<<目次へ 【声 明】自由法曹団


司法審・国民参加に関する団長声明

 司法制度改革審議会は、1月30日国民の司法参加に関する審議を行った。この審議の冒頭、井上正仁委員から、刑事訴訟手続につき一般国民が「裁判員」として職業裁判官とともに評議に参加する「裁判員」制度の提起があり、この提起に基づく審議が行なわれた。
 1月30日の審議会における審議は意見交換にとどまり、とりまとめには至っていないが、@裁判員の選任は事件ごとの無作為抽出とするA対象事件は刑事重大事件(自白・否認の別を問わない)とし、選択制としないB事実認定と量刑に職業裁判官と裁判員が共に評決権を持って合議する、とする意見が有力に主張されており、今後、1月30日の審議会の意見を踏まえた具体的な制度設計が準備され、3月以降に再び審議される予定とされている。
 審議会が、限られたごく一部の裁判ではあるが、実質的な国民の司法参加の具体化制度設計に向けて第一歩を踏み出した点は評価しうる。特に裁判に参加する裁判員の選任について、事件ごとの無作為抽出とする意見が審議会で概ね一致し、広範な国民の参加を前提とした制度構築が進められようとしていることは国民のための司法の実現にとって、一歩前進と評価できる。
 しかしながら、提起された「裁判員」制度は、事実認定と量刑の双方につき、職業裁判官と裁判員が共に評決権を持って合議するというものであり、これは「参審制度」にほかならず、陪審制度と比べ極めて不十分な国民の司法参加の形態である。
 陪審制度が事実問題については陪審員の評議に最終判断が委ねられているのに対し、参審制度は判決の最終判断のイニシアティブと責任が裁判官に帰属する制度であり、諸外国の運用実態からみても国民の主体的・実質的参加が充分に確保されているとはいえず、形式的な国民参加となる危険性が高い。
 特に最高裁はこれまでの審議会に対する意見表明の機会の度に、国民の司法参加を敵視し、これを阻止する態度を鮮明にし、国民の事実認定能力に露骨な不信感を示してきたのであり、このような最高裁による中央集権的官僚統制が個々の裁判官に及んでいる現在の日本の官僚司法の実情に照らせば、個々の事件で裁判官が「裁判員」の意見を抑制・誘導し、国民参加を形骸化させる危険性は極めて高いと言わざるを得ない。
 現在の日本の官僚司法を、根本的に転換するためには、最も徹底した国民参加の制度である陪審制度の導入が不可欠であり、自由法曹団は、最終報告において陪審制度の導入を明確にすることを審議会に強く要請する。
 また、国民参加の対象となる訴訟類型が刑事重大事件に限ってのみ議論されている点も極めて不十分である。
 刑事裁判のみならず、行政事件、労働事件、一般市民事件においても、官僚裁判官による国民の良識に反する判決が相次ぎ、司法が国民の権利の砦とは到底いえない事態にある。主権者国民の司法への参加により、司法を民主化し、裁判に国民の良識を反映させるためには、広範な訴訟類型において市民参加の制度構築が具体化されるべきである。
 審議会が、全ての刑事裁判、行政裁判、労働裁判、民事裁判につき、陪審制度の導入を具体的に検討・審議し、最終報告に盛り込むことを強く要請する。

2001年2月8日
自 由 法 曹 団
団 長 宇賀神   直