<<目次へ 【声 明】自由法曹団


申 入 書

学校現場での日の丸掲揚・君が代斉唱を強制する措置を撤回することを求める。

一、「日章旗・君が代」を国旗、国歌と定めた法律制定後初めての卒業式・入学式を迎えている。
 日の丸・君が代は日本国憲法に定める国民主権・非軍事平和主義の理念と相容れない歌および旗であり法制化によってもこのことは何ら変わらない。  君が代は天皇主権を定めた明治憲法下で天皇の統治が永久に続くことを讃える歌として国民に強制され、日の丸は第二次世界大戦において日本軍国主義のアジア諸国に対する侵略戦争のシンボルとして使用されたものであり、いづれも国民主権および非軍事平和主義を基本理念と定める現憲法と相容れない旗・歌である。
 日の丸・君が代は侵略戦争の被害国であるアジア諸国民の強い反発を招くとともに不信を買い、国際社会において名誉ある地位を占めることを目指している方向と全く逆の道を進むもので憲法の国際平和の理念にも反するものである。

二、政府は法案の審議の中で日の丸・君が代を強制する条項を規定しておらず国民に強制はしないと答弁した。
 自由法曹団は、法制化にあたり「政府はこれまで日の丸・君が代が法的根拠を持たないにもかかわらず「学習指導要綱」を根拠に教育現場において君が代の斉唱、日の丸の掲揚を強制してきた。日の丸・君が代を強制した事実について政府は何ら反省もしていないことなどから、法制化により、これまで以上に個々の公務員の思想信条を無視して日の丸の掲揚君が代の斉唱を強制し、教育現場に、より一層の混乱をもたらすことになる。一般国民もあらゆる場面で卒業式などに参加することで事実上の強制から免れなくなる。」と法制化による強制について強く警鐘した。

三、その後の事態は我々の憂慮したとおりとなっている。文部省は、各県の教育委員会宛に日の丸・君が代の実施状況を調査するよう求めて日の丸・君が代の実施を監視し、事実上強制する措置を行っている。それを受けて、教育現場では校長、教頭が教員に対し日の丸の掲揚、君が代の斉唱を行うよう職務命令を出す等と法制化以前に比べて強硬な態度に出ている事態も各地で生じている。
 また、横浜市教育委員会では日の丸・君が代の実施に対し誰がどのような反対運動を行っているかを集計する対応シートを各校に送付し思想調査を行っている。
 以上のように法制化前に危惧されていた、卒業式・入学式での日の丸・君が代の掲揚・斉唱を全国的に統制しようとする事態となっている。  このような文部省並びに各教育委員会の措置は教職員はもちろんのこと父母の思想信条の自由を侵す憲法違反の違法な公権力の行使であり、直ちに中止することを求める。

四、とりわけ、児童・生徒は憲法上の権利として思想信条の自由を保障されているうえさらに日本も批准している子供の権利条約において「自由に意見を表明する権利」(第一二条)と「思想、良心及び宗教の自由を尊重」(第一四条)を保障されている。
 また、教育基本法によれば教育の目的は「真理と正義を愛し、自主的精神に充ちた・・国民の形成を期して行わなければならない」と定められている。  教育現場で児童生徒に対し一斉起立、一斉斉唱により日の丸・君が代を強制することはこれらの児童生徒に保障された権利を踏みにじり教育の目的にも反するものである。
 文部省及び各地の教育委員会の行為は憲法の思想信条の自由を侵す指導であることはもちろんのこと国旗国歌法制定過程での文部省大臣の「強制することはない」との政府答弁にも反する行為である。
 また、大阪府では「教育を正す会」なる団体が日の丸・君が代の実施状況について調査するため卒業式・入学式に臨席を要求していると報じられている。  さらに、新聞報道によれば政権党である自民党の地方組織の自民党神奈川県連は卒業式・入学式で日の丸・君が代が掲揚・斉唱されていない県立高校を視察するという。
 これは卒業式・入学式の場において、思想調査を行わせろという違法不当な要求であり、教育現場に対するこのような介入を文部省としても断固拒否すべきである。

五、憲法に保障された国民、児童生徒の思想信条の自由を侵害する以上のような強制に断固抗議する。
 政府は日の丸・君が代法制化の際「児童生徒に心理的な強制力が働くような方法で・・指導が行われるということがあってはならない」「国民に対して強制するものではございません」と明言したことを実行に移し、卒業式・入学式において日の丸掲揚、君が代斉唱を強制する措置を撤回することを、われわれ自由法曹団は強く申し入れるものである。

二〇〇〇年三月一〇日
自由法曹団  団   長  豊   田      誠
幹事長  鈴  木  亜  英
文部大臣 中 曽 根 弘 文  殿