<<目次へ 【意見書】自由法曹団


[統一地方選挙で問われる選択]

住民犠牲・戦争協力の新ガイドライン法案にはっきりノーといえる自治体を

1 自治体・国民を動員する戦争法案

 いま通常国会で新ガイドライン法案の審議が始められました。
 この法案は、1997年9月23日、日米政府間で合意された新ガイドラインにもとづいて、これを実施するための周辺事態法案(「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」案及び自衛隊法「改正」案)です。ACSA(「物品役務相互提供協定」)を周辺事態に対応できるように「改定」する案件です。
 新ガイドラインは、英字新聞で「ウォー・マニュアル」と紹介されたように、アメリカと日本による戦争の手引書です。しかも、先制攻撃やクーデター・内戦に対する軍事介入にまで、「周辺事態」の名のもとに、アメリカを支援して、戦争に参加するというのです。その範囲もアジア太平洋地域からさらに広がり、日米安保条約の「日本の防衛」や「極東における国際の平和と安全」の範囲すら大きく踏み越えるものです。現に、小渕首相もインドネシアまで含むということを国会答弁で明言しています。
 新ガイドライン法案は、戦闘行為と直結した武器・弾薬等の輸送から、食料・燃料等の供給、撃墜された米軍機搭乗員の救助、負傷兵の治療や輸送、臨検、機雷掃海など戦争行為そのもの、さらには海外での武力行使も認めるもので、まさに戦争法案に他なりません。世界1位及び2位といわれる日米両国がこのような戦争協力体制をつくることに対しては、アジア諸国民から、新たな脅威として不安や批判の声があげられています。
 しかも、この法案では、そのような戦争(軍事行動)のため、自治体や民間を総動員することが決められています。例えば、自治体の管理する港や飛行場、病院、武器・弾薬の貯蔵庫等の施設の提供、給水及び汚水処理、民間病院での治療や輸送業務などです。
 私たち自由法曹団は、全国1500人を越える弁護士の参加している法律家団体として、この法案には、憲法の平和原則(前文・9条)や安保条約はもとより、日本の民主主義と人権にとっても重大な問題があると考えます。また、地方自治の本旨(憲法92条)及び住民生活との矛盾を指摘せざるを得ません。  すなわち、地方自治体が住民の安全と福祉を犠牲にせざるを得なくなることは、様々な基地被害により住民に多くの犠牲を強いてきた沖縄米軍基地問題が端的に示しているところです。このような協力を自治体に義務づけようとしている新ガイドライン法案を容認するのか、法案の審議がまさに進められようとしているこの時期に取り組まれている今回の統一地方選挙において、重大な選択が問われていると言わざるを得ないのです。
 平和を願う多くのみなさんが今回の統一地方選挙において、このような選択を問う活動を積極的に展開していただき、米軍支援のための戦争協力や新ガイドライン法案を許さない自治体、地方議員を多数実現してくださるよう訴えるものです。
 すでに私たちは、全国のすべての自治体に「地方自治を否定する『周辺事態法案』」という意見書を届ける活動を展開してきました。多くの自治体から積極的な反応をいただいています。さらに、様々な事実を通じて地方自治体や住民生活との矛盾がますます明らかにされています。主なポイントをまとめましたので、統一地方選挙での訴え等にご活用いただければ幸いです。

2 無限に要求される「協力」と住民の犠牲

 法案では、自治体や住民が協力すべき内容や範囲について、具体的な協力内容は一切書かれていません。基本計画で定めさえすればどんな内容でも協力を求めることができるようになっています。そこには何らの歯止めも自治体の意見聴取の手続もないのです。さらに、基本計画は閣議決定で変更できる(4条3項)ので、いったん決められた協力要請が変更になり拡大される危険もあります。基本計画への「白紙委任」に他なりません。
 政府は、本年2月3日、自治体・民間協力例10を示す文書を発表しました。自治体でいえば、港湾及び空港施設の使用、武器・弾薬庫等施設の許認可、人員・物資の輸送、給水、公立病院への患者受け入れということが例示されています。しかし、これは、「事態ごとに異なるものであり、あらかじめ具体的に確定される性格のものではなく、以下のものに限られない」というのです。それは無限の協力が求められるからに他ならないのです。のみならず、その協力が民間の使用よりも優先する場合もあるというのです(高村外相)。
 すでに、米国は朝鮮半島有事での米軍人・韓国軍人など約12万人の死傷者を想定し重傷米兵約1000名の手術・治療を日本の病院で行うよう要求しています(東京新聞97年12月1日)。
 また、94年の北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核疑惑問題に関連して、アメリカ軍は日本に対して、1059項目もの支援を要請しています(99年2月23日朝日新聞)。自治体に関連したものとしては、例えば、次のような内容のものがあげられています。

  1. 松山、大阪、名古屋、水島(岡山)、福岡、神戸の各港湾の使用
  2. 苫小牧、八戸、天願、金武湾、那覇港等の公共岸壁の使用。パイロット、タグボート、船舶修理、荷役人などの港湾支援。
  3. 港湾に宿泊、給食機能付き事務所の確保、荷役作業や資器財を保管する地域の確保
  4. 米軍横須賀基地、佐世保基地へのミサイル垂直発射装置搭載施設、船舶停泊、修理施設の提供
  5. 相模原総合補給廠での給水、給電、ゴミ処理などの支援
  6. 北海道に重火器の実弾射撃が可能な両用戦訓練場の提供
  7. 警察、海上保安庁、自衛隊、日本人基地従業員による米軍基地・施設などの警備

 その他、弾薬や物資輸送のためのトラック、トレーラーなど合計で1000数百台の提供、成田・福岡・長崎・那覇空港での24時間通関態勢などが要求されています。空港や道路使用に多大な影響を受けるのみならず、周辺住民が危険にされされたり、夜間を含む激しい騒音問題や環境破壊は不可避です。
 さらには、新ガイドラインでは、施設などの提供、訓練・演習区域の提供などが規定されていますので、河川(河川法10条等)や海岸保全区域の管理(海岸法5条等)、森林(保安林ー森林法34条等)の管理、公園の管理(自然公園法17条等)など自治体が有する管理権を犠牲にし米軍への提供など「協力」が義務づけられる可能性も大です。  他方、公共の施設も住民の理由を犠牲にして、米軍支援のために優先されます。すでに、例えば、北海道・矢臼別の実弾砲撃演習を警備する警察官が公民館や体育館を占拠したために、市民や子どもらの行事が中止・延期させられたという事態も発生しています。

3 地方自治を否定する非核港湾条例への介入、軍事協力の義務づけ

 政府は、高知県が進めてきた非核港湾条例の制定に対し反対し、これに介入しています。
 この条例は、県港湾施設管理条例を改正して、核兵器を積載した外国艦船による高知県の港湾施設の使用を規制することとし、使用許可にあたっては県から非核証明書の提出を要請するというものです。この条例制定は、「県内すべての港で非核三原則を順守し、平和な港としなければならない」という98年12月の高知県議会での全会一致決議にもとづくものです。そもそも、核兵器を「作らない、持たない、持ち込ませず」という非核三原則は、わが国の基本政策ですから、政府が反対すること自体矛盾しています。
 ところが、外務省は、1998年12月28日付けで、高知県知事に対し、「港湾管理者としての地位に基づく機能の範囲を逸脱しているものであって、地方公共団体の事務としては、許されないものである」とする文書回答を行いました。これは、7割を越える自治体が行っている非核都市宣言等との矛盾を生じさせます。
 問題なのは、このような非核港湾条例を否定する政府の姿勢が、自治体の意思を無視して、軍事活動に対する自治体の協力を義務づけようとしている点です。
 政府は、「一般的な協力義務としては、それは協力するのが当然だと思います。」と答弁しています(野呂他防衛庁長官)。事実上協力を強制するために、特別地方交付税や各種補助金など予算配分を通じた締めつけを懸念する向きもあると報じられています(98年4月23日付「朝日新聞」)。地方自治の原則を否定する重大問題です。
 この問題は、港湾法(2条1項)や地方自治法(2条3項4号)で定める自治体の管理権を無視する暴挙です。そして、軍事への協力を義務づけようとする政府の態度は、憲法の「地方自治の本旨」(92条)を踏みにじるものであり、地方自治法で明記している地方自治体の基本任務、すなわち「住民・・・の安全、健康及び福祉を保持すること」(2条3項1号)にも反するもので、到底容認できません。

4 労働者・国民も動員

 自治体が協力することになれば、自治体労働者も当然に動員されることになります。すでに自治体が自ら米軍支援業務を引き受け、自治体労働者を動員をさせる事態が発生しています。最近、各地民間港に次々と米軍艦が入港していますが、例えば、小樽港では空母に水を補給するために、市の職員が深夜まで作業に従事した例が報道されています。
 のみならず、関連する民間労働者も動員されることなります。例えば、米軍のために港が使用されれば、そこで働く民間の港湾労働者は、業務命令により強制的に動員され、武器・弾薬等の荷揚げ・運搬など危険な業務にも従事させられることになるのです。
結局、地方自治体の「協力」により、自治体労働者はもとより、民間業者及び民間の労働者まで軍事活動への動員が広げられていきます。労働者の権利に重大な影響を及ぼす問題です。

5 広がる反対の声ー戦争協力をきっぱり拒否できる首長・議員を

 全国の自治体から、疑問や反対の声があげられています。
 98年4月20日には自衛隊・米軍基地所在市町村などで作る全国基地協議会と防衛施設周辺整備全国協議会が、政府に対して、「住民生活や地域経済活動などに少なからぬ影響を及ぼす可能性がある」として、「適切な情報提供に努められるとともに・・・基地所在市町村の意向を十分尊重されるよう要望する。」との要望書を提出しました。
 また、各地の自治体で新ガイドラインや周辺事態法案に反対する決議等が相次いであげられています。徳島県では全市町村(50)の3分の1にあたる16町村で町村長や議会関係者が「新ガイドライン・有事立法に反対する署名」に賛同したり、静岡県や京都府をはじめ100を越える全国各地の地方議会が政府への意見書等を採択しています。例えば、東京では小金井市、田無市、狛江市、清瀬市、保谷市、武蔵村山市、東大和市、多摩市、稲城市、日野市、国分寺市の11市で、秋田県では男鹿市・横手市など14自治体で、長野県でも諏訪市、小諸市、大町市など22自治体で意見書等が採択されています。
 最近では、東京弁護士会や新潟弁護士会か法案に反対する声明等を発表しています。
 新ガイドライン法案の問題が、日米国家間の問題だけで済まないことはすでに明らかにしたとおりです。戦争のために自治体や住民の犠牲を強要しようというのが政府の姿勢です。このような法案、戦争協力にきっぱり「ノー」を表明し、戦争のために住民を犠牲にしないという姿勢を貫くことこそ、いま自治体に求められていることではないでしょうか。今回の統一地方選挙で、この選択を問うことは不可欠です。