<<目次へ 【声 明】自由法曹団


アメリカのイラク武力攻撃 および
日本政府のこれに対する支援、加担に
断固反対する

2002年9月21日
自由法曹団常任幹事会

 米国ブッシュ政権は、現在、テロ支援や大量破壊兵器保有を口実に、対イラク「先制攻撃」の準備を進めている。ブッシュ大統領は、国連総会での演説で(9月12日)、「安保理決議は履行され、平和と安全保障のための公正な要求が満たされなければならない。さもなければ、行動は不可避であり、正統性を失った政権は権力を失う。」と述べ、イラク査察を求める新たな安保理決議を求めるともに、決議が実施されなければイラクを先制攻撃すること、さらに、その目的がフセイン政権の転覆にあることを表明した。ニューヨーク・タイムズ紙(7月5日付け)のスクープによれば、米軍によるイラク侵攻計画は、米中央軍最大25万人規模の部隊が、イラクの南、北、西の三方面の拠点から攻撃を加えるものだという。
 しかし、これまでイラクと9・11テロを結びつける証拠やイラクが核兵器を保有しているという証拠はなんら示されていないし、ひとたび、米国がイラク攻撃を敢行すれば、その戦争が罪のない甚大な数の人命を犠牲にすることは明らかである。米軍が首都バグダッドを攻撃する際には500万人といわれる市民が巻き込まれ、さらにその戦争が中東全域に拡大されれば全世界にはかりしれない被害をもたらすことになる。

 また、米国国防総省は、今年8月15日、2002年の「国防報告」を公表した。そこには、「非核保有国」に対する「先制核使用」戦略が米国政府の公式の方針として記述されており、「米国防衛のためときには先制攻撃が必要」「あらゆる手段を行使する」として、イラクを念頭に核兵器による先制攻撃の構想を検討していることを事実上認めている。こうしたブッシュ政権の「先制攻撃」戦略は、9月20日に発表されたホワイトハウスの「国家安全保障戦略」にも示されているが、これは米国が圧倒的な軍事力をもって世界を制圧する国際秩序を形成するために、米国に対抗するような軍事大国の台頭を許さないことを目的としている。そのためには「核兵器」の「先制使用」もあり得るとする人類史上極めて危険な戦略である。
 しかし、この「先制攻撃」戦略は国連憲章に真っ向から反するものであり、人類社会が過去幾多の悲惨な戦争経験のうえに築き上げてきた国際的平和の秩序及び国際法を根底から踏みにじるものである。国連憲章は、第2条4項で加盟国の武力行使を原則として禁止し、第33条で加盟国に紛争の平和的解決を義務づけている。国連憲章が例外的に許容する武力行使は、自衛権行使(51条)と安全保障理事会の決定による軍事的措置(42条)の場合に限られている。国連憲章は、他国に「先制攻撃」をする権利など、どの国にも認めていないのである。米国政府は「先制攻撃」を米国防衛のためと説明しているけれども、これが自衛権の行使にあたらないことは明らかである。そして、国連加盟国である以上、米国政府がこのような国連憲章に従わなければならないことはあまりにも当然である。
 この間、米国の同盟国であるドイツなど欧州諸国からも、米国のイラク攻撃に対しては強い批判の声があがっている。ドイツのシュレーダー首相は、「私が首相であるかぎりドイツは対イラク戦争には参加しない。」と言明した。アジア、アフリカ、中東諸国からも批判の声があがり、イラクの周辺諸国であるヨルダン、トルコ、サウジアラビア、クウエート、エジプト、イランなども米国のイラク攻撃には反対している。他方、イラク自身も国連の査察を無条件で受け入れる態度を表明し、国連は査察の準備を進めている。米国のイラク攻撃計画を中止させ、国連憲章にもとづく戦争のない平和な世界を作り上げていくことは世界諸国民に共通な願いである。

 ところが、一方、日本政府は、米国のイラク攻撃に反対しないどころか、現在インド洋、ペルシャ湾方面においてアフガニスタンへの軍事攻撃に加担している自衛隊を、イラク攻撃にもなし崩し的に参加させることを狙っている。政府は、米国のイラク攻撃を視野にいれて、新たなテロ対策特措法の検討に入っているという。小泉首相は、日米首脳会談(9月12日)において、「ここは我慢に我慢を重ね一段の国際協調を取ることが望ましい。」と述べたが、米国のイラクへの軍事攻撃には反対しなかった。
 このような日本政府の対応が、国際紛争解決の手段として一切の戦争を放棄した日本国憲法(前文、9条)の精神に反することはいうまでもない。憲法は、日本政府に対し、国際紛争の平和的解決に力を尽くすことを要求するとともに、他国の武力攻撃に手を貸すことを絶対的に禁止している。今、日本政府に求められていることは、平和を求める世界の諸国民と共同して、米国のイラク戦争に反対しこれを中止させることである。

 わたしたちは、米国のイラク武力攻撃及び日本政府がこれに支援、加担することに断固反対する。イラク問題に関しては国連が中心となって交渉による解決に向けた外交努力を尽くすことを強く求める。自由法曹団は、米国のイラク攻撃を中止させるため、平和を求める全世界の人々と力を合わせて全力をあげてたたかうものである。