自由法曹団通信:1341号      

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横山 慶一 ―青森県特集―
近況報告
小田切 達 津軽は結構大変です
加藤 健次 国公法弾圧・堀越事件 東京高裁で逆転無罪判決
堀越さんの配布行為を処罰することは憲法違反!
近藤 ちとせ 「派遣法抜本改正と裁判勝利をめざす三・二六院内集会」が開催されました!
河村  洋 院内集会・議員要請に参加して
松丸  正 名ばかり課長認定、残業代加算命じる大阪地裁判決

東   俊一
中川 創太
中尾 英二

NTTリストラ松山裁判、高松高裁逆転勝訴判決
伊須 慎一郎 派遣法改正案の仕組まれた罠?
派遣先の「みなし雇用」ではなく、「みなし申込制度」の欠陥
=派遣労働者の承諾の自由ではなく、派遣労働者に承諾させない仕組み
尾林 芳匡 劇場型「事業仕分け」の何が問題か
笹本  潤 第五回アジア太平洋法律家会議(COLAPN)フィリピン・マニラ大会に向けて
後藤 富士子 「親子の絆」を破壊させない!民法改正私案
改憲阻止対策本部 普天間基地即時無条件撤去・安保五〇年をめぐる取り組みに是非ご参加ください。

労働問題委員会
大量解雇阻止対策本部

「政府案では私は救われない!」労働者派遣法の抜本改正を求める諸行動への参加のよびかけ



―青森県特集―

近況報告

青森県  横 山 慶 一

一 労働事件

 現在、集団労使関係の事件としては、建交労所属の組合が、団体交渉に真摯に応じない会社と社長・専務の自宅周辺を宣伝カーで情宣活動をしたところ、会社側から名誉毀損や平穏な生活侵害等を理由に損害賠償請求を起こされた事件に応訴しています。会社周辺の情宣活動には全く問題がないと言えますが、社長・専務の自宅周辺の情宣活動については、厳しい判断をした高裁判決等もあるので、情宣活動の正当性を裁判所に認めさせるために努力をしています。

 個別労使関係では、最近、各地で問題になっている公務員の飲酒運転を理由とする免職処分に関係する事件を担当しています。当該公務員の仕事が運転手であることや飲酒運転で検挙・罰金刑を受けた事実を報告していなかった点が争点になっています。しかし、飲酒運転をしたのは、飲酒をした翌日で、休みの日であったことや飲酒検知による数値が、法定の数値を僅かに超しただけであることからすれば、免職処分の違法性は十分に認められるものと考えています。なお労災関係では、多くの団員が各地で参加をしている「トンネルじん肺根絶訴訟」にも東北弁護団の一員として参加しています。

二 人権関係

 生活保護費における老齢加算・母子加算廃止の違法性を争っている所謂「生存権訴訟」を青森県でも提訴しており、私も他の団員とともに、参加をしています。世論の力もあり、母子加算については、制度の改善が為されましたが、老齢加算については、まだまだ勝利の展望は確立されておらず、更なる努力が必要だと感じています。

それ以外では、自閉症の子どもが、施設内の入浴中に亡くなったという事件に関して、重度・中度の精神障がい者の「逸失利益」の有無が争われた事件を東京の先生と共に担当しました。昨年、青森地裁は、亡くなった子どもが、発達をしていく可能性があることを認めた上で、青森県の最低賃金額を基礎として「逸失利益」を認める判決を出しました。死亡しても、なお、障がいがあることを理由に、「逸失利益」を否定され、健常者と比較して、損害額が低額となるという差別を受けるという状況を少しでも変えていくことができればとの思いです。

三 その他

 現在、裁判員裁判事件を二件担当しています。裁判員裁判には、様々な批判があることは理解していますし、私も現在の裁判員裁判に全く問題がないとは思っていません。しかし、裁判員裁判が始まっている状況下では、裁判員裁判において、被疑者・被告人の権利が侵害されないように精一杯の努力をする必要があると思っています。そして、実践の中で、具体的な問題点を明らかにして、三年後見直しを、実質的なものとしたいと思っています。



津軽は結構大変です

青森県  小 田 切  達

 青森県弘前市で弁護士活動を始めて二〇年めに入りました。

 司法制度改革については自由法曹団の中でも色々の評価があるのでしょうが、僕自身は、弁護士費用敗訴者負担制度が問題になったあたりから疑いの目で見るようになり、今では、かなり強固な反対派になってしまいました。特に裁判員制度については「論外」という意見です。しかし、弘前市のような弁護士過疎地域で「裁判員裁判はやらない」という姿勢を貫くと、他の弁護士に負担を押し付ける結果となってしまいます。そこで、若手の弁護士に事務所に加わって貰って、「個人としてはやらないが、事務所としてはやる」という体制を作ることとし、前の事務所では手狭なので事務所を新築しました。そのため、ローンをてんこ盛りで抱えることになりました。支部の弁護士が日弁連の政策に協力しようとするとき、自腹をかなり大きく切ることが必要になる場合もあります。

 弁護士活動の柱は、消費者問題と労働事件に置いています(もっとも事件の数では、それ以外の民事事件の方が圧倒的に多いですが)。弁護士になったばかりのころ、「津軽の使用者連中の意識は、戦前どころか、藩政時代と同じ。津軽の労働現場は無法地帯」だと思いました。その思いは、二〇年めに入った今も変わっていません。 そんな中で、タクシー労働者の退職積立金返還請求事件(退職に備えて給料から一定額を会社に積み立てていたが、会社の経営状態が悪くて、流用されちゃったりしたら大変)、同じくタクシー労働者の賃金請求事件(使用者が規制緩和に乗じてタクシー台数を大幅に増やしたため、運転士の売上は減ってしまった。完全歩合の給与体系なので、最低賃金にも満たなくて大変)、一年雇用の保育士の雇い止め事件(園長が、他の保育士に退職強要している場面に出くわして、止めに入ったら、園長から暴力を振るわれたため、損害賠償請求訴訟を出して勝訴。その意趣返しで雇い止めされてしまって大変)、印刷会社の従業員の職場復帰要求(会社の会長の私用を命じられた従業員がミスをして、懲戒解雇され、地位確認の勝訴判決が確定したのに、会社が職場復帰に頑として応じず、賃金も支払わなくて大変)などの事件をやっています。

 津軽では、労働者も弁護士も、結構大変です。



国公法弾圧・堀越事件 東京高裁で逆転無罪判決

堀越さんの配布行為を処罰することは憲法違反!

東京支部  加 藤 健 次

「原判決を破棄する。被告人は無罪。」

 三月二九日午前一〇時。東京高裁第五刑事部中山裁判長が判決主文を言い渡した。どよめきの後、傍聴席から大きな拍手。遠藤、佐々木弁護士が「無罪」の垂れ幕を確認し、外で待つ支援者のもとへ駆け出した。当の堀越さんは緊張のせいか冷静だ。三七年を経て、固い壁だった猿払事件最高裁判決に風穴が開けられた。

 社会保険事務所職員(当時)の堀越明男さんは、休日に自宅付近で日本共産党の機関誌号外等を配布したことが国家公務員法一〇二条一項、人事院一四ー七の政治行為の禁止に違反するとして、〇四年三月三日に逮捕され、三月五日に起訴された。一審の東京地裁は、〇六年六月二九日、罰金一〇万円、執行猶予二年の不当な有罪判決を言い渡した。控訴審では、二名の労働組合関係の証人と八名の学者証人の尋問を行うなど、三年余にわたって審理を行い、今回の判決を迎えた。判決は、詳細な事実認定を行った上、勤務時間外に、勤務地と関係のない自宅付近で、職務と関係のない態様で行われた堀越さんのビラ配布行為には、常識的に見て、「行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼」を損なう抽象的危険性すらないと判断した。その上で、そのような行為を罰則で禁止することは、憲法二一条一項、三一条に違反するとして、無罪を言い渡した。一審以来の審理で明らかにされた事実と学説の到達点を踏まえて正面から憲法判断を行ったものと評価できる。

 一九七四年の猿払事件最高裁判決は、「公務員の職種・職務権限、勤務時間の内外」等を問わず国家公務員の政治的行為を一律・全面的に禁止しても憲法に違反しないと判示した。この点について、判決は、「国民の法意識の変容」を根拠に、「現在においては、いささか疑問があるとしなければならない」として、禁止の範囲を限定した。実質的に猿払事件最高裁判決を変更したといってよい。

 判決は、現在の国公法・人事院規則の禁止規定が、公務員の政治的自由に対して過度に広範な規制になっていることを認めながら、「具体的な法適用の場面で適正に対応することが可能」だとして、法令違憲の判断はしなかった。しかし、「付言」として、時代の変化や国際的な標準との比較などに触れ、公務員の政治的行為を刑事罰の対象とすることの当否・範囲を含め、「再検討・整理されるべき時代が到来している」として現行規定の見直しを示唆した。

 公安警察は、大量の人員と機材を投入して執拗に堀越さんを監視し、尾行・盗撮を行った。表現の自由やプライバシー権を侵害する公安警察の姿が浮き彫りになったことは本件の大きな特徴である。ところが、判決では、「その余を判断するまでもなく」ということで、公安警察の違法な活動については一切触れていない。高裁で開示された二二本の盗撮ビデオを含む証拠申請を全面却下したことと合わせ、大きな問題である。判決後の各紙の社説は、「言論封殺の捜査にクギ」など、一様にこの間のビラ配布弾圧事件での捜査・起訴のあり方を問題にした。今回の無罪判決によって、公安警察の活動と不当な逮捕・起訴自体が厳しく断罪されたことは間違いない。しかし、無罪判決で公安警察の違法な活動が帳消しになるわけではない。今後も、公安警察の違法な活動について追及の手を緩めてはならない。

 堀越事件と同時期にビラ配布に対する弾圧事件が相次いだ。立川自衛隊官舎ビラ配布事件と葛飾ビラ配布弾圧事件では、常識に沿った一審の無罪判決がいずれも東京高裁で覆され、最高裁は不当にもこれを追認した。これに対し、葛飾事件最高裁判決直後の昨年一二月四日には、日比谷公会堂に一六〇〇名が参加して、不当判決を批判し、言論・表現の自由を守る決意を固め合った。今回の判決は、こうした国民の批判と運動を反映したものである。判決を反転攻勢の契機として、今後も言論・表現の自由を現場で守るための活動を強めていきたい。

 中山裁判長は、主文言い渡し後、傍聴席に向かって「こんなことで喜んではいけない」と述べて静粛を求めた。最高裁を意識しての発言であろう。五月一三日には、証人申請を全て却下した東京高裁第六刑事部で、世田谷国公法弾圧事件の宇治橋眞一さんに対する判決言渡しが予定されている。今回開いた風穴を大きく広げ、名実ともに猿払事件最高裁判決の変更をかちとるために奮闘したい。

 最後に、この間裁判に協力していただいた学者の方々、ねばり強く支援を続けていただいた多くの方々に心からお礼を申し上げる。



「派遣法抜本改正と裁判勝利をめざす三・二六院内集会」が開催されました!

事務局次長  近 藤 ち と せ

 二〇一〇年三月二六日、自由法曹団、全労連、労働法制中央連絡会の主催で、「派遣法抜本改正と裁判勝利を目指す三・二六院内集会」が開催されました。集会での状況をご報告致します。

 参加者は、北は北海道から西は京都まで全国から団員三一名、事務局六名、当事者及び組合から九二名、取材記者一〇名、議員秘書二名を加えると総勢一四一名で、一〇〇名程度の収容を予定していた会場は、補助イスを用いても立ち見が出ました。

 国会議員としては、日本共産党の小池晃議員、高橋千鶴子議員が駆けつけ、小池議員からは、派遣法改正案は、閣議決定を経たもののいまだに国会へは提出されていないという状況等が報告されました。閣議決定を経た法案は、すぐに国会へ提案されるのが通常であることからすれば、今回の事態は不思議な状態ではあるが、国会へ提案される前の今こそ、真の抜本改正を迫るタイミングであるとの指摘がありました。

 また、高橋議員からは、閣議決定がなされただけで、あたかも法案成立のような報道をするマスメディアが見られたが、国会の存在自体を軽んじるもので許されないという怒りのご報告もありました。

 菊池団長からは、主催者挨拶の中で、正規雇用こそが基本であることが確認されるべきであり、その様な法改正が必要であるとのお話しがあり、それに続いて、鷲見幹事長からは、「実現しよう!派遣法抜本改正」パンフレットに従い、改正法の問題点と全国の裁判の状況等の説明がなされ、今回の派遣法改正には「二つの改悪」と「二つの抜け穴」さらに「二つの不十分点」があり、派遣労働者の八割が救済されないこと等が指摘されました。

 そして、この鷲見幹事長の説明に呼応するように、争議の当事者から訴えがありました。三菱ふそうから派遣切りにあった当事者からは、「自分は常用雇用であっても派遣切りにあった」「常用雇用であれば製造業派遣を認める改正法では自分たちは救われない」「助けて下さい」という悲痛な訴えがありました。

 また、日産自動車から派遣切りされた当事者からも、「専門二六業務は専門的な業務などではない」「私たちの職場では、事務職も、受付も、デザイナーもみんな専門二六業務とされていた」、専門二六業務について登録型派遣が認められたのでは、私たちも救われない等の報告がありました。

 当事者の方々からの訴えに際しては、本部で作成した派遣黒書を参照してもらいながら話が進みました。

 その後集会では、会場に集まった全国の当事者や団員の方々からの戦いの状況について次々と報告がなされましたが、二時間という集会時間では収まりきれない熱気にあふれる報告でした。今回の集会に参加して、全国から集まった多くの当事者の訴えや、多くの団員の話しを聞き、派遣法改正が如何に不十分であるかを再確認し、抜本改正に向けてさらに運動を強めなければならないという思いが強まりました。

 集会は一五時に終了しましたが、その後、四〇人程度が残り、派遣黒書や要請書を持って議員要請をしました。

 そして、院内集会から三日後の、三月二九日、労働者派遣法改正案が国会へ提出されました。民主党は四月中に衆議院を通し、六月の成立を狙っています。抜本的改正に向けて一層の取り組み強化が必要です。

 特に、派遣黒書(二分冊)と「実現しよう!派遣法抜本改正」パンフレットは、自由法曹団ホームページにも掲載されましたので、全国での学習会や活動にご利用ください。なお、派遣黒書やパンフレットの印刷版が必要な方は本部にお問い合わせください。



院内集会・議員要請に参加して

東京支部  河 村   洋

 生まれて初めて議員会館に入場することに緊張していたのですが、入館許可証を提示すると、金属探知機にかけられることもなく、あっさり入れたため、少し拍子抜けしているうちに、院内集会が始まりました。

 始まってまず印象に残ったのは、参加者がとても多かったことでした。参加者の派遣法改正への取り組みの「本気度」というのをまず感じました。さらに、参加者は東京近辺の弁護士がほとんどというのではなく、全国各地からさまざまな立場の人が数多く参加していたことを後に知ったことが、その印象を一層深くしました。

 そして一番印象に残ったのは、多くの参加者が発言の機会を求める姿でした。社会に向かってこれほどまでに訴えずにはいられなくなる程、派遣労働者は虐げられているということを、改めて痛感し、やはり何とかしなければならないという気持ちになりました。

 一見すると、現行の派遣法も派遣可能期間制限や雇用申込義務など、一見派遣労働者保護に配慮した規定を備えています。しかし、この法律を運用してみると、全くこれらの規定は労働者保護に働きません(もともとそうなるように条文が作られているのですが)。また、従来の考え方によると、禁止業務に派遣されたり、派遣制限期間を大幅に超過して派遣されたりしても、派遣労働者は派遣先に対し、雇用責任はおろか、十分な賠償責任も追及できません。裁判例でも、ごく少数の例外を除き、同じ結論です。この集会で、ある当事者が、「法律は派遣労働者を守ってくれない。」と言っていました。現在の派遣労働関係の実務をこれほど端的に捉えた言葉はないと思います。

 この現状を変える最も強力な力は、やはり当事者の生の声です。彼らの声は、自己責任論だとか国内雇用維持論などを吹き飛ばすほどの凄みがあります。彼らが、みずからの労働環境に関する事実を淡々と語ったあとに言う、「法律は派遣労働者を守ってくれない。」は、その重みが、弁護士が言うのとは、違います。ある先輩の労働弁護士から、「労働事件では理屈で勝とうとしてはいけない。何より事実が大事だ。」と教えられましたが、果たしてその通りでした。自分が関わっている派遣労働者が派遣先に直接雇用を求めている訴訟でも、当事者の生の声を裁判所に効果的に伝えることを肝に銘じたいと思います。

 さて、議員要請のほうですが、こちらも私は初めてで、秘書相手とはいえ、国会議員の秘書相手ですから、とても緊張しました。緊張しすぎて、公明党の議員秘書を自民党の議員秘書と勘違いして話をしてしまったのは内緒です。



名ばかり課長認定、残業代加算命じる大阪地裁判決

大阪支部  松 丸   正

 この事件は、過労でくも膜下出血を発症し、傷病等級一級の障害で療養中の大手建設関連会社の作業所長(専任課長)である被災者が、休業補償並びに傷病補償年金の給付基礎日額に残業手当等が含まれていないとして、補償額の増額を求めたものです。

 労災(公災も同じですが)の補償は、原則として発症前の直近の賃金締切日を基準にして、過去三ヵ月分の賃金の平均日額(労基法の平均賃金)である給付基礎日額に基づいて、その支給額が決定されます(なお、最高・最低限度額の定めがあります)。未払いの残業手当等があるときには、これも算入して給付基礎日額を算定することについては、既に労働保険審査会の多くの裁決が下されており、労基署の実務でもその取扱いがなされています(しかし、黙っていれば実際の支給額のみで算定され、請求人がその旨の申し出、あるいは審査請求等で争わないと認められません)。

 被災者は専任課長であるから管理監督者に該当するとして、月一〇〇時間を超える時間外労働に対する残業手当が支給されておらず、労基署長の支給決定は実際の支給額のみで、残業手当を含めないまま給付基礎日額を決定していたため、審査請求、再審査請求で争ったものの、認められなかったため、本訴に至ったものです。

 専任課長という役職の下、工事作業所の統括所長として五名の部下や下請作業員に対する指揮監督をしていた被災者の管理監督者性について、

(1)職務・責任・権限
(2)出退勤の裁量性
(3)待遇

の三点について検討しています。

(1)については、「労働時間等に関する規制の枠を超えて活動す ることが要請されざるを得ないほどの重要な職務と責任・権限を 有していたものということはできない。」こと。

(2)については、「自身の出退勤についてなにがしかの裁量を働 かせる余地があったとまで認めることはできず、その他、原告の 出退勤について裁量を働かせることができたと認めるに足る的確 な証拠はない。」こと。

(3)については、資格手当を受給したのちも総賃金額が増えたと 言えず、「他の本件会社の従業員との関係において、管理監督者 としてふさわしい待遇を受けていたとまではいえない。」こと。

と判断のうえ、管理監督者に該当しないとしています。

そのうえで、残業手当等を給付基礎日額に算入しなかった労基署長の支給処分には誤りがあるとして、原処分取消の判決を下しました。

判示そのものは、管理監督者についての従前の判例を踏まえたものです。

 従前の判例は、対使用者との関係で、管理監督者性が争われたのに対し、本件は国(労基署長)との関係で争われたおそらく初めての事案です。名ばかりの管理職最大の問題は、名ばかり課長です。

厚生労働省は平成一六年度に、社団法人日本労務研究所に委託し、大掛かりなアンケート調査及びヒアリング調査、並びに判例分析をもとにして、管理監督者の範囲についての管理監督者の実態に関する調査研究を行い、その結果は報告書としてまとめられています。

その報告書は、「労働基準法第四一条第二号の趣旨に即して考えると、課長クラス、部下なしのスタッフ職を管理監督者に含めるのは必ずしも適切ではない。」と結論するとともに、「実務において、課長クラスを管理監督者の範囲に入れるなどの法の趣旨と必ずしも合致しない運用がなされていることを考えると、労働基準法第四一条第二号の『管理監督者』の範囲が現状の労働関係を踏まえて、その趣旨を理解させるようなより具体的な立法的または行政的な対応がとられるべきであるということである。」と述べています。

 会社においては、課長=管理職=管理監督者という常識が、労基法においては非常識であることを明らかにした報告書です。

 この判決も名ばかり課長(勿論課長という名目ではなく、実態に基づき判断すべきは当然であり、この判決も専任課長の実態を踏まえて判断しています)の問題点を赤裸々にした判決の一つと言えます。

 また、既に過労死等の労災補償実務においては決着のついている、不払残業手当分の給付基礎日額への上乗せを認めた裁判所としての初めての判断という点で注目されます。(なお、地公災においては、未だ所属の認めた給与額のみを基準として補償額を決定しており、所属が認めない限り不払残業手当を上乗せしないとの扱いを崩していません。この点については奈良地裁で係争中です。)



NTTリストラ松山裁判、高松高裁逆転勝訴判決

四国総支部(愛媛県)  東    俊 一
四国総支部(愛媛県)  中 川 創 太
四国総支部(愛媛県)  中 尾 英 二

一 高松高裁逆転勝訴判決

 二〇一〇年三月二五日、高松高等裁判所民事第二部(杉本正樹裁判長)は、NTTリストラ松山裁判について、二〇〇二年五月に行われた当初配転については労働者らの控訴を棄却したが、二〇〇六年七月に行われた再配転命令について「配転命令権を濫用して命じられた違法な命令」と判示し、控訴人らそれぞれに二〇〇万円の慰謝料支払を命じる判決を下した。(なお、控訴人らは配転無効の確認を求めていたが、再配転のみ無効と宣言すると、当初配転の勤務地で勤務すべき義務があることとなるが、それは控訴人らが求めるものではないので、あえて配転無効は宣言せず、慰謝料のみを認容した判決となっている。)

二 事件の概要

 二〇〇二年五月、NTT西日本が行った「五〇歳退職・賃下げ再雇用」制度は、本社業務のほとんどを新設子会社にアウトソーシングし、五一歳以上の本社社員を任意に退職させ、賃金を一五%から三〇%切り下げて子会社に再雇用させるものである。NTT西日本は、この「退職・賃下げ再雇用」に応じなかった社員に対し、報復・見せしめを目的として、異職種・遠隔地への配転を行なった。本件配転は、こうした不当な目的に基づき、二〇〇二年五月、控訴人ら三名を、松山から、名古屋・大阪に配置転換したものである。

 二〇〇六年七月、当初配転から四年余り経過した後、NTT西日本は、一審継続中の控訴人らに対し、再度「退職・再雇用」を選択するよう求めたが、控訴人らは再度これを拒否したため、名古屋→大阪、大阪→大阪の再配置転換を命じられた。

三 判決の意義

 NTTリストラ訴訟については、札幌裁判、大阪裁判において、すでに貴重な勝訴判決を得ているが、本判決は、再配転について「長年勤務し、かつ、本人が希望する勤務地(松山)には原則として戻さないことを前提とした、不当な差別的意図を推認することができる」と認定している点に、重要な意義がある。

 控訴人ら及び通信労組の主張の根幹は、控訴人らに対する配転が、「退職・再雇用」に応じさせるための報復・見せしめという不当な目的に基づいておこなわれたということであったが、判決が認定した「不当な差別的意図」は、控訴人らの主張の根幹を認めたものと評価し得る。

 判決は、当初配転に関しても、「退職・再雇用を選択すれば、勤務場所が退職時等に限定され、異動の範囲も原則的に同一都道府県であるというメリットがあることを説明する一方、満了型を選択すると、全国転勤となる上、成果業績主義が徹底され、極めて高いレベルが要求されることを十分承知の上で最終的な決断をするようにと説明することが指示され(中略)、NTT東日本及び被控訴人としては、できるだけ社員が退職・再雇用を選択するよう方向付けしていたことが窺える。」と事実認定している。

 これらの判決の事実認定を推し進めれば、再配転が「不当な差別的意図」でおこなわれたものである以上、同様の構造で行われた当初配転も、不当な意図を有していたこととならざるを得ないものと思われる。

 また、判決は、控訴人高野に関しては、「育児介護休業法二六条の趣旨からも問題がある」と判示している点も、大阪裁判と同様に家族的責任を有する労働者に配慮した意義を有するものである。

 判決は、それぞれ二〇〇万円の慰謝料を認容しているが、大阪地裁・札幌地裁の認容例や、他の配転無効に伴う慰謝料の裁判例と比較しても、高額であると思われる。

 NTT西日本にとっては、おそらく予期せぬ敗訴判決であり、上告を巡る攻防が必至である。弁護団としては、上告審においても、前記の重要な意義を有する高裁判決を守るために、精一杯の活動を継続したいと考えている。



派遣法改正案の仕組まれた罠?

派遣先の「みなし雇用」ではなく、「みなし申込制度」の欠陥
=派遣労働者の承諾の自由ではなく、派遣労働者に承諾させない仕組み

埼玉支部  伊 須 慎 一 郎

 現行派遣法四〇条の四は、派遣労働者の受け入れ期間が過ぎた場合(いわゆる期間制限違反の場合)、派遣先が派遣労働者に直接雇用することを申し込まなければならない義務を課しています。しかし、みなさんご存知のように、期間制限違反の場合に、四〇条の四が適用されるには派遣元から派遣先への通知(派遣法三五条の二第二項)を要件としているようにも読め、派遣先企業はこの通知がないことを理由に上記申込義務を履行しません。労働局も上記通知がなくても派遣先にとって何の不都合もないことを承知しながら、通知がないことを理由に、四〇条の四違反を理由とした是正指導を行いません。派遣先の雇用責任規定である四〇条の四は形骸化しており、派遣労働者保護のために全く機能していません。このような考えをもった派遣先(財界)や厚生労働省が容易に派遣労働者を保護することになる新しい制度を許すはずがありません。

 案の定、先日閣議決定された派遣法改正案は、いわゆる期間制限違反などがあった場合、派遣先企業が派遣労働者に対し、直接雇用すると申込んだとみなす「みなし申込」を制度化しています。なぜ、「みなし雇用」ではなく、「みなし申込」なのでしょうか? 使用者側(財界)は派遣労働者の職業選択の自由を保障するためなどと綺麗な字句を並べますが、真意は違います。「みなし雇用」にすると、間接雇用形態の派遣労働者が派遣先が直接雇用する有期契約労働者となることから、最初の更新時期に雇い止めするにしても、自ら手を下さなければなりません。派遣先(財界)は、派遣元という派遣先よりも弱い立場の企業を利用して、他人(派遣元)に派遣労働者の首を切らせて、自分(派遣先)は命令を下すだけという、極めておいしい地位を失うことになるのです。みなし雇用になると、派遣労働者は有期契約労働者になりますから有期契約労働者が雇い止めを争ってくれば、派遣先企業は使用者として裁判に応じなければなりません。そんな手間はかけたくないのです。そこで、派遣法の抜本改正の流れを食い止められないと考えた使用者側は考えました。派遣労働者に承諾の自由を保障するという名目で、「みなし申込」にしておけば、後は派遣労働者が承諾してきた際に、こう言えば直接雇用責任を負わなくて済む。「あなたが承諾して、我が社が直接雇用する場合には、あなたの従前の契約期間は六ヶ月ですから我が社との契約期間は六ヶ月間になります。その場合、六ヶ月後の最初の契約満了時期に契約を打ち止めにしますから、あなたはそれ以後、我が社で働くことはできません。しかし、派遣労働者として派遣元に残るのであれば、仕事がある限りは、あなたは我が社で働くことができます。承諾しない方が長く働けますよ。」と。このように言われて承諾する派遣労働者がどのくらいいるのでしょうか?

 みなし申込制度も現行派遣法四〇条の四と同様に形骸化する危険が極めて高いと危惧します。これでは派遣労働者はいつまで経っても不安定雇用のままです。

 派遣法改正案のみなし申込制度は、みなし雇用制度にするべきです。そのうえで、みなし雇用制度のもと、派遣先との契約は期間の定めのない雇用契約とするか、整理解雇の四要件に匹敵する合理的理由がない限り、雇い止めは許されないとすべきです。政府に事前面接解禁を撤回させたように、まだまだ勝ち取れるものはあります。

 埼玉支部では、今後も駅頭宣伝、学習会、地元選出議員への要請などを精力的に実施していく予定です。各地で派遣法抜本改正のための活動を広げ、派遣先の使用者責任を根本的に強化する真の派遣法抜本改正の実現のための大きなうねりを作り、最後までたたかい抜きましょう。



劇場型「事業仕分け」の何が問題か

東京支部  尾 林 芳 匡

一 国民の注目を集めた新政権の「目玉」

 二〇〇九年一一月一一日から二七日、行政刷新会議による「事業仕分け」が行われた。ここでの判定は、次年度予算編成の重要な参考とされた(「行政刷新会議の事業仕分けの評価結果の反映」二〇一〇年〇一月・財務省主計局)。予算編成を公開の場で行うということで国民的関心を呼び、世論調査では九割が「評価する」というものもあった(フジ・産経〇九一一二四)。連日のテレビ報道により、新政権の「目玉」組織とされた行政刷新会議は、おおむね好評にみえる。

 しかし、真に無駄に思える施策の予算削減に混じって、国土交通省「賃貸住宅の再生、再編」、総務省「緊急消防援助隊設備整備費補助金」、厚生労働省「(独)雇用・能力開発機構運営費交付金」、「診療報酬の配分」、「障害者保健福祉推進事業費」、「シルバー人材センター援助事業」、「延長保育事業」、「保育所運営費負担金」、「生活保護費等負担金」、経済産業省「中小企業経営支援」、文部科学省「スポーツ予算」、「文化関係」、などの事業費・予算が削減されている。こうした生活関連の予算の削減は、はたして「事業仕分け」のテレビ報道に喝采した人々の願いに合致しているのか、疑問である。

 そこで本稿では、「事業仕分け」の何が問題なのかについて、法の原理に照らし、また実際上の対象事業の選定や「仕分け人」の任命について検討したい。とくに、今回の国の事業についての「事業仕分け」にならい、行政施策の予算削減を実績としようとする首長などが、全国の地方自治体で同様の「地方自治体版事業仕分け」を実施しようとする可能性も強い。地方自治体で「事業仕分け」を議論する際の参考にしていただきたい。

二 指導原理のない「仕分け」

 「仕分け」は「区分・分類」することなのであるから、必然的に基準が必要である。たとえば簿記における「仕分け」は、取引を借方と貸方に区分けすることであるし、貨物の「仕分け」は、行く先別、荷主別に貨物を分類することである。ところが国の「事業仕分け」は、何を基準として「区分・分類」しようとしているのかが不明であり、いわば指導原理のない恣意的な「仕分け」である。

 新政権が誕生したのは、「国民の生活が第一」という民主党のスローガンにもあるように、長年の新自由主義的な「構造改革」により勤労市民層の貧困化と地域経済の疲弊が進み、国民の生活の擁護の政策が指示されたためである。国民生活の疲弊は、農林水産業・中小製造業・中小商業の壊滅など地域経済の疲弊、雇用の劣化と「ワーキングプア」の増大、社会保障改悪(年金・医療・生活保護・・・)による生活不安の増大などにみられる。そうであれば、国民生活を支える事業か否かを「仕分け」の視点として据えて、論じるべきであった。ところが、このような指導原理が据えられなかったため、真に無駄な施策の削減に混じり、国民生活を支える大切な事業の予算が削減されることとなった。

 すなわち、社会保障についてこれまで打ち立てられてきた基準に基づき、医療・福祉・教育などの分野について一定の質を確保し国民生活の安全などを守るための社会的施策について、たとえば、「民間でもできるなら民間で」などという論者の議論によって、乱暴に削減する結果をもたらしている。

三 恣意的な「仕分け」の対象の選定

 他方で、大資産家・大企業への課税の減税措置や、証券取引益への減税措置、条約上の根拠のない米軍への「思いやり予算」などは、当初から「仕分け」対象からはずされている。これでは、積極的な国民生活を擁護する施策を実施しようとしても、財源が不足し、消費税増税以外に財源を見いだせなくなるおそれすらある。

四 「仕分け人」は新自由主義的「構造改革」の推進派

 「仕分け人」として事業仕分けを担当したのは、これまでも新自由主義的「構造改革」を推進してきた人々である。研究者とともに、次のような多くの経済界の代表者が参加している。・・・翁百合(株式会社日本総合研究所理事)、ロバート・アラン・フェルドマン(モルガン・スタンレー証券株式会社経済調査部長)、市川眞一(クレディ・スイス証券株式会社チーフ・マーケット・ストラテジスト)、長隆(東日本税理士法人代表社員)、梶川融(太陽ASG有限責任監査法人総括代表社員)、河野龍太郎(BNPパリバ証券チーフエコノミスト)、船曳鴻紅(株式会社東京デザインセンター代表取締役社長)、丸山康幸(フェニックスリゾート取締役会長)、和田浩子(Office WaDa代表)高田創(みずほ証券金融市場調査部長チーフストラテジスト)、高橋進(株式会社日本総合研究所副理事長)、中村桂子(JT生命誌研究館館長)、永久寿夫(PHP総合研究所常務取締役)、原田泰(株式会社大和総研常務理事チーフエコノミスト)、速水亨(速水林業代表)、星野朝子(日産自動車株式会社執行役員市場情報室長)・・・。また研究者として参加した人も、その多くは、地方自治体で新自由主義的な行政改革を進めてきたり、経済界での活動を経て研究者となった人々である。

 「仕分け人」の中に、国民生活を擁護する立場から新自由主義的「構造改革」を一貫して批判している人はいない。このような「仕分け人」の構成では、そもそも国民生活の擁護の視点で行政施策を検討することは不可能であった。

五 「構想日本」の「実績」は新自由主義的「構造改革」

 そもそも「事業仕分け」を実施した新政権の「目玉」組織である「行革刷新会議」の事務局長となった加藤秀樹は、「構想日本」代表である。「構想日本」が「成果の紹介」(http://www.kosonippon.org/about/index.php#id02)としているのは次のような施策である。

△省庁の再編(通称・橋本行革) 各省の権限を法律から削除する提言(各省設置法の改正)→ 一九九九年一月 法律として成立

△公益法人・寄付税制改革 法人の設立が自由にできる非営利法人制度への変更と寄付税制の大幅緩和の提言→二〇〇六年五月「公益法人制度改革関連法」

△年金制度改革 制度全体の見直しを政府が確約する旨の提言

→二〇〇四年四月 年金改革法の「附則」として成立

△「三位一体」改革 国から地方への分権(法律から条例への授権)を大幅に拡大する提言→二〇〇四年六月 閣議決定

△国の「事業仕分け」 国の仕事を国民・住民の視点からオープンな場で個々具体的にチェックする作業を提言(行財政改革の切り札)

→二〇〇六年五月 「行政改革推進法」に規定

 そして、「構想日本」が二〇〇二年から地方自治体で実施してきた「事業仕分け」の実態は、行政施策を短時間の「劇場型」の議論で削減してきた。「構想日本」の「事業仕分け」は二〇〇八年七月現在で二六の自治体(二八回)で実施し、事業仕分けを予算編成に反映させた結果、約一割の予算を削減できた例もあるという。この実績を受け、さらに多くの自治体で実施を予定しているという。

 「構想日本」の「事業仕分け」は次のようなものである。

・実施する自治体職員と「構想日本事業仕分けチーム」(他自治体の職員、民間、地方議員などで構成)が侃々諤々の議論をする

・国や自治体の行政サービスについて、予算事業一つひとつについて、そもそもその事業が必要かどうかを議論

・必要だとすると、その事業をどこがやるか(官か民か、国か地方か)を議論

・最終的には多数決で「不要」「民間」「国」「都道府県」「市町村」に仕分け

・「外部の目」(特に他自治体職員。いわゆる「同業他者」)を入れる

・「公開の場」で議論する(広く案内し誰でも傍聴できる)

・「仕分け人」はボランティア(企業がコンサル業務を行うのではない)

六 短時間の「劇場」型「事業仕分け」は議会制民主主義の破壊

 医療・福祉・労働・教育などの分野では、それぞれ憲法が社会権の保障に伴って一定の施策を国に対して義務づけており、憲法の義務づけにより厚生労働省や文部科学省等の省庁が国民全体の福祉の観点から検討をし、国会制定法で一定の施策を確立してきたものである。異なる目的の社会的施策について、それを「無駄を省く」というかけ声だけでひとまとめにして、多面的な検討や議論を省略し、無駄だというレッテルを貼って予算を削減したり廃止をしたりするという手法は、非常に問題である。恣意的に対象を選定した上で、新自由主義的「構造改革」を進めてきた論者に攻撃させ、国民生活を擁護する施策まで一時間足らずの公開の討論のみによって破壊し削減していくという手法は、国会や議会を中心とした法治主義、議会制民主主義にも抵触する。

 廃止・削減されようとする施策の受益者の声もまったく反映されない。議会制民主主義は、国や地方自治体における多様な利害の調整を、多様な層の声を代弁する議員に託し、議会における討論と議決によって政府の施策や財政を決しようとしてきた。「事業仕分け」が一部の議員、経済界の代弁者によってのみ構成されているのは、少数政党の代表者や、社会的弱者の声を代弁する議員が討論し議決に参加する議会をあまりにも軽視し、結局は政治への社会的弱者の声を封殺することになるものである。この意味で、劇場型「事業仕分け」は、国会における衆議院比例定数削減の動き、名古屋市における市長の市議会定数七五から三八への大幅な削減提案など、多様な声の反映という議会制民主主義の根本を軽視する動きと軌を一にするものではないだろうか。

七 終わりに

 以上の通り、新政権の「事業仕分け」は、国民の生活擁護という視点が欠落し、大企業や大資産家や米軍への優遇を最初から対象外にしており福祉施策の財源不足を必然的にもたらすこと、「仕分け人」も経済界の代弁者に偏し、行政刷新会議の事務局の構成そのものも社会的弱者の声をとりあげ得るものになっていない上、議会の少数政党や社会的弱者の声を封殺する点で、議会制民主主義に照らし原理的にも問題がある。団員のみなさんの議論を期待したい。



第五回アジア太平洋法律家会議(COLAPN)フィリピン・マニラ大会に向けて

東京支部  笹 本   潤

 二〇一〇年九月一八日、一九日にCOLAPNがフィリピンのマニラで開かれます。

 アジア太平洋法律家会議(Conference of Lawyers of Asia and the Pacific)の歴史を振り返ると、第一回が一九八八年にインド・ニューデリーで開催され、第二回は一九九一年に日本で開催されました。六〇〇名を超える日本の法律家と六〇名を超える海外の法律家とが東京・大阪に集まりました。

 第三回の二〇〇一年はハノイでした。九・一一直後にアジアの平和を話し合いました。第四回は二〇〇五年に民主化運動が進展したソウルで開かれ、日本から二〇〇人もの法律家・市民が参加しました。

 今回のフィリピンでのCOLAPNの会議テーマは「国際経済危機と紛争の中の、人権と平和」です。二〇〇八年リーマンショックを機に世界経済は危機的状況を迎えています。このような状況の中でアジアでは平和や人権の分野で様々な問題が生じています。

 新自由主義はアジアにも広く及び、各国で貧富の差、非正規労働など労働条件の悪化、人権弾圧などが生じています。またテロ対策を名目とした米軍の関与、日本・韓国などの米軍再編に伴う世界的規模の基地強化の動きもあります。

 フィリピンでは、二〇〇〇年代に入って、活動家、弁護士などに対する虐殺事件など人権侵害事件が後を絶ちません。昨年一一月にもこの五月の選挙に絡んで大量の虐殺事件がミンダナオ島で起こりました。フィリピンの法律家は国際的にもこのような人権侵害を告発し、アジアの人権保障を訴えています。

 また、九〇年代に米軍基地を撤去したものの、軍事同盟は解消していないため米軍はフィリピンにテロ対策という名目で来て、フィリピン軍との共同演習を行っています。フィリピンでの米軍基地撤去の教訓をとともに、現在のアジアにおけるアメリカ軍について議論できます。

 韓国でも、イミョンバク政権下で非正規雇用、経済的格差が拡大しています。

 日本も含めたアジア各国では、人権保障を国際人権・アジア地域内・各国国内機関の各レベルでどう実現していくかについての議論がされています。

 ネパールでは、国内の武装闘争を終結させる和平合意が二〇〇六年に成立し、王政も打倒され、和平合意を実効化するための新憲法が現在制定されています。日本の憲法九条との接点を探ることもできます。

 日本でも、特にこの二、三年、非正規雇用や経済的格差の問題が大きくクローズアップされ、米軍基地の撤去や核廃絶などの平和の課題が大きい問題となっているので、レポートを出して問題提起をしていきましょう。核廃絶問題については、北朝鮮、インド、パキスタンの法律家も参加する予定なので、活発な議論が期待できそうです。

 民主党・鳩山政権は、「東アジア共同体」を提唱しています。今後、平和と人権保障が実現するような東アジア共同体にするためにも、アジア太平洋地域の法律家との連帯は今後ますます重要になってきます。多くの法律家の参加を希望します。

・分科会テーマ(予定)

 ブッシュ、オバマらと「テロとの戦争」

 市民的政治的権利(表現の自由など自由権各種)

 経済的社会的文化的権利(経済格差・貧困など社会権各種)

 司法と法律家の独立

 女性と子どもの権利

 国際人権保障システム(地域人権保障、国内人権保障機関)

 政治腐敗との闘い

 アジア太平洋における平和構築

 環境、弱者保護、気候変動

10 特別分科会:フィリピンの現状(経済政治状況、人権侵害、選挙)

 現在、COLAPN参加に向けた法律家実行委員会を立ち上げました。そこで、レポートや参加方法について議論していきます。

【実施要領】

・日 時 二〇一〇年九月一八日、一九日

・会 場 SMXコンベンションセンター

(マニラ国際空港近く。アジア最大のモール「Mall of Asia」の隣)

・ホテル 会場周辺の予定

・登録料 弁護士 二〇〇ドル(六月以降は二五〇ドル)

       学 者 一〇〇ドル(六月以降は一五〇ドル)

       NGO 八〇ドル(六月以降は一二〇ドル)

       ロースクール生 五〇ドル(六月以降は八〇ドル)

・オプションツアー(九月二〇日予定)

 米軍スービック基地跡、多国籍企業の規制・バナナ農園、フィリピン国家人権委員会 など

会議やツアーへの参加方法については、五月に別途チラシにてお伝えします。

【連絡先】

 日本国際法律家協会

   電 話〇三―三二二五―一〇二〇

   FAX〇三―三二二五―一〇二五



「親子の絆」を破壊させない!民法改正私案

東京支部  後 藤 富 士 子

 千葉景子法相が、離婚後の共同親権制へ民法改正することに初めて言及した。しかし、離婚前は共同親権であるのに、妻による幼い子どもの「連れ去り」は、なぜか司法が援護している。この現実を見ると、共同親権にするだけでは、「連れ去り」による「親子の絆」を破壊する蛮行は抑止できないと思われる。

 そこで、「親子の絆」を破壊させない! との思いから、民法改正私案を呈示したい。

現行民法八一八条(親権者)

(1)成年に達しない子は、父母の親権に服する。

(2)子が養子であるときは、養親の親権に服する。

(3)親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

改正民法八一八条(親権者)

(1)成年に達しない子は、父母の親権に服する。

(2)子が養子であるときは、養親の親権に服する。

(3)親権は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行う ことができないときは、他の一方が行う。

(4)親権は、親の固有の権利であり、第八三四条(親権の喪失の宣告)及び第八三五条(管理権の喪失の宣告)の規定によらなければ喪失又は制限されない。

民法八一九条(離婚又は認知の場合の親権者)

全部削除

【コメント】

 現行法は、父母が婚姻中のみ共同親権とし、非婚・離婚の場合には単独親権として、単独親権の規定は八一九条にまとめられている。したがって、非婚・婚姻中・離婚という父母の法律関係にかかわりなく共同親権にするには、上記私案で足りる。

 離婚後の監護に関する事項を定める七六六条三項では、同条一項二項で家裁が決定権をもつ監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じないと規定されている。改正によって離婚後も共同親権になれば、現行実務で横行している離婚前の「単独監護者指定」「子の引渡し」の処分ができなくなる。すなわち「子の福祉」という相対的な事由により片親の監護権を全的に奪うことはできないのである。

 なお、認知した子の監護に関して七八八条で七六六条が準用されている。

 八二〇条(親権の効力としての監護及び教育の権利義務)により地方裁判所・高等裁判所で人身保護法による幼児の引渡請求が機械的に認容される実務が横行している。しかし、改正私案八一八条四項により、親権喪失事由のない親が人身保護法で子どもを司法拉致されることは抑制できる。

 共同親権の例外は、八一八条三項ただし書、八三四条(親権の喪失の宣告)、八三五条(管理権の喪失の宣告)、八三七条(親権又は管理権の辞任)で規定されている。

 したがって、改正私案八一八条四項と一体となって、「子の福祉」という相対的評価では親権を剥奪されないことが法的に確立する。

 単独親権者が再婚して子どもと配偶者が養子縁組する場合、そもそも親権者でない実親には養子縁組を阻止する権利が認められていないし、養親が親権者になるため、実親は「親であること」を法的に完全に否定されている。

 私案によれば、このような人倫に背くことは法的に許されなくなる。

 こうしてみてくると、単に単独親権制が「悪の根源」だったというよりも、それを根拠にして「子の福祉」などと、親権喪失事由のない親の親権を剥奪した家裁裁判官こそ「悪の元凶」だったことが分かる。

 「親子の引離し」や「親子の絆の破壊」は、子どもの権利条約で明確に否定されている。「家庭的環境の中で養育される権利」が子どもに保障され、同時に「親の意に反して子どもと引離されない」という親の権利も保障されている。

 しかるに、弁護士会の「子どもの権利委員会」は、こうした条約の理念を全く理解せず、むしろ「家庭破壊」を促進してきたといわざるを得ない。人身保護法の手続で、被拘束者である子どもの国選代理人が弁護士会から推薦されるが、子どもの意思を尊重するどころか、「国親思想」そのもので、「親子の引離し」「親子の絆の破壊」の先兵となっている。

 ドイツでは、子どもの権利条約を批准して、離婚後の単独親権制が改正された。それゆえ、単独親権制を維持している日本は、子どもの権利条約を批准していないと誤解する向きもあるという。日本が条約を批准したのは一九九四年(平成六年)のことであり、当時、既に、共同親権への改正を論じていたことを思い出す。

「引離し」「親子の絆の破壊」により苦しめられた夥しい善良な親子の犠牲を悼み、速やかに民法改正が行われるよう望んでやまない。

(二〇一〇・三・一三)



普天間基地即時無条件撤去・安保五〇年をめぐる取り組みに是非ご参加ください。

改 憲 阻 止 対 策 本 部

 普天間基地を巡っては、政府が「五月中に結論を出す」とし、政府・与党内でキャンプシュワブ陸上案や勝連半島沖案など、様々な「移設先」探しが行われています。しかし、今なお、事故の危険や甚大な爆音被害を住民にもたらしている「世界一危険」な普天間基地の問題は、基地のたらい回しでは解決しません。

 沖縄では、名護市長選で辺野古新基地建設に反対する市長が誕生し、二月二四日には県議会で「米軍普天間飛行場の早期閉鎖・返還と県内移設に反対し、国外・県外移設を求める意見書」を全会一致で採択しました。普天間基地を撤去し、県内での新たな基地建設を許さない沖縄県民の意思は明らかです。普天間即時無条件撤去を実現するために、以下の取り組みにご参加ください。

 また、今年は一九六〇年に安保条約が改定されてから五〇年となる節目の年です。基地を巡るたたかいに併せて安保条約を見直すまたとない機会です。安保五〇年に関する集会も企画されています。こちらも是非ご参加ください。

◆沖縄県民と連帯し、普天間基地の即時・無条件撤去をもとめ四・一四中央集会

日 時 四月一四日(水) 一八:三〇〜一九:三〇

場 所 日比谷野外音楽堂(集会終了後 国会請願デモを予定しています)

主 催 四・一四集会実行委員会(安保破棄中央実行委員会などが参加)

◆普天間基地の県内移設に反対し、県外・国外移設を求める沖縄県民大会

日 時 四月二五日(日) 一五:〇〇〜

場 所 読谷村運動公園
沖縄県議会や名護市議会などが全会一致で県内移設案に反対する決議をあげ、沖縄の全市町村長が県内移設に反対しています。
     この県民大会は、一〇万規模をめざす“島ぐるみ”の取り組みです。

◆米軍基地と日米安保を問い、日本の進路を考える六・四中央集会

日 時 六月四日(金)一八:三〇〜二〇:三〇

場 所 日本教育会館ホール

参加費 五〇〇円(予定)

主 催 六・四集会実行委員会(安保破棄中央実行委員会などが参加)

◆軍事同盟のない世界へ―改定五〇年目の安保条約を問う

日 時 六月二六日(土)

   第一部 シンポジウム 一〇:〇〇〜一二:五〇

   第二部 分科会    一四:〇〇〜一七:〇〇

場 所 明治大学駿河台キャンパス

資料代 一般一〇〇〇円 学生五〇〇円

主 催 六・二六安保五〇シンポ実行委員会



「政府案では私は救われない!」労働者派遣法の抜本改正を求める諸行動への参加のよびかけ

労 働 問 題 委 員 会
大量解雇阻止対策本部

 鳩山内閣は、いったん三月二九日に労働者派遣法改正案を参議院に提出しましたが、「重要法案は衆議院先議」の批判に抗しきれず、衆議院に提出しなおすことになりました。政府案は、「『グループ派遣の大幅容認』と『労働契約申込み義務の撤廃』の二つの改悪」、「製造業派遣・登録型派遣の原則禁止はいつわり、実際は八割容認」、「実効性のない『直接雇用みなし制度』と『均衡考慮原則』」等の重大な問題点があり、とうてい改正案の名に値しません。民主党・社民党・国民新党の与党三党は、政府案の問題点が明らかになる前に、ゴールデンウイーク前後にも国会での成立をはかろうとしています。

 裁判を起こしている当事者(派遣労働者)は、「政府案では私は救われない!」と怒っています。自由法曹団は、裁判を起こしている当事者の方とともに、次の院内集会と国会議員要請活動、街頭宣伝と署名・アンケート活動、法律家国会請願デモをおこなう予定です。全国から多数の団員・事務局の皆様が参加されることをよびかけます。

一 四・一三院内集会と国会議員要請活動

 ○日 時:二〇一〇年四月一三日(火)午前一〇時〜正午

 ○場 所:衆議院第一議員会館第三会議室

二 四・二六院内集会と国会議員要請活動

 ○日 時:二〇一〇年四月二六日(月)午後一時〜四時

 ○場 所:衆議院第二議員会館第一会議室

三 四・二六街頭宣伝と署名・アンケート活動

 ○日 時:二〇一〇年四月二六日(月)午後五時〜七時

 ○場 所:JR新宿駅西口

四 五・一一法律家国会請願デモ

 ○日 時:二〇一〇年五月一一日(火)正午〜午後一時

 ○場 所:日比谷公園霞門〜国会

五 五・一一院内集会と国会議員要請活動

 ○日 時:二〇一〇年五月一一日(火)午後二時〜五時

 ○場 所:衆議院第一議員会館第四会議室