<<目次へ 【声 明】自由法曹団


JR採用差別事件 最高裁判決に対する声明

 最高裁判所第一小法廷は、昨年12月22日、国鉄労働組合(国労)・全国鉄動力車労働組合(全動労・現全日本建設交運一般労働組合全国鉄道本部)に対するJR採用差別事件について、3対2の一票差で中央労働委員会と組合の上告を棄却し、中央労働委員会の救済命令を取り消した東京高裁判決を支持する判決を言い渡した。
 本件の最大の争点は、国鉄が不当労働行為を行った場合に、JRが使用者として責任を負うかどうかということであった。中央労働委員会は、不当労働行為の詳細な事実を認定した上で、JR職員の採用手続の実態や国会における政府の答弁内容をふまえて、JRの使用者責任を認め、救済を命じた。
 自由法曹団は、国鉄の分割民営化の過程において既に発生していた国鉄による不当労働行為に対し警告を発するとともに、JR移行に際して行われた組合所属による採用差別に対しては、労働者の生活と団結権を擁護する立場から、国労や全動労のたたかいを支援し、全国の多くの団員が労働委員会の救済命令を獲得するために奮闘した。
 ところが、本判決(多数意見)は、JRへの採用手続の実態や国鉄改革法の審議の際の政府答弁を全く無視して、国鉄が不当労働行為を行ってもJRが使用者として責任を負うことはないと判断し、不当労働行為の事実には言及することすらしないまま、中央労働委員会命令を取り消すという結論を導き出した。JRの使用者性を否定した本判決(多数意見)は、国鉄改革法の恣意的かつ形式的な解釈論をもてあそぶものといわざるをえない。また、本判決(多数意見)は、国鉄改革法による採用手続において不当労働行為がなされても救済は認めないというものであり、団結権を保障する憲法28条に反するものにほかならない。
 自由法曹団は、JRの不当労働行為責任を一貫して追及してきた立場から、事実と道理に反する本判決(多数意見)を断じて容認することはできない。

 本件では、JRの使用者性の有無という最大の争点について、全く相反する東京高裁の判決が最高裁で審理された。今回の判決でも、5人の裁判官のうち2人がJRの使用者性を認め、原審に差し戻すべきだとする反対意見を述べている。しかも、反対意見を述べた二人の裁判官は、全動労事件では、「全動労組合員の不採用者について、採用者との比較において劣位に評価されてもやむを得ない事由がない限り、全動労に所属することのみを理由として、上記記載について差別的な取扱いがされたことが一応推認される」としたうえで、高裁に差戻すべきだとしている。
 重大な争点について、これだけ見解が分かれている以上、口頭弁論を開き十分な審理を行うことが、最低限必要であった。ところが、最高裁は、重大な争点について、公開の場で当事者間で意見をたたかわせる機会すら設けないまま不当な結論を下した。このように当事者と国民の意見を軽視する最高裁の姿勢に対し、強く抗議する。

 採用差別事件の救済申立から本判決まで16年が経過した。採用差別事件は、不当労働行為事件としてはもとより、人権問題としても一刻も早い解決が求められている。
 反対意見は、当時の閣僚の国会における答弁を「重く評価しなければならない」と指摘している。政府は、「一人も(組合員を)路頭に迷わせない」、「組合差別があっってはならない」ということを繰り返し答弁してきた。国会における政府の約束にも反する事態を放置することは断じて許されるところではない。
 このことは、世界の声でもある。ILOは、本年6月20日、採用差別事件が「結社の自由原則、すなわち、採用における差別待遇の点から極めて重大な問題であり、政府によって取り組まれるべきであることを強調する」とし、「緊急」の課題として「政府と関係当事者が可能な限り最大多数の労働者に受け容れられる公正な解決を見いだす方向で努力を追求する」ことを強く求める勧告を行った。不当な本判決にかかわらず、日本政府とJRの責任において、上記ILO勧告に沿った解決が図られることが求められている。
 自由法曹団は、採用差別事件の解決をめざすたたかいをひきつづき支援することを表明する。あわせて、今回の不当判決決に示されたわが国の裁判所の問題点を徹底的に批判し、事実と道理にもとづいた裁判が行われるよう裁判官の選任や裁判所の運営の改革を実現することに努力する決意である。

2003年1月17日
自由法曹団