<<目次へ 【決 議】自由法曹団


適正手続きを危うくする土地収用法「改正」法案に反対する決議

 政府が本年三月に通常国会に提出した土地収用法「改正」法案について、国会での審議が始まっている。
 幹線道路、空港・基地、ダム建設など不要不急の公共事業について「税金のムダ遣い」との批判が、国民の圧倒的声となっており、少なからぬ公共事業について、その見直しや凍結が具体化されている。「改正」法案は、こうした批判や公共事業そのものを見直す動きに背を向けて公共事業の強引な推進を図るもので、時代に逆行するものといってよい。

 政府が国会に提出した「改正」法案は、「事業認定」で地権者・住民が事実上関与できない現行法の仕組みを改め、透明性、公正性を高めるために公聴会の開催を義務づけるほか、第三者機関からの意見聴取を行い、事業認定理由も公表するとしている。
 しかし、今回の「改正」法案は、公共事業の最大の事業者でもある国土交通大臣や都道府県知事が、自ら進めようとする事業について自らが事業認定を行うという基本的な仕組みを維持したばかりか、収用委員会では事業認定に対する不服意見を住民・地権者に述べさせないこととしている。事業の公益性や土地利用の適正・合理性など事業認定の問題点については住民・地権者から主張すること自体を許さず、これを収用委員会の審理の対象から除外しようというものである。のみならず、一〇〇人以上の共通の権利者がいる場合には、収用委員会の審理での意見陳述を代表者三名以内に制限したり、収用委員会からの通知はその代表者のうち一名だけにすればよいとしている。さらに、補償金も書留郵便で送金する簡易な手続きを導入しようとしている。
 このように、今回の「改正」法案は、住民が主張する機会を制限するなどして収用委員会の審理を簡易・迅速化し、起業者側がより一方的に手続きを進めようとするものであり、もって公共事業を「効率的に経済的に」推進しようとするものにほかならない。
 しかし、土地収用法が定めるのは、国や自治体が公共事業用地を国民から強制的に取得する手続きであって、財産権を奪われる国民に対して、適正手続きが十分に保障されなければならないことは日本国憲法の求めるところでもある。また、今日、前述したように「税金のムダ遣い」という国民の批判に加え、住民の権利を侵害し、あるいは激しい公害を発生させ、環境破壊や地域破壊をもたらす公共事業に対して、多くの国民から非難が集中している。
 いまこそ、公共事業についての計画や用地取得の段階において、環境保護を徹底させ、住民の意見が充分反映される民主的で適正な手続きが確保されなければならない。
 今回の土地収用法「改正」法案は、全くこれに逆行し、適正手続きの保障を危うくするものにほかならない。本日、脱ダム宣言が行われた長野県において開かれた自由法曹団常任幹事会おいて、私たちは、このような土地収用法「改正」法案に反対することを決議するものである。

2001年6月16日
自由法曹団