<<目次へ 【決 議】自由法曹団


国民のための司法改革の実現を進める決議

 1999年7月に発足した司法制度改革審議会(佐藤幸治会長)は、本年6月に、2年間の審議を終え最終意見を発表する予定となっており、現在大詰めの議論がなされている。
 審議会は、これまでの審議の中で、国民の司法参加、裁判官制度改革等の改革提言を打ち出した。とりわけ、裁判官制度の改革は、裁判官推薦委員会制度の創設、裁判官の人事評価の透明化と不服申立制度の導入、判事補に一定期間その身分を離れて弁護士実務等の経験をつませること等、重要な内容を含んでいる。私たちは、審議会の改革提言のこうした前進面は実現させ、さらに具体化するために、今後一層の運動を進めていくものである。
 しかしながら、国民のための司法制度改革を抜本的に実現するには、それを阻む最大の要因である最高裁判所事務総局を頂点とする裁判統制のシステムを解体しなければならない。そのためには、国民が直接裁判に関与する陪審制の実現と、判事補制度を廃止し、社会経験を積んだ弁護士等から裁判官を選任する法曹一元の実現が不可欠である。ところが、審議会における裁判官制度改革の提言は、既に述べた前進面はあるものの、法曹一元に直接踏み込まないものであり、官僚司法を抜本的に転換するものとはなっていない。国民の司法参加については、重大な刑事事件に、国民から選任される裁判員と職業裁判官が共同して審理・判断を行うという「裁判員制度」の導入を提起しているが、これは陪審制度と比べ極めて不十分な国民参加形態と言わねばならず、少なくとも、裁判員の構成比を大幅に増やすなどして、名実ともに国民の司法参加として実効あるものにしていかなければならない。
労働裁判の改革については、調停制度の導入が提起されているが、陪審はおろか参審制の導入も棚上げにされるおそれが強く、深刻な労働裁判の現状を抜本的に改革するものとは到底いえない。刑事裁判についても、代用監獄制度廃止や人質司法・調書裁判主義の改革、捜査の可視化についての具体案は明言されず、証拠開示も検察官手持ち証拠の全面開示まで踏み込まず、逆に「迅速化」の名のもとに刑事被告人の権利を抑圧する危険性すらあり、「絶望的」な刑事司法の抜本的改革という点で極めて不十分である。
また違憲立法審査権の行使のあり方、行政裁判の改革については、改革の方向性すら示されていない。
法曹養成制度については法科大学院構想が打ち出されているが、法科大学院を設置するのであれば、経済的理由によって法曹への道が閉ざされることのないような方策、第三者評価によって大学の自治が侵害されないための方策等が具体的に示されなければならない。
法曹人口については、新規法曹を年間3000人とするとしながら、最も急務である裁判官の増員について最高裁は今後10年間で約500人の増員をいうにとどまっており、審議会がこれを容認するのであれば、国民の要求する水準には到底及ばない。
 審議会の提言の中でとりわけ看過できないのは、弁護士報酬の敗訴者負担制度を原則として導入するとしていることである。弁護士報酬敗訴者負担は、裁判の提起に対して著しい萎縮効果を及ぼすものであり、国民をますます司法から遠ざけるものである。審議会の中間報告でこの方針が示された後に、国民の各層から非難の声が沸き起こっているが、審議会がこうした声に耳を傾けず、原則導入の姿勢を改めていないことは断じて容認できない。
 私たちは、審議会の最終意見において、弁護士報酬の敗訴者負担制度を白紙撤回することを強く求めると同時に、これまで述べた問題点を克服し、より実りのある改革提言を行うよう要求する。
 本年5月10日に、自民党司法制度調査会報告「21世紀の司法の確かなビジョンー新しい日本を支える大切な基盤ー」が発表された。この報告には「政府においては、司法制度改革審議会の最終意見が提出された後、直ちに、司法制度改革を推進するための法律を制定し、改革の理念や基本的方針を明らかにするとともに、司法制度改革推進本部を設置し、司法改革大綱の策定、改革に必要な立法措置を始めとする様々な具体的措置を早急に実現していくことが必要」と述べられている。
政府に「司法改革推進本部」が設置されるのであれば、そこでは審議会の最終意見の積極面をより発展させ、問題点を克服する方向で立法化作業が進められなければならない。そのためにも「司法改革推進本部」は、国民の各層を公平に代表する者で構成されることを強く求める。


 私たち自由法曹団は、この間全国各地で、労働者・国民とともに裁判の現状を告発し、国民のための司法改革を進める運動を押し進めてきた。基本的人権を擁護し、憲法的価値を実現するための司法改革の成否は、何よりも国民要求の結集と国民世論の発展にかかっている。自由法曹団は、引き続き国民と手を携えて、国民のための司法改革の実現のために、全力を挙げて奮闘するものである。

2001年5月21日
自由法曹団2001年5月研究討論集会