<<目次へ 【意見書】自由法曹団


厚生労働省職業安定局民間需給調整課 御中
minjyu@mhlw.go.jp

「職業安定法施行令及び労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行令の一部を改正する政令案等」に対して、以下のとおり意見を述べる。

平成15年12月19日

自由法曹団
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 自由法曹団は、職業安定法および労働者派遣法に関わる政令等の制定にあたり、国会審議及び国会の附帯決議が生かされるよう、派遣労働者および求職者の保護を強化する方向で制定すべきであると考える。
 この点からは、今回の政令案・指針改正要綱案等は、以下で指摘する点について問題があり、再検討をすべきである。
 また、正規労働者との代替抑制、派遣労働者の労働条件、権利の確保などの点についてもはなはだ不十分と言わざるを得ない。
 派遣導入にあたっての過半数労働組合(あるいは過半数を代表する者)への意見聴取と書面による通知が義務づけられたこと等、派遣元、派遣先において遵守されれば、派遣労働をめぐる状況が一定改善へと向かうことが期待される点もある。そのためにも、労働基準法、労働者派遣法、職安法などの法令諸規則の遵守の指導、および法違反の予防と摘発のために、労働行政に従事する職員の増員など労働行政体制を充実させることが必要であり、そのための整備・改善を求めるものである。

1 (別紙1)「職業安定法施行令及び労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行令の一部を改正する政令案要綱」について

 第二、一の適用対象業務として、医療機関等における医療業務の紹介予定派遣を認めることは、反対である。
 連日のように医療事故が発生している中で、国民は何よりも安全・安心な医療提供体制の確保を望んでいる。このような中で、医療現場に紹介予定派遣を認めれば、チームで行う医療行為や継続的な看護に混乱をもたらすことになる。医療現場に紹介予定派遣を導入することについては、患者や医療労働者の不安を解消できるだけの十分な検討がなされておらず、医療現場における安全・安心の確保を損なうことになりかねない。解禁については、利用者である患者、国民も含めた十分な討議を経るまで延期すべきである。

2 (別紙2)「職業安定法施行規則及び労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行規則の一部を改正する省令案要綱」について

 第三、六二の労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間に係る意見聴取については、派遣導入にあたっての過半数労働組合(あるいは過半数を代表する者)への意見聴取と書面による通知が義務づけられたことから、安易な常用代替の導入を防ぐことにつながるものである。
 しかし、多くの企業において派遣を導入するのは「人件費が安い」ことが動機となっており、派遣労働者の劣悪な労働条件が安易な常用代替を進める要因となっていることに鑑みるならば、単に派遣業務と導入期間について過半数労働組合等への通知・意見聴取を行うだけでは不十分である。安易な常用代替を防止するという趣旨を全うするのであれば、派遣を受け入れようとする業務について、当該業務に派遣を導入する必要性や規模等を十分検討することが必要というべきである。したがって、この意見聴取制度を実効あらしめるためには、派遣業務、導入期間のみでなく、必要性、人数および労働条件などについても通知及び意見聴取が行われることが必要である。
 また、国会附帯決議では、「一年を超え三年以内の期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けようとする場合には、派遣先において労働者の過半数で組織する労働組合等からの意見聴取が確実に行われ、意見が尊重されるよう派遣先に対する指導に努めること」とされており、労働行政を充実させ、過半数労働組合の意見を把握し、それを尊重するよう指導する体制を強化することが必要である。

3 (別紙3)「職業安定法施行規則第二十条第二項の規定に基づき 厚生労働大臣の定める額の一部を改正する告示案要綱」について

 有料職業紹介事業者が手数料を徴収することができる求職者の範囲について、年収要件を700万円に引き下げることには反対である。
 そもそも有料職業紹介は、憲法27条で保障された国民の勤労権を公平に保障する点から、規制緩和をすることには重大な問題がある。ILO181号条約第7条においても、労働者からの紹介手数料の徴収は、公平に職業紹介サービスを受ける権利を侵害し、労働者保護をないがしろしにするものとして禁止されている。また、手数料徴収を認める労働者の範囲を拡大すれば、お金がなければよい労働条件で就職することも出来ない状況を招くことになる。したがって手数料徴収の対象者は極力限定すべきである。2002年2月に年収1200万円を要件として導入が認められた時も、安易な手数料徴収を認めず、その範囲を限定するという趣旨で年収1200万円と定めたものである。
 さらに、年収700万円は、夏冬のボーナスを合計4ヶ月と考えると、給与月額は44万円弱となる。ここから税金や社会保険料等を控除すれば手取りは40万円を切る。他方、年収700万円となる労働者の多くは、高校や大学に進学を希望する子供のいる世代であり、この世代は月10数万円の住宅ローンを抱える人も少なくない。しかも、定年後まで払い続けるローンを組んでいる場合もあり、このため地位保全等仮処分事件の際に家計状況を調べてみても余裕のない労働者が多いのが実情である。 
 依然として5%を超える失業率が続く中で、国の責任において行う公共職業紹介事業こそ充実させるべきであって、手数料を徴収できる年収要件を引き下げる理由は何もない。実態の検証もすることなく、安易に700万円へ引き下げようとすることは、ローンや教育費負担にあえぐ求職者をビジネスの「えさ」とするようなものであり、決して許されるものではない。

4 (別紙4)「有料職業紹介事業の許可基準の一部改正案要綱」について

 第一、一において、有料職業紹介事業の兼業を認める貸金業者の基準について、「適正に業務を運営していること」という許可条件はあまりにあいまいに過ぎ、国会論議でも「借金のかたによる強制労働」が蔓延するのではないかという危惧が指摘され、附帯決議において、「事実上の強制労働や中間搾取等が発生することがないよう、許可基準において厳正な対応を図る」とされたことに、応えるものとはなっていない。
 昨今、長引く不況の中で、破産者は年間20万を超え、貸金業法の許可を得た業者であっても利息制限法を大幅に上回る利息や、借主やその家族の生命・安全を脅かすような言動による取り立てが行われている。東証一部上場会社である武富士においても、多額の残業代未払いが発覚するほか、会長自らが同社を批判するジャーナリストらに対する盗聴を行わせていたことが判明した。
 国が早急に行うべきことは、まずもって貸金業者に適用される制限利息を引き下げるとともに、貸金業を適法に行うように指導を強化することであって、本来業務と異なる業務を認めることではない。貸金業については基本的に兼業禁止にすべきである。そのうえでもし許可をする場合であっても、その条件はさらに厳格化することが必要であるし、個人情報の保護、債務者への職業紹介禁止などの制限も課すべきである。

5 (別紙5)「無料職業紹介事業の許可基準の一部改正案要綱」について

 第一、二において、無料職業紹介事業の兼業を認める貸金業者の基準について、「適正に業務を運営していること」という許可条件としていることも、前項で有料職業紹介事業について指摘したことと同様の問題点があり、あいまいに過ぎ、見直すべきである。

6 (別紙8)「 派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針の一部を改正する告示案要綱」について

 第五の紹介予定派遣の期間については、3ヶ月にすべきである。事実上の試用期間となる派遣期間が6ヶ月もの長期におよぶことは、労働者保護、雇用安定の面から大きな問題がある。社会通念上妥当と見られる試用期間に相当する3ヶ月程度に制限すべきである。
 また、国会附帯決議において、「紹介予定派遣について事前面接等労働者を特定することを目的とする行為に係る規定を適用しないこととするに当たっては、濫用防止を図るための措置を指針で定め、適正な運用の確保に努めること」とされており、今回の改訂で事前の面接や履歴書送付が認められたことから、紹介予定派遣をされた労働者を派遣先が雇用しない場合については、単に理由を明示するだけではなく、社会的に相当で合理的な理由がない場合には、濫用にわたるものとして、採用を拒否することはできないとすべきであり、少なくとも、合理的な理由もなく採用を拒否した場合には損害賠償の対象になることなどを盛り込むべきである。

7 (別紙9)「派遣先が講ずべき措置に関する指針の一部を改正する告示案要綱」について

(1)第五の労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間に係る意見聴取については、4および5項で指摘したとおり、派遣業務、導入期間のみでなく、必要性、人数および労働条件などについても行われることが必要である。
(2)第六の雇用調整により解雇した労働者が就いていたポストへの労働者派遣の受入れについては、3ヶ月以内に派遣労働者を入れる場合の必要最小限の派遣期間、派遣先労働者への理由の説明等、適切な措置を講じ、派遣先労働者の理解が得られるように努めることとされているのみであるが、このような場合に派遣労働者を導入することは、安易な常用代替を許すことになり、派遣法の趣旨に反するものである。人員削減が必要として解雇を行っておきながら、わずか3ヶ月後には人手が必要というのは、もともとの解雇に必要性がなかったことを示すものである。各企業ともそれぞれの事業年度において経営計画を立て、そのなかで人員削減を実行するのであれば、少なくとも人員削減を実行してから1年間はよほどのことがない限り人員増をはかる理由はないはずであり、1年間は派遣導入を原則禁止とすることを指針に盛り込むべきである。
そして、不測の事態でやむを得ぬ業務上の必要性がある場合のみ従業員の過半数を組織する労働組合または従業員の過半数を代表する者と協議により合意の上、実施するよう努力することを指針に定めるべきである。また、導入期間についても臨時的・一時的なものとし、最長でも1年を超えないこととすべきである。なお、雇用調整の結果、人手が足りなくなり、派遣労働者を入れる必要が出たなどというのは「不測の事態」にはあたらないことを明記すべきである。
(3)第七の紹介予定派遣について、6項で指摘したとおり期間については、3ヶ月とし、その他濫用を防止するための必要な措置を定めるべきである。

以上