<<目次へ 【決 議】自由法曹団


教育関連「改正」法案・教育基本法見直しに反対する決議

1 内閣総理大臣の私的諮問機関である「教育改革国民会議」は2000年12月22日に最終報告『教育を変える17の提案』(以下「報告」という)を出した。これを受けて文部科学省は、この最終報告を実施に移すためのタイムスケジュールである『21世紀教育新生プラン』(以下「プラン」という)を発表した。政府は今通常国会を「教育国会」と位置付け、「教育改革国民会議」の『提案』の重要項目を「教育改革関連法案」として上程した。その内容は、小・中・高校生の「奉仕活動」を義務づけ、「問題をもつ子」の出席停止などの措置の制度化、高校の通学区の撤廃と大学入学年齢制限の緩和、さらには、「不適格教員」や「指導力不足の教員」の配転や免職、40人学級を維持しながら少人数による習熟度制授業の推進などを可能とする、「学校教育法」「社会教育法」「高校通学区法」「国立学校設置法」「教職員定数法」などの「改正」である。
 さらに政府は教育の基本理念にかかわる教育基本法の見直しと教育振興基本計画の策定を中央教育審議会に諮問し、早急な答申を求めようとしている。

2 「教育改革国民会議」は内閣総理大臣の私的諮問機関にすぎないにもかかわらず、その「報告」は文部科学省の「プラン」として公的に位置づけられ、今後の教育行政の基本を示すものとして扱われている。「教育行政」の基本を示すものであるならば、子どもの権利や子どもの権利条約・国連子どもの権利委員会が日本政府に対してなした最終所見の提案・勧告に基調をおくべきであるが、「報告」にはこれらの視点が全く欠落している。
 「報告」は第一に「学校は道徳を教えることをためらわない」「奉仕活動を全員が行うようにする」「問題を起こす子どもへの教育をあいまいにしない」ということを提案し、国家に奉仕する国民の育成をめざしている。
 第二に「一律主義を改め個性を伸ばす教育システムを導入する」と提案しているが、具体的には習熟度別学習を推進し、中高一貫教育を導入し、大学入学年齢の制限を撤廃するなどを打ち出し、早期に子どもを能力別に分け、エリートとそうでない者を選別する企業のための人材育成をねらっている。
 さらに第三には、「教師の意識や努力が報われ評価される体制をつくる」ことを提案し、教育に対して表彰や特別昇給の実施を提言するとともに「指導力不足」の教員の配転、免職の制度化を提言しており、学校と教育への新たな管理強化を企図している。そして最後に「新しい時代にふさわしい教育基本法」と教育基本法の見直しを提言しているのである。

3 「報告」をもとにして政府がすすめようとしている「教育改革」とりわけ教育基本法の見直しは、日の丸、君が代の法制化、「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーが中心となって執筆した教科書を検定合格させる流れとともに、改憲の動きの一環でもある。
 そして、その「教育改革」の具体化として今国会に上程されている教育関連「改正」法案は、いずれも教育の「危機」の原因を子どもの道徳心の欠如や教師の指導力の低下に求め、教育における競争と管理を強めるものであり、反対である。
 とりわけ「問題を起こす子ども」に対する「出席停止」措置は、停止期間の絞りがなく、子どもの意見表明の機会も保障しておらず、さらに出席停止中の子どもに対し、具体的にどの様な教育支援をするのかも不明確であり、子どもの学習権を侵害するおそれがある。
 また「奉仕活動の義務化」については、教育改革国民会議での曾野綾子委員の「満18才で国民を奉仕役に動員することです。」という発言にみられる様に、ボランティアとは別物の強制された労働ともいうべきもので、憲法18条に違反する疑いも出てくる。この動きは国民の人権を制限し、「公的」義務を拡大しようとするものであり、徴兵制にもつながりかねないものである。
 今国会において教育関連「改正」法案を否決ないし廃案にするよう求めるとともに、政府が、教育基本法見直しに入らないよう強く要求する。

4 政府が進めようとしている「教育改革」は、今切実に求められている真の教育改革に逆行し、子どもたちにより困難を強いるものである。少年事件の続発や「学級崩壊」、これまでのような「学びからの逃走」など、子どもと教育をめぐる不安と困難がひろがっている。多くの人々は心を痛め、子どもたちが人間らしく育つことに思いを募らせている。私たちは、憲法、教育基本法、子どもの権利条約に沿った教育改革が今こそ切実に求められていると考える。私たちは市民の人権擁護の立場に立つ法律家の立場から教育改革について、子ども・父母・教職員などの幅広い方々とともに率直で建設的な討議をして、その運動に参加をしていく決意である。また「教育改革」問題を、憲法を守り発展させる運動の重要な課題として位置付けて取り組んでいく決意である。

 上記 決議する。

2001年5月21日
自由法曹団2001年研究討論集会