<<目次へ 【声 明】自由法曹団


盗聴法案の強行「採決」に断固抗議し委員会への差し戻しを求める

一 八月九日、参議院法務委員会において、自民党、自由党、公明党は、盗聴法案を含む組織的犯罪対策三法案を、野党(民主党、日本共産党、社会民主党、二院クラブ、国民会議)の反対を押し切って、強行「採決」した。荒木参院法務委員会委員長は、採決にあたり、採決する法案の宣言を行わないなど重要な瑕疵があり、法務委員会での「採決」は存在せず無効である。
 我々は、昨年三月に組織的犯罪対策三法案が上程されて以来、今日まで反対の立場から、一切の修正を許さず、強く廃案を求めてきたものであり、このような強行「採決」に断固抗議し、参議院法務委員会への差し戻しを強く求める。

二 盗聴法案は、基本的人権としての通信の秘密・プライバシー権に対する重大な侵害を伴い、いつ、だれが、どのような会話を交わすかを予め特定できない令状は事実上無制限の盗聴を警察に許してしまう結果となることなどから、修正の余地のない違憲立法であると言わざるを得ない。
 今回強行「採決」された盗聴法案は、衆議院において、盗聴の対象犯罪を「薬物関連犯罪」、「集団密航関連犯罪」、「銃器関連犯罪」、「組織的な殺人」に限定し、令状請求権者・令状発付権者の限定、立会人の常時立会などの修正を加えてはいる。
 しかし、修正案でも、電話からパソコン通信などありとあらゆる通信手段に対する盗聴を悉く容認するだけでなく、該当性判断のための盗聴、将来犯されるであろう事件の盗聴、別件盗聴も広範に認めるなど、各界から指摘されてきた法案の違憲性、重大な人権侵害を生む多くの問題は、まったく改善されていない。また、立会人の常時立会の点についても、立会人は会話等を聞くことができず、また、切断権もない以上、実効性はなく違法盗聴の歯止めにはなり得ないことが明らかである。

三 しかも、参議院の審議において、携帯電話間の会話の盗聴が技術的に著しく困難であること、パソコン通信の場合には全部の通信を見られてしまうことなど数多くの問題点が次々に明らかになり、盗聴法案が組織的犯罪には何の効果もなく、侵害されるのは犯罪と何の関係もない市民のプライバシーだけであることが明らかとなった。こうしたことから、国民世論もマスコミもこぞってこれに危惧の念を表明してきたところである。それにもかかわらず、自民党、自由党、公明党は、連合審査などさらに必要な審議もまったく行わないまま、こうした意見をまったく無視して昨日の法務委員会の開会を強行し、数を頼んで強行「採決」をしたのである。

四 市民の人権に重大な影響を与える法案の審議及び「採決」が、衆議院だけでなく「良識の府」としての参議院においても、議会制民主主義を蹂躙する方法で強行されたことについて、我々は断固抗議するとともに、盗聴法案の修正を一切許さず、法務委員会への差し戻し審議の上、廃案とするよう重ねて強く求める。

一九九九年八月一〇日
自 由 法 曹 団