「働き方改革」一括法案の強行採決に抗議し、同法案の撤回を要求する声明

1 衆議院厚生労働委員会における強行採決

  安倍政権の与党の自民・公明両党は、2018年5月25日、衆議院厚生労働委員会で、日本維新の会の協力を得て、「働き方改革」一括法案の採決を強行し、同法案を可決した。自民・公明両党は、5月29日にも衆議院本会議で一括法案の採決を強行し、衆議院を通過させようとしている。

2 労働者の命と健康を奪う「残業代ゼロ・過労死激増の高度プロフェッショナル制度」

(1)高度プロフェッショナル制度は、一定の専門業務に従事する年収1075万円以上の労働者に対して、労働基準法第4章の労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は一切適用しないとする制度であるが、この間の審議で、「48日間連続で毎日24時間、合計1152時間連続で働かせることができる」、「年間256日毎日24時間、合計年間6144時間働かせることができる」異常な制度であることが明らかになっている。

(2)厚生労働省は、高度プロフェッショナル制度の審議資料とした「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」について、異常値の発見された2割強の事業所分の労働時間データを削除したが、その後も、強行採決を行った5月25日に「同一の調査票をコピーして二重に集計する虚偽データ」が6件発見されるなど、残りの8割弱の事業所分の労働時間データの信用性もまったくない。

   また、労働時間データの2割強の削除後の再集計によって、一般労働者の残業時間を年1000時間超で協定している事業所で実際に限界まで残業させている事業所の比率は、3.9%から48.5%へ激増している。研究開発業務に従事する労働者については、再集計の結果、時間外労働が大臣告示(月45時間、年360時間)を超えている労働者が約3割から約5割に増加している。

(3)以上のとおり、高度プロフェッショナル制度創設の根拠とされた「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」の労働時間データの内容は、当初の労働時間データの内容とまったく異なるものとなっており、同制度創設の根拠は崩れ去っている。現行の労働時間規制を根底から変容させる高度プロフェッショナル制度は、いったん撤回したうえで、正確な労働時間データに基づき、その要否等を一から審議しなおすべきである。

3 残業時間の上限規制について、月の後半に80時間、翌月の前半に80時間働かせ、30日間で過労死ラインを大幅に超える160時間働かせることができる抜け穴が指摘されている。このような上限規制では、過労死を根絶することはとうていできない。徹底審議による見なおしが必要である。

4 労働者派遣法、パートタイム労働法、労働契約法の「改正」案及び雇用対策法の「改正」案は、ほとんど審議されておらず、今回の強行採決が不当であることは明白である。これらの「改正」案についても、十分な審議のうえ、正社員と非正規労働者の格差を是正するなど、真に労働者の権利を擁護する「改正」案に変更しなければならない。

5 以上のとおり、「働き方改革」一括法案の審議は尽くされておらず、また、高度プロフェッショナル制度創設の根拠は崩れ去っている。自由法曹団は、自民、公明、維新の会による一括法案の強行採決に抗議し、安倍内閣に対し、同法案を撤回し、労働政策審議会の審議からやりなおし、労働者の命と健康、生活と権利を守る法案に変更することを強く要求する。

 

2018年5月28日

                  自由法曹団   団長 船尾徹