自由法曹団通信:1356号        

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笹山 尚人 非正規労働者の権利闘争で連続勝利! 〜「洋麺屋五右衛門」&「すき家」(前編)
中島 嘉尚 税金の無駄遣いをやめさせよう!
第三セクターにかかる債務の損失補償契約にもとづく自治体の長に対する支払差止を認容する逆転勝訴判決(東京高裁)
宮西 陽子 日弁連人権擁護大会プレシンポジウム 「子どもの貧困」〜貧しいのは僕のせい? 選びたい!自分の未来を〜 報告
黒澤 いつき パレード前夜に思うこと 〜給費制維持運動の意味〜
給費制維持対策本部 九・一六「給費制存続を求める二〇〇〇人パレード」等への参加の呼びかけ
教育問題委員会 「二〇一一年の教科書採択はどうなる?」 学習会を開催します。



非正規労働者の権利闘争で連続勝利! 〜「洋麺屋五右衛門」&「すき家」(前編)

東京支部  笹 山 尚 人

一 首都圏青年ユニオンのたたかいで連続して勝利をあげる

 二〇一〇年八月二四日、二六日の二日間、首都圏青年ユニオンと同顧問弁護団がたたかう非正規労働者の権利闘争で連続して勝利をあげた。八月二四日、「洋麺屋五右衛門」事件が、東京高裁での和解で全面勝利解決、二六日は、「すき家」事件の仙台訴訟について、会社が突如認諾をして勝利。同日、組合が団交拒否の救済を求めていた件について、会社が行った再審査申立を中央労働委員会が棄却する命令を交付した。

 本前編では、洋麺屋五右衛門事件を紹介する。

二 洋麺屋五右衛門事件の全面勝利解決

(1)本件東京地裁勝利判決については、団通信で蟹江団員が報告している。

 二〇〇四年から四年余にわたって錦糸町のパスタ店「洋麺屋五右衛門錦糸町テルミナ店」にアルバイトとして接客・調理業務に従事した須藤武史さんが、タイムカードで把握される賃金本給に一部未払いがある、日レスは変形労働時間制度を導入したとしているが、合法的に運用されていないので労基法三七条に基づいて残業代があるとして、「洋麺屋五右衛門」を経営する日本レストランシステム株式会社(以下、「日レス」という)に対し、未払い賃金合計二〇万九四五一円の支払いを求めて〇九年六月二四日に東京地裁に提訴した。

 日レスは、(1)労働時間はタイムカードではなくシフトで把握しているので本給の未払いはない、(2)半月単位の変形労働時間制を適法に導入しており、その点は労基署にも確認して貰ったので残業代の未払いはないと主張。変形労働時間制の成否及び労働時間の把握方法が主要な争点となった。

(2)一〇年四月七日、東京地裁(藤井聖悟裁判官)は、日レスに対し未払残業代四万二九九五円および付加金三万七七四九円、未払時間給四万二七三六円、合計一二万三四八〇円及び遅延損害金の支払いを命じる判決を下した。

 判決は、(2)の点につき、「被告が採用していた変形労働時間制は就業規則によれば一か月単位のそれであったのに、半月ごとのシフト表しか作成せず、変形期間全てにおける労働日及びその労働時間等を事前に定めず、変形期間における期間の起算日を就業規則等の定めによって明らかにしていなかったものであって、労基法に従った変形労働時間制の要件を遵守しておらず、かつ、それを履践していたことを認めるに足りる証拠もない」として、被告が採用したと主張する変形労働時間制は無効であると断罪した。また、判決は、(1)の点についても、「被告は、シフト表と併せてタイムカードによっても原告の出退勤の管理を行っており」と事実を認定して、タイムカード記載の労働時間の切捨てを認めず、被告に対し、一五分未満の切り捨ててきた賃金を支払うように命じた。その一方で、消滅時効を理由に平成一九年五月分以降の未払いについて支払いを命じたものである。

 同時に判決は、「被告は、本件未払時間外手当の請求について十分な資料根拠に基づかずに変形労働時間制の主張を行ってその支払を拒絶してきている」ことを理由に付加金を支払うよう命じた。

(3)本判決は、変形労働時間制度が就業規則等の面においても、労働日や労働時間の事前特定の面においても不十分であったとして、変形労働時間の運用について正しいあり方を示し、その違法な運用に際しては、原則にもどって労働時間は労基法三二条一項によって把握され、時間外労働の割増賃金は労基法三七条によって支給されることを示した。そして会社のあり方を問題にして付加金の支払いを命じた点でも意義がある判決であった。

(4)地裁判決に対し日レスが控訴したが、東京高裁が和解協議を進め、第一回口頭弁論期日を待たずに和解が成立した。

 その和解内容の主要な点は次のとおりである。

1 日レスは須藤に対し、本件第一審判決が認定した労働基準法違反の事実を認め、原判決に従い未払残業代等の合計金一四万四三五一円を本年四月一五日に支払い、須藤はそれを受領した。

2 日レスは、須藤に対し、本件第一審判決が認定したとおり日レスが採用していた変形労働時間制が違法であることを認め、それについて遺憾の意を表し、日レスは、今後、変形労働時間制の運用等を行う場合は労働基準法を遵守して変形労働時間制が違法に運用されることがないように留意するとともに、同法が定める労働者の権利の実現に努めることを誓約する。

三 「洋麺屋五右衛門」事件解決の意義

 本件では、地裁判決をテコに、日レスに労基法違反を認めさせ、そのことの反省と、今後の労働者の権利実現への誓約をさせたという点で、非常に高次元の和解を実現できたと自負している。

 変形労働時間制は、事業の必要性があるときに、あくまでも労働基準法の労働時間規制の例外的制度として活用されるものであり、その運用は違法にならないよう慎重になされるべきものである。厚生労働省によると、〇九年における三〇人以上の事業所の四九.五%は変形労働時間制を導入しているとのことである。変形労働時間制を必要とするような事業なのかどうかもはっきりしないし、それが合法的に運用されているかどうかも不明である。膨大な数の労働者が変形労働時間制の下で長時間労働を強いられ、違法な賃金未払いが発生している可能性が大である。

 また、翻ってみれば、そもそも、労働時間がシフトの変動などにより変動する時給で働くアルバイト従業員については、労働時間についてシフト制を定めれば足りるのであって、変形労働時間制度を導入する必要性は疑問である。変形労働時間制度は、本来的に、時間帯や時季によって業務の繁閑が予想される事業に、基幹的な労働力を効率的に配置したいときに活用しうる制度であって、補充的労働力であるアルバイト従業員に対し導入すべきものではない。法律がこうした問題意識に基づく要件を定めていない点も問題である。

 こうした変形労働時間制を悪用して、時間外労働賃金の未払いを違法ではないものと偽装することが本件の本質であった。これは、低賃金で働くアルバイト・パート従業員に支払われるべき賃金をさらに少なくしながら、長時間労働を助長するものである。

 本件は、こうした実態を暴露し、日レスをして「変形労働時間制度を合法的に運用する」と約束させて、アルバイト従業員の労働者としての権利を獲得させた。日レスには、六〇〇〇人のアルバイトがいる。須藤さん自身が手にしたお金は一五万円弱であるが、巨額の労働者の賃金を勝ち取ったこととなる。

 そして、首都圏青年ユニオンは、本件の成果をテコに、非正規労働者の業務に変形労働時間制度を活用することの問題点を告発することができるようになった。首都圏青年ユニオンは、本件和解を受けて声明で次のように述べた。

 「本和解を通じて、われわれは変形労働時間制の運用について社会的に問題提起をしていくものである。私たちは、変形労働時間制の違法な運用をおこなう企業に対して徹底して許さずにたたかうことをここに表明するとともに、変形労働時間制をパート従業員・アルバイト従業員に対して安易に適用する企業に対しても、その運用の廃止を求めるためにたたかうことをここに表明する。」

 最後に弁護団を紹介すると、「洋麺屋五右衛門」事件は、首都圏青年ユニオン顧問弁護団から、西田穣、蟹江鬼太郎の各団員と私である。      

(後編に続く)


税金の無駄遣いをやめさせよう!

第三セクターにかかる債務の損失補償契約にもとづく自治体の長に対する支払差止を認容する逆転勝訴判決(東京高裁)

長野県支部  中 島 嘉 尚

一 東京高等裁判所第二二民事部は、二〇一〇(平成二二)年八月三〇日、第三セクターの債務につき損失補償契約をなした自治体の首長に対し、金融機関への補償債務の支払いを差し止める判決をした(裁判長は加藤新太郎裁判官である)。

二 事案の概要は次のとおりである。

 長野県安曇野市は、同市所在のМ社(トマト栽培を主とする)が、A、B、C各金融機関に対し、負担する債務につき、A金融機関二億五〇〇〇万円、B金融機関五二五〇万円、C金融機関四八七五万円の範囲内で各金融機関との間で損失補償契約を締結した。

 そこでこの損失補償契約が無効であるとして住民監査手続きを経て(住民監査手続では棄却)地方自治法にもとづき公費出費差止めを求めて提訴がなされた(平成一九年一一月二一日)。

三 論点は以下のとおりである。

(1)監査請求期間を徒過した訴えか。

(2)本件各損失補償契約は財政援助制限法第三条に違反する無効のものであるか。

四 東京高裁の判断

(1)前記(1)すなわち監査請求期間徒過の有無の点については第一審の判決では、損失補償にもとづく支出がなされていないので期間は進行しないとの理由により適法と判断していたところ、本件控訴審判決においても同様の理由により適法と判断した。

(2)前記(2)財政援助制限法に関する東京高裁の判断は次のとおりである。

(1)財政援助制限法三条は、地方公共団体等の財政の健全化のため、地方公共団体等が、会社その他の法人の債務を保証して不確定な債務を負うことを防止する規定である。

(2)同法で禁止する保証契約とは、主債務との間に付従性補充性があり、保証人は、主債務者と同一の責任を負う性質を有する契約である。

(3)損失補償契約は主債務との間に付従性補充性はない。また、損失補償をしたからといって、当然に主債務者に対し求償したり債権者に代位できるものではない。この点において損失補償契約は保証債務とは差異があるということはできる。

(4)しかし実際には、損失補償契約についても、保証債務と同様の機能を果たすことが多い。付従性補充性がなく、当然の求償や代位もできないのだから、保証債務よりかえって責任が過重になる。それにもかかわらず財政援助制限法三条の規制が及ばないとすれば、同条の趣旨が没却される。したがって法の趣旨を没却しない特段の事情がない限り同条の類推適用がなされ規制が及ぶ。

(5)次に財政援助制限法三条の趣旨を没却しない特段の事情としては、損失補償契約を締結する公益上の必要性が高いことと、相手方の金融機関が公益の必要性に協力するために損失補償契約に至った場合には、特段の事情が認められるとしている。

(6)本件М社に関する各金融機関との損失補償契約は明らかに保証契約と同様の機能を果たすものであり、財政援助制限法三条の趣旨に反し無効である上、公益性などの特段の事情も認められない。したがって本件損失補償契約に基づく支出の差止めの請求は理由がある、とした。

(7)取引の相手方たる金融機関側との取引の安全性については、財政制限法三条の趣旨を実効性あらしめるためには、無効もやむを得ないとする。しかし損失補償契約を締結する公共の必要性が高く、金融機関も公益上の必要性に協力し、さらに契約当時の諸般の事情から当該金融機関において違法性の認識がないと認められる場合にあって、当該地方公共団体が損失補償契約の無効を主張することが社会通念上著しく妥当性を欠くと評価される場合は、地方自治体は信義則上当該金融機関に対し、無効を主張できないと解される余地がある。

(8)本件判決と既判力との関係について

金融機関が自治体を相手に信義則上無効を主張し得ない事情を主張して訴訟提起をすることは想定できる。この場合、訴訟提起は差止認容判決の既判力によって妨げられない。

(9)前記訴訟によって信義則上の事情が認められ、請求が認容されたとしても、自治体は差止め判決の拘束力により任意の履行は許されず、金融機関の強制執行の方法によるべきである。

五 このように本件判決は、損失補償契約は財政援助制限法第三条により原則として無効であり、例外的に公益性が認められる場合など法律の趣旨を没却しない範囲で有効となる場合があると明言したこと、その結果本件については差止めが認容されたこと、但し、判決の既判力は金融機関の契約に基づく履行請求の訴訟提起には及ばないこと、自治体が無効を主張し得ない信義則上の事情がある場合は認容される余地があること、しかしそれでも自治体への差止めの判決の拘束力はあるので、自治体が自ら任意に履行することはできず、強制執行の方法によるべきであることを判示したものである。

六 本件のように財政援助制限法違反を理由に、主文をもって差止めを認容した判決はあまりないのではないかと思う。

 また本件判決は、第三セクターに対する自治体の安易な損失補償契約に制限をかけるものである。ともすれば無責任な損失補償契約がまかり通っている現状に対し、警鐘を鳴らしたものといえる。

 多くの自治体では、合併前の一自治体の損失補償契約を合併後の首長が背負い込んでいる場合や、前首長の無責任な損失補償契約に対し、これを批判して選ばれた新首長が実際には前首長のした損失補償契約の履行を求められ、その対処に苦慮困惑する場面が多発しているのではないかと思う。この判決はある意味で解決の指針を示したものともいえる。本件も合併前の一自治体の首長が行った損失補償契約の無効を合併後の首長に対して主張したケースである。

七 本件訴訟は原告(控訴人)一名、弁護士一名という(少数精鋭?)体制(ただし住民は応援してくれた)で闘ったものであるが、得た成果は大きいのではないかと思っている。

 なお、既成事実の進行を避けるため滋賀県の吉原稔先生の「省エネ裁判」を読み、なるほどと思い、本件の場合にも証拠としての資料は多く提出したが、当方から証人尋問は不要として、証人申請は行わなかったので、証人調べはなされていない。

 また高裁における訴訟の進行は大変に緊張感に満ちたものであり、その場で裁判長が疑問点を訊き、その場で答えを求められるというもので、一回ごとの弁論手続を大事にした(まさに口頭主義)。

八 本件は損失補償問題とは別の請求もあったが、その部分は結論的には却下となった。ここでは省略させていただく(ただし、その問題に対しては理由中で自治体に反省を求めている)。

九 追伸 本件については、新聞報道等によると、九月八日の市議会において上告受理申立手続をとることに議決したとのことです。首長は「多くの自治体に影響を及ぼす判決」と説明したそうです。おそらく全国の自治体の意向をも体したものと推定されます。そうなると当方も「そうですか」というわけにはゆきません。ある意味では総力戦の覚悟をしなければなりません。全国の団員の皆様の御意見と御協力、御支援をお願いするものです。


日弁連人権擁護大会プレシンポジウム 「子どもの貧困」〜貧しいのは僕のせい? 選びたい!自分の未来を〜 報告

埼玉支部  宮 西 陽 子

 埼玉弁護士会では、七月二四日(土)に表題のシンポジウムを開催しました。

 当日は、ありがたすぎる晴天の中、午後一時から四時という一日の中でももっとも暑い時間帯での開催であったにもかかわらず、多くの方にご参加いただき、当初目標としていた三〇〇名を達成することができました。また、途中で退席される方もとても少なく、会場で販売した関連書籍もほぼ完売するなど、盛況の内に終えることができました。

 シンポジウムでは、まず、子どもの貧困問題を直接目にしてきている現役教師白鳥勲さんによる基調講演と同問題に直面している高校生三名と親二名からの実態報告が行われました。さらに、講演と報告を踏まえて、同問題の解決に取り組まれてきた青砥恭さん、一場順子さん、水島宏明さん、野村武司さんによるパネルディスカッションが行われました。いずれも、非常に内容の濃いものであり、日本における子どもの貧困の現状をわかりやすく伝えていただきました。

 高校生からの実態報告では、次のような発言がなされました。

 「母子家庭で生活保護受給中であるが、部活の費用の支払いが困難であることをケースワーカーに相談したら、「なら部活を辞めたらいいじゃないか」と言われた。傷ついたけど、部活を辞めるべきかなと思った。」

 「人間にとって一番怖いのは独りぼっちになること。そのような子がいたらほっとかないで手をさしのべて下さい。」

 八六通いただいたアンケートでは、このような発言が直接子どもの口からなされたことで、貧困に直面している子どもたちの実態に衝撃を受け、問題の深刻さを知った、という感想が多く見られました。今後社会を担っていくはずの子どもが貧困に直面して、現状や将来に対して希望を持てなくなることは、社会にとって大きな損失であり、社会全体で取り組み改善していかなければならない問題です。今後は、今回発言して下さった方やご参加いただいた方の思いに応えるためにも、一歩ずつ問題解決に向けて取り組んでいくことができればと思いますので、団員の皆様におかれましても、関心をお持ちいただき、ご指導、ご協力をいただければ幸いです。


パレード前夜に思うこと 〜給費制維持運動の意味〜

東京支部  黒 澤 い つ き

一 はじめに

 司法修習生の給費制維持を勝ち取るべく、猛暑の中、全国各地で運動がじわじわと盛り上がり、九月一六日の国会周辺パレードへと突き進む段階に突入しました。しかし、いまだに「世の中、誰だって経済的に苦しいのに、なぜ修習生だけ?」という声が聞こえてきます。そして振り返ってみれば、弁護士の中から「なんか気が引ける」「国民の理解を得るのは難しい」というつぶやきが聞こえ、それがまさかの団員の声だったりします。パレードを目前に控えた今、給費制の問題に対していまだこのような認識に止まる弁護士(団員)が少なくないことに、若干の焦燥を感じずにはいられません。僭越ながら、少し考察させていただきます。(表現をわりと柔らかく抑え、穏やかなトーンで書かせていただいております。)

二 真の被害者は?

 私は、この運動が、世間に「法曹を目指す若者が貧困にあえいでいて可哀想」という運動だ、と捉えられ、その認識を変えられない場合、勝ち目は無いと思っています。それは国民自身の問題ではない、あくまでも法曹を目指す人達に特化した問題、ということで終わるでしょう。大学院とか出て優秀なのに大変ね、でもみんな苦しいのは一緒だしね、と、こうなります。なかなかこの認識を塗り替えられない原因は、そもそも法律家側がそのような認識にとどまっているからなのでは、と思う時があります。もしそうなら、国民の認識を変えるのは当然不可能です。

 ロースクール(修了)生は、「当事者」あるいは「被害者」として集会で窮状を訴えています。確かに「修習専念義務を課せられながら無給」というこの上無い理不尽な状況に置かれる彼らは、給費制廃止の第一次的な影響を受けるという意味ではまぎれもなく当事者であり、被害者です。しかし、真の当事者(最終的な被害者)は、「権利の担い手」を奪われる国民ではないでしょうか。

三 法曹養成は国家の使命

 法曹三者の中で、弁護士は唯一「裁かれる側」「国家と対立する者」です。しかし司法試験合格者の圧倒的大多数が弁護士になります。このことは何を意味するでしょうか。敗戦直後、国民全体が困窮のどん底であえぐ中で、弁護士になるであろう者を含めた司法修習生を国費で養成する制度が作られた、その意味は何でしょうか。

 民間であり、裁かれる側である弁護士が、憲法の条文に書かれ、憲法秩序の構成要素と位置づけられている意味は何でしょうか。

 それは、国家と対峙する弁護士も、司法権という暴力装置をコントロールする担い手であり、これを国家自身が養成することは民主主義国家としての維持発展のために必須であり、国家の使命である、という発想であり決意です(国家権力の発動の担い手として十分な能力を持つ者をかき集めて人的インフラを敷くことは、国家の根本的課題ですから、至極当然のようにも思えますが)。

 とすれば、給費制の廃止は、この決意との決別を意味するといっても過言ではありません。司法修習を単なる私人の資格取得の過程とみて受益者負担論に落とし込む発想は、責任放棄的な、そして人権の「最後の砦」である司法そのものへの無理解はなはだしい、唾棄すべきものだと思います。

 現実問題として、弁護士登録した時点で破産寸前の借金漬けになっているのでは、いくら弱者に共感できる心を持っていたとしても、その志を発揮できる経済的・精神的余裕は期待できませんし、同時並行的に国家が受益者負担論をかかげて給費制を廃止することによって、弁護士になることは単に商売道具の資格を取得することだと宣言され、弁護士法一条は死文化することになります。ひとたび重大な人権問題が起きたとしても、採算度外視で駆けつける余裕のある弁護士が消え、結局、国民は生命・自由・人権の守り手を失います。

 「しかし実際、民主的活動に取り組む弁護士は少数だ」「使用者側につく弁護士も多いじゃないか」とおっしゃる方々もいます。確かにそういう現実はあります。しかし問題はそこではなく、「民主的法律家」やそれを目指す者が少数であるとしても、その彼らが経済的な理由で夢を諦める、あるいは借金漬けで採算度外視の活動に取り組めなくなることが問題なのです。おそらく戦前もそのようなブルジョア弁護士は少なからずいたはずですから、戦後の制度設計は、国民がブル弁を横目で見つつも国の民主的復興を願い、「それでもなお、弁護士は基本的人権の擁護と社会正義の実現のために邁進する者だ」と位置づけた結果ではないでしょうか。この運動を重ねれば重ねるほど、弁護士法一条の意味、弁護士に特権的地位が与えられている意味、弁護士自治が認められている意味を考えずにはいられません。給費制維持を訴える以上は、日弁連も政府も、国民の「権利の守り手」としてふさわしい民主的法曹を養成しなければならない、という決意を新たにする必要があると思います。

四 憲法秩序を守る、ということ

 給費制維持とは、民主主義を守るための運動であり、憲法秩序を守るための闘いです。逆にいえば私自身、このような意義づけができていなければ邁進していなかったと思います。静岡の常任幹事会において、「『団としても』取り組む必要がある、というアリバイ作りみたいな姿勢は止めて下さい。『団こそが』取り組まなければならない問題なんだ、そういう視点を持って下さい」と、生意気にも申し上げてしまいました。私が「怒られるかも」と内心ビクビクしながらも言わずにはいられなかった訳を、どうかご理解ください。国民の理解が得られなそうだから、と躊躇なさる方は、勝てる勝負しかなさらないということでしょうか、それって政治運動なのでしょうか?国民の理解が簡単には得られないからこそ、血湧き肉躍る運動をする。これは団の諸先輩方にも自明なことのはずです。

 九月一六日のパレードが、今年の団の一番のハイライトになること、たくさんの団員の方々と連帯できる機会になることを願ってやみません。粗っぽい議論で失礼致しました。


九・一六「給費制存続を求める二〇〇〇人パレード」等への参加の呼びかけ

給費制維持対策本部

 二〇〇四年に裁判所法が改正され、今年一一月一日から司法修習生に給与を支給する「給費制」が廃止されて、生活費を貸与する「貸与制」に変えられようとしています。日本弁護士連合会や司法修習生に対する給与の支給継続を求める市民連絡会等は、裁判所法を改正して「給費制」を維持することをめざして、後記のとおり、九月一六日に二〇〇〇人パレード等を計画しています。

 全国の団員・事務局の皆さまに、団及び法律事務所の旗を持って、二〇〇〇人パレード等に参加することを呼びかけるものです。とりわけ、関東近県の支部・法律事務所の皆さまは、事務所全員(もしくは全員に近い)参加をめざしていただきたく、よろしくお願いします。

九・一六「給費制存続を求める二〇〇〇人パレード」等の諸行動

日   時:二〇一〇年九月一六日(木)

決起集会:【開場】午前一〇時四五分【開会】午前一一時 日比谷野外音楽堂

パレード:正午・日比谷霞門集合 午後〇時一五分出発〜午後一時頃解散

院内集会:午後四時〜五時三〇分 参議院議員会館一〇一号室(一階)

 主 催:日本弁護士連合会

 共 催:司法修習生に対する給与の支給継続を求める市民連絡会/ビギナーズ・ネット等

三団体(自由法曹団・全労連・国民救援会)給費制維持対策会議

     午後二時三〇分〜三時三〇分(パレードと院内集会の間) 参議院議員会館B一〇一会議室(地下一階)


「二〇一一年の教科書採択はどうなる?」 学習会を開催します。

教 育 問 題 委 員 会

 「自虐史観」からの脱却をめざす「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会)は、二〇〇一年以来、侵略戦争を肯定する歴史教科書、日本国憲法を否定する公民教科書を扶桑社から発行し、採択に向けた策動を全国で展開してきました。団は、多くの市民と共同してこの策動に反対し、「つくる会」教科書採択阻止の活動を行ってきました。広範な市民の反対運動によって、「つくる会」教科書が採択された自治体はごく少数にとどまっています。その後「つくる会」は〇八年に分裂し、扶桑社と自由社から殆ど同じ内容の「新しい歴史教科書」「新しい公民教科書」が発行されるなどしました。

 そして、二〇一一年、再び教科書採択の年がやってきます。

 今度の教科書採択は、「愛国心」を強調した新学習指導要領の下での初めての教科書採択となります。「つくる会」が分裂したからといって油断はできません。

 教科書採択をめぐる情勢と、来年の採択のポイントをいち早くつかむべく、「二〇一一年の教科書採択はどうなる?」学習会を企画しました。

 講師は、この分野の第一人者である「子どもと教科書全国ネット21」事務局長の俵義文氏です。来年、団が必ず取り組むことになる課題です。是非多くの方にご参加いただきますようお願い申し上げます。

「二〇一一年の教科書採択はどうなる?」学習会

  日時:二〇一〇年一〇月一日(金) 午後六時〜(団本部にて)

  講師:俵 義文氏  (子どもと教科書全国ネット21事務局長)

※同日の午後四時三〇分から教育問題委員会も開催します。ご都合のつく方は、是非併せてご参加ください。