団通信980号(4月1日)

二〇〇〇年静岡五月集会のご案内

静岡・舘山寺五月集会に集まろう

幹事長  鈴 木 亜 英

 各地で桜の便りが届きはじめました。花と緑に溢れた季節の中にあって、私たちの活動も伸び伸びとした前進を遂げられればうれしいですね。皆さんお元気ですか。五月研究討論集会のお誘いをしたいと思います。
 五月集会は団がいま取り組んでいる様々な分野の裁判と運動の到達点を確認しながら、抱えている課題を討議するという目的を持って開催されるものです。今年は一一分科会を用意しました。不得手な分野に新たな興味を持つことができるのも五月集会の特徴です。友人と旧交を温めることができるのもこの五月集会のよさです。日頃の日常業務に疲れ気味の方には休息の場にもなります。
 いま司法改革が焦点です。司法改革は全ての弁護士にとって共通の課題です。裁判と運動を考えるうえで司法の実情は無視できません。司法改革が必要なことは誰にも明らかです。しかし、司法改革の方向はどうか、司法改革審議会をどうみるか、司法改革を国民とともに闘うには何をすべきかなどとなると必ずしも一致しているとは言えません。
 五月集会は、団全体の方針を決定する場ではありません。
 しかし、司法改革審議会の動きをみていますと、国民の立場からの司法改革をどう対置していくかを考えざるを得ません。しかもそれは急を要します。そこで、一日目の全体会は司法改革に焦点をあてることになりました。いま大切なことは司法改革の行く先をしっかり見据えながら、国民とともに司法を語ることです。どんな状況にあっても、私たちは国民の要求を実現させるために最大の努力を払うべきです。司法改革審議会の性格がどうあれ、司法改革が現実に国政の場で議論されているのですから、私たちは司法を国民による国民のための司法とするため、大胆に抜本的改革案を掲げて国民とともに努力するべきです。各地の闘いを紹介しながら、私たちの運動を一層前進させるための手だてを考えようではありませんか。
 司法問題は苦手という団員がいます。しかしこれらは専門家集団の独壇場ではないはずです。公害を闘っている団員、税金裁判を闘っている団員、労働者の権利を闘っている団員、情報公開を闘っている団員、平和問題を闘っている団員、司法のあり方はそんな各分野の運動の前進にとって不可欠の課題なのです。裁判を闘っている国民の目線でとらえることは団員なら誰でもできることです。自分の頭で考え、自分なりの行動をしようではありませんか。自分の考えとは違うなと思っても、様々な声に耳を傾けてみようではありませんか。五月集会は意見を交換しながら、運動を作っていくという観点が大切ではないかと思います。そんな五月集会に、忙しい手をひとまず休めて参加してみませんか。私たちは開催地・静岡県支部の団員とともに皆さんを舘山寺温泉でお待ちしています。 


浜名湖畔で英気を養おう

静岡県支部 支部長  田 代 博 之

 今年の五月集会は、日本のど真中、太平洋メガロポリスの拠点都市浜松の奥座敷、浜名湖畔の舘山寺温泉です。みなさん、五月二〇日〜二二日までの三日間と二四日の半日旅行、二四・二五日の一泊旅行を是非訟廷日誌に組み入れてください。
団と浜松を結ぶ宿縁・日楽争議
 一九二六年五月、神戸三菱造船所争議と並び戦前労働争議史の頂点に記録される日本楽器争議は、衛生設備完備にはじまる一二箇条の職工の嘆願書に端を発し、日本労働評議会、三田村、鍋山らの全面支援下に一〇五日間闘われた。この時、軍隊・官憲の弾圧に抗し、延一三名の自由法曹団弁護士が支援に駆けつけています。弾圧のひどさは争議を騒擾事件として立件していることからも窺えます。
一泊旅行は鳳来寺、三河への旅
 美しい景観、豊かな自然の浜名湖での研鑽を終えた一泊旅行は隣県、三河路の鳳来寺山(標高六八四メートル)に登る(一四二五段)。寺は真言宗五智教団の本山です。参道は樹齢八百年の杉林などひる尚暗く、昔は仏法僧が鳴く山としてその名は広く知られ、麓には織田信長が鉄砲銃を初めて実戦したところで有名な長篠城址があります。この周辺には医王寺、東照宮、城址保存館など史跡があります。
 夜の宿は宇津川が奇岩怪石の鳳来峡となるところにある湯谷温泉で大宝二年、利修仙人の開湯した古湯といわれます。
見学先・航空自衛隊浜松基地めぐり
 翌日の帰途は、今一機五二〇億円もするAWACS(早期警戒管制機=空飛ぶ戦闘司令機)四機が常駐する浜松基地を見学します。そして、最近では空中給油機の導入とその配備先に航空自衛隊浜松基地が狙われています。
 ガイドライン法に有事法制を先取りした基地の実態について、浜松平和委員会のガイドマンの名演出での熱弁が、団活動の憲法運動に新たな発火点となることが期待されます。浜松基地は戦前の日中戦争の時、中国に渡洋爆撃を実行した飛行連隊として有名です。今、基地はデラックスな広報館に市民を呼び込んで「軍事都市化」へ進む浜松市民に「民事作戦」を繰り広げています。
 (注)もし時間があれば、浜松駅西に縄文・古墳・鎌倉時代に及ぶ三条の環濠から出土した伊場遺跡、考古逸品の資料館を見ることができます。


北村青色取消事件京都地裁 全面勝利判決、控訴なしに確定

京都支部  小 川 達 雄
  岩 佐 英 夫
  久 保 哲 夫

一、一九九二年三月三〇日発生した、大阪国税局が下京税務署を「指導」して実施した「料調」による人権侵害に対し、京都府南民主商工会の北村正治さんは国家賠償訴訟を起こし、これは既に地裁、高裁でも勝利し確定していたが、ひき続き争われていた青色申告承認取消の取消請求訴訟で、京都地裁は二月二五日、原告北村さん全面勝訴の判決を言渡した。
 全体としてこの判決は、任意調査の承諾の要件、本件人権侵害の違法性の認定については、国賠訴訟の積極面をうけついでいる。
 任意調査で、納税者の承諾なしの調査が違法であるとするのは勿論、家族・従業員の黙示の承諾の認定に慎重さを要求した国賠高裁判決をひきついでいる。
 同判決は三月三〇日の京都店・唐崎店での人権侵害行為を全体として、「重大な違法性」を帯びたものと断罪した。

二、今回の判決で重要なことは、北村さんが三月三〇日の重大な人権侵害行為の違法性を認めて謝罪すれば調査に応ずる旨一貫して主張してきたことの正当性を認めたことである。
 即ち、同判決は、一般論として、社会通念上納税義務者の協力を期待しえない状態を作り出した課税庁は、この違法とされる事実関係を調査し、これを相手方に説明するなど誠実に対応しなければ帳簿書類の確認の努力を尽くしたといえないとし、謝罪要求の正当性を事実上認めた。そして、三月三〇日以降そうした誠実な対応をしないままいたずらに臨場を重ねたにすぎず、他方、北村さんが第三者の立会を求めたり、写真撮影や録音をしたこともやむをえない面があるとして、両者の対応を総合的にみて課税庁は帳簿書類備付け状況等の確認努力を尽くしていないとして青色取消しを違法と断罪した。
(同判決は、本件「調査」の違法性を認めた国賠訴訟判決が確定した現在でも、被告が「調査は適法」と主張し不誠実な態度を継続しているとして、被告の訴訟態度に不快感を事実上、表明している。)

三、重要な第三点としては、今回の京都地裁判決が、「再度違法な調査がなされないようにするため、第三者の立ち会いを要求し、調査の様子を撮影・録音することにやむを得ない面がある」と指摘したことである。荒川民商春日判決の地裁判決では立会の是非については一般論としては一切ふれず、民商事務局員が一人いても調査努力が尽くせるという形で事実上立会いを認めるという手法をとった。しかし、同高裁判決は、立会を認めなけれは帳簿書類の提示拒否をするとの言動を原告がとったとはいえないという形で、立会問題の判断を回避したうえで東京地裁の結論を支持したのである。また、丸太事件判決は、隣室にいた人は立会人ではないから調査に支障がなく、調査を打ち切ったのは違法だとしている。
 これに対して、本件では、三月三〇日の重大な人権侵害が前提にあるとはいえ、違法行為監視という立会の機能を正面から認め、さらに写真撮影、録音の正当性も認めた点で、春日判決、丸太判決を大きく前進させた歴史的判決といえよう。
 税務当局は、控訴を断念して三月一〇日本件判決は確定し、三・一三重税反対集会へ嬉しいニュースがかけめぐった。詳細は五月集会特別報告集で報告したい。


JAL客室乗務員・男女昇格差別調停のご報告(下)

東京支部  大 森 夏 織

調停案は「性差別」にふれず
 さて、二月一四日に勧告された「調停案」は、予想していたとはいえ、一同の脱力と憤慨を招くものだった。
 何よりも調停案は、申請人らが求めた「昇格の性差別」という点につき、何ら言及せず。「男性は基幹要員・女性は補助要員」という性差別的な会社の労務政策の結果、女性の客室乗務員が三職級に滞留している現状や、直近の考課でも男性優遇であることは、客観的なデータや申請人全員の陳述により、十分立証した。にもかかわらず、調停委員会は、昇格における性差別についての判断を避け、申請人らが入社以来被り続けてきた「継続的」で「集団的」な昇格差別の視点を抜きにして紛争の本質から完全に目を背けた。
 調停委員会は、調停期日に、均等法施行前から継続する性差別について調停委員会が関与しないとの立場を言明し、たとえば若菜委員長は、調停期日に、申請人代理人が「均等法の趣旨からすれば、均等法施行以前の差別による現在の格差を是正する方向に持っていくのが調停委員会の役割ではないでしょうか」と問いかけたのに対し「それは当事者が努力していくことでしょう。(是正を)やっちゃいけないとは言いませんよ、もちろん」などと、あたかも性差別の是正が何か「他人事」であるかのような発言に終始していた。その一方で、たとえば一九九一年の男性大量昇格といった均等法施行後の昇格差別についても、言及しない。つまり、過去も、その累積である現在も、およそ「性差別」について評価を避けた。
 女性労働者が求めた「昇格性差別」についての判断を避けて調停案を勧告するのでは、調停委員会の存在意義すら問われるのではないか。
 調停案を要約すれば「会社は、どのように努力したら昇格できるのかを説明せよ。申請人は説明された会社の意向に沿って努力せよ。
努力を認められたら会社は昇格させるように」というものだが、そもそも申請人らが是正を求めた最大の問題点は、「努力目標について会社の説明が足りないから分からない」ということではなく、申請人らは「会社が、労働者の努力如何にかかわらず、男性を男性だという理由で先に昇格させ、女性は女性だという理由でいつまでも昇格させない」ことについて救済を求めたのである。会社は、申請人ら女性の昇格差別につき合理的な説明をできるはずがなく、現在の昇格制度と考課結果の合理性を問うことなく、ただ説明をしてみたところで、適正な説明がなされるとは到底考えられない。このように、申請人側に、会社の意向に沿った努力を求める調停案は、会社の主張するところの制度の是非や考課結果が是認される結果となっており、だからこそ日本航空は「昇格が公正であることが調停委員会に認められた」というコメントをした。

口では「制度に踏み込まず」と言いながら…
 調停委員会は、調停期日には、再三にわたり、「調停委員会は昇格の制度自体に踏み込まない」「調停委員会は考課の結果が妥当かどうかを検討する場ではない」との立場を言明していた。そして若菜委員長は会社側の反論について「会社が言うには、申請人らが昇格しないのは男女差別の結果ではなく、会社が要求する昇格基準であるところの『生産性』が足りないから昇格できない、とのことである」と申請人らに伝えたが、申請人らが続けて「『生産性』とは、具体的にどのようなことをいうのでしょうか。申請人らは、どのように『生産性』が悪かったために昇格しなかったのでしょうか」と尋ねても、若菜委員長の回答は「それは会社には尋ねていない」というものだった。
 このように調停委員会が再三言明していた、「昇格制度の是非に踏み込めない」「考課の妥当性を検討する立場にない」というスタンス自体、調停委員会に求められた役割に合致しないものだ。なぜなら、会社の昇格制度が男女差別の温床となり、考課によって昇格の男女差別が生じている場合、この制度や考課の是非を評価して是正するように指導することこそが、調停委員会に求められた役割であるはずだからである。
ましてや、調停委員会が、申請人らが「性差別である」と是正を求めた昇格制度や考課結果を是認する結論に立つのであれば、その制度や考課が「性差別に抵触しない」との判断を、根拠とともに示すのでなければ、申請人らは到底納得できるものではない。申請人らは調停委員会に対し、「現在の昇格制度と考課が、昇格の男女差別の原因となっており、このような制度や考課は是正されるべきである」ことについて、判断と仲裁を求めたのであり、調停委員会は、申請人のこのような求めに対して、口頭では「判断する立場にない」と言いながら、調停案では、会社が良しとしている現状の昇格制度や考課に沿った努力を申請人に促し、しかも、判断根拠を何も示さないのだ。
 調停委員会は申請人らに「会社の態度が頑なである」「会社の姿勢が強硬である」とだけ伝え、「強力な調査権限がないからこの調停案が限度である」と自ら限界を認められる発言した。しかし、会社側が「頑な」であり調停委員会に均等法上付与された調査権限が全うできなかったことの不利益は、会社に負わせるべきで、申請人らがこの不利益を負わされるいわれはない。調停案が、申請人らがその性差別性の判断を求めた昇格実態について何らふれず、制度・考課の合理性についても独自の判断を避けて現状を是認することは、調停制度の限界を力の弱い女性労働者側に負わせることであり、およそ納得できない。

調停制度とその運用は、今後どのように改善されるべきか
では、調停制度はどうしたらマシになるのか。最低限、次の諸点を改善する必要がある。
 運用面。入り口の問題として、女性少年室長は、申請が要件を満たす限り速やかに調停開始決定をしなければならない。あるいは女性少年室長の開始決定権限すら不要である。また、継続的性差別を適正に救済対象とすべく、調停申立を原則一年以内に限定すべきでない。次に調停委員の人選については、民主的手続きを経て、女性差別の解消に熱意と見識ある適正な委員選出がされなければならないさらに、今回その不十分さが際だったが、調停進行上の改善点として、調停委員会は、女性労働者側と会社側の主張の入念な突き合わせに努め、単に企業の主張の「伝令」に止まるのではなく、調査権限を尽くし、独自の判断による指導力を発揮しなければならない。
 また、調停期日をより有益なものとすべく対席・同席調停が多用されることが望ましい。今回われわれが受けたいろいろな「嫌がらせ」(委任状を受け取らない、事情聴取の立会を拒否する、いくら頼んでも調停の席上、代理人の席には机を用意しない、etc)などやめてきちんと代理人の権限を認めるべきである。
 制度面。調停委員会に、より実効性ある調査権限を付与し、企業側が調停に不協力な場合の不利益は、女性労働者ではなく企業に負わせて調停制度の実効性が担保されなければならない。何よりも、調停制度が現在の労働省・女性少年室による「官僚主導型の調停」から脱却しなければ、真の「女性労働者のための調停制度」は望めまい。

東京女性少年室・東京機会均等委員会は手一杯
 うがった見方かもしれないが、現在の東京女性少年室、東京機会均等調停委員会は「そんなに大勢の女性労働者に救済を求めてこられても困る」というモチベーションから消極姿勢なのではないか、と思わざるを得ない。昨年五月に東京女性少年室機会均等指導官も「現在の東京女性少年室の人員は、室長から事務員まで総勢一〇名しかいない。そのうち均等法違反の企業を指導する立場の『機会均等指導官』は二名しかいない。室としても人員補充を望む。」と語っていた。何度も同じことを言うようだが、室長以下少ない人員で体制で、実際に、東京全体の、それも雇用の全ステージにおける女性差別を指導し女性労働者の救済機関であれ、というのも大変なことでしょう。政府・労働省が「均等法を改正しました!」と大宣伝するのであれば、それなりの体制を整えるべきではないか。調停にしても、調停委員が本当に三名しかいないのであれば、全くのところ、多くの女性労働者が素朴に『機会均等調停を申請して救済を求めよう』と考えたら、調停委員会はすぐにパンク必至だ。労働省女性局が本当に、女性労働者を救済する観点から機会均等調停委員会という制度を均等法で設置してしているのであれば、人選の充実と適性の確保は不可欠であり、この点が改善されなければ「実効性のある救済機関」に遠く及ばない。
 とはいえ、「やっぱり、昇格差別に均等法の調停なんて使えないんですね。利用するだけ無駄ですね」という総括をするのではなく(したくなるが)、均等法の趣旨に沿った運用と制度改善を目指して、今後とも自分たちが利用し続けることで変えていかなければならない、と思う。


「通信傍受法用記録等装置仕様書」に見る警察のねらい

東京支部  平  和 元

 警察庁情報通信局作成の装置仕様書(一八三号、一八四号)がやっと公表された。法務省、警察庁が公表を約束しながら一向に詳細を明らかにしてこなかったものである。
 先日、右仕様書についての検討が、急遽国民救援会の望月事務局長の呼びかけで、富山大学の小倉教授の解説、NTT通信労組野形さんの説明のもと行われた。
 右仕様書は、「通信事業者が保有する通信設備への接続、通信の傍受、傍受した通信の記録、傍受記録の作成等を行う装置に適用する」ものである。記録装置が二機、接続装置が一機、印字装置が一機で一式となっている。
 接続装置の機能・性能について、問題となることがある。これまでの説明では、令状で特定した通信回線に、クリップで挟むなど何らかの方法で接続し、録取装置に接続するとのことであった。今回の仕様書によれば、さらに「通信設備に付属する試験モニタ装置から分岐する」方法による装置が用意されている。 簡単に言えば、NTTが、利用者が通話中かそれとも故障かどうか検査・確認するために試し聞きするための装置に接続する方法で盗聴するというものである。現在、交換機のある局はほとんど無人化され、検査・確認のための試し聞きは本局にあるカルタスと呼ばれる「通信設備に付属する試験モニタ」のためのこの装置で、有人局から無人局の交換器に接続し、通話中か故障かを検査する。局の交換器に接続するためにはパスワードを打ち込み、電話番号を打ち込んで回線に接続する。このカルタス装置を何本ものネットで結びモニターできるようにして持ち運びも可能にしている。つまり、NTT職員はどこからでもモニターで検査できる態勢になっている(PTTという装置)。警察はこのカルタス装置に接続しようとしているものである。ここに接続できればわざわざ遠い無人局まで行かなくとも、そこで立ち合いを求めなくとも盗聴できる。そして、特定の回線を指定してクリップで挟んだりして接続する作業をする作業をする必要はなく、端末を操作して、極端に言えば、通信回線から回線へと次々に聞き回ることも可能となる。緒方宅盗聴事件を起こした当時にこの装置があれば、電柱の回線から引き込む面倒もなかった。
 交換機のある局に接続するためのパスワードは局ごとに異なるが、それはたびたびは変更されない。一度このパスワードを手に入れるとNTT職員に接続してもらわなくとも警察は自由に接続可能となる。立ち合い人がいる時はやりにくいであろうが、この接続装置はネットワークを介しての利用が可能なもののようであり、ネットワークを介して別の場所で端末を操作し、回線に割り込むことも可能である。警察はこの接続装置により、どこからでも特定の回線に接続でき、立会人なく盗聴・録取することが可能となる(保坂衆議院議員が盗聴されたのはこの方式によるものと考えられる)。
 他に、録取はテープ(国会答弁ではテープに録取と言明)ではなく、DVDになされること、複写に制限はないこと、携帯同士の会話は(狭い特定の地域間での会話は別にして)盗聴できないことなどがわかった次第である。


重大局面を迎えた駒場寮訴訟

東京支部  萩 尾 健 太

 東京の方は、裁判所前の連日の宣伝でご存じの方も多いことでしょう。東京大学駒場寮で生活する学生を追い出すために、国と大学当局が、学生、駒場寮自治会、都寮連、全寮連を訴えた裁判の最終弁論が、三月三日、東京地裁で行われました。三月二八日の判決を控え、緊迫した状況を迎えています。
 駒場寮は、一九三四年に旧制第一高等学校の寮として建設されましたが、その前身の第一高等学校の寮の時代から、自治寮としての伝統を有しています。
 駒場寮は、この寮自治のもとで、戦中も反戦思想の継承の場であり、戦後は、レッドパージ反対闘争をはじめとする様々な学生の運動の砦として、大きな役割を果たしてきました。六〇年代末に全国の大学を覆った学園闘争の末に、全構成員自治の原則を明記させた「東大確認書」を批准した東大教養学部学生自治会代議員大会は、駒場寮の屋上で行われました。
 駒場寮では、共同生活の中で、日常の問題から、様々な社会問題、思想、生き方などについて語り合い、討論する中で、自治が形成され、これによって、学生達も成長してきました。かかる自治寮の役割は、幼少からの受験競争のため、若者が孤独化している今日、ますます重要なものとなっています。
 教育の機会均等を保障する場としての駒場寮の役割も重要です。今日、国立大学の初年度納付金は、約七五万円。七〇年代初頭の一万円と比べると実に七〇倍以上、ドイツやフランスが無償であるのとは比べものにもなりません。「自分は、兄弟が多く、親は、兄弟の教育費で手一杯、駒場寮がなければ自分は大学には入れなかった」こんな声が、現在の寮生からも出されています。
 学生に対して相談もなく駒場寮についての決定は行わない、ということが、寮自治会と学部当局との合意書で確認されているにもかかわらず、一九九一年一〇月に開かれた臨時教授会で学部当局は秘密裏に駒場寮廃寮の方針を決定しました。
 そして、学生自治会が数次に渉る学生ストライキや学生投票で反対の意志を明確にしてきたにもかかわらず、一九九五年一〇月には、総長が廃寮の最終決定を行い、学部当局は一九九六年四月をもって廃寮を宣言したのです。
 その後は、学部当局は、人が住んでいるにもかかわらず、電気・ガスをストップする、数百人ものガードマンを導入して、寮の建物の一部を破壊する、学生に傷害を負わせる、といった暴挙を働いてきました。
 そして、一九九七年一〇月に、学生や学生自治団体を被告として明け渡し訴訟を提起したのです。話し合いで解決するという大学自治のルールを放棄し、国家権力に解決を委ねた当局の行為は、大学にとっては自殺行為であり、本件請求は却下されるべきというのが被告学生側の主張です。
 却下されないとしても、前述した合意書での確認に反する廃寮決定は無効である、また、駒場寮の重要性に比して、明け渡し請求に至る経緯はあまりに暴力的であり、請求は権利濫用として認められない、と被告学生側は主張しています。
 しかし、国相手の訴訟ですので、甘い見通しは持ち得ません。
 自治が破壊され、貧しい人が大学に入れなくなる、そんな事態が生じるのを防ぐためにも、現在も駒場寮に住んでいる一〇〇名以上の寮生の未来のためにも、皆さんの暖かいご支援が必要です。
 先日、東京支部総会では、署名用紙をお配りしましたが、お手元に用紙をお持ちの方は、ご記入の上、駒場寮委員会(目黒区駒場三ー八ー一東京大学駒場寮)まで、ご送付ください。お持ちでない方は、駒場寮委員会(〇三・三四八七・七二五八)までお問い合わせください。
 また、駒場寮存続を支援する会(さくら銀行中野坂上支店(普)三九九七二〇五)まで、カンパをお寄せください。
 ご協力、心からお願いします。

 この通信がお手元に届く頃には判決が出ている予定(三月二八日)ですが、投稿いただいた時点での原稿を掲載しました。(事務局)


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