をお願いします

教育基本法改悪阻止対策本部事務局長  村 田 智 子

 五月七日、全国連絡会主催で、教育基本法改悪反対の全国集会が開かれます。

 全国連絡会は、二〇〇四年四月に発足した連絡会で、幅広い個人や団体が参加し、自由法曹団も発足当初から参加しています。二〇〇四年の一一・六集会(日比谷野外音楽堂)も成功させました。

 教育基本法改悪については、今期の通常国会での法案提出は見送られる可能性が濃厚ですが、与党の検討会は着々と審議を進めており、遅くとも秋口には何らかの動きが出てくるものと思われ、油断はできません。

 今回の集会では、改悪反対の輪をより広く広げるために、「交流広場」「決起集会」「デモパレード」の三部構成をとります。全国連絡会の集会としてはおそらく初めて、憲法改悪反対も真正面から取り上げられます。

 好きなところからでも結構です。ぜひご参加ください。

日時 二〇〇五年五月七日(土・祝)

場所 代々木公園(東京)

スケジュール

(1)午前一一時〜午後一時 交流広場

 *「教育基本法」、「教科書」、「憲法」、「子どもの権利(不登校、マイノリティ)」など、分野別にテントが出る予定です。

 *食べ物販売、書籍販売も予定しています。

(2)午後二時〜午後三時三〇分 決起集会

 *全国各地からの発言、憲法改悪反対の発言などが予定されています。

(3)終了後〜 デモパレード

 *代々木公園から宮下公園まで、練り歩きます。

主催団体 教育基本法の改悪を止めよう! 全国連絡会

ご賛同・ご寄付のお願い

集会を支えるため、各支部・各事務所でご賛同ください。

振込先  UFJ銀行 久我山支店 普通4548058

      名義 教育基本法の改悪を止めよう!全国連絡会

 賛同方法 振込みの際に、通信欄に、「氏名公表可」とご記載ください。

*振込みの際に、振込用紙に、支部名、事務所名、弁護士名等を明記いただけると、事務処理の上で助かります。

*賛同金は、個人は一口五〇〇円、団体は一口二〇〇〇円です。できましたら四〇〇〇円以上でお願いいたします。


岐阜・大垣発「グローバル・9map・キャンペーン」

岐阜支部 山 田 秀 樹

 「9map(くまっぷ)」とは、日本国憲法九条・music・assemble・peopleの頭文字をとったもので、「日本国憲法9条の平和の理念をモチーフにして作った歌に集まる人々」を意味します。この歌を世界中に広める活動のことを「グローバル・9map・キャンペーン」と言っています。昨年の沖縄総会で「9条の会・おおがき」の活動について紹介させていただきましたが、9mapは「9条の会・おおがき」から誕生した新しい取り組みです。

【9mapの成り立ちその一〜「西濃憲法集会」から「9条の会・おおがき」へ 〜】

 岐阜県大垣市を中心とする西濃地域(人口約四〇万人)では、戦後五〇年をきっかけに、一九九五年から毎年、五月三日憲法記念日に「平和・人権・民主主義を考える西濃憲法集会」(略称西濃憲法集会)を開催してきました。単に「改憲反対」とか「憲法擁護」という集会名でないのは、まず結論ありきではなく、事実を知り、自分の頭で考え、自らが憲法の理念を実現していく立場に立った集会にしたいと考えたからです。

 西濃憲法集会は、毎年一二月ころに実行委員会の結成を呼びかけ、月一〜二回の会議を重ね、その年に憲法の問題を考えるに最もふさわしいテーマを選び、学習会やプレ企画などを織り込みながら、準備を進めてきました。テーマと講師を決めたらあとは人を動員するだけというこれまでのやり方を反省し、実行委員会で中身のある議論をしてきました。ユニークな講師や企画で徐々に定着し、小さな地方都市にもかかわらず、参加者は毎年二〇〇〜三〇〇名を超えるまでになりました。そして、二〇〇四年で一〇回目を迎えました。なお、各年の内容については、西濃法律事務所のホームページを参照して下さい(http://homepage2.nifty.com/SeinoLawOffice/)。

 しかし、二〇〇四年の参議院選挙の結果、国会内の勢力図は、九条改憲を推進あるいは容認する国会議員が三分の二以上を占める事態となり、憲法改正の発議ができる条件が整ったことに、憲法集会実行委員の人たちから強い危機感が語られ、継続的な運動を取り組む必要性が話し合われました。そんな折、著名人九人による「九条の会」が発足し、共同アピールが発表されました。そこで、この「九条の会」に呼応し、継続した運動を取り組むことが確認され、八月九日に「9条の会・おおがき」を結成しました。

 「9条の会・おおがき」では、「9つの行動提起」を呼びかけています。それは、誰かがやるのに便乗するのでなく、主権者として自らが行動を起こすこと、ひとりでも積極的に、でも気軽にできることをと考え、提起しています。おまかせの「平和運動」ではなく、自分の表現で自分の思いを人に伝えていくことを「9条の会・おおがき」は提起し、また、そういう人を応援する団体でありたいと考えています。なお、会則(目的、会員資格など)や「9つの行動提起」については、「9条の会・おおがき」のホームページを参照して下さい(http://f50.aaa.livedoor.jp/~njog/)。

【9mapの成り立ちその二〜「9条の会・おおがき」から「9map」が〜】

 「9条の会・おおがき」の世話人の一人であり、セイブ・イラクチルドレン・名古屋の活動にも参加していた若い僧侶の大平一誠(いちじょう)さんから、「歌で9条を広められないか。お寺のホームページを通じて知り合った東京の音楽制作家がいるので、オリジナルピースソングをつくってもらい、それをみんなで歌ってCDにして広めたいがどうだろう」と提案され、それはおもしろいと話は急速に進み、一一月三日「9条の会・おおがき」の集会「ピースちゃんぷる〜」で「グローバル・9map・キャンペーン」が呼びかけられ、「9map」が誕生しました。でも、実際のところは、みんな半信半疑でした。

 大平さんから歌詞のもとになるキーワードやイメージが音楽制作家のウチダさんに伝えられ、「SMILE」が出来上がりました。『♪僕の声はひとつだけど、世界に届ける術はあるさ』で始まる歌詞は、イラクでの出来事や戦争の犠牲になる子どもたちを思い、子どもたちの笑顔が輝く平和な世界への願いをテーマにして出来上がっています。歌詞の中に憲法や9条という言葉は出てきませんが、思い描いている世界は憲法や九条の中身そのものの世界といってよいものです。この曲への共感が一挙に広がりました。

 当初は、岐阜・大垣を中心に参加者を募り、レコーディングをするだけの予定だったのですが、曲とともに9mapの輪がどんどんと広がり、そして、この輪は、名古屋、東京、大阪へと広がって行き、各地で平和の活動を取り組んでいる人たちとの交流ができるようになりました。そこで、レコーディングはメインとなるオリジナルバージョン(キチンとしたスタジオで録りました)だけでなく、各地でライブバージョンをレコーディングすることとなり、一月から二月にかけての岐阜・大垣、大阪、名古屋、東京でのレコーディングには総勢約四六〇人が参加しました。

 地域ごとに特徴もあります。岐阜・大垣では、本格的なレコーディングが話題となって、何といっても三〇〇人がレコーディングに参加。特に一〇代から三〇代の若い世代に広がっていきました。ここには、岐阜朝鮮初中級学校の生徒さんたち約三〇人も参加しています。大阪では、手話をもとにつくられたサインダンスで振り付けをして聴覚障害をもつ人とも思いを共有して歌いました。名古屋では、劣化ウラン弾の放射能被害によると思われる白血病に苦しむイラクの子どもたちに思いを馳せた歌声となり、東京では、平仏集(へいぶっしゅう。青年仏教者の集まり)や9LOVE(くらぶ)などユニークな平和活動をしている人たちが参加しています。「これまでこの手の運動には見た顔の人しか集まってこなかったが、9mapは全然知らない人や若い人が集まってきている」と評判となりました。

 その結果、カップリング曲の「静かなる星」(白血病に苦しむイラクの子どもたちをイメージして作られました)と合わせて、全部で9トラックの収録となりました。歌っているのが素人である以外は全てプロに依頼し、音楽CDとしてのクオリティも高いものを目指しました。

 そして、三月二〇日、イラク攻撃開始から二年の日に、CDは発売されました。CDジャケットには、岐阜県大垣市出身のフォトジャーナリスト久保田弘信さんが、アフガニスタン、イラク、北朝鮮などで撮った子どもたちの笑顔が使われています。ちなみに、9mapのイメージキャラクターは「9ma(くま)」であり、西濃法律事務所の事務員がデザインしました。9maはシールやマグネットになったり、携帯電話の待ち受け画面になったり、子どもにも大人にも大人気です。

【9mapのこれから】

 9mapと「SMILE」は三月一九日、二〇日、二一日に各地に登場しました。東京ではワールド・ピース・ナウのオープニングで歌われ、ピース・パレードの伴奏となりました。名古屋・大阪では人文字を作った平和集会のステージで披露されました。二一日に東京で行われた高校生平和集会でも好評だったようです。

 今後は、できあがったCDを各地に広めると共に、憲法集会や平和集会などでのイメージソング、テーマソングとして歌っていただけるように働きかけていき、各地に9mapを作っていきたいと考えています。

 とかく憲法や九条の議論は難しくなりがちです。しかし、その難しい議論をみんなが知らなければならないというのには無理があると思います。憲法や九条そのものを知らなくても、その理念を感じとることはできます。理性だけでなく、感性にも訴えかけることが、護憲運動、平和運動が一皮も二皮もむけるために必要になっていることではないでしょうか。

 是非、「SMILE」「静かなる星」を聞いてみて下さい。みんなで歌ってみて下さい。みんなで9mapになりましょう。

 CDは一枚一〇〇〇円です。うち一〇〇円はセイブ・イラクチルドレン・名古屋を通じてイラクの子どもたちの医療支援のために寄付されます。」

 なお、9mapの活動やCDの申込み方法など詳しくは、西濃法律事務所(〇五八四・八一・五一〇五)に連絡いただくか、ホームページ(http://www.9map.net)を参照して下さい。