自由法曹団通信:1191号        

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辰巳 裕規 最高裁・貸金業法四三条「みなし弁済」規定を死文化
〜アイフル子会社商工ローン「シティズ」最高裁判決について〜

中谷 雄二 トヨタに新労働組合結成される
小笠原 彩子 今国会、正念場を迎えた教基法「改正」問題
松村 文夫 捜索令状資料の提出を求めて
伊藤 和子 アメリカでみたこと―国連のなかの日本
笹山 尚人 二〇〇五年 東京法律事務所九条の会の一年を振り返って




最高裁・貸金業法四三条「みなし弁済」規定を死文化

〜アイフル子会社商工ローン「シティズ」最高裁判決について〜

兵庫県支部  辰 巳 裕 規


 言うまでもなく利息制限法制限金利を超える利息の約定は超過部分について無効である。この利息制限法は強行法規であり、高利貸から社会的経済的弱者の生活破壊を守るための最低限度の暴利基準である。そして政治的妥協の産物としての貸金業法四三条の「みなし弁済」規定が例外的にいわゆる「グレーゾーン金利」の取得を認めているが、同条の適用を受ける貸金業者は「ほとんど」存在せず、「ほとんど」の貸金業者については利息制限法に基づく法定充当再計算を行い、法律上有効な債務は名目上の債務額にに比し大幅に減少し、時に消滅し過払となるのである。利息制限法法定充当再計算は、多重債務者救済のための大きな武器の一つである。

 ところがこれまで「ほとんど」の貸金業者と表現するときに、どうしても頭によぎっていたのはアイフル子会社商工ローン「シティズ」のことであった。シティズは、貸金業法四三条に最も忠実に貸付を行っていると言われ、圧倒的に多数の裁判例もシティズだけには「みなし弁済」の主張を肯定してきた。シティズは、任意整理・特定調停・個人再生においても異常なまでに「みなし弁済」の主張に固執し、訴訟を厭わず、一切の妥協をしないという姿勢を貫いてきたため、負債整理の実務において大きな障害となってきたのである。

 しかしながら、平成一六年二月二〇日のSFCG(旧商工ファンド)に対する最高裁判決が、貸金業法四三条の厳格解釈を再確認した後、わずかながらシティズの「みなし弁済」を否定する下級審判決が現れはじめ、そしてついに最高裁平成一七年一月一三日判決(山口利明弁護士(鳥取県)御担当)及び同月一九日判決(板根富規弁護士(広島県)御担当)は、シティズの「みなし弁済」の適用を否定する画期的な判断をしたのである。

 すなわち、両判決は、利息制限法を超える約定利息の支払いを怠ったときは期限の利益を喪失し残債務を遅延損害金を付して一括で支払う旨の特約(期限の利益喪失約款)のもとでの返済には「任意性はない」とし、また、貸金業法一八条一項所定の「契約年月日」の記載を「契約番号」の記載による代替を認めた施行規則(内閣府令)を立法の委任の範囲を超えたものとして無効として、シティズの貸付は貸金業法四三条の要件を満たさないと判断したのである。シティズのみならず貸金業者は利息制限法を超過する約定利息の支払遅滞を期限の利益喪失事由としていることから、「すべての」貸金業者に「みなし弁済」が適用される場面が無くなったと言ってよいのである。

 最高裁は、前掲のSFCG判決後も、昨年七月には貸金業者の取引履歴の開示義務を肯定し、一二月にはリボルビング方式の支払について「みなし弁済」の適用を否定してきた。利息制限法が大原則であり、貸金業者に同法の範囲内で営業を行うことを強く求めていると評価できる。これは、利息制限法が単なる経済規制法ではなく、社会的経済的弱者の人権を守るための法であること、公序良俗違反の典型例である「暴利行為」規制を具体化した「人権法」であることを最高裁が宣言したものであると考える。「借りたものが悪い」との安易な批判から、高利貸しによる人権蹂躙行為を私たち日本社会はこれまで容認・放置してきた。残念ながら弁護士界においても、多重債務問題については取り組みがなお不十分であると反省しなければならない。バブル経済崩壊後、消費者金融業界が巨大化し、庶民のエネルギーは果てることのない高金利の支払に吸い上げられ、生きる力・社会を前進させる力・平和を愛する力を奪い続け、現在の暗い暴力的な世相を作り上げてきた。今一度、多重債務・高金利被害は人権蹂躙問題であると再認識して取り組む必要があると考える。

 ところで、二〇〇七年一月までに出資法所定の刑罰金利の見直しが行われる。司法闘争で敗退した貸金業界は、出資法制限金利の引き上げ・貸金業法四三条の緩和・ひいては利息制限の撤廃を立法により実現し巻き返そうと必死である。貸金業界は巨大与党のみならず民主党の(安易な)規制緩和論者にも働きかけている。サラ金に資本参加する銀行(「サラ銀」という)業界やGE・CFJのような外資系サラ金業界も規制緩和を求めている。米国の「年次改革要望書」にも貸金業法四三条の緩和・金利規制の緩和・撤廃を求める旨の記載がなされている。高金利問題をめぐる政治状況は極めて厳しいと言わざるを得ない。弁護士・司法書士・多重債務被害者の会などは高金利引き下げ請願署名活動など高金利引き下げのための様々な活動を行っているが、弁護士・弁護士会の取り組みは明らかに不十分である。

 経済苦による自殺者は年間八〇〇〇人を超え、自己破産者はなお年間二〇万人前後と高水準にある。犯罪・離婚・児童虐待などの背景には少なからず多重債務の問題がある。サラ金の利用者は一〇〇〇万人を超えているのであり、破産予備軍は二五〇万人とも言われている。「二極分化」「格差社会」を急速に加速しているのは、高金利貸金業者の存在であり、経済的弱者の生存権を高利貸しが脅かしている。人権法としての利息制限法を高利貸しから最高裁が死守したシティズ判決を武器に、私たちは力を結集し高金利引き下げを勝ち取る必要がある。

 なお、この最高裁判決獲得に心血を注がれたのは日栄・商工ファンド対策弁護団の弁護士達である。本来、よりふさわしい方が最高裁判決を報告すべきであるが、当職が現在「アイフル被害対策全国会議」の事務局を任されていることから、僭越ながら報告させていただいた(なお当職が担当する対シティズ「特別上告」事件も本年二月一〇日に口頭弁論期日指定がなされた)。


トヨタに新労働組合結成される

愛知支部  中 谷 雄 二


 一部の新聞には掲載されましたが、本年一月二二日、トヨタ自動車、デンソー、アイシン精機、ジェイテクト(旧豊田工機)の従業員が、全トヨタ労働組合(略称全ト・ユニオン)を結成しました。上部団体は西三河南地域労働組合総連合(略称:西三河南労連)です。

 空前の利益を上げ、世界的な企業としてもてはやされるトヨタとトヨタの関連企業に働く労働者の実態は、生産現場の労働者の四割が非正規雇用の若年労働者で占められ、低賃金、長時間労働の下で健康破壊が広がり、過労死や過労自殺が蔓延しています。

 新しい労働組合は、正規だけでなく非正規社員(期間、嘱託、管理職、派遣等)を含む、トヨタ関連企業(下請や取引先企業)で働く労働者も広く対象にしています。現時点ではまだ小さな勢力ですが、全国に広がるトヨタ系労働者を組合員にするという意気込みです。

 一月二三日、各企業に組合結成通告と加入通告をし、既存労働組合に脱退届けを提出しました。各企業に一名の弁護士を付けるという体制で通告をしましたが、アイシン精機では組合結成の通告に対して、面会を拒否したり、結成通告書の受取を拒否するなどの対応がありました。デンソーでは、労働組合が役員が出てくることなく、脱退通告に行った労働者と弁護士を長時間放置するなど極めて酷い対応をしました。いずれも、担当弁護士の適切な対応で無事通告が終了し、夕方から記者会見を行いました。突然の会見申入にもかかわらず、テレビ三社を含むマスコミ各社が集まり、熱心な質問がされていました。

 組合員たちは、長年少数派の運動をやってきました。その間も、過労死した労働者の家族から相談を受けたり、うつ病になった労働者の支援をしたり、更新拒絶を告げられた労働者の相談に乗ったりしてきました。しかし、労働組合がないため会社と直接交渉できない、労働者の闘いの支援も十分できないことに苛立ちを感じてきました。そして、自らも高齢になってきたとき、このままでは職場に闘う人々がいなくなると考え、労働組合を作って、この酷い職場の実態を変えられないのかと考えるに至りました。

 しかし、労働組合を立ち上げるのに最も大きな呪縛となっていたのが、ユニオンショップ協定でした。最高裁の判例でも別組合をつくりそこに加入したことを理由に脱退や除名を受けても解雇されないことは認められていますが、活動家といわれる人たちにもその知識はありませんでした。労働組合を結成しても解雇されないこと、労働組合を結成すれば、会社に団交が要求でき、対等な交渉の場ができることを学習してきました。様々な反対意見や一年に及ぶ準備を経てようやく労働組合の立ち上げに至りました。

 結成大会はトヨタの研究者である中京大の猿田正機先生をはじめとする複数の研究者の方も来賓として参加される熱気あふれるものとなりました。

 現在のところ、会社側や労働組合から目立った動きはありません。今後の会社側の対応や既存組合の出方などまだまだ困難な課題はありますが、日本の社会をこのような状況にした原因の一つには、日本における労働組合、労働運動のあり方が影響していると思います。本当の意味で職場の労働者を守って闘う労働組合になるよう団員の皆様のご支援をお願いします。組合結成まで高木輝雄団員、石塚徹団員、川口創団員、田巻紘子団員、地元豊田市の梅村浩司団員と私の六名で対応してきました。今後、広く弁護団を募り、できたばかりの組合をバックアップしていきたいと思います。


今国会、正念場を迎えた教基法「改正」問題

東京支部  小 笠 原 彩 子


 小泉首相は一月二〇日国会の施政方針演説の中で、「改革続行」を宣言し、「心豊かでたくましい人材を育てなければならない。教育基本法の速やかな改正を目指し精力的に取り組む」と教育基本法改悪を強く位置づけた。

 昨夏の衆議院解散以来、与党の「教育基本法改正に関する検討会」が開催されず、表立った動きは小休止していたが、今年に入り、自民党・公明党は改悪に向けての積極的姿勢を鮮明にしている。小坂文科大臣は年頭所感で、教育基本法の「速やかな改正を目指し、しっかりと取り組んで」いくと述べ、自民党の党大会方針としても国民投票法、防衛庁の省への昇格とならび、教育基本法「改正」が今年取り組むべき課題として強調されている。また、公明党も全国の新春街頭宣伝の中で、「今度の通常国会では、国民投票法、防衛庁の省への昇格、教育基本法「改正」…などが議論される」と訴えた、と公明新聞で報じている。

 小泉首相の施政方針演説は、これら両党の決意と体制のもとになされたものである。

 一月二五日、しばらく休止状態であった与党「教育基本法改正に関する協議会」(自民・公明の幹事長・政調会長・国対委員長で構成)が再開された。この協議会の方向性を事実上決定し、実務を担う「与党・検討会」は座長を大島理森・元文相とし、郵政民営化の動きの中で離党した保利耕輔・元文相を顧問にするという「万全の体制」を整えて、自民・公明両党の最終調整に向けて、精力的に再開されることになった。

 また自民・公明両党は、両党間の最大の懸案である「愛国心」問題について相違点は表現の問題になってきている≠ニ繰り返し言明しており、文科省が与党合意内容に対応できるようにすでに「改正」案は「いくつかあります」と述べていること等も、見落とすことができない。

 法案提出時期は、予算委員会や他法案との関係があるものの、文科省提出予定法案五本のうち、三月末で自然成立する法案が三本なので、実質的には二本のみである。早ければ四月中の提案もありうる情勢である。

 東京における最近の教育基本法改悪を阻止する運動を拾うと、いわゆる全国連絡会主催の昨年一二・三日比谷集会は三五〇〇名が参加のもとに、団からは青木努団員が発言して成功裡に終わり、「まもろう憲法!ゆるすな教育基本法改悪を!一・二一東京集会」(日比谷公会堂)は、大雪に見舞われながらも二〇〇〇人の参加のもとに、団からは田中隆団員がまとめの発言をし、成功裡に終った。また、一月二五日全国ネットワークが主催した国会議員要請には、九五名が参加し、団からは阪田次長が参加した。

 教基法の「改正」の問題点を三点指摘すると、第一に憲法「改正」後の日本である「戦争をする国」を担う人材づくりであり、第二に国家が教育内容を支配できる体制づくりであり、第三に全ての国民がひとしく教育を受ける権利を否定するという点である。特に第三点については、「義務教育の構造改革」(文科省H一七・一〇)が発表されて、今後小中学校に競争の教育が本格的に持ち込まれていくことが見込まれ、それは国民の所得格差の拡大と固定化の中で、子ども達の希望の格差を生じさせるものであることを指摘しておきたい。このように憲法と不可分一体の関係にある教育基本法の改悪問題は、今国会が正念場となっている。

 このような情勢を踏まえ、今後の運動として

 第一、春に向けた反対運動を各地の民主的な団体と共同して、あるいは独自に企画し、多くの市民にこの問題を訴えて下さい。憲法問題と一緒に訴えていくことも重要です。

 第二、いわゆる全国連絡会が企画している三・三一(この日は教育基本法の施行日です。)行動(六時から日比谷野外音楽堂で集会と七時から国会デモ)及び同日全国ネットが企画している(詳細は今後決定・二時からの国会議員要請、四時からの街頭宣伝活動、その後前述の全国連絡会の企画に合流)に、是非全国の団員の参加を呼びかけます。また参加が可能でない場合でも、同日に各地でビラ配布等街頭宣伝活動や学習会や集会の企画を呼びかけます。

 第三、いわゆる全国連絡会は三・三一集会に向けて、それ以前に各地で行われる集会が連帯の意思表明をなす様―一〇〇〇ヵ所行動―を提起しています。そこで対策本部としても各地の運動状況を把握することも兼ねて、各地で取り組まれる集会の状況について、アンケートを発送することにしました。三・三一以前及び以後も含め、反対運動の実施や行動の予定があるものについて回答下さい。

 第四、団は昨年教基法リーフレット「見つめてみよう 子どもたちのいま 想像してみよう 子どもたちの未来」をつくっています。三万部刷りました。このリーフレットは二万八〇〇〇部販売済となりました。皆様の協力に感謝しております。残り二〇〇〇部の販売の協力を求めると同時に、各事務所内にリーフレットを眠らせていないでしょうか。是非活用して下さい(憲法問題の講師活動の折に、一緒に配布し、一言触れるという方法もあります)。

等について、各地で検討下さい。全国各地での多様な活動が、今こそ重要な時期となっています。

(※リーフレットは、この原稿受領後、増刷しました。)



捜索令状資料の提出を求めて

長野県  松 村 文 夫


 現在東京高裁五民(小林克己裁判長、片野悟好・小宮山茂樹裁判官)で、警察作成の捜索令状請求添付資料の提出命令を申し立てし、その採否をめぐって激しいやりとりがされています。

 事案は、長野県岡谷市山岡和世さんが〇二年一〇月拳銃の不法所持容疑で岡谷署によって家宅捜索を受けました。

 山岡さんは、四十代の女性で、裁判所で落とした競売物件をリフォームして、転売・賃貸する営業をしておりますが、およそ暴力団との関連は見い出せない方です。

 そのリフォーム代金をめぐる民事訴訟を私が担当しており、相手方のUは、山岡さんが拳銃を所持していると言い触らしていました。その直後の捜索でしたので、合理的な根拠なしの違法捜索であるとして、長野県に対して、損害賠償請求の訴訟を提起しました。

 警察は、山岡さんに対して逮捕・起訴しないどころか取調のための呼び出しさえしていません。

 一審(長野地裁松本支部、田中治裁判長、中平健・岡田龍太郎裁判官)では、県警側は捜査中を口実に根拠について具体的な主張をせず、証拠調にも反対しました。裁判所も及び腰で追及しようとせず、捜索令状添付資料の提出命令申立を却下しました(高裁も抗告棄却)。

 岡谷署長は、証人採用されたものの、守秘義務を口実に、具体的な根拠を明らかにしません。Uも証人に採用され、通報したことを誇らしげに語りました。しかし、山岡さんの所持に関する証言は、とうてい信用できるものではありませんでした。

 一審判決(〇五・九・一四)は、Uが通報者ではなく他に通報者がいると認定し、根拠のない捜索とは言えないと判示し請求を棄却しました。

 この認定は被告(県警)が主張していないものです(被告は、通報者を明らかにできないとし、Uが通報者ではないとも主張していません)。

 Uの証言からすると、Uの通報で捜索したとなると、余りにも薄弱な根拠による捜索となるために、被告が主張もしていない「U以外の者の通報」を持ち出して逃げたことになります。

 控訴審でも捜索令状添付資料の提出命令を申し立てしました。

 第一回裁判で裁判長は、県警側に対して「資料提出に対して『捜査中』で反対するのであれば、捜査の進行状況を明らかにして欲しい」と述べました。

 しかし、県警側が今回提出した意見書は、捜査の内容は明らかに出来ないというものでした。

 第二回裁判(二月一日)で裁判長は、提出命令申立を却下せず、次回(三月一五日)に採否を決めるとしました。

 判例を見ていると、捜索令状請求の添付資料を提出させたものがないようですが、もし経験があれば教えて下さい。



アメリカでみたこと―国連のなかの日本

東京支部  伊 藤 和 子


 私は昨年末に一年半のニューヨーク留学から帰国しました。せっかくなので、見たこと聞いたことを団通信で少しシェアしたいと思います。今日はまず、国連からみた日本の印象です。


 昨年私は国際民主法律家協会(IADL)副会長で国連代表のレノックス・ハインズ氏の代理という資格で、国連の会議に参加し、国連の最新情勢をIADLに報告し、必要な提案をする、という仕事をさせてもらい、そこで国連の今を垣間見ることができた。

 ご承知のとおり、アメリカなどは本当に横暴な覇権主義で国連をかき回している。当然このようなやり方に対して、世界の不満は強い。各国は様々な提案を行い、リーダーシップを発揮して、国連の活動を前に進めようと努力していた。特に、途上国や小国が果敢にイニシアティブをとって人権や平和、開発などの提案をしている姿は感動的であった。特に、最近民主的な大統領を登場させ、IMF路線と戦うことに決めたアルゼンチンは、二〇〇五年の国連女性の地位委員会におけるアメリカの横暴(北京女性会議のときから確認されてきた中絶を含むリプロダクティブ・ヘルツを否定しようとした)を厳しく諌めて会場の大喝采を浴び、アメリカはついに孤立して自己主張を引っ込めた。キューバの国連活動は極めて積極的で、アメリカの対テロ戦争にもとづく拷問などの人権問題について率先して堂々と正論を主張し、アメリカ相手に一歩もひけをとらない。途上国の利益の代弁者としての弁舌も冴えていて、途上国からの信頼は厚い。キューバに対する経済制裁反対の決議が圧倒的多数で採決されるのも、こうした信頼を反映していて、社会主義国だから孤立しているということはまったくない。またアジアの代表として登場する論客はインドの方々であり、その主張はいつも極めて明確で強い。

 またヨーロッパの小国でも国際刑事裁判所の「侵略の罪」のワーキング・グループに取り組んでいるリヒテンシュタインなどは「小さくてもきらりと光る国」だと思う。何といっても、全ての国家による侵略行為について責任者を国際刑事裁判所で処罰して、戦争を抑止しようという壮大なロマンに挑戦しているのだから。また、私のNYUの友人のパートナーは、デンマークの国連ミッションにつとめていて、デンマーク政府のステートメントの下書きをしていたが、大胆に斬新な提案をして国連のなかでイニシアティブを発揮しようと張り切っていたし、事実デンマークは安保理で存在感を発揮していた。そんな政府をもった彼女がうらやましかった。コーラ・ワイズ氏が進めていた「紛争予防における女性の役割」に関する安保理決議一三二五の五周年に因んでデンマークのイニシアティブで実現した安保理会合は会場を女性が埋め尽くして非暴力を安保理各国に迫り、圧巻だった。

 こうした国々に比べると、日本の影は実に薄い。たぶん影では金の力を隠然と行使しているのだろうが、表舞台では本当に目立たない。国連安保理では日本政府を代表する人が、中学生英語でステートメントを棒読みし、他の国々の代表がまったく理解できず、毎度のことのように失笑している姿を何度か見た。また、国際平和に関する貢献について安保理で何かを話し合っている際も、新しいことを提案するのではなく、「日本はこれだけ金を出して貢献した」という発言が目立つ。こんな状況で常任理事国、というのに国際社会の理解は到底得られないのもよくわかる。なんというか、「極端におとなくしていつも自分の意見を言えない人」を見ているようなフラストレーションなのだが、これが私の国を世界で代表しているのだ。ただ、驚いたことに、実は日本が目立たないところで一生懸命平和貢献をやっていたりもする。実は日本はスリランカの和平のために明石康さんを送りこんでいろいろ尽力していたらしく、私が出会ったスリランカの人は非常にそのことを感謝していた。そのような平和貢献をしているなら、国内でも国外でももっと宣伝すべきではないか! と思ったものだ。

 「憲法を変えて普通の国」などと言っているが、国連を見渡すとそれはとても内弁慶でおろかな考えだと気づく。どの国も、国連の場で、個性を発揮しているのに、日本の個性は目立たないのだ。ただでさえ目立たないなかにあって、「戦争をしない」という国連憲章の先をゆく、ユニークで先進的な憲法を変えて一層目立たなくなるのが「普通の国」ということなのか。軍隊を出すとか出さないというよりも、国際社会で説得力のある提案をし、世界をよりよい場所にするためのリーダーシップを取れば、世界はその国を尊敬する。そうした政策面でのイニシアティブこそ、国際社会で評価される。普通の国ではなく、個性的な国、軍隊はなくても、光る国であってほしい。

 いろいろともめた二〇〇五年の国連改革の最大の成果と言われるのが、「平和構築」分野の進展であり、国連には新しく「平和構築委員会」がつくられることになる。平和構築とは戦争後の社会で二度と同じ悲劇が繰り返されないようにするための社会再建であり、「暴力の支配ではなく法の支配」を実現する法整備支援や人権の前進、開発・人道援助などを総合的に行って、平和を創造しようとするものだ。憲法九条を掲げて奇跡的な戦後復興を遂げた日本は「平和構築」に貢献するには最適のポジションにいる。日本の国際貢献は、金、公共事業(箱物)、そして最近は自衛隊派遣を国際貢献と考えているようだが、政策立案・政策提言など内容面には悲しいほどタッチしていない。人権や法律面での支援にイニシアティブを発揮して、平和分野での「国際貢献」をすることは、軍隊など送らなくても、「国際社会において名誉ある地位を占める」ことになるはずだと思う。

 「日本は国連なんて気にしていない。日本が気にする『国際社会』はアメリカのことだ」という人もいる。しかし、昨年ジョセフ・ガーソン氏にあったときに「最近ヨーロッパはEUで結束してアメリカに対抗する第二極をつくっている。彼らはアジアで成長の著しいインド・中国などに注目して、ユーラシア大陸を横断するアジア・ヨーロッパ連合をつくろうとしている。そこで取り残されるのはアメリカと、大陸から外れて、東北アジアから孤立しつつある日本だけだ。日本はどうするのか」と言われてしまった。そう言われて世界地図をみてみると、日本の将来はいま、とても危ない。



二〇〇五年 東京法律事務所九条の会の一年を振り返って

東京支部  笹 山 尚 人


 二〇〇五年、私の所属する東京法律事務所では、憲法改悪阻止のための活動として、事務所の所員と依頼者等のみなさんとで「東京法律事務所九条の会」を結成、都合四回にわたる企画活動を行った。 この活動を振り返り、〇六年以降の活動に役立てたい。団員のみなさんにもご紹介したく寄稿する次第である。

 東京法律事務所九条の会結成へ

 法律事務所が九条の会を結成するという動きは、旬報法律事務所が先行して行っていた。この動きを見て、所内で(とりわけ憲法委員会という憲法問題を討議する部局で)討議をした。そこで議論されたのは、「法律事務所は、多くの幅広い依頼者と交流する。とくに事務所は、二六人(当時)の弁護士が、多くの依頼者とつながっている。このつながりを生かし、二度と戦争を起こさない、そのために憲法九条を守るという訴えをしていくことは大切なのではないか。」ということであった。事務所九条の会結成は、このような発想から行われることとなった。

 事務所九条の会の企画

 事務所九条の会のためには、二〇〇五年、四回企画を持った。

 最初に、事務所創立五〇周年事業として二月五日に行われた事務所の憲法セミナーは、九条の会結成の準備と提起という意味も兼ねることとした。憲法セミナー自身は、依頼者に参加を呼びかけ、憲法について共に学ぶというもので、「平和の灯を連ねて」と題して、フリージャーナリストの郡山総一郎さんの講演を中心に、会場発言を募るものとして行った。あわせて、会場参加者に九条の会結成を訴えることにした。

 この日は、二〇〇人の参加があった。郡山さんが、イラクやその他の世界の貧困地域の子どもたちの様子を、自身が撮影した写真を使いながら話してもらった。写真の力は絶大。イラクの現状は、世界の子どもたちの貧困は、大量破壊兵器だの、テロとのたたかいだの、圧迫と抑圧とたたかうだの、知ったかぶった理屈を吹き飛ばす力を持っている。人が人を殺す、搾取するということがどういうことか、事実の力は偉大である。郡山さんは、このような事実を伝えることができる数少ない人である。

 次に、九条の会結成の会合である。四月二七日、九条の会事務局長、小森陽一さんの講演を中心にした会合で、「東京法律事務所九条の会」が結成された。この日までの申し込みと会場からの申し込みで、七四〇名余の会員での発足であった。

 この日は、憲法セミナーでの呼びかけ、依頼者向けの「事務所たより」の宣伝もあり、依頼者や労働組合の活動家を中心に、一五〇名の参加があった。小森さんの話は、世界における日本の位置と、国連憲章にも及びながら憲法九条の意味を読み解くというもので、そして、従来の護憲勢力に限られない改憲阻止の大きな輪を作り出すことを訴えるものであった。「普通の人がやれない、ビラを配布するだけではダメなんだ」という小森さんの訴えは、行動提起として毎月九日に四谷駅前でビラまきを訴えることにしていたので大変困惑させられたが(笑)、趣旨はよく理解できた。要は、どう多くの人に自然に訴えることができるか、という手法の工夫が必要であるということだ。

 発足した事務所九条の会は、毎月九日の四谷駅前宣伝や、九条の会の有明コロシアムでの講演会への参加などを行いながら、独自の企画として、「靖国神社見学ツアー」を実施した。七月二七日のことである。

 午後三時に大鳥居下で集合したメンバーは、所員九名を含め、三九名であった。新宿平和委員会の長谷川さんにガイドを依頼し、境内と遊就館を見て回った。長谷川さん持参のマイマイクとフリップを使っての案内に、一般の通行人が一緒に聞き入りながら境内を歩く一幕もあった。長谷川さんの手慣れた案内のもと、参加者は、靖国神社の思想が、過去の戦争を反省しないばかりか逆にこれを肯定するもので、ここに日本を再び戦争の道へと導く思想の原点があることを見いだしたと思う。こんなところに参拝することが、「二度と戦争を繰り返さないことの誓い」にならないことは、一目瞭然である。小泉首相がこの発言を繰り返すたびに、私は腹立たしい思いをするのである。

 そして、二〇〇五年の締めくくりとなるのが、東京法律事務所九条の会の学習会企画、「アジアの中の日本と憲法の現在・過去・未来」である。一二月三日、早稲田大学教授の大日方(おびなた)純夫さんに、日中韓スタッフ共同による、三国の近代史をまとめる歴史教科書を作成した経験とそこからいえる歴史認識問題を講演してもらった。

 この日は、年末の忙しい時期にかかわらず、依頼者のみなさんなどから、九〇名の参加があった。大日方さんは、固有の歴史認識問題として、太平洋戦争に至る歴史をどのようにとらえるのかという点の問題があること、その歴史が韓国や中国ではどのように認識されており、これらの国がどのような点に関心を払っているかを歴史教科書作りの苦労の経験を紹介しながら話をされた。まとめとして話されたことは、憲法前文のとらえ方として、なるほど、と膝を打つものであった。すなわち、日本国憲法前文に憲法制定当時の国民の歴史認識と将来の国作りの基本的な考え方が含まれている(「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやう」「恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚する」「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しよう」「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」といった言葉である)。三国の歴史教科書作りを通じ、お互いが認識している事実を出し合い、話し合って共通認識を積み重ねていくことを通じて、友好関係を形成していくことができることがわかった。それが政府の行為で二度と戦争を起こさずに、恒久平和のための人間相互の関係を支配する崇高な理想の実現であり、平和的生存権の実現ではないか。しかし、自民党の新憲法草案には、これらの言葉はすっぽり抜け落ちてしまっているのである、と。

 この企画は、会場発言も良かった。大日方さんの発言を受けて、多くの人に憲法九条の意義を広めるべく各地で九条の会の活動が紹介された。若者の参加が少ない点が問題だとか、視点として、戦争には税金がたくさん使われるので、消費税の問題に切り込みながら、生活者に与える影響からの訴えが必要だと思うとか、九条の会は幅広い団体なので、意思決定など困難な問題もあるから、運動を引っ張る中核部隊としての共同センターが別に必要ではないかといった、発言である。

 事務所九条の会の一年を振り返って

 こうして振り返ると、けっこういろいろなことをした。事務所九条の会といっても、はっきり言って活動の中心を担ったのは事務局であり、弁護士では私と加藤健次団員くらいのものであったと思う。九条の会を担ってがんばった、事務局のみなさんと、私と加藤健次に、自画自賛の拍手を贈りたい!パチパチパチ!!

 やはり多くの依頼者に訴えるツールとしての九条の会というのは、非常に貴重であったと思う。事務所のたよりや、打ち合わせの機会なども含めて、常に憲法九条を話題とし、話し合えるということが、重要なことである。

 今般思ったのは、多くの人が憲法について語り合う場、チャンスを待っているということだ。全ての企画が、こちらの予想を超えた大入りの盛況であった。とくに、最後にあげた大日方さんの企画は、実は当初、参加人数が六〇名程度しか見込まれていなかった。ところがふたを開けてみると、当日に事前の申し込みなく参加してくれる方がたくさんいたのである。そして、どうやって憲法九条を守り、生かしていくかということの議論が沸騰するのである。

 今私たち団員に求められるのは、このような人々の集まる場へ、出向き、法律家として憲法改悪問題についてのとりあえずの意見を語ることではないか。そして、私たち自身、そこで議論されたことから学ぶことではないか。自民党の新憲法草案の問題点にしても、解釈的に議論し合うより、このような場での実践的な議論によってこそ、明らかになってくると思う。

 というわけで、東京法律事務所九条の会は、今年も元気に依頼者のみなさんの中へ入って議論するものとして活動していきたい。また、事務所としては、九条の会とはまた別に、労働組合とのつながりを生かし、労働組合が憲法問題をたたかう手助けのために、労働組合の活動の中にも入っていくことを目指したい。このような活動としての、「事務所ニュースレター」の作成には、大竹寿幸団員、岸松江団員といった、五七期、五八期の新戦力入所者が活躍してくれている。ありがたいことだ。

 団通信でも、このような実践的なたたかいの経験の報告を期待しています。