<<目次へ 【声 明】自由法曹団


声明(労働法制参院通過)

  1. 本日正午すぎ、参議院は、本会議での質疑討論もせずに、戦後最大の改悪である「労働基準法の一部改正案」を、日本共産党、及び福島瑞穂(社民党)、中村敦夫(無所属)、島袋宗康(二院クラブ)三名の議員の反対にもかかわらず、その余の各党の賛成で可決成立させました。
     政府提案の法案は、 @新裁量制の導入と変形労働時間の要件緩和によって、一日八時間労働の原則を根底から崩す、 A三年短期雇用制度の新設で、安定雇用の原則を破壊する、 B男女共通の労働時間の法的規制を放棄する、というものでした。
     法案は、五、四〇〇万労働者とその家族、国民の四分の三の人々の生活と権利を破壊し、人間らしく働くための労働条件の保障は国の法律で行うという憲法の大原則に反するものでした。
     法案の狙いはただひとつ。それは憲法と世界の労働のルールに反して、長時間・過密、低賃金・差別不安定雇用の拡大による数十兆円の大儲けをくわだてる財界の労働・経済政策の強行のためのものだったのです。

  2. 私たち自由法曹団のみならず、日弁連をはじめとする広範な弁護士、法律家、そしてなによりもこの法律の直接の適用対象になる労働者から法案に対してつよい反対の声があがりました。衆参両院での法案の審議にあたっても、一貫して法案に反対してきた日本共産党はもちろんのこと、その他の各党からも相次いで批判や疑問が出されていました。
     にもかかわらず、今国会で、衆議院でまず、日本共産党を除く五党間で、国民の目にふれないところで密室協議され、突然五党共同修正案がわずか一日、一時間の委員会審議で可決、そして参議院でも一言一字の修正もなく、しかも参議院本会議での討論も省略してあわただしく可決するという異常な事態になったのです。

  3. 法案に加えられた修正は、 @「働いても働いていないとみなす」新裁量制について、本人の同意を必要とすることを労使協定にもりこむこととし、かつ施行を一年間延ばす、 A激変緩和措置の対象となる女性労働者についてのみ延長労働時間上限の基準(行政指導上の基準)を年一五〇時間とする、というものにすぎません。法案の重大な問題点を解決したものではけっしてありませんでした。
     自由法曹団は、法案の重大な欠陥を可能な限りとり除き、少しでも人間らしく働くルールにするために、 @新裁量制の削除、 A変形労働の拡大条項削除、B短期雇用の新設削除、C男女共通の労働時間の規制、もしそれが間に合わなければ女子保護規定の廃止についての施行延期を求めました。この要求は「労働法制中央連絡会」「『女子保護』均等法中央連絡会」はじめとする広範な労働者の一致した要求でした。しかも私たちは、これらの修正要求の一部であっても、各党が一致点において修正することをつよく求めたのです。この修正要求は、日本共産党の主張と一致していました。それだけではなく参議院労働・社会政策委員会での六人の参考人中、自民党推薦の一人をのぞく全員の意見とも基本的に一致するものでした。にもかかわらず、圧倒的多数の国民の道理ある修正要求をまったく無視して、法案を審議をつくさず可決したのです。それは圧倒的な労働者・国民の要求に反したというだけではなく、参議院選挙で示された民意に背くという点で、“二重の暴挙”に外なりません。

  4. 自由法曹団はけっして暴挙に甘んじません。改悪法と、これをテコとしての労働者の権利侵害を阻止し、人間らしく働くためのルールを確立するたたかいは、むしろこれからが正念場であり、勝利の展望があることを確信し、以下の行動を労働者・国民に呼びかけ、ともにたたかいます。
     第一に主戦場である職場で反撃しようではありませんか。新裁量制も、変形労働制の拡大も、職場で団結して労使協定を結ばなければ絶対に適用できないのです。ナショナルセンター、単産、単組の力を結集して広範な未組織の労働者とも共闘してたたかおうではありませんか。
     第二に残業代の不払、疑似裁量制など、目の前の職場で横行している労基法の違反を是正させるとともに、最低労働条件である労働基準法を上回る労働条件の確立、たとえば深夜労働についての合理的規制などの要求を攻勢的にかかげて行動しようではありませんか。
     第三に、法改正にともなう政省令の改変・制定について、国会答弁での約束を完全に実施させる立場に立って要求をつきつけるとともに、法や政省令の実施についてひとつの手抜き、ひとつの違反をも許さないたたかいを起こそうではありませんか。
     第四に、九九年四月一日の女子保護規定の撤廃前に、男女共通の労働時間の規制が実現しないなら、女子保護規定の施行を「三年間延期する」という「整備法」の一部改正を要求する全国民的な運動をおこし、必ず実現しようではありませんか。
     第五に、使い捨て、人ころがしの合法化をねらう労働者派遣法阻止の運動を広げようではありませんか。

  5. 私たち自由法曹団は女子保護規定撤廃に反対するたたかいに始まるこの約二年有余のたたかいに参加し、我が国の労働者の人間らしく働くことを求めるつよい要求とその実現のためにたたかう大きな力をあらためて知ることができました。労働者だけではありません。日弁連の反対、二七〇をこえる自治体議会の反対決議など労基法の改悪に反対し、人間らしくはたらくためのルールの確立を求める要求は明らかに国民の圧倒的多数のそれであることは明らかです。「悪法はとおっても、労働者・国民の要求を消すことはけっしてできない」「悪法に泣き寝入りする時代は終わった」「人間らしく働くルールを要求して共同を広げ不屈にたたかうあたらしい労働運動が始まった」「要求の実現、勝利への展望は確実にある」───私たちはそのことを確信し、もっとも人間らしい要求の実現のために、そして人権を守り、発展させ、そのことによって国民が主人公となる二一世紀への道を開くために全力をあげてたたかうものです。

一九九八年九月二五日
自由法曹団