<<目次へ 【声 明】自由法曹団


イラク派兵法の参議院採決強行に抗議する声明


 与党3党は、去る7月25日未明、参議院本会議においてイラク派兵法(イラク特措法案)の成立を強行した。野党4党が法案に反対するとともに、法案の廃案を求める国民各層の運動が拡がり、しかも、参議院の審議を通じて法案の欺瞞性・危険性がより一層明らかになったもとでの採決強行であり、自由法曹団はこの暴挙に強く抗議する。

 イラク戦争は、米国がブッシュ・ドクトリンを発動して突入した違法で非道な戦争である。イラク派兵法は、その戦争がいまだ終結していない段階で、米英軍の軍事占領を支援するために、日本の自衛隊(1000人規模)をイラク国内に派兵することに最大の眼目がある。
 米国は、イラクが国連査察を無条件で受け容れ、査察による武装解除が現実に進んでいるもとで、それでもなおイラクが大量破壊兵器を保有し、フセイン政権にそれを破棄する意思がないと断定してイラク攻撃に踏み切った。しかし、フセイン政権が崩壊し、米国がイラク国土の軍事占領を始めて3ヶ月。いまだに大量破壊兵器は発見されていないし、それどころか、米英国内では、イラクの大量破壊兵器保有を断定した根拠が、情報操作にもとづくものであったことが疑われている。他国に対する侵略の兆しもない国に対し、武力行使容認の国連安保理決議のないままに行った先制攻撃が国連憲章違反であることは、これまでも繰り返し指摘してきたことであるが、いまや米国のイラク攻撃を正当化する理由は一片もない。小泉首相は、しばしば「イラクが国連を愚弄した」と述べるが、国連憲章に背き、国連を愚弄したのはまさに米国なのである。
 日本政府は、開戦にあたって、日米同盟を理由に米国の戦争を無条件に支持した。イラク派兵法は、日本の自衛隊を投入して米英軍の軍事的占領を支援しようとするものであり、米国の違法・非道な戦争に加担することにほかならない。

 自衛隊の任務とされている安全確保支援活動には、フセイン政権残党勢力に対する掃討作戦を展開する米英軍への兵站支援も含まれる。米中央軍司令官も、米英軍がバース党などの残党勢力とイラク全域で戦闘状態にあることを認めている。自衛隊は、戦闘行為を行う米英軍に対し、武器・弾薬の陸上輸送、集積所での燃料・水の補給、野戦病院の建設、負傷兵の治療、通信業務など戦闘行為に不可欠な兵站支援を行うことになる。
 その際、自衛隊の活動が、米英軍に対する兵站支援にとどまる保証はなく、政府答弁によっても、相手側からの攻撃を契機に、自衛隊が米英軍と共同して武力行使に突入する可能性は否定されていない。自衛隊の携行武器としては、装甲車、対戦車砲、無反動砲、重機関銃などの重装備が検討されているという。

 今国会では、6月6日、有事3法案が強行成立した。有事3法案は、米国のアジアでの戦争を支援するための戦争法制である。それに引き続くイラク派兵法の成立は、日本が平和憲法を無視して、ますます米国に追随する戦争の道を突き進むことを意味する。
 しかし、世界の圧倒的多数の人々は米国の違法・非道な戦争を認めていない。国連も決して米国の戦争を容認していない。人と人とが殺し合うことのない平和な国際社会を築くことは全世界共通の願いである。イラク戦争に対する史上空前の国際反戦運動はそのことを雄弁に物語る。自由法曹団は、国際紛争の平和的解決を世界の奔流とするために、日本が米国の戦争に加担するのではなく「平和の道」を選択すること求めて、平和を希求するすべての人々とともに闘うものである。

2003年7月28日
自由法曹団団長 宇賀神 直