団通信981号(4月11日)

二〇〇〇年静岡五月集会のご案内A

 前号団通信(四月一日付・九八〇号)にて静岡五月集会の日程、申し込み方法などを掲載しました。今号では、関連行事と分科会の紹介をします。多くの団員、事務局の方々のご参加をお待ちします。

【講演】講演
原山恵子団員  (愛知支部)
中谷雄二団員  (愛知支部)
「私の弁護士活動と自由法曹団」(仮題)

新人学習会への参加をお待ちします

 新入団員の皆さん、あるいは入団を検討中の皆さん。弁護士登録おめでとうございます(登録してからだいぶたった方もおられるかもしれません)。恒例の新人学習会を今年も五月集会で開催します。今年の講師は、開催地・静岡県の隣県、愛知支部のおふたかたです。
 原山団員は、弁護士登録三五年目のベテラン団員、中谷団員は弁護登録一七年目の中堅の団員です。原山団員は夫君も団員で同じ法律事務所で執務されています。名古屋では戦後一九四七年に自由法曹団愛知支部を結成し、弾圧反対運動、労働運動、市民運動などさまざまな大衆運動のなかで中心的な役割を果たされてきました。今回のおふたかたはこうした運動のなかで実績を積まれてきました。
 新人の方に対して日常の業務や弁護士としての出発に参考となるような話をしてくださるものと期待されます。話の題材は両先生にお任せしてありますが、研修所をでてからの初めての同期との出会いの場であり、弁護士としての今後のあり方を考える題材を得られる絶好の機会です。是非ご出席ください。また、自由法曹団入団を検討されている新人の方、聞いて損する話ではありません(新人でなくとも聞きにくる団員も居ます)。ご遠慮なくご参加ください。(事務局長 小口克巳)

団員並びに事務局員の皆様へ 事務局員交流会への参加のお願い

自由法曹団幹事長  鈴 木 亜 英
実行委員会世話人一同

 今年も五月集会の前日に事務局員交流会を行います。
 今回の事務局員交流会は、新人事務局員に加え自由法曹団の諸活動にともに参加してきた事務局員も参加し、自由法曹団について理解を深めていただくと同時に交流も大いに計りたいという趣旨で開催します。講演の後に三つのテーマの分科会(新人研修、クレサラ、地域運動)を開催します。後記で各担当からご案内します。
 是非多数ご参加下さるようお願いいたします。

内容 【講演】    (約一時間〜一時間半)
「団・団員の活動と事務局員に望むこと」
講師:白井孝一団員(静岡県支部)

【事務局交流分科会】

@新人研修
 ようやく暖かくなってきた今日この頃、新人の皆さま、仕事は事務所はどうですか?五月集会の新人研修で、緊張の毎日からちょっと一息ついてみてはどうでしょう。何年もこの業界にいながら皆さんとどっこいの私をはじめやさしい先輩がお迎えいたします。

A大衆運動分科会
 ガイドライン関連法、日の丸・君が代問題、労働法制、盗聴法。昨年、今年と多くの悪法が強行されました。今、団員・団事務所の果たす役割はきわめて大きくなっています。
 その一方で、サラ金事件などますます忙しく過重になる業務との関係で、団事務所に寄せられる地域、労組からの期待に十分こたえきれない場面も増えてきています。今回は、大変な量の仕事をこなしつつ、数々の団事務所の課題に立ち向かっている現場の事務局員の悩みなども浮き彫りにしながら、今後の団事務所がになう大衆運動の発展方向についての交流を深めたいと思います。(実行委員会世話人会 新居崎俊之)

Bクレ・サラ
 多くのクレジット・サラ金被害者・依頼者が法律事務所に駆け込んでくる状況の中、被害の撲滅・救済が求められ、弁護士・事務局にはその対応が強く求められています。
 それぞれの事務所で対応の違いはありますが、債務整理事件の実務処理、相談、書類の作成、利息計算、債権者との電話での対応などで忙殺されています。業者との対応におわれ、働きがいや生き甲斐を見失いそうになっても、弁護士が受任したことで相談に見えた依頼者が、厳しい取り立てから解放され、無理のない返済をするなかで次第に顔が明るくなっていく姿に接すると、この仕事をやってよかったという想いを強くし、やりがいのある仕事だと思います。 クレ・サラ事件は弁護士の指導のもとに、利息計算、和解交渉、和解契約書の作成、破産申立書の作成など、典型的処理が可能な事件であり、また、事務所の財政面においても一定程度貢献できるものです。様々な事務所のやり方など経験の交流討論の中で、なにかを学びあえる分科会にしたいと思います。(実行委員会世話人 本多良男)

分科会案内

@明文改憲 今何が起きているかー国民の思想改造への危険なわな

 両院の定法調査会での議論が開始され、衆議院では憲法の制定過程をめぐり議論がされ、押しつけ憲法論などをめぐり議論がたたかわされています。参議院では学生とともに語る憲法調査会の企画がされるなど若い世代との意見を交換しながら議論を進めていこうとの方向性も示されています。「国民の歴史」の無料配布や小林よしのりの「戦争論」等が若者のあいだで評判を呼ぶなど、約一〇年の期間をみれば国民のなかで、中心となる層の意識を変えることは充分可能ではないかとの意見もあります。支配層は国民の意識「改造」をはかってくるとみてよいでしょう。こうした改憲への動きは決して侮れないものです。この間の一連の流れを学習しつつ、団員の皆さんから各地の運動状況も含め報告いただき、今後の運動の方向性を考えていきたいと思います。(文責 事務局次長・高畑拓)

Aリストラ・合理化 営業譲渡、会社分割による新たなリストラ攻撃とのたたかい

 リストラに対し私たちは解雇権濫用法理や整理解雇四要件を武器に闘ってきました。しかし最近これらの法理を潜脱する巧妙な形でのリストラが横行しています。例えば、営業譲渡によって会社の財産をすべて他の会社に移転しながら雇用関係だけは承継させない。
譲り受けた会社は気に入った労働者だけを「新規」採用し、他の労働者は抜け殻となった譲渡会社に置き去りにする。大阪の信用組合・信用金庫の再編ではこの手法が使われ、大阪弘容信用組合や不動信用金庫の事件ではその点が最大の争点となっています。この場合、実質的には解雇に他ならないにもかかわらず、経営者は営業譲渡の自由・新規採用の自由を口実に雇用継承を免れようとし、裁判所もそれを追認する傾向があります。また政府はこのような手法を更に後押しする会社分割法案・労働契約承継法案を今国会に上程しています。この法案が通れば経営者は会社の部分的な切り離しがきわめて容易になり、これがリストラ・組合排除目的に悪用されることは火を見るより明らかです。また分割の対象となった営業に従事している労働者については分割後の新会社への転籍が強制されるおそれもあります。分科会では、こういった新たな手法によるリストラとの闘いについて経験交流をしたいと考えています。同じ事件を抱えている全国の団員に参加していただいて、英知を結集したいと思います。(文責 事務局次長・財前昌和)

B司法民主化 今こそ司法の民主化のために立ち上がろう

 昨年政府に司法制度改革審議会が設置されて以来、急ヒッチで審議が行われており、昨年末には審議会の審議項目について佐藤幸治会長による論点整理がなされ、この間、法曹三者のプレゼンテーションが行われたり、各地での公聴会も開かれてはいる。
 しかし、右の論点整理や審議会での審議内容をみると、弁護士のあり方などが中心に議論されており、本来の改革対象であるはずのキャリアシステムの下での現実の裁判あるいは裁判所の問題点がまったくといっていいほど議論されていないのが現状である。このままでは、法曹一元や陪審制などの司法制度の質の変革をまったくしないままで、法曹人口の増員など司法制度の量の手直し程度の「改革」で終わってしまう危険が現実のものになっている。それだけでなく、弁護士バッシングを通じて弁護士自治などが破壊される危険すらある。
 他方で、国民、市民サイドから司法制度改革を求める司法総行動、市民会議などの運動も行われている。
 このような中で、司法の質を改革する司法改革を現実のものとするためにどのような運動が必要なのか、そして、それを現実の運動に結び付けるためにはどうしたらいいのかを真剣に議論したいと考えている。(文責事務局次長・工藤裕之)

Cフランチャイズ 過酷な奴隷労働を生むFC契約、─コンビニ弁護団結成へ

 コンビニ店請五万店時代に突入し、各店舗、フランチャイザー間の策争も激化している中、一九九八年四月一五日、コンビニ・フランチャイズ加盟店全国協議会が結成された。結成大会アピールでは、加盟店契約の内容が本部に一方的に有利になっていることを指摘し、FC本部と共存共栄できる公正な契約を結び、「経営を安定させたい」「労働時間が少し長くなっても家族ともども普通に生活できるようになりたい」というささやかな希望が述べられている。フランチャイズ契約は、本部が一切損をしないように作成されていると言われており、売上から仕入れ代金を差し引いた粗利の六割近くが本部にロイヤリティー(経営指導料)として徴収される。開店時にも営業保証金の調達のために国民金融公庫などから借入をして借金があるので、止めるに止められない。長時間働いても、全く生活できず、借金が増えるという加盟店オーナーもいる。他方、コンビニは、IT革命の流れのなかで、銀行機能や公共性も兼ね備える多機能店舗と急速に変化している。
 分科会では、全国的な裁判の進展と成果を検証し、FC本部による中小小売業振興法、独占禁止法違反などの法的論点を検討しつつ、全国弁護団結成をめざしていく。(文責 事務局次長・中野和子)

D自然保護 基地建設に反対し辺野古のジュゴンを守ろう

 沖縄の辺野古に普天間基地の移転という名目で攻撃基地が作られようとしてます。
 地元住民の基地移設反対の住民投票の意思を無視し、公共事業の増額などをアメをちらつかせて名護市長に基地移設受け入れを迫り、名護市長も受け入れを表明してしまいました。政府は未だどのような形態で辺野古に基地を作るのか明らかにしていません。埋め立て方式では地元建設業者が、杭を打ち込んでの方式ではゼネコンが、海上フロート方式では鉄鋼が巨額の利権を得ることになるといわれています。
 いずれの方式でも、基地建設工事に伴う海上汚染は起き、また、基地ができると基地業務に伴う洗浄剤の排出などによる海上汚染が発生することは明白です。
 辺野古は地元零細漁民の漁場、海藻を採る生活の場であり、また、国際保護動物に指定されているジュゴンの藻場がある場所です。辺野古は沖縄県の自然保護地区にも指定されています。自然保護の観点から辺野古の問題を研究している亀山琉球大学助手に来ていただき、辺野古の問題を深め、各地の自然保護運動と交流し、辺野古の自然保護の前進のための分科会としたいと思います。(文責 事務局次長・神田雅道)

E国際問題 WTO、MAIとは何か─グロバリゼーションの世界的仕掛けについて考える

 行政改革委員会の「規制緩和の推進に関する意見(第一次)」は「世界の中の日本という視点とパラダイムシフトを考えあわせると、今回の構造改革は、明治維新や第二次大戦後の改革に匹敵するか、それ以上の大きな社会及び意識の変革を迫るものであり、従来の考え方や枠組みの延長戦だけでは考えられない」と述べていたが、最近の世界経済の急速な展開をみるとこれはあながち誇張とは思われない。産業革命以来といわれる最近の科学技術の発達、それに伴う経済のサービス化とグローバル化はGATTからWTOへの移行に象徴される国際経済秩序の大きな転換をもたらした。これは、国際経済の研究者である佐分晴夫名古屋大学教授の論文「行政改革と国際関係」(法律時報七〇巻三号)における言である。
 我々は、果たしてこのような位置づけをもって「構造改革」に対時し得ているだろうか。氏を招いて、いかに世界経済が変容し、日本の「構造改革」を求めているのかを勉強したい。氏は、「講座現代資本主義国家I」(大月書店)の著者でもあり、我々の対時すべき方向についても示唆を与えてくれるだろう。
 このほか、社会権規約に関する日本政府報告書に対する国連人権委員会の審査がこの一〇月に行われるが、政府報告書に対するカウンターレポートを準備する場ともしたい。(文責 事務局次長・南典男)

F沖縄・ガイドライン沖縄で今何が起きようとしているか。ガイドラインに基づく基地強化と被害の実態を考える。─基地被害(環境・生命・安全)の根絶のために─

 沖縄県知事は、一九九九年一一月二二日、普天間基地に代わる最新鋭基地の建設候補地として名護市辺野古沿岸域を決定した。これは、名護市民の住民投票によるノーの意思表示をまったく無視するものだ。
 今、沖縄で起きようとしているのは、普天問基地の名護移設、那覇軍港の浦添移設など、を通じて、実は、ガイドラインに基づく基地の建設・強化ではないだろうか。だからこそ、政府は沖縄に資金を投入して何とか基地強化をゴリ押ししようとしているのではないだろうか。沖縄で何が起きようとしているのかを、沖縄からの団員等の参加も得て明らかにしたい。
 また、こうした基地の強化は、国民の環境、生命、安全に重大な被害をもたらす。辺野古は珊瑚礁の残る数少ない海域であり、ジュゴンの生息する場である。環境、生命、安全の観点から、沖縄を初めとして基地被害の実態を交流する場ともしたい。基地被害を根絶する闘いは広範な国民の要求である。保守系の自治体の長の運動の経験などの報告も受け、広範な国民と結びついた運動と裁判闘争の可能性を展望したい。(文責 事務局次長・南 典男)

G労働裁判 労働判例の偏向を許さず、立法闘争も視野に入れた闘いを

 企業がリストラ・合理化・解雇を平然と行いはじめ、国家的にもこれを容認する方向で立法がなされるなど、労働者の権利に重大な危険が迫ってきているが、これに追随する形で、東京地方裁判所が、これまで確定した判例である整理解雇の四基準を変更しようとしている。東京地裁は、整理解雇の四基準は、四基準が充たされなければ解雇の効果を発生させないような要件ではなく、あくまでも解雇の合理性を判断するための指標であって、様々な要素を総合的に判断することで合理性の判断は足りるという考え方を示している。この傾向は、徐々に全国の裁判所に波及すると考えられる。そこで、東京地方裁判所の解雇判断の傾向をさらに深く分析するとともに、短期間のうちに連敗している仮処分事件などの事案と裁判の闘いを総括する。東京地裁の反労働者的思考に徹底的に反論し、団の総力を挙げての反撃を行うべく個別事件での共闘体制を確立し、若手の団員の力を引き出し、熟達した団員との有効な連携を図ることも検討したいので、労働事件を担う団員の養成に関心のある団員は是非ご参加いただきたい。さらに、企業側の攻撃の内容を確認し、有効な解雇規制立法の内容についても、討議する。(文責 事務局次長・中野和子)

H警察民主化 警備公安偏重の警察の体質を暴く

 神奈川県警や新潟県警等における、県警の組織ぐるみの犯罪行為・腐敗行為に対して、多くの国民が警察に大きな不安・不信を抱いている。この警察の犯罪行為には警備公安出身の多くの幹部が係わっている。警備公安警察は国民を敵視・監視し、革新政党.民主団体等の情報を収集するために、莫大な予算を使い、盗聴.盗撮など違法行為を職務としていることや、警備公安警察のキャリア組の昇進が速いこと等は全く、国民には知らされていない。 警備公安警察の偏重が刑事警察を弱体化して、検挙率が低下を招いている要因でもある。警察の民主化のためには国民敵視の警備公安警察の廃止が必要である。また、警察官の腐敗・犯罪行為を防止するには、個別事件の捜査情報を除いて、警察の予算、組織、教育、人事等警察情報を公開の対象とすることが必要である。
 警察を厳正に管理するために、公安委員会を改革し、警察に対する直接指示監督できる等の権限を与え、公安委員会の事務局の充実、公安委員の公選等の改革だけでなく、市民の代表からなる警察オンブズマンを設置して、外部の監査制度を設置すべきである。その他警察の民主化のための諸課題も議論したい。(文責 事務局次長・山田安太郎)

I教育・少年法改悪 少年法改悪問題から教育問題へ

 本分科会は、当初教育改革をとりあげる予定をたてましたが、教育改革国民会議の議論もまだ方向性が定まらない状況では時期尚早とのことで、むしろ草加事件最高裁判決も含め、この間の少年法改悪問題の経過を総括し、子ども全般の問題・教育問題へと広がっていったこの間の流れについて、各地からの報告を含め、今後の展望を語り合いたいと思います。
 是非ご参加ください。(文責 事務局次長・高畑 拓)

J商工ローン 金融被害者救済への道─クレジット・サラ金問題も含めて

 破産申立人一〇万人を超える時代に突入しました。不況が続く限り今後も破産者、そしてサラ金など高利の融資を受けている破産予備群は増え続けることが予想されます。
 昨年は日栄、商工ファンドの債務者保証人に対する違法な取り立て行為をマスコミがやっと取り上げ、貸し金業法の貸付金利減額の法改正となりました。  しかし、違法な取り立て行為以外にも保証人の資産から回収することを目的とした日栄、商工ファンドの根保証契約や利息制限法を潜脱する保証料手数料聴取、手形の借り換えの問題など依然として商工ローンの諸問題は積み残されています。そして、全国各地でこれらの問題で勝訴判決など成果も出始めています。団員相互の交流を図り商工ローン問題解決の水準を引上げることを目指します。
 また、クレ・サラでは利息制限法を逸脱する「日掛け金融」が新たな問題として浮上しています。クレ・サラの問題も昨年に引き続き経験交流するとともに日掛け金融問題も取り上げて討論したいと思います。(文責 事務局次長・神田雅道)


「司法界の冷戦雪解け」に必要なもの

福岡支部  永 尾 廣 久

判例時報を読んで
 判例時報(1698号、3月11日号)の裁判官懇話会の報告を興味深く読んだ。矢口洪一・元最高裁長官が裁判官懇話会に出席し、民事分科会を3時間全部傍聴したうえ、全体会で講演し、さらに意見交換と称する質疑応答をしている。世の中ホントに変わったとつくづく思った。

民事分科会
 民事分科会についての報告が次の1699号に出たので、そちらを読んだ感想から先に書くと、そこでは真実発見的訴訟観(実体的正義重視型)とゲーム的訴訟観(手続的正義重視型)という2つの訴訟観が話題となっている。印象に残った発言をいくつか紹介する。
 「気持ちの上では、勝つべきほうの当事者が勝つんだと、そのために裁判所は努力しなきゃいけないというように思うのです。ただ、それも限度がありまして、田川和幸さんが本に書かれていたように、代理人の不始末まで、こっちが全部面倒みなきゃいけないのか、という面もあると思います」(E裁判官)
 田川さんの本(『弁護士、裁判官になる』、日本評論社)を読んでいない人はぜひ読んでほしい。そこには、少なくない弁護士が裁判でひどい手抜きをしている現状が赤裸々に指摘されている。私自身は一般事件でも準備書面をよく書いている(なにしろモノ書きを自称しているので、書くこと自体は苦にならない)と自負しているけれど、法律的検討になると手抜きしていないとは断言できないと素直に白状せざるをえない。それはともかく、話を続けて、さらに発言を紹介しよう。
 「裁判官が手続を非常に硬直的な運営をする傾向が見られる」(F裁判官の紹介する弁護士の話)
これは私もまったく同感である。事案の真相の解明とか、当事者の納得とかいうことを考えずに高裁で一回結審したり(そのときは勝ったが、最高裁で審理不尽のため破棄差し戻しになった経験もある)、重要証人を制限(却下)したりする裁判官がありふれている。
 「怖いのは、心証の開示というのが柔軟でなくて、一ペン言ったからには変わらないという態度の裁判官がいるのです。これが一番おっかない。つまり反論があった場合に、なるほどと思ったらすぐ変えるとか、もしかするとそうかもしれないと、もう一遍考え直してみることができないで、これはこちらが当たり前で、判例もそうなっていますよと決めつけ、なぜですかという追求を許さない」(花田政道元裁判官)
 頭がコチコチで、言い出したら退かないというのは弁護士にも多いが、裁判官にも少なくない。これは本当に困る。

矢口講演
 矢口洪一・元最高裁長官の演題は「司法改革の背景と課題」というものである。矢口氏が最近では法曹一元について積極的であることはよく知られていることであるが、「ここで一番大事なことは、法律専門家の助言を必要とするそういう国民の需要に早急に答えてゆかなければならないということです。やはりこれは、法曹人口を増やしていくしかありません」という発言には私も素直にうなずいた。さらに、民事分科会を傍聴しての感想として矢口氏が述べた「裁判所の一部の言いたいことを、私がここで代弁させていただければ、弁護士さん同士で十分こなして持ってきて下さい。不意打ちのような釈明をしなければならないような持ってき方はしないで下さい。それが今の新しい民訴の精神ではないのかとおっしゃっているように聞こえました」というのも、なるほどと思った。

矢口氏との意見交換
 面白いのは、そのあとの質疑応答である。もちろん私は会場に出席したわけではないから、その場の雰囲気はつかめない。しかし、文字面から判断すると、それなりに緊張感のある真剣な対話がなされたことが十分に読みとれる。矢口氏は、「こういう機会に私が出てきたのも、どうせ皆さんから、苦情は出てくるだろうとは思っていましたが、私自身そう永い身ではありませんから、これで何らかのお役に立つならばと思ったのです」と述べている。実際、「苦情」のようなものがいくつも出ているが、矢口氏はそれなりの答えをしている。
 宮本判事の再任問題について、矢口氏は「そのうえ、当時の世情もあったと思います。大学の騒ぎ等もありましたから。今から考えてみると、どうしてあんなに騒いだのだろうと思うようなこともありました。以上のトータルがああいう結論になったと申し上げるほかないと思います。今となってみると、問題のあの方が今日の司法行政のことを一番理解されているようにも思われます」と答えた。私は、これは大変含蓄のある発言だと思った。というのも、矢口氏が、「ちゃんと仕事をしておられる方は、ちゃんと仕事をしておられるだけの処遇を受けておられるんじゃないでしょうかということです」「各人の仕事が表に出るのです。そしてみんなで見ているんですよ。だから、隠そうとしても、隠すことができない。日頃の仕事をちゃんとおやりになっているかどうかということが、いずれ積み重ねとして外にでてくる。いい仕事をして、希望を捨てないで下さい」と強調していることとあわせると、決して矢口氏は皮肉とか自己弁護とかではなく、懇話会に参加する裁判官に対して大いなるエール(励まし)を送ったものと素直に理解することが出来ると思った。たとえ、任地や給料で差別を受けたとしても、精一杯いい仕事をしていれば、きっと世間は評価してくれるということを矢口氏は人事局長も経験した立場で語ったのだと思う。『沈まぬ太陽』のモデルの小倉寛太郎氏も、「有為転変、波瀾万丈だったけれども、ふり返ってみると、けっこう面白い人生だった」と自らの人生について肯定的に述懐している。(『小倉寛太郎さんに聞く』、民医連東京支部)
 これに対して、そうは言うものの「再任拒否に続いて、新任拒否が過去の問題ではなくて、現在でも司法の傷として扱っているのではないか」「矢口さんが司法行政の要職にあられたころは、自由闊達な雰囲気を求めようとするのは邪道なんだとか、ちょっとおかしいとか、異端児とか、そういった形容詞で白眼視されてきたのです」という「苦言」が呈された。私も、それはそう思う。
 問題は、それに対する矢口氏の答えにある。矢口氏はこう答えた。「先ほどの不幸の重なったある時期に、あんまり目立つことはするなという空気であったことも間違いないと思います。それは否定しません。しかし、今はそんなことは言わないでしょう。現にこうして皆さん集まっておられる。集まる人数が減っているというのであれば、それはこの集まりの実績によるのではないですか」
 ここに弁護士にとっても考えるべき重大な問題がある。第17回の裁判官懇話会に結集した裁判官はどうも従前に比べて減っているようだ(もちろん、私は詳しいことは何も知らない)。
 これに対して、G裁判官が「自主的に何かをするということに対する脅えみたいなものが若い世代にあるのではないか。修習生がびくびくしている。30年前のことが深く静かに影響していると思います」と意見を述べた。私も半ば同感するが、その反面、司法修習生の青法協への入会が少ないことは、それだけではないという気もしている。もっと大きなところに原因があると今では考えている。過去に再任拒否や新任拒否があったこととは無関係に青法協へ入会したり、積極的に社会的活動に関わろうとする司法修習生や弁護士が少なくなっている。それと同じ現象が裁判官懇話会への裁判官の参加の減少につながっているのだと思う。ただ、参加する裁判官が関西に多く、東京などに少ないのは、従前からの人事配置によるものだとは私も考えている。

「雪解け」なるか?
 裁判官懇話会に矢口氏が出席して講演し、率直に質疑応答したことは大いに評価できることだと思う。浅見宣義裁判官(出向中)も、「歴史的な和解」として高く評価している(1999年12月15日、朝日新聞・論壇)。問題は「法と民主主義」346号の「司法をめぐる動き」が指摘するように、これは「きっかけ以上のものではありえない」ということだ。では、私たちはどうしたらよいのか?

「世界」3月号の「司法改革」特集
 「世界」が司法改革の特集をしているが、「裁判官は何に追いつめられているか」という座談会が面白い。裁判官ネットワークで活躍している安原浩裁判官が、阿倍晴彦元裁判官や木佐茂男教授とともに発言している。
 「梶田英雄・元裁判官が、自嘲的にこうおっしゃっています。『70年代後半から80年代に、見ざる・言わざる・聞かざるという時期がかなりあって、その次に四ザルになった、”考えざる”というサルが入った。それが私たちの世界ですね』。日常的な忙しさと自己規制が、その流れに沿ったマニュアル的な判決を、これからも生むのではないかという危惧をもちますね」(木佐茂男教授)
 「いま裁判官の関心が非常に内向きになっていて、事件処理に対する当事者の批判よりも、裁判所内部の評判を気にする傾向が出てきていると思います。また、これはやむをえないことかもしれませんが、若い裁判官の場合は戦後の非常にシビアだった社会的な紛争を知らない、受験戦争を勝ち抜いてきたという人が多いわけで、実際に起きている社会的紛争の複雑な背景や切実な思いといっても、あまりピンとこない。だからできるだけ先例に依拠して、事務的に処理しようとする傾向になるのだと思っています」(安原浩裁判官)
 私もこの指摘はかなりあたっていると思う。司法修習生と話をすると驚くほど真面目に物事を考えようとしている人が多いことがよく分かる。しかし、彼らには紛争に直面した体験が圧倒的に欠けている。人間関係のドロドロした面を見ないできたし、そこからはいあがるために何をどのようにしていったらいいのか展望をつかめないまま実務法曹になっていくのだと思う。
 この状況を解決していくための一つの方策として私が今考えているのは、私たち団塊世代を中心として、もっと自分の体験を通して人生を語りかけていく必要があるのではないかということだ。今のところ、この程度しか言えないが、さらにこの点についてはいずれ考えをまとめて私見を述べてみたい。(3月28日)


リストラへの一実践例─テクロック裁判斗争

長野県支部  毛 利 正 道

◎解雇されない者も共に提訴
 昨年九月、岡谷市内の精密機器メーカー「テクロック」の従業員二二名が会社を相手どって裁判をおこしました。一昨年の年末に売上不振を理由としたリストラで解雇された者六名と、解雇されず現に働いている一六名が、管理職と一般職・労連と連合という所属組合の違いを超えて共に提訴したのです。従業員四〇名前後の企業でのこの決起の効果は大きく、社長が飛んで来て、「全従業員が要求して来た、裁判に追い込んだ責任を感じている。前向きに解決図りたい。」と申し入れてきたのです。
 ファッショ的な役員に牛耳られて、解雇の前後一年半近くにわたって続いた、労働者の声を聞こうとしない会社の姿勢を一気に変えさせたのです。

◎将来の解雇許さぬ労働協約を締結
 解雇されなかった者が裁判で求めたもの[請求の趣旨]は、
@将来の不当解雇の差止め
A今回の不当解雇によって自らもいつ解雇されるかも知れないとの不安に陥ったことを償う慰謝料でした。
 これを解雇された者と共に掲げた効果も絶大でした。
 最終解決に至らない昨年一二月、「労使の信頼関係を確立して共に再建に努力する」「解雇・希望退職・労働条件の変更は組合と本人の理解を得たうえで行う」とする労働協約を実現したのです。

◎合意を積み重ねるなかで信頼関係を確立
 裁判で掲げた要求は、三名の解雇撤回と、法律の定めどおりの退職金の一括払いも項目としてありました。これら四項目要求に対して会社と組合は、真剣に交渉を重ね、合意できた内容を一つ一つ直ちに実践する道を選択しました。その過程で一〇月から二月の裁判当日までの間、次々に、
@三名の解雇撤回職場復帰
Aやむなく解雇を認めていた者への退職金支払条件の大幅な前進
B企業再建に向けての抽象的な合意書
C将来の不当解雇などを許さない詳細な労使協定の締結
Dファッショ的な役員の辞任と解決金の労働組合への支払合意
E会社再建に全力を尽くすべく早期に裁判を終了させる合意
を得ることができ、二月二二日の第二回裁判の場で裁判を取下げました。
 すべてが合意できなければ一項目も認めるわけにはいかない、との態度に会社・労働者どちらかが固執すれば、何ひとつ合意できなかったかもしれません。

◎全国の労働者を激励
 私は第二回裁判直後の報告集会で「全国各地で同様の戦いをしている人たちにとって大きな励ましとなる」と語りました。この言葉も報じた翌日の新聞が「会社側が原告側の要求をほぼ全面的に受け入れる形で和解が成立した」と述べたとおり、裁判斗争としては大きな教訓を残す完全勝利となりました。テクロックの労働者は今、明るくなった職場で企業再建に向けた新たな斗いに立ちあがっています。
 なお、この事件についての詳しい経過が、日本労働弁護団の「季刊・労働者の権利」二三三号四一頁以下の拙文にあります。


ダンシングモニター商法被害事件への取り組み

兵庫県支部  平 田 元 秀

一 「ダンシングモニター商法被害事件」とは?
 九九年五月、姫路市に本社を置きモニター商法とシステム販売とを組み合わせて布団を販売していた潟_ンシングという会社が倒産しました。  ダンシングの布団のモニターになって布団を購入すると、簡単なアンケートに毎月回答するだけで、毎月三万五千円が二年間にわたり支払われる。布団をクレジットで二四回払いにすれば毎月のクレジット支払額を上回るモニター料が振り込まれる。こういった条件で、数多くのシステム販売従事者を通じて口コミで布団が売り込まれ、倒産時点で全国に一万四千人のモニター会員被害者を生み出しました。

二 被害弁護団の活動の現状は?
 九九年八月にダンシング被害全国弁護団連絡会議が結成されました。参加弁護団は、姫路・神戸(兵庫県)・大阪・京都・岡山・奈良・広島・滋賀・名古屋・東京・仙台・岩手・福岡・愛媛の各地域で合計一四弁護団に及んでいます。九九年一二月に大阪弁護団が大阪地裁に(五〇〇名)、〇〇年一月に姫路弁護団が神戸地裁姫路支部に(八〇〇名)、同年二月に兵庫県弁護団が神戸地裁に(三〇〇名)、相次いで個品割賦の信販会社を相手に裁判を提起しています。大阪弁護団は債務不存在を主位的に、姫路と兵庫県は取立禁止を求める構成です。仙台(一〇〇名)は九九年一二月にいち早く民事調停を開始しています。他地区でも提訴方針をとるところが多く、全体としては全国で二〇〇〇名規模の集団訴訟となることが予想されます。

三 事件の特徴や位置づけは?
 ダンシングの商法の特徴は、モニター商法とマルチ商法を組み合わせたものであり、信販会社との関係では、ココ山岡買戻商法被害事件と類似する点の多い事件です。
 1 「モニター商法」は、ダンシングの事件で一気に脚光を浴びた新種の悪徳商法ですが、ここ数年の間に「グリーンショップ」(広島)、「ワイエスグループ」(広島)、「和倉」(大阪)、「イレブントップ」(東京)、「愛染苑山久」(東京)等々が、同種の商法で荒稼ぎをしていたことがわかっています。前二社は、ダンシング倒産前の事件であり、ワイエスグループの事件に関しては、神戸地裁で代表取締役が詐欺で有罪の判決が言い渡されていますし、大阪地裁でその商法の公序良俗違反性を認めた民事判決(敗訴判決ですが実質的な勝訴判決)が出ています。後三社のうち、イレブントップと愛染苑山久は、それぞれ弁護団が結成されています。
 2 ダンシングのモニター商法は、システム販売(マルチまがい商法)のノウハウを用いることで、大量拡散型被害を生みだした、マルチ商法被害の典型です。他のモニター商法事件でも、多かれ少なかれシステム販売のルートに乗せようとの努力が経営陣によってなされています。商売の知識・経験に乏しい主婦層を中心とするシステム販売従事者が、その人間的つながりを通じて商品を販売するという口コミの形態を抜きに、この数年のモニター商法被害は語れませんし、このようなシステム販売従事者の増大の背景には勤労者世帯の収入の減少と生活苦があることも意識する必要があります。
 3 全国弁護団連絡会議が早期に立ち上げられた背景には、全国各地に、ココ山岡買戻商法被害事件に取り組む弁護団が結成され、その運動の中でクレジット被害救済のためのシステムの不備を是正する取り組みの必要性が広範に認識されてきつつあったことがあげられます。
 ココ山岡事件は、販売店の経営破綻にともなう、消費者と信販会社と販売店の利害の調整のための多数の法的論点を顕在化させ、それに一定のルールを生み出そうとする最初の事件であるのと同時に、信販会社の加盟店管理のあり方とこの問題にかんする行政規制の限界を、鮮明に明らかにした事件であり、また、我が国未曾有の消費者被害クラスアクションとして、民事救済ルールに則った統一・迅速な事後救済を司法が担えるのか、また事後救済を行う方法を通じて新たなルールを定立できるのかの最初の実験台ともなっている事件です。
 ダンシングのクラスアクションは、その流れを追うものであり、善きにつけ悪しきにつけ、その遺産を引き継ぐことを運命づけられている集団訴訟ですし、後続するであろうクレジット会社に対する大量紛議も、そのような流れに無縁ではあり得ません。

四 消費者信用問題での弁護団の連携と統一消費者信用法
 三月一八日開催された、日弁連消費者問題対策委員会主催の統一消費者信用法制定に向けたシンポジウムで、日栄・商工ファンド弁護団の新里弁護士から、クレジットを巡るクラスアクションに取り組んでいる各全国弁護団の取組を、きちんと立法運動に結びつけて、当該事件の解決だけでなく、今後のルールづくりを意識した取組を強める必要があること、そのために各全国弁護団が連携することの呼びかけがありました。私たちダンシング被害に取り組む弁護団も積極的にこの提唱に呼応して、活動を進めて行きたいと考えています。
 全国の団員の皆様の支援と協力をお願い申し上げます。


【シリーズ】改憲策動粉砕(第八回)

自治体が戦争協力を拒否したとき

東京支部  中 野 直 樹

 政府が公表した「周辺事態安全確保法第9条(地方公共団体・民間の協力)の解説(案)」(平成一一年七月)は国が自治体に協力を要請する項目として次の例示をした。
 1 自治体の長に対して求める協力項目例(九条一項)
  @自治体の管理する港湾の施設の使用
  A自治体の管理する空港の施設の使用
  B建物、設備の安全等を確保するための許認可
 例えばとして、国が燃料の貯蔵所を新設するときの消防法一一条に基づく危険物貯蔵所の設置許可、建築基準法等に基づく許認可など。
  C消防法上の救急搬送
 2 自治体に対して依頼する協力項目例(九条二項)
  @人員及び物資の輸送に関するもの
  A自治体による給水(タンクによるもの、水道管敷設によるもの)
  B公立医療機関への患者の受入
  C自治体の有する物品の貸与
 例えば、通信機器、使用していない土地や建物の一時的貸付、体育館、公民館等の目的外使用の許可など。学校施設のように恒常的に使用される施設について協力を依頼することは一般には想定し難いと考えている。
 以上はあくまで例示であり、そのときになって米軍の要求に応じて決められる仕組みとなっていることが強調されている。

二 国の直接関与・介入の仕組み
 政府は、自治体の協力が得られない事態を覚悟して、国が頭ごなしに乗り出す制度策定と運用を画策している。
1 特別法による適用除外の手法
 この四月から施行される「地方分権」一括法のなかに、国の直接関与の装置がつくられた。
  @米軍用地特別措置法の改悪により、土地の使用・収用に関す  る知事及び市町村長の権限を奪い、「国の直接執行事務」に移管  した。
  A自治事務に対する国の直接執行 
   建築基準法、都市計画法、水道法のなかに、「国の利害に重  大な関係がある」場合に、国が裁判をしないでも、自治事務を  直接執行することができる旨の規定がおかれた。
 建築基準法でみれば「建設大臣は・・国の利害に重大な関係がある建築物に関し必要があると認めるとき」は自治体の長に対し、期限を定めて、建築主事に対し必要な措置を命ずることを指示することができる(一七条一項)。そして、自治体の長が期限までに建設大臣の指示に従わない場合あるいは建築主事が自治体の長の命令に従わない場合には、建設大臣は「自ら指示に係る必要な措置をとることができる」(一七条二項)ことになった。
 同じく、都市計画法では建設大臣は都市計画区域の指定又は都市計画の決定・変更を直接執行できる(二四条)、水道法では「国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあると認めるときには」厚生大臣は都道府県知事の権限に属する水道事務を直接執行することができる(四〇条)ことになった。
 廃棄物の処理及び清掃に関する法律においては、厚生大臣が「知事の権限に属する処理施設に係る改善命令及び措置命令の事務は、生活環境の保全上特に必要があると認める場合には、厚生大臣又は知事が行う」として国が直接乗り出す仕組みをつくった。
B国の指示
 燃料貯蔵所の設置にかかわる消防法においては、自治大臣は「公共の安全の維持・・のため緊急の必要性があると認めるときは、知事又は市町村長に対して、その自治事務の処理について指示ができる」として、許可を急がせる仕掛けをつくった。
 国民の生活全体にかかわる四七五本の法律(全法律の約三分の一)を、閣僚も議員も目を通す間もないわずかな審議時間で一括して一気呵成に改正する、その手法において有事法制の導入の予行演習をしているのではないかと感じた。
 それぞれの改正の動機と立法事実は本来新ガイドライン具体化の系列とは異なるところにある。しかし、出来あがったものは、米軍の後方支援体制を迅速に構築する機能を果たす法的措置として「活用」されることが大いに危惧される。
2「調整」に名を借りた強制の企み
 解説(案)は、国会審議で触れられなかった危険な刃を明らかにした。自治体の管理する港湾や空港について、既に民間船舶・航空機の使用許可を出しているため満杯状態で調整がつかないことを理由に自治体が米軍への協力を拒否した場合に、「国が直接、既に使用許可を得ている民間に対して、使用内容の変更等について、九条二項に基づく協力の依頼を行うこともあり得る」とする。許可権限をもつ国がする「依頼」は強迫に等しい。地方自治の本旨をあからさまに踏みにじる介入であり、徹底した批判が必要である。
 現に、港湾を管理する自治体から、民間船舶の使用を変更させ、米軍艦に優先的使用をさせることは港湾法一三条の「私企業への不干渉」「不平等取扱の禁止」に反するとの批判が出されている。

三 国民の安全の軽視
1 解説(案)は、「米軍による公共施設の使用について協力の求めのあった場合、これにより周辺住民に危害が及ぶと考えらえるときは、協力を拒むことができる正当な理由がある場合に当たるのか」との設問を設定し、「米軍はわが国の安全に妥当な考慮を払い、関係法令を尊重すべき地位協定上の義務を負っており、国内の公共施設を使用することそのものにより周辺住民に危害が及ぶことは想定されない」と回答を用意している。沖縄県民に苦難を与えてきている基地被害、米軍に核持ち込みの有無を確認しようともしない政府の態度などの現実をみればこの回答は実に無責任きわまりない。
2 解説(案)は「医療機関への患者受入について協力の依頼があった場合、増床しなければ対応ができない場合があると思われるが、どうしたらよいか」との設問をつくり、これに「医療法施行規則には、臨時応急に定員を超過して患者を収用できる旨の仕組みが設けられており、増床しない場合であっても、この仕組みの活用を視野に入れて対応することが可能ではないかと考えている」と説明している。医療法施行規則一〇条が、たとえば伝染病、災害などの「臨時応急のため収用するときはこの限りでない」としていることを「活用」しようというのである。物的・人的容量を超える傷病兵を受け入れることは、市民に対する医療サービスの量と質に多大な影響を及ぼす。

四 情報公開の規制
 解説(案)は「協力の内容によっては、これを公表することにより、例えば米軍のオペレーションが対外的に明らかになってしまうといったことも考え得る。このような場合については、必要な期間、公開を差し控えていただくよう、協力要請の段階で、併せて依頼を行うことを考えている」と釘を刺す。情報公開条例、地方議会での追及などと機密保護とが厳しく対立し、現行の米軍地位協定の実施に伴う刑事特別法六条「米軍の機密を、米軍の安全を害すべき用途に供する目的をもって、又は不当な方法で・・探知し、又は収集したものは十年以下の懲役に処す」により弾圧される可能性もある。 


駒場寮訴訟不当判決出される

東京支部 萩 尾 健 太

一 判決後の経緯
 前号でお知らせした駒場寮明け渡し請求訴訟の判決が去る三月二八日に東京地裁民事二五部で出されたことは、多くの人が新聞報道等でご存じのことと思います。
判決内容は、原告国側の主張を認め、被告寮自治会らに対し、大学自治の要であり教育の機会均等を保障する場である駒場寮の明け渡しを命じ、仮執行宣言をつけるという不当なものでした。
 被告らは、直ちに控訴すると共に、執行停止の申立をしました。
 東大教養学部当局が、そのメンツを賭けて、強制執行を行ってくることが、事前の発言から予想された上、一九九七年三月二九日の三棟ある駒場寮の一棟に対する明け渡し断行の仮処分の際には、突然数百人のガードマンを動員して寮生を暴力的に排除するといった暴挙を当局が行ったという過去があること、今回は警官隊の導入もあり得るとの学部長の発言が漏れ聞こえていたことなどからです。
 しかし、判決当日の、執行停止のための保全部の裁判官との面接では、勝訴の見込みの疎明を更にするようにと裁判官に言われて、決定には至りませんでした。
 ここで、我が弁護団の加藤健次弁護士が超人的な奮闘を見せ、翌日に全動労事件の判決を控えているにもかかわらず、一夜にして駒場寮の判決を分析し、それへの的確な反論をまとめて主張書面とし、再面接に臨んだのです。
 もう一つ特筆すべきことは、執行停止の保証金費用を、「駒場寮訴訟を支援する会」に属する駒場寮OBらが中心となって、調達したことです。 
 これらにより、再面接の結果、三〇〇〇万円の保証金を積むことを条件として執行を停止することが認められ、弁護団一同、ほっと胸をなで下ろしました。
 しかし、翌三〇日になっても、事務手続きの都合を理由に執行停止決定が発令されていないことを知ったときには、私は不安になりました。ずるずると発令を引き延ばし、その間に強制執行に着手することを国は狙っているのではないか、そうした最悪の事態に備え、いざというときには直ぐに連絡するようにと寮生に私の携帯の番号を教えました。
 翌三一日午前一一時に決定が発令され、事なきを得ました。

二 判決の内容
 本件訴訟は、原告国の提訴から二年半を要し、被告寮側が数百頁に上る大部の最終準備書面を提出したにもかかわらず、判決の「争点に対する判断」の部分は極めて薄いものであり、一言で言えば「薄っぺらな判決」です。
 その内容としては、廃寮決定された以上、国有財産法上被告らには占有権原は認められない、との形式的法解釈のみで押し通すものです。被告らの占有の実情や廃寮に至る経緯等はほとんど考慮されておりません。、とりわけ、数次に渉る寮自治会と学部当局との確認書、合意書により、寮の管理運営に関わる問題については学部当局と寮自治会との事前の話し合いが要請されるにもかかわらず、一九九一年の廃寮方針決定に当たっては事前に寮生と話し合うことなく秘密裏に教授会決定を行った点について、証人尋問においても一番の争点となりましたが、これが「争点に対する判断」では全くふれられておりません。判断の脱漏ないし審理不尽と言うほかありません。
 もっともこの点や、寮の管理運営を寮自治会が行ってきた事実などは、裁判所の事実認定を示した箇所である「前提事実」の章では認定されており、学内での交渉の材料となるものだと考えております。
また、前述の法解釈についても、被告らの駒場寮への管理権限委譲の主張に対して、法律による行政の原理という一般原理からいきなりこれを否定する結論を導くという乱暴かつ矛盾に満ちたものとなっています。

三 今後の展望  被告らは、引き続き控訴審でこれらの点を主張して争っていくと共に、大学の自治に関する問題であるから大学内部での話し合いで解決すべきとして学部当局に話し合いを迫っていく考えです。
 独立行政法人化の動きのもと、大学の自治の根幹が揺るがされている今日、大学に求められるのは、文部省の自治破壊政策に屈服し、学生自治を売り渡すことではなく、学生と共に手を携えて大学自治と学問の自由擁護、大学の再生に立ち上がることではないでしょうか。独立行政法人化の問題点の詳細については、次号で展開する予定です。
 最後に、これまで、署名、カンパ等で駒場寮訴訟にご協力くださった方々に、この場を借りてお礼申し上げるとともに、引き続きご協力くださることをお願いいたします。


被告人を弁護してほしい

神奈川支部 滝 本 太 郎

 団通信3月21日979号に、麻原弁護団団長からの朝日新聞論説に関する弁護団アッピール要約や故坂本堤の義父大山さんの発言の勝手と思える引用があるので、一言申します。
1 裁判が真相に接近し得ていないというは、弁護団の思い込みにすぎない。共犯者については、次々と判決も出て、確定しているものもある。争わぬ被告人の弁護人対応は、特におかしいとは思われぬ。おかしいなら、アレインメントではないのだから、麻原弁護団は批判してしかるべきが、それはしないのか。
大山さんの希望する坂本のアパートの鍵の更なる追求については、公訴事実とは直接は関係がないし、そもそも弁護団が積極的に調査している気配も感じない。大山さんは、鍵などについてストーリーができているように感じることに疑義を言われているのであり、時間ばかりかけるのを許容する趣旨では勿論ない。
勝手な一部引用は、遺族に失礼にすぎる。
2 被告人の裁判拒否、心を開かない態度は、弁護団のいう「急ぎすぎた裁判」にあるのではなく、弁護団がかかる被告人との対応をするに、未だ努力不足により実現できていないというべきものである。
そんな責任を他に帰せさせることにこと、「急ぎすぎた裁判も原因」と述べて着々とゆっくりするのは、弁護人として恥ずかしいと思われたい。
97年3月の公判において、税金の申告期限だから期日を延期されたいと述べたのは、聞いていて恥ずかしすぎた。
3 弁護団の反対尋問への批判が、それを容認してきた裁判所への非難に他ならない、と言うが、まずもって弁護団への批判である事実を転嫁する態度は、信じがたいものである。
4 被害者が被害感情を述べる時はもちろん被告人の有罪を前提に話している。弁護団長が「有罪を前提に述べるのは予断排除の原則に反する」などと、証人の発言途中で述べるのは、的外れであり、かつ被害者に失礼にすぎる。
5 永岡さんVX事件の慶応大学での95年1月鑑定を、わざわざ掲げているが、これなど、事前に当職に聞きにくれば述べたものをそんな努力もせずに何を主張したいのか。当時は、サリンもVXもスタンダードがなく、農薬と措定したために、同じ有機リン系の農薬スミチオンと鑑定したものにすぎず、 VX鑑定と矛盾するものでもない。
少なからぬ記者は、とっくにそんな事を知っている。
地下鉄サリン事件について「謎がある」などと思わせぶりに書いている。
まさか、団長の某対談にある、小伝馬町では霞ヶ関駅のように職員が片付けなかったから後の乗客が亡くなった、などと、また言うのではないかと心配する。
乗客はもちろん駅員も殺されなってはならず、殺したのはサリンを撒き、撒くことを指示した人である。そんな指摘は、職員の遺族とすれば「職員は死んでもいいのだ」と聞こえてしまう。
6 オウム関係の弁護人の中には、被告人の心に入るべく、少なからずがかかる場合の対応策を様々な形で学び、毎朝のように接見を重ねた方もいる。
麻原さんが接見を拒否しているとき、12人が交代で、毎日面会に行き、さらには拘置所の房の中に入ってでも面会できるよう交渉し、これを拘置所が拒否する時、何としてでも実現させるべく広く助力を求められるべきである。麻原さんの一弁護人が、被告人と路地裏で一緒に泣く関係になりたいと述べていたことを、私は今も期待している。
そんな努力もせず、被告人の、96.4.24の事件を認めたというべき罪状認否や麻原さん自身の他の法廷での証言も無視して、12人が分担もしないままに、時を重ねるとき、批判されるは当然である。
「刑事訴訟法を弁護するのではなく、被告人を弁護して欲しい」です。


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