<<目次へ 【声 明】自由法曹団


総合法律支援法案に反対する

自由法曹団
団長 坂本  修

 政府は、通常国会に総合法律支援法案を提出した。法案は、「日本司法支援センター」(以下「支援センター」という)を設置し、同支援センターに(1)民事法律扶助事業、(2)国選弁護に関する業務(被疑者国選弁護を含む)等5つを柱とする広範な事業を行わしめるとしている。
 これまで弁護士会が担ってきた重要な業務が「支援センター」に一元化されることになるが、法案の制度設計には、国民の人権擁護活動のうえで不可欠な弁護士の職務の独立、弁護士自治の確保の観点から重大な疑問があり、このままではとうてい賛成できない。

 この法案が中核の組織とする「支援センター」は、いわゆる独立行政法人通則法の適用を受けた法人とされ、理事長の任命権は法務大臣に、三名以内の常任理事および非常勤理事一名の任命権は理事長に委ねられている等、基本的に行政の組織原則が貫かれている。「支援センター」には、理事会などの民主的な意思決定機関が設けられていない。
 「支援センター」は、政府の監督を受ける一方で、弁護士会の主体的関与が法定されていないのであり、このような組織の立ち上げは、弁護士の職務の政府からの独立、弁護士自治、そしてこれによる人権の擁護の実現の点から重大な疑問がある。

 かかる組織である「支援センター」が国選弁護人候補者の指名を独占するところに最大の問題がある。
 刑事弁護は、被疑者・被告人の権利を保障するために、国と対峙して弁護活動を行うところに核心がある。そのために、弁護士の職務の国家権力からの独立がとりわけ強く求められる分野である。これまでは、国選弁護人の選出は実質的には弁護士会の自治が担ってきた。
 ところが法案によれば、国選弁護人選出に関する業務が、政府の監督のもとにおかれた「支援センター」に一元管理され、契約弁護人は「支援センター」の定める「法律事務取扱規程」に拘束され、これに違反したときには懲戒も含めた措置が取られる。
 被疑者・被告人の権利擁護のために検察と対峙しなければならない弁護人が、検察官とともに法務省の監督を受けるというのは背理である。これでは被疑者・被告人についての弁護の実質が保障されない。

 このことは民事法律扶助事業にもあてはまる。民事法律扶助が対象とすべき事件の中には、国や行政機関を相手とする事件も含まれうる。このような事件の場合に、費用の扶助を求める国民は、政府の統制が働く「支援センター」と契約した弁護士の斡旋を強制されることになる。
 法案は、「契約弁護士等は、支援センターが取り扱わせた事務について、独立してその職務を行う」という条項を設けている。しかし、「契約」(就中「法律事務取扱規程」)を介して、政府が弁護士の活動を監督する道が開かれることになり、はたして、弁護士が国民の権利の守り手の立場に徹することができるか、行政当局らと争う住民らの裁判を受ける権利が保障されうるのか重大な懸念がある。

 さらに、本法案は、個々の弁護士に「総合法律支援の実施及び体制の整備のために必要な協力をするよう努めるものとする」と義務づけている。この条項によれば、個々の弁護士が「支援センター」との「契約」をしない選択をすることは、この義務に違反することになりかねない。「契約」という手法をとりながら、すべての弁護士を「支援センター」の傘下に囲い込むことを可能にする制度設計となっているのである。
 弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする。そしてその使命のために誠実にその職務を行い、社会秩序の維持と法律制度の改善に努力しなければならない責務を国民に対して負っている(弁護士法1条)。この弁護士の職責は、政府からの独立の徹底のうえにこそ全うできるものであり、弁護士の職務の独立の確保、弁護士自治の確保は極めて重要である。
 本法案の、国民の権利擁護とその実現を制度的に保障する弁護士自治・弁護士活動の独立性を脅かす内容はとうてい認められない。

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