<<目次へ 【決 議】自由法曹団


新横田基地公害対米訴訟の最高裁判決に対する抗議並びに公正判決を求める決議

 4月12日、最高裁判所第2小法廷は、新横田基地公害訴訟のうち、米国を被告とする訴訟について、被害住民らの上告を棄却する判決を言い渡した。

 最高裁判所は、1993年2月、横田基地周辺住民らが国に対して提訴した夜間飛行の差止請求について、米軍という外国軍隊の飛行活動に関することであるから、支配の及ばない第三者の行為の差止を請求するものだという筋違い論を展開して、これを棄却した。

 今回の対米訴訟は、最高裁93年判決を乗りこえるため提起されたが、最高裁判所は米国政府に対する訴えも許さないとした。結局、最高裁判所は日本国政府に対する請求と米国政府に対する請求のいずれをも斥けたのであり、このことは、米軍機による騒音差止について、原告住民らの法的救済の道を最終的に閉ざしたものであって、極めて不当である。

 本判決で原告らの請求を斥けた最高裁判決の理由は、「本件差止請求及び損害賠償請求の対象である合衆国軍隊の航空機の横田基地における夜間離発着は、我が国に駐留する合衆国軍隊の公的活動そのものであり、その活動の目的ないし行為の性質上、主権的行為であることは明らかであって、国際慣習法上、民事裁判権が免除されるものであることに疑問の余地はない。」というものである。

 外国政府の行為に対する裁判権が及ぶ範囲については、主権平等の理念から自ずと限界があることは一般論として承認できる。しかし、国内で生じた生命、身体、財産に対する不法行為については、裁判権免除の対象外とするのが、各国において成文化された外国主権免除法や条約に共通した規定であり、それこそまさに確立した国際慣習法である。

 米国軍隊に関する対米訴訟は、新横田基地訴訟のほか、横浜・上瀬谷通信基地土地返還訴訟、新嘉手納基地爆音訴訟が各地の裁判所に係属しており、本判決は最高裁判所として初めての判断であって、十分な審理を経ずに「その活動の目的ないし行為の性質上、主権的行為であることは明らか」であると断じて、米国政府に対して裁判権を免除し、被害住民らの上告を斥けたことは、国民のための司法改革に逆行するものであり、法的判断の枠組みを逸脱し、政治的配慮としてなされた不当な判断であるというほかはない。

 本判決の時期が、新ガイドライン、新ガイドライン関連法、テロ対策特別措置法という一連の日米軍事同盟関係の強化に加え、憲法理念を真っ向から否定する有事法制関連法案が国会に提出された時期と符合することは、単なる偶然の一致として片付けることはできない。

 本判決は、米軍の不法行為に対する司法的救済の道を閉ざし、日本の対米従属的地位を明らかにしたもので、司法が政治、行政の要求に屈する傾向をも示したものである。この判決の論理は、国民の基本的人権より軍事や国家の利益を優先させる枠組み作りの一環のものとして、厳しく批判されなければならない。

 我々は、本判決に示された最高裁判所の不当な態度に対して断固抗議するとともに、現在係属中の新横田基地第2次、3次訴訟、上瀬谷通信基地訴訟、新嘉手納基地訴訟等の対米訴訟について、人権尊重という憲法理念のもと、国際慣習法に従った公正な判決がなされることを強く求めるものである。

 上記 決議する。

2002年5月27日
自由法曹団2002年研究討論集会