<<目次へ 【決 議】自由法曹団


えひめ丸事件の真相究明、再発防止および被害の回復・適正な補償を求める決議

1  本年2月9日、ハワイ沖の米領海内で米原潜「グリーンビル」が愛媛県立宇和島水産高校の実習船「えひめ丸」を沈没させ、三五名の船員・教師・生徒らが被害を受けた。35名の被害者のうち26名が救助されたが、9名が行方不明となり、生還は絶望視されている。

2 加害者であるワドル艦長以下、関係した軍人は軍法会議にかけられることもなく、重要な事実にはふたがされたままで異例の「軽い処分」で「一件落着」とされようとしている。
 現在に至るまで真相究明は進んでいない。日本政府は「外務省北米局日米安保条約課」を交渉窓口としており、「日米関係の安定」のみを重視し被害者の側にたった真相究明のための努力をなんらしていない。愛媛県も被害者らに対し、「訴訟を提起するよりも示談で解決した方が時間的、経済的にも得策である」などと不正確な情報を与えて被害者らの補償問題を真相究明を抜きにした示談で「解決」させようと奔走している。

3 被害者が強く望んでいるのは、事故の真相、全員が救助されなかった原因の究明であり、責任の明確化である。加えて米海軍が再発防止対策を責任を持って示すことと適正な補償である。適正な補償は、真相の究明、責任の所在を明らかにする中でしか実現されない。
  行方不明という重大な事態に加え生還者でも軽視できないのは心的外傷後ストレス障害(PTSD)である。愛媛県は救助された生徒らが宇和島に帰った直後、臨床心理士らによる臨床を実施し「生徒らは元気である」などと発表した。しかし救助された生徒らの実情は、「外出すること自体を怖がっている。」「学校にはほとんど登校していない」「事故の話を避けて体を震わせる」などの様々な精神的な異常を訴えている。行方不明者の家族にも重篤な症状が多く出ている。これに対し、県は被害者側の訴えでようやく重い腰を上げ始めたばかりでその対策もきわめて不十分である。こうした中で「示談解決」を急がせることは重大である。

4 私たち自由法曹団は、被害者・家族本意の解決のために次のことを要求する。
 (1)事故の真相究明と責任の所在を明らかにすること。このために、アメリカ政府・アメリカ海軍は手持ちの資料を残らず開示するのは勿論できる限りの方法で真相究明と責任の所在を明らかにするために誠実に尽力せよ。そして日本政府、愛媛県も被害者の立場に立って尽力せよ。
 (2)アメリカ海軍は本件事故のような悲惨な事故が再び起こることのないよう、再発防止の確かな保証を示せ。
 (3)上記のような検討の上に立って、被害者に適正な被害回復と補償をせよ。
 (4) 訓練を企画し実行した県はあらかじめ生徒や船員に事故に対処する訓練をしていたか、危険地域を調査し、回避する義務を尽くしていたか。その他、被害を防止しあるいは最小限に押さえる対策が充分であったかどうかを検討して、対応策を示せ。
 (5) アメリカ政府・アメリカ海軍、日本政府および愛媛県は被害者生徒、行方不明者家族らの心的外傷後ストレス障害の治療・完治が十分に行われるよう尽力せよ。

5 自由法曹団は、上記の要求についてアメリカ政府・アメリカ海軍、日本政府および愛媛県が誠意を持ってもってこたえることを強く求めると共に被害者の立場に立って国民と共にたたかう。

 上記 決議する。

2001年5月21日
自由法曹団2001年研究討論集会