<<目次へ 【意見書】自由法曹団


意見書
刑事裁判
第1回公判期日前の
新たな準備手続についての意見


2003年9月
自由法曹団

司法制度改革推進本部 御中

 自由法曹団では既に、「裁判員制度はどうあるべきかー自由法曹団の提言」(2002年9月)、「裁判員制度及び刑事司法についての意見」(2003年5月30日)で、裁判員制度が導入された場合の刑事手続きについて、具体的制度設計を提言してきたところである。
 平成15年5月30日の裁判員制度・刑事検討会では、「刑事裁判の充実・迅速化について(その1)」(以下「たたき台」という)、及び「刑事裁判の充実・迅速化について(その1)の説明」(以下「たたき台説明」という)が事務局から提出され、公判準備手続についての具体的制度設計について議論が進んでいる。そこでたたき台と、たたき台説明を前提に、改めて公判準備手続の制度設計について自由法曹団の意見を述べるものである。

1 準備手続の目的等

(1) 裁判員制度対象事件における必要的準備手続(たたき台1(3)について)

 裁判員制度対象事件は法定合議事件及び全ての否認事件とし、被告人の選択を認める。その上で対象事件では準備手続を必要的に行うとすべきである。

理由:裁判員制度が導入された場合、たとえ自白事件であっても量刑に関する事実について争いがある場合があり、争点を明確にした上で迅速な審理を必要とする裁判員制度のもとでは、準備手続を必要的に行うべきである。
 問題は裁判員制度対象事件をどのように考えるかである。この点で検討会の議論は必ずしも十分ではない。裁判員制度は、事実認定を職業裁判官だけでなく、国民も参加した上で、両者の視点から正しく行うという点に最大の意義がある。そして犯罪事実について、正面から争う否認事件においてこそ、このような意義が発揮されるのである。従って、全ての否認事件を裁判員制度の対象とすべきである。
 また刑事裁判で一番重要なのは被告人の裁判の受ける権利、防御権である以上、被告人には選択権を認めるべきである。

(2) 準備手続の主催者(たたき台1(4)について)

 裁判員制度対象事件で、第1回公判期日前の準備手続の主宰者は受訴裁判所以外の裁判所が主宰すること(B案)が妥当である

理由:裁判員制度では裁判員と、裁判官は評議において対等とされている。対等という趣旨から、同じ裁判を担当するものとして、事実に対して同じ情報が与えられていることが必要である。このように情報においても差がないという状態が対等性の担保となるのである。だとすれば、公判準備手続では証拠の採否にあたり、証拠の内容にふれる機会ができるのだから、受訴裁判所の裁判官だけが証拠につき情報を得ている状態が生じてしまい、裁判員との対等性が担保できない。また実際上、ただでさえ裁判官と裁判員は知識と経験に大きな差があるのだから、裁判官があらかじめ証拠の内容を知って発言していると思えば、裁判員が心理的影響を受け、裁判官と対等に合議をすることが困難となってしまう。従って少なくとも裁判員制度のもとでは、第1回公判期日前の準備手続は受訴裁判所以外の裁判所が主宰すべきである。

2 準備手続の方法等

(1) 準備手続の内容(たたき台2(3)について)

 もっぱら証拠能力の判断のための事実の取り調べは公判廷で行うとすべきである

理由:違法収集証拠、自白の任意性の判断などは、証拠能力に関する判断でも、その基礎的事実関係について争いがある場合である。その場合、事実関係の取り調べを非公開の準備手続で行うことは裁判の公開の原則に反する。このような基礎的事実関係に争いのある場合、その取り調べは公開の公判期日において行うべきである。

3 検察官による事件に関する主張と証拠の提示

(1) 取調請求証拠以外の証拠の開示(たたき台3(3)について)

 検察官手持ち証拠の事前全面開示が必要である。少なくともB案よりA案の方が適切である

理由:検察官の手持ち証拠を、事前に全面的に開示し、武器対等の原則を貫徹させてこそ、はじめて充実した審理が可能となるのであり、検察官手持ち証拠の事前全面開示が必要であることは、再三指摘してきたとおりである。たたき台ではA,Bいずれの案でも事前全面開示にはいたっておらず、この点不十分である。
 しかし、A案は証拠の標目がその内容を推察できる程度に具体的に記載されているという条件の下では、検察官手持ち証拠の全貌を一覧表という形で示すことにより、事前全面開示により近いものになっている。A案は被告人側の開示請求に対しては原則開示を義務付け、開示による弊害がある場合は例外的に非開示としているが、この例外は開示によって回復しがたい弊害が生じるなど、厳しく判断されなければならない。これに対しB案は、列挙されている類型が狭きに失し、たとえば捜査報告書、請求予定のない証人の供述調書等は全く開示されないことになりかねず、妥当ではない。

4 被告人側による主張の明示

(1) 検察官主張事実、請求証拠に対する主張、被告人側の主張立証明示義務(4(1)ア、イについて)

 B案が妥当である

理由: 被告人に主張の表明を迫ることは黙秘権の侵害に当たると言うべきであり、争点明示義務を課すべきではない。また、無罪推定の原則からは、被告人側は検察官主張に合理的疑いを生じさせればよいのであり、無罪を立証する必要はない。事案の性質や検察官の主張・立証の変動に応じて、被告人側の主張は変動する可能性があるのであり、準備手続段階では「できる限り」明らかにすれば足りるのである。
 また、被告人が黙秘しているのに、弁護人に争点明示義務を課し主張の表明を迫ることは、弁護人にきわめて困難な対応を迫るものであり、許されない。その意味でB案が妥当である。たたき台解説では,B案についても弁護人の争点明示義務を定めたものとしているが、その前提であれば反対である。B案にあるように「できる限り明らかにする」、つまり努力目標にとどめるべきである。

5 争点に関する証拠開示

 争点に関する証拠は原則開示とし、例外は限定して判断すべきである

理由:前述の通り検察官手持ち証拠は原則、事前全面開示をすべきである。検察官請求証拠以外の証拠についても、基本的に開示すべきという立場(前述3(3))からすれば、本条項の意義はきわめて小さい。しかし、本条項を残すのであれば、原則として証拠は全面開示とすべきである。

6 争点の確認等

(1)準備手続終了後の主張、証拠請求(たたき台8(2)、(3))

いずれも制限する制度を設けるべきではない

理由:4(1)で既に述べたとおり、無罪推定の原則、黙秘権の保障の趣旨からは、公判準備手続で被告人側には争点明示事務はないとすべきである。被告人側には準備手続終了後でも新たな主張を提出したり、新主張との関係で証拠調べ請求をできるとすべきである。仮に新たな主張や証拠請求を提出できないとすると、準備手続段階から被告人側は網羅的に主張を提出したり、考えられる証拠調べをすべて請求することとなり,かえって争点がひろがり不明確となってしまう。従って、このような制約はいずれもすべきではない。

7  開示された証拠の目的外使用(たたき台9)

 目的外使用の禁止の項目はもうけるべきではない

理由:たたき台案は、審理の準備以外の目的で証拠の写しやその内容を使用することを一律に禁止し、しかもその違反にはペナルテイとして過料や罰則を科すことまで予定している。しかし、これは行き過ぎであり、このような項目はもうけるべきではない。特に証拠の「内容」は、証拠のいったいどこまでを指摘すれば「内容」に当たるのか、その範囲が不明確である。共犯事件では弁護人双方で会議を開き、被告人ごとに開示された証拠の「内容」の開示をし、相互に検討することが重要であるが、これが目的外使用で禁止されるようなら、そもそも弁護団会議を開くことは不可能となってしまう。
 そもそも裁判も国民の監視の下で批判や批評にさらされるべき事は当然であり、このような活動は国民の表現の自由として保障されるべきである。裁判支援のための市民集会や宣伝活動、報道機関の報道、研究者の研究目的での研究など、裁判の資料は様々な目的で使用されてきている。このような自由な表現活動、研究活動が「証拠の内容を目的外に使用した」として、禁止され、処罰の対象となるのは行き過ぎであり、表現の自由、学問の自由の侵害である。このような目的外使用禁止条項をもうけるべきではない。

以 上

2003年8月
               自 由 法 曹 団
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