<<目次へ 【声 明】自由法曹団


小泉首相の靖国神社参拝に抗議する声明

 小泉純一郎首相は、今年1月14日、首相就任後三回目の靖国神社参拝を強行した。首相は参拝に際して「内閣総理大臣 小泉純一郎」と記帳した。
 靖国神社は、戦前は国家神道の中心的存在であり、天皇のために忠義を尽くして戦死した人々を「英霊」として合祀し、国民が侵略戦争によって戦死することを美化・正当化するという軍国主義の精神的支柱としての役割を果たした。
 戦後は宗教法人とされたが、侵略戦争を直接に推進した東条英機らA級戦犯を「殉職者」としてまつるなど、先の戦争を美化・正当化する宗教施設としての本質は変わっていない。
 小泉首相は、参拝の理由として「平和のありがたさをかみしめ、二度と戦争をおこさないように」と述べたが、こうした靖国神社への参拝が平和への誓いであるはずはなく、日本の侵略戦争で大きな犠牲を被ったアジア諸国から厳しい批判の声があがるのは当然である。
 現在、北朝鮮が核不拡散条約(NPT)からの脱退を宣言するなど米朝の緊張関係が増しているもとで、日本には中国、韓国などと協調して、粘り強い平和外交の努力を尽くすことが強く求められている。しかしながら、首相の靖国神社参拝は、日本が過去の侵略戦争にいかに無反省かを示すもので、日本が過去の植民地支配に対し、事実を謙虚に受け止めて謝罪するという「日朝平壌宣言」の趣旨にも逆行し、日本の平和外交に著しい支障をもたらすものである。
 また、首相による靖国神社参拝は、日本国憲法の「政教分離の原則」に違反することが明らかである。
 日本国憲法は過去の侵略戦争の反省の上に、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないように」決意し(前文)、国際紛争を解決する手段としての戦争と武力の行使を放棄した(9条)。そして、国家と神道の結びつきを断ち切るために、20条3項で「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」(政教分離の原則)と規定している。
 靖国神社は宗教団体であり、参拝は宗教的行為そのものである(このことは愛媛玉串料最高裁判決、岩手靖国訴訟仙台高裁判決によって確認されている)。従って、国の機関である首相が靖国神社へ参拝することが20条3項(政教分離の原則)に反する憲法違反の行為であることは争う余地がない。
 同時に、首相の靖国神社参拝には、この間の自衛隊の戦時海外派兵や有事関連法案の国会提出、教育基本法改悪の策動などと相俟って、日本国憲法の空洞化を加速させようとするねらいがある。
 私たち自由法曹団は、憲法の「政教分離の原則」を踏みにじり、憲法尊重義務(99条)にも違反し、アジア諸国民との信頼関係を破壊する小泉首相の靖国神社参拝を断じて許すことはできない。首相の靖国神社参拝に強く抗議するものである。

2003年1月18日
自由法曹団常任幹事会