<<目次へ 【意見書】自由法曹団


司法制度改革推進法案に対する修正意見

2001年10月
自 由 法 曹 団
司法民主化推進本部

1、はじめに   自由法曹団は、本年9月22日の常任幹事会において「司法制度改革推進法案に対する声明」を発表した。これは、司法制度改革についての基本法である同法案が、国民のための司法制度改革を推進していくという観点からみて、看過しがたい重大な問題点を有しているからである。本意見書においては、あらためて同法案の問題点を指摘するとともに、具体的な修正意見とその理由を明らかにする(アンダーラインの部分が修正点)。

2、修正意見

【法案第1条(目的)】

目   次
この法律は、国の規制の撤廃又は緩和の一層の進展その他の内外の社会経済情勢の 変化に伴い、司法の果たすべき役割がより重要になることにかんがみ、平成13年6月12日に内閣に述べられた司法制度審議会の意見の趣旨にのっとって行われる司法制度の改革と基盤の整備(以下「司法制度改革」という。)について、その基本的な理念及び方針、国の責務その他基本となる事項を定めるとともに、司法制度改革推進本部を設置すること等により、これを総合的かつ集中的に推進することを目的とする。



【修正案】

 この法律は、現在の司法制度が国民の基本的人権を擁護するため十分にその機能を果たしていないことにかんがみ、国民がより利用しやすい司法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹のあり方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備について(以下「司法制度改革」という)、その基本的な理念及び方針、国の責務その他基本となる事項を定めるとともに、司法制度改革推進本部を置すること等により、これを総合的かつ集中的に推進することを目的とする。

(理由)

 司法制度改革は、憲法の保障する国民の基本的人権を擁護するという本来の司法の役割が、現在の官僚司法制度の下で十分に果たされていないことがその出発点であり、それを抜本的に改革し、国民の基本的人権を擁護に資する司法制度へと改革することが目的である。

 司法制度改革審議会設置法における参議院の付帯決議は「国民のより利用しやすい司法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹一元、法曹の質及び量の拡充等の基本的施策を調査審議するにあたっては、基本的人権の保障、法の支配という憲法の理念の実現に留意すること。」としている。また、その審議の際、陣内孝雄法務大臣(当時)も「司法制度の改革は、単に規制緩和などを推進していくために必要であるという観点からだけ行われるものではなく、これからの社会において司法制度の利用者としての国民にとって、身近で利用しやすくわかりやすい司法制度を実現するという観点から検討されなければならない。」と答弁している。したがって、司法制度改革は規制緩和に資するためのものではなく、国民の基本的人権を擁護するためのものであることが、その目的において明らかにされなければならない。この点で、法案の第1条(目的)が、司法制度改革を規制緩和路線の一環として位置付けている点は到底容認することはできない。

 さらに、法案第1条が司法制度改革を「司法制度改革審議会の意見の趣旨にのっとって行われる」と位置付けている点も問題である。自由法曹団はすでに「国民のための司法改革をー司法制度改革審『最終意見』とわたしたちの見解ー」を発表し、その中で詳しく述べたが、最終意見には、国民のための司法改革にとって評価すべき改革案が含まれているものの、刑事裁判・行政裁判や労働裁判など改革を急ぐべきものの多くは手つかずとなっており、また国民を一層司法から遠ざける弁護士報酬敗訴者負担制度の原則導入を打ち出すなど、絶対に容認できない内容も含んでいる。国民のための司法改革を推進するためには、最終意見のもつ積極的な面を立法で具体化させるとともに、その問題点を克服し、手つかずの点については積極的な改革を行っていくことが重要である。その意味で最終意見は、批判的検討の対象とされなければならない。したがって、法案第1条の「司法制度改革審議会の意見の趣旨にのっとって行われる」とする部分は、目的から削除すべきである。しかしながら、司法制度改革審議会の意見には、重要な改革提言が含まれており、それらが積極的に実現されなければならないことは言うまでもない。

【法案第2条(基本理念)】

 司法制度改革は、国民がより容易に利用できるともに、公正かつ適正な手続の下、より迅速、適切かつ実効的にその使命を果たすことができる司法制度を構築し、高度の専門的な法律知識、幅広い教養、豊かな人間性及び職業倫理を備えた多数の法 曹の養成及び確保その他の司法制度を支える体制の充実強化を図り、並びに国民の司法制度への関与の拡充等を通じて司法に対する国民の理解の増進及び信頼の向上を目指し、もってより自由かつ公正な社会の形成に資することを基本として行われるものとする。


【修正案】

司法制度改革は、国民の基本的人権を擁護するため、国民がより容易に利用できるとともに、公正かつ適正な手続の下、より迅速、適切かつ実効的にその使命を果たすことができる司法制度を構築し、高度の専門的な法律知識、幅広い教養、豊か な人間性及び職業倫理を備えた多数の法曹の養成及び確保その他の司法制度を支える体制の充実強化を図り、並びに国民の司法制度への関与の拡充等を通じて司法に対する国民の理解の増進及び信頼の向上を目指し、もってより自由かつ公正な社会の形成に資することを基本として行われるものとする。

(理由)

 第1条の箇所でも詳しく述べたが、司法制度改革は国民の基本的人権を擁護するため のものでなければならない。このことは、基本理念においても明記する必要がある。

【法案第4条(日本弁護士連合会の責務)】

日本弁護士連合会は、弁護士の使命及び職務の重要性にかんがみ、第2条に定める基本理念にのっとって、司法制度改革の実現のため必要な取組みを行うように努めるものする。


【修正案】

法案4条を削除する。

(理由)

 日弁連は、在野の弁護士の強制加入団体であり、国民の人権擁護のために自治権を保障された団体である。したがって、日弁連には行政府の進める施策に拘束されることなく、常に独立した自由な意見表明の権利が保障されていなければならない。よって、日弁連に対する責務条項を設けることには反対である。

 加えて、先に指摘したように、法案の目的には司法制度改革を規制緩和路線の一環として位置付ける等という重大な問題点がある。仮に日弁連の責務条項を設けるとしても、このような目的や基本理念を前述のように修正することが大前提である。また、日弁連の責務条項について、審議会の最終意見を所与の前提として無条件にその実現に努力する責務を課したものとすることは到底許されない。

【法案5条(基本方針)1項】

司法制度改革は、次に掲げる基本方針に基づき、推進されるものとする。
1、国民が容易に利用できるとともに、公正かつ適正な手続の下、より迅速適切 かつ実効的にその使命を果たすことができる司法制度を構築するため、民事に関し、その解決のための専門的な知見を要する事件その他の事件に関する裁判所における手続の一層の充実及び迅速化、裁判所における手続を利用する機会を拡大するために必要な制度の整備、裁判外における紛争処理制度の拡充等を図るとともに、刑事に関し、裁判所における手続の一層の充実及び迅速化、被疑者及び被告人に対する公的な弁護制度の整備、検察審査会の機能の強化等を図ること。


【修正案】

司法制度改革は、次に掲げる基本方針に基づき、推進されるものとする。
1、国民が容易に利用できるとともに、公正かつ適正な手続の下、より迅速、適切かつ実効的にその使命を果たすことができる司法制度を構築するため、民事行政、労働に関し、裁判所における手続の一層の充実及び迅速化、裁判所における手続を利用する機会を拡大するために必要な制度の整備、裁判外における紛争処理制度の拡充等を図るとともに、刑事に関し、裁判所における手続の一層の充実及び迅速化、被疑者及び被告人の身柄拘束の適正化、被疑者の取調べの適正化、公判審理における直接主義及び口頭主義の実質化、被疑者及び被告人に対する公的な弁護制度の整備、検察審査会の機能の強化等を図ること。

(理由)

 法案第5条1項では、民事に関し「解決のための専門的な知見を要する事件」を特に取り上げているが、これは審議会の最終意見で述べられている「専門委員制度」の導入を念頭においているものと思われる。しかしながら「専門委員制度」は、専門委員がどのような内容の知識、意見を裁判官に述べているのかについて、訴訟当事者にはまったく分からず、実際上の反論の機会が奪われる結果になるため、審理の公正さ・透明性がまったく担保されないものであり、その導入を認めることはできない。したがって、これらのことを基本方針に持ち込むことには反対である。なお、行政裁判、労働裁判などの改革が急務であることは既に述べたとおりである。

 また、刑事司法については「自白中心主義」「調書裁判」「人質司法」という実態が、改革されるべき根本問題であることから、基本方針において、それらについての改革を明記する必要がある。


【修正案】

2、司法制度を支える体制を充実強化させるため、法曹人口の大幅な増加、裁判所、検察庁等の裁判官、検察官をはじめとする人的体制の拡充、法曹養成のための教育を行う大学院に関する制度及び経済的支援制度の整備、その他の法曹養成のための制度の見直し、裁判官、検察官及び弁護士の能力及び資質の一層の向上のための制度の整備等を図ること。とりわけ、裁判官の任命手続、給源の多様化・多元化、人事評価のあり方、司法行政のあり方、及び判事補制度のあり方の抜本的見直しを行うこと。

(理由)

 最終意見では、あらたな法曹養成制度として「法科大学院制度」が提言されている。法科大学院制度を導入することによって、法曹を目指す者の経済的負担の増大が確実視されており、これをそのまま放置すれば、経済的に豊かでない階層から法曹になるべき途は事実上閉ざされてしまう。最終意見においても各種の経済的な支援制度を十分に整備、活用すべきと述べられているのであり、このことを基本方針に明記する必要がある。

 また、最終意見において、裁判官、検察官の大幅な増員が提言され、また裁判官の任命手続、給源の多様化・多元化、人事評価のあり方、判事補制度の見直し等の点で、積極的な改革提言がなされている。これらは、立法において更なる具体化が図られなければならないものであるから、基本方針として明記しなければならない。



【法案第5条3項】

3、国民の司法制度への関与の拡充等を通じて司法に対する国民の理解を増進させ及びその信頼を向上させるため、国民が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与する制度の導入等を図ること。


【修正案】

3、国民の司法制度への関与の拡充等を通じて司法に対して国民の健全な常識を反映させ、及びその信頼を向上させるため、国民が訴訟手続に関与する制度の導入等を図ること。

(理由)

 国民の司法参加が必要なのは、裁判手続に国民の健全な常識を反映させ、より適正な判断を行うためである。したがって、より徹底した国民参加の形態である陪審制度が念頭におかれるべきであり、その範囲も刑事裁判に限定すべきでない。法案第6条3項は、審議会の最終意見が刑事裁判の一部に「裁判員制度」を導入するとしていることを所与の前提としているが、これにとらわれることなく、より徹底した国民参加の形態を幅広く導入すべきである。

3、司法制度改革推進本部について

 法案第4章(第8条〜18条)は、内閣に司法制度改革推進本部を設置し、内閣総理大臣がその本部長となり、副本部長、本部員も全て閣僚のみで構成されると定めている。また報道によれば、本部内に司法制度改革審議会の佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理らによる顧問会議を置き、事務局は法曹三者と官僚で構成され、事務局の下に実務家や有識者で構成される個別テーマごとの検討会をおくとされている。

 すでに繰り返し述べてきたように、司法制度改革は、国民の基本的人権の擁護に資するものでなければならず、その内容は常に国民の視点から検証されなければならない。したがって、推進本部は国民各層の代表が参加するものでなければならず、閣僚のみで構成されるべきでない。また、司法制度改革審議会委員のうち、労働団体や消費者団体、弁護士の委員が顧問会議から除外されており、国民の各層からの参加という点で極めて不十分である。推進体制の各部署に国民各層の代表を参加させ、幅広い国民の声が反映されなければならない。

4、審議の公開について

 推進本部、顧問会議、検討会の審議はすべて公開されなければならない。議事録の公開は当然のことであるが、審議自体の傍聴はもとより、マスコミの傍聴は必須のものとして保障されなければならない。このようにすべての情報を国民に公開し国民各層の意見を集約した上で、公正かつ民主的に審議が行われなければならない。このことを法案に明記する必要がある。

以   上

2001年10月4日
編 集  自由法曹団沖縄・改憲問題特別対策本部
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