<<目次へ 【声 明】自由法曹団


労働基準法「改正」案の参議院での審議にあたっての各党への要望

  1. 本年二月一〇日閣議決定され国会に上程された労働基準法「改正」案は、九月三日の衆議院労働委員会で自民、民主、平和・改革、自由、社民の与野党五会派の共同「修正」の上、可決された。法案は参議院に送付され、九月七日、参院本会議で趣旨説明が行われた。参議院審議にあたって自由法曹団は共同修正案に対する見解と参議院審議についての要望を以下明らかにする。

  2. 私たち一五〇〇名を超える弁護士で組織された法律家団体である自由法曹団は、一貫して今回の労働基準法「改正」が一日八時間労働の原則を崩壊させるなど、一方的に企業に対する法的規制を緩和するもので、五四〇〇万人労働者とその家族、つまり国民の四分の三の生活を根底から破壊するものであることを指摘し、法案に厳しく反対してきた。

  3. ところが、先の臨時国会における衆議院労働委員会での審議の最終段階では、施行を一年遅らす、新裁量労働制の導入にあたっては本人の同意を要件とするなど法案の危険な本質を何等変えるものではない小幅な修正を施した「修正」案を衆議院労働委員会田中慶秋委員長(当時)の私案としてまとめ、これにより政治的決着を図ろうとする動きが突如浮上した。だが、これに対しては労働界が一致して反対し、結局は委員会審議の対象とならずに法案は継続審議となった。今回の五党の共同「修正」案は、田中「修正」案に加え、裁量労働制の対象業務について三者構成の専門委員会を設置して、最低でも一年程度の検討を行うこと、育児や介護を必要とする女性労働者への激変緩和措置として残業の上限を年間一五〇時間とする等の「修正」をしたものである。これらの新たな修正点もいずれも今回の労働基準法「改正」案の有する問題点を到底克服してはいない。

  4. 今回の衆議院労働委員会での法案可決の動きの特徴は、以下の三点である。
     第一に、五党共同「修正」は、いずれも労働基準法「改正」案の有する重大な問題点を是正したものではなく、@一日八時間労働の原則を崩すことに反対し、A安定雇用の破壊になることに反対し、B男女共通の労働時間の規制を求める全労働者と法曹界ならびに広範な国民の要求に反するものである。それはまた、新たな裁量労働制の削除と男女共通の労働時間の規制を求めた連合の対案(修正)要求とも大きく隔たったものである。
     第二に、今回の「修正」案の可決は、先の参議院選挙において下された弱者切り捨ての自民党政治に対する国民の厳しい審判にも反するものである。
     第三に、これだけ賛否の分かれる重大な問題について、突如浮上した「修正」案(再「修正」案)について十分な審議もせず、密室での政党間の「談合」で採決を強行したことは、議会制民主主義に対する冒涜である。

  5. 今回の労働基準法「改正」案の内、少なくとも、@新裁量労働制の導入をしないこと、A変形労働時間制の拡大をしないこと、B時間外・休日・深夜労働の男女共通の法的規制を行うことの三点での修正が図られぬ限り、自由法曹団はこの法案に賛成することは絶対に出来ない。
     私たちは、参議院は決して衆議院のカーボンコピーではないし、あってはならないと考える。私たちは参議院での審議にあたって各党・各議員が直近の国民の審判、国民の要求が反映しての各議席構成をもっており、その意味ではよりよく国民の意思を代表していることに確信を持って、労基法の改悪を許さず、一致可能な要求を実現するために審議を尽くすことを強く求めるものである。

一九九八年九月九日
自 由 法 曹 団