<<目次へ 【声 明】自由法曹団


対北朝鮮制裁法・特定船舶入港禁止法に反対する

 自民党・公明党・民主党の与野党3党は、6月1日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対する制裁を念頭においた「特定船舶入港禁止法」を提出し、同日午前、衆院国土交通委員会において可決し、本日にも衆議院本会議で可決し参議院に送られる予定だと報じられている。
 自由法曹団は、以下の理由により、特定船舶入港禁止法の制定に強く反対する。

 特定船舶入港禁止法は、北朝鮮に対する敵意をむき出しにした準戦時法である。
 もともと国際慣行として、国際港として指定された港への外国籍船の入出港は自由とされ、航行の自由、入港の自由が原則的に認められている。北朝鮮籍船も同様である。例外的に、ポートステートコントロール(PSC)による安全検査制度による規制が存在するのみである。
 ところが今回の特定船舶入港禁止法は、「我が国の平和及び安全の維持のため特に必要がある」と認めるときには、特定の船舶の入港を禁止できるとする(3条)。これは、自由航行の原則を、わが国独自の判断により制限するものであり、北朝鮮に対する敵意をむき出しにした世界に類例のない悪法と言わざるをえない。

 拉致問題解決に特定船舶入港禁止法は役に立たない。
 報道等によれば、先に成立した外為法改正とともに日朝間における拉致事件の全面解決のカードとして提案されたとされている。
 しかし、内閣が入港禁止を決定できるのは、?我が国の平和および安全の維持のため、?特に必要があるときとされており、日本という国家の平和や安全上において看過しがたい事態であって、かつ、特別の必要のある場合に限定されているのである。したがって、拉致事件の未解決をもって我が国の安全が脅かされたとはいえず、対応措置の発動それ自体が不可能なのである。

 特定船舶入港禁止法は北東アジアの平和に新たな緊張を持ち込む。
 日朝平壌宣言において日朝両国は、「国際法を遵守し、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認」(3項)し、「北東アジア地域の平和と安定を維持、強化するため、互いに協力していくことを確認」(4項)した。昨年8月の第1回6カ国協議における「平和的解決のプロセスの中で、状況を悪化させる行動をとらない」旨を合意し、本年2月の第2回協議における議長総括でも「相互尊重と対等な立場での協議」「対話を通じた平和的解決」をうたっている。
 今回の特定船舶入港禁止法は、外為法による経済制裁の実施とともに、その後の「海上封鎖」や「武力攻撃」に連なるきわめて危険な選択である。
 北東アジアの平和を維持・前進させるための二国間合意や多国間協議が進行している中で、我が国が北朝鮮に対する制裁を定めることは、日朝平壌宣言や6カ国協議という平和の努力に逆行し、新たな緊張を北東アジアに持ち込むものに他ならない。

 さらに自由法曹団は、特定船舶入港禁止法の持つ非人道性を指摘しなければならない。
 特定船舶の入港禁止は、在日朝鮮人の祖国に住む家族・親族との往来、衣類・日用生活品等の送付に支障を来し、ひいては北朝鮮の民衆の生活を圧殺しかねない。イラクのフセイン政権に対する経済制裁が、病人や子どもたちに犠牲をもたらしただけであったという教訓にてらせば、経済制裁はきわめて非人道的手段であり、かかる手段を北朝鮮に対し実施することに自由法曹団は反対せざるをえない。

 自由法曹団は、特定船舶入港禁止法に強く反対するとともに、参議院においては、慎重に審議をしたうえで、本法案を廃案とすることを求める。

2004年6月3日
自 由 法 曹 団