<<目次へ 【決 議】自由法曹団


労基法「改正」案要綱は撤回すべきである


 2003年2月13日、厚生労働省は「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」を労働政策審議会に諮問した。
 この法律案要綱「第二 労働契約の終了」を見ると、労働政策審議会の2002年12月26日付け答申(「今後の労働条件に係る制度の在り方について」)が提案し、立法化が企まれていた「解雇が無効の場合でも、使用者が厚生労働大臣の定める一定額の金銭補償をすれば、裁判所が労働契約の終了を宣言できる新たな制度」の導入が撤回されたことが判明した。
 これは、違法な首切りをした使用者を裁判所が救済するという逆立ちした制度を労働者保護立法に持ち込もうとした理不尽な動きに対し、法律家団体、労働界から道理ある批判が集中し、厚生労働省が法案化を断念するにいたったものである。

 しかし同時に、法律案要綱は、労働基準法に、「使用者は…労働者を解雇することができること、ただし、その解雇が客観的かつ合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とするものとする」との規定を持ち込む内容となっている。
 この条文の新設について、自由法曹団は、建議の段階から、(1)憲法27条を具体化する労働者保護立法に、使用者の解雇する権利を明記することはその基本構造に反すること、(2)本文と但書は原則と例外の関係となり、本文で使用者は解雇できるとすれば、労働者の側で「(例外的に)正当な理由がなく権利の濫用にあたる」ことを主張し、証明しなければならなくなり、長年に渡る労働裁判の苦労の末に生み出された判例法理を逆転させてしまうこと等を指摘し強く批判してきた。但し書きの文言を多少いじったくらいで原則例外関係を逆転させるという致命的欠陥は補えるものではない。
 自由法曹団はかかる条文構造を労働基準法に持ち込み「解雇ルール」を立法化することには断固反対する。

 立法化しなければならない「解雇ルール」は、確立された判例上のルールを明文化した実効ある解雇規制法でなければならない。
  自由法曹団は、改めて、
 (1) 解雇には正当な理由が必要であることを大原則として明記すること、
 (2) 正当理由の例示として「整理解雇の四要件」を明記すること、
 (3) 正当理由があることについての立証責任は使用者にあることを明記すること、
 (4) 使用者には解雇無効の判決に従って労働者の復職を受け入れる義務のあることを明記すること、
を求める。

 また、法律案要綱では、(1)有期雇用契約期間の延長と、(2)企画業務型裁量労働制の導入要件の緩和および対象事業場の拡大が盛り込まれている。
 しかし、(1)は、従来、労働者の身分が不安定とならないように労基法で最長1年に制限されていた有期雇用の期間を延長して使い捨てしやすい労働力とすることで常用代替を大規模に引き起こすものである。また、(2)は、裁量労働制では長時間残業をしても残業代が払われなくなってしまうことから、平成10年の導入時に反対運動もあってしばりがかけられた導入要件や対象事業場についての歯止めを取り払おうとするものであり、全国に蔓延している違法なサービス残業を一挙に「合法」化しようとするものである。しかも、法律案要綱では、労使委員会の労働側委員についてはじめから当該事業場の労働者の過半数の信任を得ている必要はないとして、「建議」よりもいっそう導入をしやすくしている。

 自由法曹団は、労働者保護法である労基法に使用者の解雇権を明示し、有期雇用期間を延長し、裁量労働制を広く導入できることとして、労働者とその家族の生活を今以上に不安定にさせる今回の法律案要綱は断じて認められない。このような法律案要綱は撤回をすべきである。

2003年2月15日
自由法曹団常任幹事会