<<目次へ 【意見書】自由法曹団



イラク戦争に抗議し、米英軍及び

自衛隊の撤退を求める決議

 米英軍らによるイラク戦争が、国際法に違反する先制攻撃による侵略戦争であることを、われわれは繰り返し指摘してきた。また開戦の口実とされた大量破壊兵器はそもそも存在しなかったことを、アメリカの調査団責任者が明言している。この戦争の無法さと開戦理由の崩壊は、最近の事態の展開によっていっそう明確になった。
 ファルージャに対する米軍の殺戮と破壊は、ジュネーヴ条約が禁止する非戦闘員に対する無差別攻撃にほかならない。また、フセイン政権に抑圧されてきたシーア派住民までもが武力抵抗に立ち上がったことは、米英軍の占領に対するイラク国民の強い憤りを示すものである。イラク全土がまさに戦場と化している。
 拘留イラク人男女に対する、おぞましい暴行凌虐の実態が暴露された。イラク人ばかりかすべてのアラブ諸国の国民に「イラクの解放、自由と民主主義の実現」などという米英の宣伝がまったくの虚偽であることを確信させ、憤激と不信をまきおこした。この事件は、米英軍兵士の極度の退廃を示すばかりではなく、組織的・系統的な指示・奨励・許容が疑われる。両国の最高指導部が全責任を負うべきものである。国際的な第三者機関による真相の解明、責任者の処罰およびイラク人拘留者に対する早急な人権回復がはかられるべきである。これに対する「報復」として米人拘束者が殺害され、憎悪と報復の悪循環が拡大しようとしている。
 こうした事態によって、6月30日に予定されているイラクへの政権委譲はきわめて困難となっている。アメリカは国連の関与を言いはじめたが、その真意は、困難を国連にまかせ、実質的支配権を握り続けようとするものである。これを許さず、米英軍に治安確保の責任をとらせつつ、国連主導のもとで円滑な政権委譲を実現させるべきである。
 自衛隊のイラク派兵は、米英軍による苛酷なイラク占領への加担であり、違法な侵略戦争への参戦以外のなにものでもない。その違憲性は明白である。しかもサマワのオランダ軍および自衛隊の基地に対する攻撃が強まり、オランダ軍と武装勢力との銃撃戦まで発生した。そして、オランダ軍に死者が出ている。内閣法制局はすでにサドル師派勢力を「準国家組織」と認めていることが判明した。したがってオランダ軍との交戦は「戦闘行為」そのものであり、サマワを「非戦闘地域」とする政府の規定は崩れた。
 このような状況は、イラク特措法の規定によっても派兵の許されない事態であり、自衛隊はただちに撤退すべきである。すでにスペインをはじめ多くの国々が撤兵し、またはその検討に入っている。アメリカからの妨害・圧力にもかかわらず、これら諸国の決断は、国際的な支持をうけている。
 自衛隊の撤退は、米英の国際的孤立化を加速させ、イラク問題の平和的・民主的解決にとっても重要な意義をもつものとなるであろう。
 5人の邦人人質問題をめぐってわが国でまきおこった「自己責任論」は国際的常識にてらしても常軌を逸したものであった。政府、与党、諸官庁などを発信源とし、一部マスコミによって増幅されたものであるが、その本質は、自衛隊派兵の誤りを国民の目から隠蔽することにあった。われわれは人質とされた人たちの志に敬意を表し、無事な釈放を喜ぶとともに、少なからぬ団員やその仲間が救出のために献身し、成果をもたらしたことを誇りに思う。
 われわれは、この研究討論集会の名において、あらためてイラク侵略戦争に抗議し、米英占領軍及び自衛隊の即時撤退を求めるものである。

2004年5月24日
自由法曹団2004年研究討論集会