<<目次へ 【意見書】自由法曹団


短期賃貸借保護制度廃止に反対する意見書

2002年2月
自 由 法 曹 団
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1 短期賃貸借保護制度廃止の動きについて

 2001年2月、法務大臣から法制審議会に対し担保・執行法の見直しが諮問され、同年12月11日、規制改革委員会を承継した総合規制改革会議は最終報告を提出し、そのなかで不動産市場の透明性の確保、競売の実効性の確保をかかげ、短期賃貸借保護制度は廃止を基本として検討するとした。法制審議会担保・執行法制部会の検討作業では、本年4月中に中間試案をとりまとめて公表し、2003年1月に開会される通常国会に法案を提出するとのことである。

 担保権実行における短期賃貸借保護制度廃止の動きは、いわゆる占有屋による短期賃貸借制度の濫用事例が存在し、適正な担保権の実行、債権回収を阻害しているとの認識の下に主に金融界の要請からなされたものであった。

 しかしながら、濫用的事例は例外に過ぎず、他方、短期賃貸借保護制度の廃止は、賃借人の居住・利用の権利をきわめて不安定にし、また担保権者に対し過大な利益保護を図ろうとするものであって、認めることはできない。

2 濫用的事例は少数の例外にすぎない

 なるほど経済的に破綻に陥った者から短期賃貸借契約の設定を受けて不当な利益を得ようとする存在があることは事実であるが、このような濫用的事例はごく一部の例外にすぎず、また執行官による現況調査により濫用的短期賃貸借の識別は可能であることから、現在では、不動産引き渡し命令、抵当権に基づく妨害排除請求等により排除することができ、現実に実効性を上げている。さらに、執行妨害を目的とするような濫用的短期賃借権が設定されている場合には、排除されることが明らかであることから、執行における不動産鑑定評価上の減価もされない取り扱いとなっており、担保権者への不利益はほとんどない。

 以上のとおり、執行妨害的短期賃貸借について現在特に問題とすべき必要性はないということができる。

 廃止論者は以上の実情を無視しているが、以上のような制度があってもなお執行の妨害となる濫用的事例がどれほどあるというのであろうか。廃止論者は、この点について明確な実数を示して廃止の必要性を論ずべきである。

3 短期賃貸借保護制度と担保権者の利益

元来、テナントビルや賃貸マンションなどは、金融機関からの借入により建築するものがほとんどであり、その借入金の返済はテナント料、賃料収入をあてることを予定している。このような資金を貸し付ける金融機関は賃貸借契約が設定され、賃借人が占有することを予定して貸付をする。当然担保評価において、賃借人の存在は予想できることである。したがって、賃借権を保護しても担保権者に予想外の不利益を与えることにはならない。

 バブル崩壊以前は、担保権者が短期賃借権の存在を考慮して不動産を評価し、担保権実行時においても評価が大きくはずれることがなかったため、正常短期賃貸借の存在は全く問題となっていなかった。ところが、バブル崩壊により不動産価格が予想外に大幅に下落したことから、金融機関は、バブル崩壊による価格の下落を短期賃貸借廃止によりなにがしかでも回復しようとして正常短期賃貸借まで廃止すべしと主張し出したものと推測されるが、担保権実行により賃借人の権利がすべて覆ることになると賃借人は担保権の設定された建物の賃借には抵抗を示すことになり、不動産を賃貸物件として利用することに対し大きなマイナス要因となる。結局、短期賃借権保護制度の廃止は、金融機関の目先の救済をはかるために、建物所有者(賃貸人)の正当な賃料取得を困難とさせ、また賃借人に対しては担保権実行の場合の危険をすべて負わせ、ひいては国家的にも望ましい不動産資源の有効利用を阻害するものであり、不合理このうえない。

 また短期賃貸借保護と言っても最長でも2年程度のことにすぎない。不動産の短期賃貸借の期間は3年であるが、競売申立がなされた際に既に存在する賃貸借であるため、競落時には少なくとも1年程度の期間経過が予定されるからである。この程度の負担による不動産の減価は担保権者にとってそれほどの不利益とはならない。しかも競落人は賃貸借を承継すれば賃料債権を取得するのであるから、短期賃貸借が存することによる減価はごくわずかである。通常の居住用建物であれば100万円から200万円程度といわれており、賃料の取得が見込めることを考慮すれば減価をすべきではないという見解もある。担保権者の不利益はほとんどないというべきであろう。

4 正常賃借人保護の必要性

 現在の経済活動は、テナントビルに基礎を置いてなされている。企業や事業者の多くが賃借事務所、賃借店舗により営業を行っている。民間賃貸住宅は93年において1076万戸も存在する。そして、この賃貸住宅、賃借店舗、事務所などの多くは建築資金借入による担保権設定後に契約される賃貸借である。

 本来、当初から賃貸が予定されている建物においては、正常賃貸借は短期賃貸借でなくとも、競落後にも一定期間賃借権を保護すべきである。これを保護しても担保権者の不利益とならないことは前に述べたとおりである。現状の短期賃貸借保護制度は期間の点でもきわめて短く、賃借人保護として十分ではない。賃借権のうえに多くの居住や営業が成り立っていることを考えるならば、むしろ短期賃貸借保護制度は拡大に向かうべきであろう。

 したがって、現状の短期賃貸借制度をすら廃止することは、正常賃借人に対し大きな不安を与え、その居住と営業に大きな混乱を引き起こすことになり、絶対に認められない。