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緊急意見書

戦争法制(有事7法案・条約3案件)の廃案を!

2004年6月1日
                      自由法曹団

はじめに ― 「密室談合」による「修正採択」

 5月20日、衆議院本会議は戦争法制(有事7法案・条約3案件)の「修正採択」を強行した。送付を受けた参議院では、5月27日からイラク・武力攻撃事態特別委員会での審議が開始されており、6月16日の会期末を控えて、いつ採決強行に至るか知れぬ緊迫した事態となっている。
 衆議院での「修正採択」の道を開いたのは、与党と民主党の間で続けられてきた「緊急事態基本法・要綱」と「修正」の協議であった。昨年春、与党と民主党は水面下で「緊急事態基本法」と「修正」の協議を続け、これが6月6日の有事3法案(武力攻撃事態法案、自衛隊法「改正」案、安全保障会議設置法「改正」案)の採決に結びついた。戦争と平和の問題にかかわる重大な法案が、多くの国会議員の目が届かず、国民が知るすべもない「密室談合」で、2度にわたって強行されようとしていることに、驚きと憤りを禁じえない。
 全国1600名の弁護士で構成する自由法曹団は、法律家の立場から有事法制に反対し、これまで有事3法について10次、戦争法制について3次の意見書を発表してきた(意見書は自由法曹団のHPに掲載している。URL http://www.jlaf.jp/)。本意見書では、衆議院での審議や事態の推移を踏まえて、あらためて戦争法制強行の誤りを明らかにする。

1 子法で母法を変える立法クーデター―「修正採択」の意味するもの

 「密室談合」でまとめられた自民・民主・公明3党の「修正案」で、「修正」の対象となったのは国民動員法制(国民保護法)であった。いったいどこが変わったか。
 具体的な条項で挿入されたのは、現地対策本部、防災訓練との連携、訓練費用等の国庫負担であり、戦争法制の構造になんら影響を及ぼさない「微修正」にすぎない。また、民主党の5月14日付の「修正案」に含まれていた「指定公共機関等の業務計画作成に際しての労働者の理解」や「放送事業者の『放送の自律』の保障」の条項は3党「修正案」からは削除されており、「放送の自律や労働者の理解は必要ない」と言っているに等しい。
 「修正」の眼目は、武力攻撃事態法(以下、「事態法」)にもとづく法案として審議されてきた国民動員法制の「修正」によって、「母法」にあたる事態法そのものを「改正」することにあった。国民動員法制には事態法を「改正」するための第190条が「修正」追加され、この「修正」によって事態法に武力攻撃事態・予測事態とは異質の「緊急対処事態」が追加された。「緊急対処事態」とは「大規模テロ」等の犯罪行為であり、この「改正」によって事態法、戦争・軍事と治安・犯罪の2つの領域にまたがる法制とされることになる。
 これは、現実にはありもしない武力攻撃への「備えあれば憂いなし」を掲げて登場した有事法制を、イラク等への海外派兵に伴って「現実の危険」となる「大規模テロ等」にスライドさせることを意味しており、有事法制の性格の根本的な改変にほかならない。
 その「修正」「改正」はどのような手順で行われたか。
 5月13日 衆議院・武力攻撃事態対処特別委員会で一般質疑を打ち切り。
       この段階ではいかなる「修正案」も提出されていない。
 5月14日 民主党「修正案」を提出。質疑はなし。
 5月20日 自民・民主・公明3党「修正案」を提出。委員会は総括質疑の上採択。
       本会議に緊急上程されて、衆議院で採択。
 法文だけで40万字という膨大な法案の質疑を打ち切りにしたうえで、法制全体の構造・性格を変える「修正」を密室談合のなかで合意し、審議が終わったあとで提出・可決した。これが「修正採択」の意味するところであり、法治主義や議会制民主主義を破壊する立法クーデターにほかならない。
 こんな手法が許されるなら、「法改正は水面下で合意しておき、他の法案の審議が終わったあとで、『修正』ですべりこませればいい」ことになる。これが立法機関たる国会の自殺行為であることは多言を要さない。参議院に「良識の府」としての見識があるなら、かかる異常な「立法過程」を経た戦争法制は、その一点で拒否しなければならないのである。

2 米日軍事一体化と自治体・国民の動員――法案審議で明らかになったもの

 有事法制とは、米軍に追随して兵站拠点となるとともに、自らも参戦してアジアへの侵攻戦争に道を開こうとする「侵攻型有事法制」である・・自由法曹団は、2002年の有事3法案の登場以来、繰り返しこう指摘してきた。「米軍追随の侵攻戦争法制」というこの本質は、「密室談合」の末に「緊急対処事態」が事態法に追加されたことで、いっそう明らかになった。軍事法を治安法に拡張してまで備えなければならない「大規模テロ等」の事態は、米軍の侵攻戦争へのこの国の加担によってもたらされるものだからである。
 有事3法と戦争法制がこの国になにを生み出すかは、短時間の審議のなかですら明らかになっている。
* 米軍支援法で、地方自治体や事業者(指定公共機関に限らない)が協力努力を義務づけられる「行動関連措置」は、「直接的な支援」と「間接的な措置」のいずれにも法的な限定はなく、どこまで広がるかわからない。
* 米軍が武力を行使している周辺事態と武力攻撃予測事態が併存したとき、ACSAで米軍に弾薬や物資等が提供される。米軍がその弾薬等を使用しない「保障」は、ただただ「アメリカへの絶対的な信頼」しかない。
* 一般船舶に不審者がまぎれこんで密輸的に武器等を運んでいる場合も、臨検法による臨検・拿捕(停戦命令・寄港命令)の対象になり得る。不審者が抵抗すれば危害射撃もあり得て、結果として撃沈に至ることもある。
* 交通通信管制法(公共施設等利用法)で、米軍や自衛隊も港湾・空港などの優先利用ができることになる。米軍機や自衛隊機が優先されれば、民間機は「飛ばない」か「別空港に降りる」を選択するしかない。対象となるのは公共用のすべての空港が含まれる。
* 国際人道法の文化財破壊罪はハーグ条約で登録されたものが対象だが、国内文化財で登録されたものはないから国外犯だけが問題になり、イラクが追加議定書を批准すればイラクに派兵された自衛隊に適用される。
 これらは政府が衆議院の答弁で「そうなる」と答弁した内容であり、自由法曹団が「こうなる」と主張しているのではない。政府は自由法曹団が意見書等で指摘してきたことがらに、すべて「そのとおり」と答弁した。とすれば、そのいきつくところも自由法曹団が指摘したとおり、「際限のない米日軍事一体化」であり、「いつでも戦争に出て行ける態勢」なのである。
 その戦争の「後方」に、地方自治体や国民を組み込んでいく国民動員法制(国民保護法)の実行システムも、あけすけな政府の答弁で明らかになった。
* 数年がかりで地方自治体に「計画」を組み上げさせる。そのために、政府は「モデル」をつくり、自衛隊は幹部自衛官を派遣し、自衛隊や警察OBの採用を進め、学校でも「防衛・安全」の教育を強めていく。
* 法案成立後は、机上訓練だけではなく実地訓練を積み上げる。訓練を積み重ねることにより、迅速な対応ができるようにする。
* 自警団など救援や避難の誘導などをやるのは望ましいので、支援していく。
 これが、「全住民避難などとても実行不可能」との声があがる自治体に、政府が押しつけようとする「計画」と「訓練」のシナリオ。すでに「5年計画での県・市の計画策定と訓練を行う」との実施計画が登場してきている。
 自治体に無理難題を押しつける「トップダウン」は、共同「修正」で挿入された「現地対策本部」や「訓練費用の国費負担」でいっそう助長される。「人も送る。金も出してやる。だから政府の言うとおりにしろ」・・共同「修正」はこう語っているのである。

3 いのちを無視した果てしなき対米追随――戦争法制審議の後景

 法案審議が続けられてきた4月から5月はどんなときだったか。
 イラクは全土が戦場となり米軍による民衆の虐殺や拷問が暴露され続けていた。4月中旬には5人の青年が人質となり、5月27日にはサマワの自衛隊駐屯地からバグダッドに戻る2人のジャーナリストが襲撃を受けて死亡した。世界が虐殺や拷問に抗議し、スペインをはじめイラクから撤退する国々があいついだ。これが法制審議の後景だった。この2か月、虐殺や拷問に抗議することも、自衛隊の撤退を検討することもなく、粛々と進められていたのが「国民を保護するため」と称する戦争法制の審議である。
 ジャーナリストのいのちが失われた5月27日は、「政権移譲後の多国籍軍への参加」が報じられた日であり、参議院のイラク・有事特の審議がはじまった日であった。その5月27日、どんな答弁が繰り返されたか(委員会速記録から要約抜粋)。
 【先制攻撃について】
 《川口外相》先制攻撃と言われますけれども、いま許容される武力行使というのは、国連憲章に合う、あるいはその自衛権。アメリカがそれを超えて何かやるということは考えられない。アメリカは先制攻撃ということが、先制行動という言葉を使っていまして、それは必ずしも武力行使ではないということも言っているわけでございます。
 《小泉首相》今の外務大臣の答弁のとおりであります。
 【捕虜拷問について】
 《川口外相》(軍事法廷の)判決において認定される事実を前提にするならば、この部分については違反行為が行われたと考えざるを得ないと考えておりますが、一般的に、今回のアメリカの対応でも分かりますように、アメリカは国際人道法、ジュネーブ条約等を遵守をする、国際人道法を守る国であると日本としては考えております。
 《小泉首相》外務大臣の答弁のとおりだと思います。
 これでは外相も首相も、「ひたすらアメリカ追随の道を走る」と言っているのと変わりはない。イラクで虐殺や拷問が続いているとことも、NGOやジャーナリストのいのちが危険に瀕していることも顧みることなく、戦争法制の政府答弁は粛々と続けられた。戦争法制がただただ日米軍事同盟のためのもので、国民のいのちを守るものではないことは、この政治姿勢からも明らかなのである。

おわりに−対米追随の戦争の道か平和の道か

 武力で平和をつくることはできない。「備え」で北東アジアの平和を構築することはできない。だから、有事法制や戦争法制を許してはならない・・。「報復戦争ヒステリー」のなかで有事法制が浮上してからの2年半、自由法曹団はひたすらこういい続けてきた。
 アフガンやイラクの多くの犠牲の上に世界が確認してきたもの、それは「武力で平和は創造できない」という冷厳な真理であり、「平和の道」こそ世界の大道になりつつある。
 そのいま、平和憲法を持つこの国は、対米追随の戦争の道を断ち切って、平和の道を往かねばならない。そのために戦争法制は廃案にされねばならないのである。

戦争法制(有事7法案・条約3案件)の廃案を!
               2003年 6月 1日
               編 集  自由法曹団平和・有事法対策本部
               発 行  自由法曹団
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