厚生労働大臣 殿


生活保護行政の抜本的改善を求める申入書


近時の生活保護行政の運用をめぐるいくつかの「事件」について、その問題点を指摘し、その抜本的な改善を直ちに行うことを求めます。

具体的には、① 神奈川県小田原市のケースワーカーが「保護なめんな」と記載されたジャンパー等を着用していた事件では、「不正受給を『摘発』することが第一の目的に近い扱いになっていた可能性がある」等と報告書で指摘されているとおり、生活保護利用者( 以下、「利用者」と言います。) とケースワーカーの絶対的な立場の違いを考慮せず、利用者に十分理解されるような配慮もなしに、安易かつ形式的に不正受給の認定を行う運用に問題があると考えます。

② 東京都立川市で就労指導に従わなかった利用者が保護を廃止された翌日に自殺した事件では、利用者の個々の状況( 成育歴、職歴、家庭環境、軽度の知的障害・精神障害、発達障害、自己肯定感の低さなど)に応じた丁寧な就労指導がなされず、形式的に指導違反を口実に保護を停廃止する実情に問題があると考えます。

③ 全国各地で多発している保護費の過誤支給に関する事案では、利用者の置かれた状況に配慮せずに全額の返還を保護費から行うよう求めたり、過少支給分を収入認定の対象とする等利用者に酷な運用が行われ、あるいは担当ケースワーカー個人に責任を押し付けて損害賠償請求が行われている実情に問題があると考えます。

そのため、以下のとおりの提言を行いますので、速やかに運用を改める等し、各福祉事務所に周知徹底することを強く求めます。


1 生活保護法7 8 条の運用について

? 「しおりの配布、開始時説明済み」「申告義務について承諾書に署名済み」といった形式的な「不正受給」の認定を直ちに停止し、未申告の経緯や収入の使途、利用者側の態度等、福祉事務所側の支援状況等といった事情を、具体的かつ十分に検討する運用に改めること。

? 法7 8 条が適用される場合の徴収対象を明らかな故意をもって利益を得た

部分に改めること。

? 法7 8 条が法8 5 条等の刑罰法規を費用面から補完するものとして設けられた立法経緯から格別悪質なケースへの適用を予定しているといった法7 8 条の趣旨から適用場面を明確に限定し、収入未申告の未然防止が第一義的に追求されるべきことを現場に徹底すること。

? 収入未申告の未然防止にかかる現場での実践や、不正受給に関する利用者側の意見及びケースワーカーの現場感覚を広く聴取・研究し、その結果を公開して、未然に防止する具体的な方法や不正受給の明確な判断基準を現場に提示すること。


2 生活保護法2 7 条の運用について~ 特に就労指導について~

? 就労指導にあたり、個々の生活保護利用者に対し専門家の意見聴取やケース診断会議を経て稼働能力を慎重に判断し、それぞれの稼動能力に応じた就労指導を行うべきこと、その際には利用者の職業選択の自由を尊重して強制にわたることのないこと。

? 利用者が就労しなかったことを単純に就労指導違反として形式的に把握し、その指導に従わなかった実情を十分に検討せずに、違反の事実を主要な理由として安易に生活保護の停止・廃止を行わないこと。

? 就労自立による生活保護廃止者の数値目標の設定を止め、すでに設定している自治体には速やかに設定を撤回するように指導すること。

3 過誤支給に関する運用について

? 過少支給分を全額遡って追加支給する運用を徹底すること。

? 過大支給分を利用者の置かれた状況や返還した場合の生活への影響などを考慮しないまま安易に返還させないこと。特に、保護費からの返還はいかなる形でも許されないこと。

? 犯罪性が認められる場合を除き、当該ケースワーカー個人に損害賠償請求を行なわないこと。

4 ケースワーカーの増員、職員教育について

? 個々の生活保護利用者に寄り添うケースワークが行われるために、ケースワーカーの増員を行うに必要な措置を速やかにとること。少なくとも厚生労働省の基準以上の多数の世帯を担当する福祉事務所には早急に基準以内に収まるようにケースワーカーの配置を行うように国としても必要な援助をすること。

? 生存権保障の担い手として求められる専門的知識を身につけるための職員教育や研修、他の職場や外部の専門家等との連携を行うに必要な措置を速やかにとること。


以上