日産リストラ反対闘争に熱い支援を

東京支部  北 川 慎 治

 去る一二月二三日、日産村山工場の閉鎖を含むリストラ計画に反対する大集会とデモが、立川市御影橋公園を中心に行われました。
 比較的交通が不便な場所であったにもかかわらず、会場には全国各地から三〇〇〇人近い人々が集まり、また、会場には「兵糧米」?としてこれまた各地から寄せられた米や野菜が運び込まれるなど、大変な盛況ぶりでした。
 午後からは、会場を立川に移し、集会・デモに参加した団員を中心に、今後の弁護団活動等についての対策会議が行われました。
 まず日産の組合員の方から、現場報告が行われ、村山工場の閉鎖により、多くの労働者が東京に戻れる見通しがない単身赴任を余儀なくされること、特に家族に深刻な問題を抱える家庭では、家庭崩壊を免れるために退職せざるを得ないこと、また退職したとしてもこの不況の中で、将来の見通しは全く立っていないこと、幸い家族全員で引っ越しができた場合でも、それまでやっとの思いで手に入れた自宅を手放さざるをえず、自宅を売却した後にローンが残る場合には、こうした借金まで抱えて新たな地でまた一歩から出直さなければならないこと、こうした問題をクリアーできたとしても、新しい工場で待っているのは年間二千数百時間というこれまで以上に過酷な長時間の過密労働であること、会社は一定の労働者を村山に残すとか、面接調査を行うなどとしているものの、その実態は、あらかじめ職種ごとに決められている勤務先(栃木工場か追浜工場)が印刷された面接カードを示され、これに応ずる意思があるかどうかを確認する程度の形式的なものであること、などの報告がなされました。
 こうした深刻な状況報告を承けて行われた討論では、会場に詰めかけた弁護士らから多くの質疑と問題提起がなされ、議論はいっそう白熱し、結局、会場が時間切れとなった後も、会場外で打ち合わせが行われるなど、大変熱心なものとなりました。
 最近の関電事件、日本航空事件、丸子警報器事件などにもみられるように、不況・リストラの嵐が吹き荒れる中でも、こうした労働者を中心とする熱いたたかいは、これまでの労働法制や解決水準を確実に前進させる大きな原動力となっています。
 整理解雇の四要件など、これまで築かれてきた労働者の諸権利を壊滅させないためにも一緒に頑張りましょう。

 団・日産リストラプロジェクトチームでは一月二二日の拡大幹事会での討議を経て、意見書を発表する予定です。


市民主体の司法改革の実現に向け

―市民ネットワークと市民会議が旗揚げ

東京支部  高 見 澤 昭 治

 昨年一二月二〇日、市民主体の司法改革を担う運動組織として、「司法改革市民ネットワーク」が発足し、その場で「司法改革市民会議」を設立するとともに市民会議の委員を選任し、活動を開始した。
 政府に司法制度改革審議会が設置され、善くも悪くも二一世紀の司法のあり方が決定づけられようとする状況を迎えつつある。そうした中で、日弁連など弁護士会内では活発な議論が行われ、弁護士会が呼びかける市民集会などが各地で開かれてはいるが、市民のための司法改革といわれながら、これまで市民主体の司法改革をめざす本格的な運動組織が存在しなかった。財界でも「司法改革フォーラム」という組織を結成して運動を開始したが、市民の側にもようやく本格的な市民運動組織が誕生したことになる。
 「市民ネットワーク」は、司法に関心のある一般の市民、労働者、消費者、裁判の当事者や、弁護士・司法書士・税理士などの法律実務家、それに学者・研究者などの個人と、市民団体や労働組合、国民救援会をはじめとするさまざまな支援団体などが幅広く結集し、市民のための司法改革を進める運動体として結成された。
 「市民会議」は、政府の審議会に対するいわばシャドー・コミティーとして、意見書や提言を取りまとめるために、司法に見識の深い学者、文化人、それに労働組合や法律家団体などの代表が委員として選出された。「市民ネットワーク」と「市民会議」とは表裏一体となって、司法改革に向け、強力に市民運動を展開することが期待されている。自由法曹団からは豊田団長が「市民会議」の委員に選任され、「市民ネットワーク」の運営委員会にも自由法曹団として参加が要請されている。
 司法改革については多くの課題があるが、運動を大きく発展させ、諸悪の根源ともいうべき官僚司法制度を廃止するために、@法曹一元を中核とする裁判制度の民主化、A司法への市民参加としての陪審・参審制の導入、B裁判官の増員などを実現するための司法予算の増大を目標に、その実現に向けて一致して運動することを申し合わせた。そして旗揚げをした翌二一日には、早速政府の審議会にその趣旨を申し入れた。
 二月二六日にはシンポジューム形式で、第一回目の「市民会議」を開催することを予定している。映画『日独裁判官物語』は約半年で一二一ヵ所の上映を達成し、新たに一〇〇〇ヵ所上映運動を呼びかけているが、市民主体の司法改革を実現するために、同映画なども活用しながら、全国各地で「市民ネットーク」作りに協力をお願いしたい。


商工ローン問題と弁護士

福岡支部  永 尾 廣 久

□ 新年号ニュースの特徴

 今年の正月はまさに陽春であり、希望に満ちた二〇〇〇年時代の幕開けにふさわしかった。例年と同じく、うららかな陽差しのもとで各地の法律事務所から送られてきたニュースの新年号を丹念に読んでいった。今回の特徴は、商工ローン問題が他を圧倒していたということである。しかし、いったい一般のクレサラ破産事件はその後どうなったのか、そこで何が問題となっているのか、ほとんど読みとれない点に私としては大いに不満が残った。一昨年の一〇万件の破産申立が昨年はさらに増大して一二万台にのぼるものとみられる状況のなかで、裁判所の「一丁あがり」式の処理はさらにすすんでいる。これを手放しで積極評価していいものかどうか、私は前から大いに疑問に思っている。申立した日に即日破産宣告がなされ(東京・名古屋)、個別の破産審尋を省略して大勢の破産者を集めて訓示を垂れて終わらせている(大阪、福岡など)。二年とか三年かかって積立させて一部弁済するという方式(かつての東京地裁方式)は過去のものとなりつつある。本当にそれでいいのだろうか?そして、今、東京地裁では新しく簡易管財人制度が始まった。低額(二〇万円)の予納金を管財人 費用にあて、申立から四ヶ月以内で処理を終わらせるという前提のなかで管財人が調査をし、免責相当か否かの意見を出すというシステムである。管財人が選任されるケースが月五十件もあるというから、まさに画期的だ。
 しかし、「四ヶ月内処理」の前提を崩すことなくこのシステムが動いていくとき、本当にこれが改良といえるのだろうか?私には、これは、「なんでも免責」を主張してきた弁護士会に現実を直視させるための裁判所の「陰謀」ではないかという気がしている。それはともかくとして、こんな話がどこのニュースにも出てこないことに寂しさを私は覚えた。
 ここまで読んだ人は、私の日頃の言動を知っている人は、「ああ、また永尾方式の宣伝か」と思うかもしれない。しかし、今回の私の言いたいことは実は次の点なので、ぜひ、もうしばらく我慢して引き続き読んでほしい。

□ 商工ローン問題と弁護士

 商工ローン問題に弁護士が全国的に弁護団を組んで頑張っていることは、もちろん私も知っている。そして全国弁護団の中心メンバーに全国各地の団員の弁護士が多数いることも公知の事実である。
 ニュースのなかでは、全国弁護団の取り組み(成果)を反映して、取引経過の開示、利息制限法による元本充当計算の活用、取立禁止の仮処分、手形取り戻し執行など、いろいろな紹介がなされている。また、押し付け過剰融資、高金利や根保証の問題などの解説もなされている。しかし、私は、一般市民向けの解説を使命とするというニュースの限界はあるにせよ、そこまでは、新聞(一般紙や赤旗)を注意深く読めば分かるので、さらに突っこんでほしいという欲求不満を覚えた。
 いったいどうして、商売人があんな超高金利に手を出してまで商売を続けようとするのか、手形不渡りを免れたとして、その業者は本当にその後の商売はうまくいくのか、日栄や商工ファンドの2社をつぶしたとして、それで問題が解決するのか、などなど、私は日頃からいくつもの根本的な疑問をもっており、それらの疑問をぜひ解明してほしいものだと思っていた。

□ 民商運動と商工ローン

 そんな疑問を抱きながらも、私自身は日常業務と弁護士会活動で手一杯のため、商工ローン問題には十分な取り組みをすることができず、大牟田市近辺の商工ローン被害者は福岡市の椛島敏雅弁護士へ次々に紹介していくという対応をしてきた(わが法律事務所にもう一人か二人の弁護士がいたら、もちろんそんなことはしなかっただろう)。
 ところが、昨年暮れもいよいよおし迫ったときに大牟田民商の村中事務局長が「大牟田でもいよいよ商工ローン被害者の会をつくらないといけなくなりました」と挨拶に来られて手渡されたのが民商(全国商工団体連合会)主催の「商工ローン問題全国交流会報告集」だった。私は、この報告集を読んで、商工ローン問題の取り組みの最前線と弁護士(法律事務所)とが、いかに距離があるか、弁護士がいかにあてにされていないかを知らされて慄然とした。この報告集は民商の運動論として、商工ローン問題にいかに取り組むか、よくよく考えた問題提起がなされており、私には大いに勉強になった。
 もちろん、民商の側でも全国すべてで商工ローン問題が取り組まれているわけではない。しかし、当初、「一〇〇人くらいで、問題のある県だけに絞って交流会を開くというつもりだったのが、全県から来た、しかも三倍になったという状態」で全国交流会が開かれ、全国的な取り組みの強化が図られている。
 民商の「商工ローン問題」への取り組みの特徴を私なりにまとめると、民商事務局で請負わないこと、弁護士まかせにしないで本人が周囲の援助を受けて直接交渉や調停を活用して取り組むこと、お互いに励ましあっていく体制をつくりあげるなかで民商運動の活動家として育てあげていくことを強調するという点にある。

□ 商工ローン問題で弁護士に頼まない理由

 この「全国交流会」の報告や発言のなかであげられている弁護士を頼まない理由は次の三点にある。@弁護士費用が高くて、そんなお金は用意できない。A弁護士に相談すると、すぐ自己破産をすすめられてしまう。B弁護士は法的解決に走り、本人の自覚(成長)の機会を奪ってしまう。
 @弁護士費用が高い
  私が報告集を読んで一番ガックリきたのは、日栄に一七八〇万円の八五〇万円で示談した、商工ファンドに二四〇〇万円の借金があったのを二〇〇万円で示談できた。弁護士に頼んで示談できた人が、「弁護士費用はまだ一切支払っていない。お金がないということをご存じだから」と発言をしめくくっているということである。日栄や商工ファンドに合計一〇〇〇万円を支払うお金はあっても、弁護士に払うお金はないという発想には、私も弁護士の一人として泣けてしまう。
  基調報告では、悪徳弁護士にだまされないようにという点がしっかり強調されている。当然の注意ではあるが、そこで、自由法曹団の弁護士と提携しようという呼びかけが全然なされていないことに私は心寂しいものがあった(とは言っても、私自身があまり商工ローン問題に関わっていないことは既に告白したとおり)。
  弁護士費用として、自己破産の場合ではあるが、四五〇万円(借金二億円)とか二〇〇万円とかのケース報告がなされている。「弁護士料は良心的な弁護士さんで、まず着手金三〇万円〜五〇万円。減額分の一〇%。そうすると一〇〇万円以上かかってしまうんです」とされているが、これは、順当なところだろう。   弁護士の側からすると、高額の事件であり取立禁止の仮処分など急を要する事件だけに一定のまとまったお金をいただかないと割に合わない気持ちになるのは当然のケースなのだが依頼者の気持ちからそれがずい分とかけ離れているという一例だと思った。
 A自己破産をすすめられる
  実はこの「全国交流会」では、すぐ自己破産を勧めるというのは弁護士だけではなく、民商事務局やクレサラ被害者の会でも同じようなことを言われるので頼りにならないと批判されている。
  私も、現実には、すぐ自己破産をすすめる弁護士の一人であり、「一回清算して再出発したらどうか」と口癖のように言っている。要は、そもそも商売として成り立つ見通しが客観的にあるのかどうかを見きわめることではないかと私は思うのだが、現実には保証人にだけは迷惑をかけられないとして破産にふみ切れない人が多い。
  「自己破産を容易にすすめているのか」どうかは、ケースバイケースではないかと思うが、今後さらによくよく考えてみたい。
 B法的解決に走り、本人の成長の機会を奪う
  私が、この報告集を読んでもっとも耳が痛かったのは、実はこの点にある。
  弁護士が「法技術の使える職人」として、求められた取立禁止の仮処分などの法的手段のみを駆使すれば本当に解決したことになるのか、ということの反省とあわせて、運動としての取り組に弁護士がいかに関わるのかという問題提起でもある。従来、この点についての議論が弁護士の側に決定的に不足していたと思う。
  とは言っても、「クレサラ被害者の会」と日常的な関わりをもっている弁護士は全国にごくわずかしかいないのが現状であるから、そのような問題意識をもっている弁護士がいるはずもないことになるのだろうか。しかし、国民のたたかいのあるところに団の旗をかかげてきたという自由法曹団の取り組みとして、本当にこれでよいのだろうか?

□ 商工ローン六〇万人の被害者と弁護士

 商工ローンの利用者(大半は被害者であろう)は全国に六〇万人いるという。そして、これらの被害者が「敵」である業者と対決するときに、弁護士は無力であり、弁護士に頼む必要はない(民商がそのように主張しているという趣旨ではない)としたら、国民(この場合、主として業者)にとって、弁護士とは一体何者なのか。
 そこでは、まさに法的紛争が発生しているのに、「法律のプロ」を自称する弁護士はかえって有害かもしれないとされたままで本当によいのだろうか?  私を含めて地方の弁護士のなかには、既に手持ちの事件で手一杯だから商工ローン問題にまで関わる余裕がないという現実がある。そこでは、弁護士を大幅に増やすしかない。六〇万人もの商工ローン「被害者」が法的解決を求めたとき、今いる弁護士で対応できるはずはなく、ここでも弁護士不足は客観的に明らかだと思う。
 しかし同時に、「弁護士に頼むと、どうしても訴訟の方向になる」「我々は弁護士と違って法で勝負をしない。法で勝負すると、業者は非常に錬っているから疲れてくる」「商売をどうやって再建していくかということを基本に相談にのっていくということが重要だ。弁護士まかせの運動では、運動のなかでその人が成長できるのに、その成長の機会まで奪ってしまうことになる」という批判にこたえきれる弁護士としての対応が今求められていると思う。税金の分野では自由法曹団は民商と交流会をもち共同研究もすすめてきたし、運動の分野でも共闘してきた実績がある。商工ローンの分野でそれができないというのはどういうことだろうか?弁護士は単なる法律技術を知っている職人にすぎず、というのだろうか?運動には役立たない存在だという発言を黙って認めておいてよいものだろうか?

「商工ローン問題全国交流会報告集」、全商連発行
電話: 03-3937-4391
FAX: 03-3988-0820
E-mail: tma@mxu.mesh.ne.jp


改正廃棄物処理法後のはじめての不許可決定

三重支部  村 田 正 人

全国ではじめての不許可決定

 三重県知事は、一九九九年十一月十二日、伊勢市矢持町の山林に「活ノ勢環境エンジ」が計画した産廃処分場の不許可決定を通知した。今回の決定は、九八年六月から施行された改正廃棄物処理法のもとで、最終処分場としては、全国ではじめての「不許可決定」として先例的な意味をもつものである。

不許可理由は二点 

 不許可決定は、技術上の基準の不適合と、生活環境保全への適正配慮がなされていないことの二点を掲げている。
 技術上の基準については「@埋め立て地の保有水を有効に集め、速やかに排出することができない。A大雨時などの水圧で遮水工の損傷が懸念される。B産廃流出防止のための擁壁が安全であると判断できない。C土堰堤部分について地滑りが生じないとしているが安全であると判断できない。D放流水の水質が排出基準に適合している維持管理計画であると判断できない」としている。
 また、生活環境保全への適正配慮については、遮水構造が将来にわたり完全に安全であるとは言えず、埋め立て地からの漏水で河川水質を汚濁し水道の水源地を汚染するおそれがあることを掲げ施設から漏水した場合の原因追求や具体的な維持管理体制が確立していないことから、周辺地域の生活環境の保全について適正な配慮がなされているとは認められないとしている。

改正廃棄物処理法のもとでの盛り上がる闘い

 九六年一〇月に結成された「伊勢矢持産廃に反対するみんなの会」(向井弘樹会長)は、改正法のもとでの闘いを準備し、九九年三月、伊勢環境エンジが二度目の許可申請書を提出し、改正廃棄物処理法のもとでの手続が開始されると、約一万一七〇〇人の利害関係者の反対意見書を三重県知事に提出した。「みんなの会」は、伊勢市役所前で、伊勢市長に反対の意見書の提出を求めるすわり込み行動を開始した。伊勢市長は、七月、「安全性の担保がない限り認めがたい」とする意見書を提出し、舞台は、専門家による廃棄物処理施設設置審議会議に移された。審議会議は、公開のもとでの審査を進め、十一月、「水質汚濁などで周辺地域の生活環境に大きな影響を与えるおそれがある」との報告書を三重県知事に提出、これを受けての不許可決定となったものである。

「テント工法」は水源保護の住民運動に破れ去った。

 宮川漁協では、九五年五月、公害対策委員会で反対の意見を集約したうえで計画反対の嘆願書を伊勢市役所と伊勢保健所に提出し、三重県庁環境課にも反対要請を行っていたにもかかわらず、九六年三月、執行部四役が理事会にも総会にもかけずに承諾書を伊勢環境エンジに交付した。そのことが三か月後の六月に発覚するや、四名の理事が辞任する事態となり、九月の臨時総会で承諾書の無効を確認する決議がなされた。
 このため、伊勢環境エンジは、九七年三月、浸出水を河川に放流しない「テント工法」に計画を変更し、宮川漁協の承諾書がいらないとして事前協議をクリアしようとした。
 伊勢保健所は、業者に呼応し、同意書をめぐる問題は終了したとして、九八年(平成一〇年)六月、事前協議の終了(事前承諾)を通知し、本申請による許可申請をするばかりとなっていた。
 廃棄物処理法の改正がなされなければ、三重県知事は、事前協議が終了した案件として許可をしていたと思われる。
 「テント工法」が認められると、全国の水源地での立地が可能となることになり、水源保護の運動に悪影響をもたらしかねないものであった。しかし、「テント工法」は、水源保護を求める伊勢市民の願いの前に破れ去ったのである。  

                           

【シリーズ】改憲策動粉砕(第二回)

二人の党首の改憲論(文藝春秋九月・一〇月号)の概要その@

東京支部  小 部 正 治

1 沖縄改憲問題特別対策本部の取り組み

 内藤団員からの「時間のあるうちに改憲問題の学習会を」という提案に基づき学習会が昨年一二月一三日に開催された。同日、松島団員から読売の憲法改正試案及び平和基本法要綱案についての批判的紹介がなされた。私は、文藝春秋九月号の自由党党首小沢一郎の「日本国憲法改正試案」と同一〇月号の民主党代表(当時幹事長代理)鳩山由紀夫のニューリベラル改憲論「自衛隊を軍隊と認めよ」の二つの論文に関して紹介をしたので、団通信に掲載すべきと勧められ、その要点を団員に報告することになった。
@二つの論文の関係
 小沢論文は、検討している改正条文まで提示してほぼ全面的に改正すべき部分につき具体的に提案し、憲法改正について「議論をしてはいけない」という発想を改め、「戦後の日本のタブーに異議を申し立てる決意を固め」、「出来るかぎり自由な発想による憲法論を展開して、国民の冷静な判断を仰ぎたい」と述べている。
 これに対して鳩山論文は、小沢論文に批判を加えたものであり、「私なりの改正試案」は将来発表したいと書いているとおり持論を全面的に展開したものではないが、いくつも大胆な提言をしていて検討に値するものである。同時に、「今の憲法でいいのかどうかという議論をしていきたい」「それをやらないと、国を第一とする観点から(小沢らの動きをさす)の憲法改正の議論に追いつめられていきかねない危機感もある」というように、積極的な改憲論議を勧めている。 A現在の政治状況の認識ー鳩山の三分論
 鳩山論文の冒頭に、小沢論文は「あくまで総保守の与党的な立場を代弁した憲法改正試案」であり、さらに言うと国家主義的な試案であり、そのまま受け入れることは出来ないという。同時に「日本でリベラルというと頑固な護憲思想と嫌米意識を持ち、極めて平等主義的な発想から弱者保護を徹底的にやるという大きな政府思考の政治姿勢」と切り捨てている。しかし、「ニューリベラル」は方向性が逆で、「憲法改正は大いに議論すべきだし、基本的には親米意識を持ち、市場経済にもっと自由と自律性を持たせ、政府の役割はなるべく小さくしていくべき」と自画自賛している。

2 小沢論文の特徴

 第一の特徴は、松島団員の前記の報告を聞いているうちに何度も感じたことであるが、読売の憲法改正試案と極めて共通性が多いということである。例えば「前文」は「シンプルであること」、「我々の伝統や文化に基づいた日本人独自の内面的資質についても踏み込むべき」と記載されているが、読売試案はそのように提案している。
 また、天皇の元首的取り扱い、国際協力の条文創設、基本的人権と公共の福祉の調和、憲法裁判所の創設、改正条項の緩和など詳細は省くが改正内容に置いて共通性をもつ。
 第二の特徴は、天皇元首制、自衛隊合憲の根拠を作る、すべての基本的人権よりも公共の福祉を優先させるの三点が中心にあるというべきである。これは、現在の政治情勢であるアメリカ有事のガイドライン法の成立から日本有事法制への立法の流れ、日の丸・君が代の法制化・天皇在位一〇年記念行事の流れ、盗聴法・新住民基本台帳法・新オウム立法の流れと完全に表裏一体のものといえよう。国家・天皇を国民の上に置き、国民は支配される対象であるとする国家主義的色彩が極めて強いものであり、鳩山でなくてもノー・サンキューとお断りせざるを得ないものである。
 さらに、小沢が改正すべきとする主な項目をあげておく
@第九条は、自衛権は「人間に譬えれば正当防衛権である」として、第三項を設け、「前二項の規定は、第三国の武力攻撃に対する日本国の自衛権の行使とそのための戦力の保持を妨げるものではない」との条文を置く。
A「国際平和」の条文を創設し「日本国民は、平和に対する脅威、破壊及び侵略行為から、国際の平和と安全の維持、回復のため国際社会の平和活動に率先して参加し、兵力の提供をふくむあらゆる手段を通じ、世界平和のために積極的に貢献しなければならない」と規定する。さらに、国連常備軍の創設を提案し、日本は人的支援と経済力を供出すべきという。
B「公共の福祉」の項目を基本的人権の冒頭部分にかかげ「この憲法の保障する基本的人権はすべて公共の福祉及び秩序に遵う。公共の福祉及び秩序に関する事項については法律でこれを定める。」という条文を置き、基本的人権を法律によって制限されることをはっきりさせておく必要がある。盗聴法は国防を含めた治安維持に、住民台帳は安全保障や緊急時の危機管理に、それぞれ必要だ。
C「参議院は選挙によらない名誉職的なものにして、立派な業績や顕著な実績のある方に、大所高所からご審議願うという制度」にすべきとし「参議院議員は衆議院の指名により天皇が任命する。その任期は終身とする」との条文をおく。
D内閣の超法規的措置を許すなとして「内閣は国又は国民生活に重大な影響を及ぼす恐れのある緊急事態が発生した場合は、緊急事態の宣言をする。緊急事態に関する事項は法律で定める」との条文を置き、戦争や天災に備えて非常事態の時の権限を付与する。
E「憲法裁判所は、一切の法律、命令、規則及び処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する」との条文を置き、唯一の違憲立法審査権を与え元裁判官や有識者から国会又は内閣が指名し、マニアックな憲法訴訟をどんどん却下するなど迅速に結論を出す。
F現行憲法改正条項では改正できないので、総議員の三分の二を二分の一に改正し、かつ国民投票を国会よりも先に行うようにする。
(つづく 次回は続・小部論稿、鳩山の小沢論文批判の特徴など)


イースタン争議の報告

東京支部 板 垣 光 繁

1 イースタン・モータース(資本金五千万、三五四台、従業員七五六名、組合員五〇一名)は、一九四六年以来のハイヤー・タクシーの老舗として知名度をもつイースタン・グループ九社の本社格の会社であったが、九四年度から五期連続赤字を計上しグループ全体の負債総額は一六〇億円が見込まれ、モータース一社の九八年三月期の営業損失は約二億円、累積赤字は五七億円、長短期借入金は六七億円に達していた。
2 九九年三月三一日、悪質資本として名高い大阪の北港梅田グループ(古知資本)が、グループのうち黒字経営の二社を除く七社の株式を取得し、四月九日に同社に乗り込み、身分一新策(従業員全員に「任意」退職を求め改めて再雇用するという内容)を提示。再雇用の労働条件は公表されず、まず退職届を提出させ、そのうえで個別に再雇用の条件を口頭で説明するが、その内容は賃金の大幅な切り下げであり、これに不満な労働者はそのまま退職せざるを得なくなる。さらに会社は身分一新策に同意しない限り、夏季一時金を支給しないことを表明した(即ち、同意すれば従前の例により一時金を支給する)。
 これに対し自交総連イースタン労働組合は、全従業員の雇用継続による会社再建を要求し、組合の存続を目指し、五月七日、「会社再建問題について、会社及び組合は全て団体交渉において真摯に協議し決定して行うものとする。」との確認書を調印させた。
3 しかし、会社は七月五日の団交で、組合を恫喝したうえ、退職に応じなければ夏季一時金は支給しないと再々度明言し、支給期限である七月一〇日を経過した。
 更に、七月一四日、全営業所に「全社員各位に告ぐ」を掲示し任意退職募集を強行した。その結果、組合員を含む四六名が退職に応じた。
組合は、八月三日に退職募集禁止の仮処分(被保全権利は協定書の義務履行請求権と団結権)を東京地裁に申請した。すると会社は八月五日に予定していた第二次退職募集を中止し、団交で今後は退職募集をしないことを表明したので、一〇月末まで監視したうえで右申請を取り下げた。
4 一時金については、本訴を選択し、一時金支給の基本的合意が就業規則及び労使慣行によって成立しており、支給額の決定方式、支給対象期間、支給時期、支給方法が確定しているから一時金支給は労働契約の内容であること、夏季一時金について差違条件による具体的な労使合意があること(会社側は夏季一時金の各人の支給額について算定作業を終え右資料を作成していた)、また、債務不履行に基づく一時金相当額の損害賠償請求権、更に不法行為(不当労働行為)による同額の損害賠償請求権にも配慮して、本訴提起の準備をしていた。
 ところが、会社は八月中旬頃から一時金について軟化し、八月三一日に夏季一時金が支給された。
 そして、一〇月から一一月にかけて各職種ごとに新賃金体系の調印を経て、争議は一応の解決をみた。組合は会社再建の必要から一定の賃金低下を認めたが、会社の賃金切下げ案を退けることができた。
5 会社の譲歩の背景には、多額な債権を有する銀行が本格的な争議を嫌い、保証債務を負った古知資本がこれに従わざるを得なかった事情が推定できる。
 しかし、身分一新策を掲げて無敗を誇ってきた古知資本は、イースタンで一敗地にまみれた結果となった。自交労働運動は、その今後に自信をつけたと思われる。
 この間、組合は一支部一三一名の組合員の脱退(水面下で画策されていた)、第一次退職募集に応じた二三名の脱退という組織的な損害を受けたが、組織の骨格を残しており、再組織の見通しも明るく、基本的には会社に勝利したと総括している。


聖パウロ学園・鈴木ら二名に仮処分決定、再度の解雇も無効

滋賀支部  玉 木 昌 美

聖パウロ学園の鈴木孝敏ら二名の専任講師が、聖パウロ学園を相手に地位保全、賃金仮払いの仮処分を求めていた事件で、大津地方裁判所(末永雅之裁判官)は、平成一一年一二月二七日、申立てを認める決定を下しました。
 鈴木氏らは、学園から平成七年三月三一日付で雇い止めを言い渡されましたが、この雇い止めは無効であるとして地位保全等の仮処分決定を取得し、一審、二審で勝訴しました。そして、学園は最高裁に上告したものの、平成一〇年一二月一四日付で上告を取下げたことにより右勝訴判決は確定しました。
 ところが学園は判決に示された原職復帰を認めようとせず「法人局付」とし、団体交渉においても「再教育」の内容も「法人局付」にする理由も明らかにしませんでした。組合側と学園側との職場復帰をめぐる紛争が継続する中、学園は平成一一年一月二五日付就労命令に応じないとして、同年二月一五日付通知書により同月一六日付をもって鈴木氏らを再度解雇しました。
 この事件では、右就労命令や本件解雇が業務命令権又は解雇権の濫用として無効であるかが争点になりました。
 本件決定は、事務職員としてとにかく就労するように命じた「本件就労命令の発令は業務命令権の濫用というべきである。」と断じ、「本件解雇は、本件就労命令を前提としているうえ、教育職として就労の意思を明確に表明しているにもかかわらず、団体交渉の中で業務や職種の内容の説明等を求めていることをもって就労の意思がないと勝手に判断し、それを理由として行ったものであって、解雇権の濫用であり、無効というべきである。」としました。
 学園は本件事件係属後初めて「再教育」の内容は学習・研究・レクチャーであるなどと主張しだし、その必要性を強調しましたが、これについても本件決定は「債務者は、組合からの再三にわたる『再教育』の具体的内容の説明要求を頑なに拒否していたことや、暮石及び鄭に対する業務の内容に照らせば、本件就労命令が債務者主張のような『再教育』を内容としたものであったとは到底認められない」と明確に学園の主張を退けました。尚、学園の要請に従って就労した暮石、鄭氏らに対し教育職への復帰を認めず、事務職員扱いにして人権侵害を繰り返しています。
 本件はそもそも学園が確定判決にも従わないことから発生した異常な事件です。理事長や校長は団交の席や裁判所の審尋に出席することもなく、この問題についてノータッチという対応で、人権侵害を繰り返す労務担当者に任せきりにしています。これ以上学園の鈴木氏ら四名に対する人権侵害を許すことはできません。学園は一日も早く鈴木氏らを教育職として職場に復帰させなければなりません。


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