<<目次へ 【声 明】自由法曹団


憲法調査会の設置に反対する声明

 現在、衆議院議院運営委員会内に設けられた国会法改正小委員会で、「憲法調査会設置法案」の国会提出をめぐる審議がされている。報道によれば、政府与党と一部野党が、反対する野党が存在するにもかかわらず法案の国会提出を強行する策動を続けているという。これは憲法施行後はじめて、憲法改正の発議権をもつ国会の場で、公然と憲法改悪に向けての論議を行う常任委員会を設置しようとするもので、極めて重大な事態である。
 五月二四日、政府与党は、国民多数の反対、多くの自治体の懸念、アジア諸国の大きな憂慮を無視し、新ガイドライン関連法を強行成立させた。この法は日本を、再びアジアの国と民衆に対し加害者として「戦争をする国」につくりかえてしまおうとするものである。この法は、わが国が、憲法九条の禁ずる武力の行使ないし武力による威嚇を発動する戦争行為に乗り出すことを公然と認めている。この法は、住民の安全と福祉を守ることを責務として自治権が認められた地方自治体(憲法九二条)と、生命・自由・幸福を追求する権利(憲法十三条)をもつ国民を戦争へ動員する仕組みをつくろうとするものである。私たちは、新ガイドライン関連法は明確に憲法に反し、無効であると考える。
 政府与党は、これまでも憲法を踏みにじった幾多の法律をつくり、人権侵害の現実を放置し、「憲法と現行法制との乖離現象」の原因をつくってきた。そしていま、「憲法調査会」を国会の常任委員会として設置しようとする。その動機は、憲法について論議するところにあるのではなく、憲法九条を筆頭に人権保障、地方自治をはじめとした憲法の諸原則を為政者に都合よいものに変えようとする明白な企図にある。
 このような企図をもつ常任委員会を国会内に設けることは国務大臣および国会議員の憲法尊重擁護義務を定めた憲法九九条に反し、とうてい認められない。
 手続き面でも国会の構成にかかわる国会法の改正は全会一致で行うという原則が確立している。このルールは議会制民主主義の根幹をなすものである。ましてや憲法にかかわる常任委員会を設置するという日本国憲法史上先例のない事柄を決めるのに、全会一致の原則を破壊することは絶対に許されない。 
 一九二一年に創立された自由法曹団の団員は、戦前戦中、侵略戦争に反対する国民の弁護活動を勇敢・不屈に行った。そして、団員自ら治安維持法により弾圧された苦難の歴史をもつ。戦後は数多くの憲法裁判に関係してきた。私たちは、戦争を放棄し、豊かで徹底した人権保障規定をもち、地方自治を保障する日本国憲法を世界でも先進的なものとして誇りに思っている。本年五月のハーグ世界市民平和会議に世界百余国から一万人のNGOが集った。そこで確認された「公正な世界秩序のための基本十原則」のトップに憲法九条が引用された。
 私たちは、日本国憲法を二一世紀に引継ぎ、憲法原則がいっそう実現する社会をつくることを強く決意している。政府と国会議員が公然と憲法を攻撃する場を与える「憲法調査会」の設置には断固反対する。

一九九九年六月一九日
自由法曹団常任幹事会