<<目次へ 【声 明】自由法曹団


司法改革推進体制に関する声明

1、12月1日、司法制度改革推進法が施行され司法制度改革推進本部(本部長・小泉内閣総理大臣)が正式に発足した。

 司法制度改革推進事務局は、今後立法化に向けて、司法改革推進本部のもとに顧問会議を設置するほか、事務局の下に、10名程度の学識経験者等で構成される10の「検討会」を設置し、この「検討会」において具体的な立法の原案を検討するとの案を明らかにした。司法制度改革審議会の最終意見は制度設計を含む重要な事項(例えば、裁判員制度、裁判官制度改革、法科大学院等)について推進本部に具体化をゆだねているが、それだけに「検討会」のテーマをどのように設定するか、「検討会」をどのようなメンバーで構成するかは、まさに今後の司法改革の内容策定にあたり、きわめて重要となっている。

2、この「検討会」のテーマ設定について、同事務局が公表した案の内容は、(1)労働、(2)司法アクセス、(3)ADR、(4)仲裁、(5)行政訴訟、(6)裁判員制度・刑事、(7)公的弁護制度、(8)国際化、(9)法曹養成、(10)法曹制度の10項目である。

 これらは当初の8項目のテーマ設定よりは前進したが、例えば「法曹制度検討会」の中で、弁護士・検察官・裁判官制度の改革等を行うとされている点等、なお問題を残している。裁判官制度の改革は、官僚司法を打破していく上で一つの根幹をなすもので、司法制度改革審議会の最終意見においても、裁判官の任命手続、給源の多様化・多元化、人事評価のあり方、司法行政のあり方、判事補制度のあり方等、全般にわたる改革提言がなされている。これらの重要な改革を、実質2年という短期間で、弁護士制度改革・検察官制度改革と抱き合わせで行うという構想では、審議会が提起した問題に十分応えられる内容となるのかについて重大な危惧を抱かざるを得ない。このことは「アクセス関係」「ADR関係」「仲裁関係」が独立した検討会のテーマとされていることと比較しても、明らかにバランスを失している。

3、それにもまして許し難いのは、司法制度改革推進本部の事務局体制の提案である。事務局は「検討会」の上位にありそれを統括する立場にあるが、事務局の案は、事務局体制41名のうち日弁連からの選出は僅か2名で、残り39名は行政官僚と裁判官で占められている。

 このうち、裁判員制度・刑事司法改革の担当は、検察庁3名、法務省1名、警察庁2名、裁判所1名であり、公的弁護制度の担当は検察庁2名、法務省1名、裁判所1名であり、法曹養成制度は検察庁1名、裁判所1名、文部科学省2名、人事院1名という構成となっている。

 裁判員制度・刑事司法改革は、国民の司法参加をどのように実質化していくか、被疑者・被告人・弁護人の防御権をどう保障するのか等の重大な検討課題を抱えている。これらについて日弁連を排除し、法務・検察・警察がほとんどを占めるという事務局体制で立法化を行っていくということは、国民の司法参加の実効化、被疑者・被告人の人権保障は後景に追いやられ、治安重視の制度設計となっていくことは火を見るより明らかといわざるを得ない。

 公的弁護制度については、その運営主体を現在の国選弁護制度と同様に弁護士会が主体的に関わるものでなければ、弁護活動に対する権力的介入をもたらすものになると、私たちは繰り返し表明してきた。しかし、その担当事務局から日弁連を排除し、法務・検察中心の構成では、初めから運営主体を国家権力の下におくことを指向しているといわざるを得ず、適切な弁護活動の保障を図るものには到底なりえない。

 法曹養成制度についても、法曹三者のバランスのとれた構成が必要であることはいうまでもない。加えて審議会の意見書にもあるように今後弁護士の裁判官任官を大幅に増やしていくことが重要であることに鑑みれば、法曹養成の中でも弁護士の養成にとりわけ重点がおかれなければならない。そうであるにも関わらず、事務局体制から法曹三者のうち日弁連だけが排除されていることは、到底容認できない。

4、司法改革推進本部事務局による今回の「検討会」のテーマ設定や事務局体制の提案は、官僚司法から国民のための司法への転換という切実な国民の要求に背を向けるものと言わざるを得ない。国会は、司法制度改革推進法の制定にあたり、衆参両院で推進本部での立法化作業にあたって国民の意見を十分取り上げ、かつ情報公開を徹底することを求める付帯決議を全会一致で採択した。これは司法改革が国民生活に深く関わる重要な課題であることからこれを推進するにあたっては国民参加と情報公開の重要性を強調したものである。しかし、今回の事務局の提案は、こうした要請に逆行するものである。

5、私たちは、国民のための司法改革を実現していくために、今回提案された推進本部体制に対し、「検討会」のテーマ設定のうち、少なくとも裁判官制度改革は独立の検討項目とすること、事務局体制を白紙撤回し、日弁連の委員を大幅に増やすなどして国民の声が反映できるようにする等の抜本的な再検討が不可欠であると考える。また、「顧問会議」「検討会」の人選については選任手続き公正化し(日弁連との協議あるいは学会の推薦を経るなど)、国民各層の意見を集約できる構成にする(消費者団体、労働組合等の代表を入れる)、審議過程はすべてリアルタイムで公開することを強く求める。

6、私たちは、今回の事務局の「検討会」のテーマ設定やとりわけ事務局体制は、国民のための司法改革を実現し立法化していくためうえで、重大な障害となる内容であると断じざるを得ない。

 政府は、司法改革を求める国民世論に十分に耳を傾け、「検討会」のテーマ設定及び事務局体制を抜本的に見直した上で、再検討することを強く求めるものである。

2001年12月
                     自由法曹団
                                  団長 宇賀神 直