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逐条解説・米軍用地特措法改正案 その3

二 効 果
 1 原則(一五条一項本文)
 前記要件を充足するとき、防衛施設局(国)は、使用期間の切れる日の翌日(午前〇時)から、明渡裁決で定められる明渡の期限までの間、引き続き使用できることとなり、この使用を、法は暫定使用と呼んでいる。
 2 例外(一五条一項ただし書)
  @ 却下の裁決があったとき(一号)
 収用委員会が却下の裁決を行い、国が建設大臣に審査請求を行わなかった場合は、土地収用法一三〇条二項に規定する期間の末日までの間、つまり却下裁決の裁決書正本の送達を受けた日から三〇日間、暫定使用ができるとする。
 却下裁決がでたならば、裁決書正本の送達後三〇日で暫定期間が終わり、土地が返還されるのかというとそうではない。その後も国は使い続けるのである。そのことを但し書きの中の、さらに、括弧書のなかで定めているのである。
 すなわち、起業者である国が、建設大臣に対し、審査請求できることを前提に、国が審査請求を行った場合は、棄却・却下の裁決の日まで暫定使用を認める。建設大臣が、審査請求を棄却または却下しない限り、そのまま継続して使い続けられるのである。
 行政機関(収用委員会)の行った裁決について、他の行政機関が不服の審査請求を行うことができるのか、国民の権利保護を目的とする行政不服審査手続きを国民の権利制限のために使えるか等については多大の疑問があるが、この法案は審査請求できることを前提としている。
 そもそも内閣総理大臣が米軍に提供するとして行った使用認定対象土地について、建設大臣が棄却や却下を行うことなど事実上あり得ない。仮に、棄却や却下の意向を有する建設大臣がいたとしても、その建設大臣は、総理大臣によって直ちに罷免される(憲法六八条二項)であろう。
 結局、収用委員会がどのような判断を行ったとしても、国は、使用を継続できるのであり、この規定は、収用委員会の審理権限を奪うに等しい規定である。
 例えば、一〇年間の申請に対し、収用委員会が、五年あるいは三年の裁決を行った場合、国が、審査請求を申し立てたとしよう。建設大臣が、審査請求を五年一〇年放置しておいても、とりあえずそのまま暫定使用できることになる。
 また、裁決を取り消した場合は、再度収用委員会が裁決し直すことになるがその場合も、暫定使用は続き、本文に規定する明渡裁決で定められる日まで暫定使用できることとなる。
 さらに、収用委員会が裁決をし直す場合、今度は前回の裁決とは別の理由で却下したとしても、再度の審査請求、建設大臣の取り消し、再々度の裁決となり、堂々巡りとなり、その間は暫定使用できることになる。結局、何が何でも収用委員会に明渡裁決を強要することとなる。
 収用委員会によって却下された場合をも想定したこと、これが本改正案の「眼目」である。 確かに、理論上は、却下・棄却はありうるし、法が却下・棄却をしてはならないと定めているわけでもない。だとしたならば、建設大臣の却下・棄却を想定した規定があってしかるべきである。ところが、却下したときに国は地主に土地を返還するのか、それまでの暫定使用はどうなるのか、損害の賠償をどうするのかの規定は設けられてはいない。法の不備である。国において、却下・棄却などありえず、そのまま使い続けようと考えているからこそ、かかる法の不備が生まれるのである。
  A 使用認定が効力を失ったとき(二号) この規定の趣旨は、不明である。使用認定が効力を失ったときには暫定使用も終わるというのはあまりにも当然であって、特に規定をおく必要性がない。
 この規定は使用認定が効力を失うまでは暫定使用できるとの趣旨だとすると、考えられるのは裁決の再申請の関係である。 裁決申請が却下された場合、国には、三つの選択肢がある。一は却下裁決に従い強制使用をあきらめる、二は建設大臣に対し審査請求する、三が再度裁決申請を行う、である。
 この規定は使用認定が有効である限り、裁決の再申請がなされればその間、暫定使用を認める趣旨であるように思われる。一五条二項 前項の規定による担保の提供は、防衛施設局長において、前項の規定による使用(以下「暫定使用」という)の期間の六月ごとに、あらかじめ自己の見積もった損失補償額(当該見積額が当該認定土地等の暫定使用前直近の使用に係る賃借料若しくは使用料又は補償金の六月分に相当する額を下回るときは、その額とする)に相当する金銭を当該認定土地等の所在地の供託所に供託して行うものとする。
 二項は、提供すべき担保の金額、提供時期、提供方法につき定める。
 金額は、防衛施設局長が見積もった額である。暫定使用前直近の賃料・使用料・補償金の額を下回るときは、「その」金額の「その」がどれを指すのかやや不明であるが、直近の賃料等の額と思われる。
 提供時期は、「あらかじめ」であり、使用期限切れ以前、暫定使用開始前に提供することを要する。
 提供方法は、供託による。一五条三項 防衛施設局長は、前項の規定による供託をしたときは、総理府令で定めるところにより、遅滞なく、その旨を収用委員会及び当該認定土地等の所有者又は関係人に通知しなければならない。一五条四項 防衛施設局長は、認定土地等の所有者又は関係人の請求があるときは、政令で定めるところにより、次条第一項の規定による損失の補償の内払として、第二項の規定による担保の全部又は一部を取得させるものとする。この場合において、土地若しくは土地に関する所有権以外の権利又は建物若しくは建物に関する所有権以外の権利に対する損失の補償に係る担保については、暫定使用が行われた期間に応じて取得させるものとする。一五条五項 防衛施設局長は、前項の規定により認定土地等の所有者又は関係人が担保を取得したときは、総理府令で定めるところにより、その旨を収用委員会に通知するものとする。一五条六項 防衛施設局長は、暫定使用による損失の補償を了したときは、政令で定めるところにより、第一項の規定により提供した担保を取り戻すことができる。
 一五条三項〜六項は、担保提供以降の手続について定める。以後の手続は次の通りである。
 @ 供  託 担保提供は供託の方法による
 A 通  知 防衛施設局長は、供託の旨を収用委員会・所有者・関係人に通知する
 B 内  払 所有者等から請求があったときは、担保の一部または全部を損失補償の内払として取得させる
 C 通  知 防衛施設局長は、内払を収用委員会に通知する
 D 担保取戻 暫定使用による損失を補償したときは提供した担保を取り戻すことができる一五条七項
 第一項本文に規定する場合においては、前条の規定にかかわらず、認定土地等の使用に関しては、土地収用法第一二三条の規定は、適用しない。
 暫定使用が認められる以上、土地収用法の緊急使用の制度は不要となるため、適用を排除したものである。今回緊急使用の申し立てをすべきかどうかについては議論のあるところであったが、本規定により緊急使用の制度は、こと米軍基地に関しては永久に排除されることとなった。このことは、緊急使用については、収用委員会の関与を永久に排除することを意味する。
一六条一項
 暫定使用によって認定土地等の所有者及び関係人が受ける損失(以下「暫定使用による損失」という)については、土地収用法第六章第一節中土地の使用による損失の補償に関する規定(第七二条、第七三条、第七四条第二項、第七八条、第七九条、第八〇条の二項及び第八一条の規定を除く)に準じて補償しなければならない。この場合において、損失の補償は、暫定使用の時期の価格(土地若しくは土地に関する所有権以外の権利又は建物若しくは建物に関する所有権以外の権利に対する損失の補償については、その土地及び近傍類地の地代及び借賃等又はその建物及び近傍同種の建物の借賃等を考慮して算定した暫定使用の時期の価格)によって算定しなければならない。
 暫定使用により生じた損失の補償については、一部を除き土地収用法の規定によることとしたものである。
 補償の額は、暫定使用の時期の価格によるとしている。
一六条二項
 収用委員会は、認定土地等について明渡裁決をする場合において、当該明渡裁決において定める明渡しの期限までの間に暫定使用の期間があるときは、当該明渡裁決において、併せて暫定使用による損失の補償を裁決しなければならない。この場合において、当該明渡裁決において定める明渡しの期限は、当該認定土地等についての権利取得裁決において定める権利取得の時期としなければならない。
 本項前段は、収用委員会が明渡裁決を行う際に、明渡期限までの間に暫定使用期間がある場合、その損失補償も裁決しなければならないとする規定である。損失補償については公平な第三者機関に判断させようとの趣旨であるが、いわば国の尻拭いを収用委員会が行うもので、収用委員会にとってきわめて迷惑な規定である。
 後段は、期間の重複を避けるための規定である。権利取得の時期と明渡期限とが食い違う場合、明渡期限までが暫定使用期間、権利取得時期以降が強制使用期間となり、性質の異なる使用期間が重複することを避けるためである。
一六条三項
 収用委員会は、前条第四項の規定により認定土地等の所有者又は関係人が担保を取得したときは、前項の規定による裁決において、防衛施設局長が支払うべき補償金の残額及びその権利者又は防衛施設局長が返還を受けることができる額及びその債務者を裁決しなければならない。
 収用委員会の裁決において、防衛施設局長が支払うべき残額、それを受取る権利者、逆に、防衛施設局長において返還してもらう金額があるときは、返還を求める債務者を裁決で定めなければならない。
一六条四項
 土地収用法第九四条第一〇項から第一二項までの規定は、第二項の規定による裁決中前項に規定する防衛施設局長が返還を受けることができる額に関する部分について、第一四条の規定により適用される同法第一三三条の規定による訴えの提起がなかった場合に準用する。
 前項の、防衛施設局長が、返還を求める場合において、土地収用法一三三条の規定による訴訟がなかったときには、裁決書をもって債務名義とし、執行文は収用委員会会長が付与することとした。
一七条一項
 前条第二項の規定による裁決がされる場合を除き暫定使用の期間が終了したときは暫定使用による損失の補償について、防衛施設局長と暫定使用による損失を受けた者とが協議しなければならない。ただし、協議をすることができないときは、この限りでない。
一七条二項
 前項本文の規定による協議が成立しないとき、又は同項ただし書に規定する場合に該当するときは、防衛施設局長又は暫定使用による損失を受けた者は、政令で定めるところにより、収用委員会に土地収用法第九四条第二項の規定による裁決を申請することができる。
一七条三項
 前条第三項及び第四項の規定は、前項の裁決について準用する。  収用委員会において損失補償額を定めない場合は、当事者が協議しなければならないとし、協議できないか協議しても話合がまとまらないときは、収用委員会に損失補償の裁決を求めることができるとしたものである。