<<目次へ 【決 議】自由法曹団


丸子警報器「臨時社員」賃金差別事件の全面勝訴判決を求める決議

一九九六年三月一五日、長野地方裁判所上田支部において、臨時社員と同じ仕事に従事する正社員との賃金差別を違法とする判決がなされた。
 右一審判決は、「労働基準法三条、四条のような差別禁止規定は、直接的には社会的身分や性による差別を禁止しているものであるが、その根底には、およそ人はその労働に対して等しく報われなければならないという均等待遇の理念が存在していると解される。それは言わば、人格の価値を平等とみる市民法の普遍的な原理と考えるべきものである」と判示する。そして、右理念に反する賃金格差は、「使用者に許された裁量の範囲を逸脱したものとして、公序良俗の違法を招来する」と判示している。
 さらに一審判決は「一定年月以上勤務した臨時社員には正社員となる途を用意するか、あるいは臨時社員の地位はそのままとしても同一労働に従事させる以上は正社員に準じた年功序列制の賃金体系を設ける必要があったというべきである」として作為義務を認定 し、被告が「原告らを臨時社員として採用してこれを固定化し、二カ月ごとの雇用期間の更新を形式的に繰り返すことにより、女性正社員との顕著な賃金格差を維持拡大しつつ長期間の雇用を継続したこと」は、「均等待遇の理念に反する格差であり、単に妥当性を欠くというにとどまらず公序良俗違反として違法となるものというべきである」と判示す る。最後に判決は損害論とも関係して「原告らの賃金が、同じ勤続年数の女性正社員の八割以下となるときは、許容される賃金格差の範囲を明らかに超え、その限度において被告の裁量が公序良俗違反として違法となる」と結論付けている。
 この判決は、近年増大しているパートタイマーをはじめとする非正規社員に大きな励ましを与え、多大な社会的反響を呼んでいる。本判決を契機に幾多の職場でパートタイム労働者の賃金差別の是正措置がとられたとの報告もなされている。労働法学者においても差別是正のさまざまな方策を積極的に提言するに至っている。
 平等の原則は、日本国憲法でも明確に規定するように近代憲法の基本的原理である。
 全ての人間は人間であるという存在そのものに価値を有し、全ての人がその人格的価値において等しいとする理念をもとに、人は市民的自由を享受するとともに、人間の尊厳に値する生存を保障される。この均等待遇の原則が、労使関係の場においても保障されるべきは当然である。
 国際社会にあっても、国際人権規約や女子差別撤廃条約などによる差別是正の措置がとられ、さらにパートタイム労働においても、ILOは一九九四年の総会で、「パートタイム労働に関する条約」(一七五号)と「パートタイム労働に関する勧告」(一八二号)を採択している。右条約では、パートタイム労働者の賃金とフルタイム労働者の基本賃金との関係で、労働時間等に対応する配分的均等待遇を要請している。
 判決が指摘する均等待遇原則は、パートタイム労働に対する差別是正のため努力してる国際社会に呼応する内容ともなっている。  東京高等裁判所においては、一審判決の積極的意義を踏まえ、その内容をさらに発展させてパートタイム労働に対する差別の根絶を促進する判決をされるように要望する。

一九九八年一〇月二六日
自由法曹団一九九八年長野総会