団通信983号(5月1日)

初めての中国訪問団にふるってご参加を

団      長 豊 田   誠
国際問題委員会委員長 菅 野 昭 夫

 四月の常任幹事会で、団は、中国を訪問することを確認しました。
 自由法曹団は、今後、アジアの法律家との交流を深め、平和や経済問題でのアジアとの協力、共同に寄与できればと考えています。アジアとの交流の第一弾として、中国訪問を企画しました。

 北京では、日本の日弁連にあたる中国律師協会との交流を企画しています。中国と日本の法制度・裁判制度・弁護士の役割などについて、相互に報告をし、質問や議論をしたいと考えています。また、ガイドラインの問題やODAの問題などについて中国の法律家がどう考えているかなど、興味深い問題も聞けるでしょう。また、女性団体や労働団体との交流も企画しています。通常の旅行では知ることのできない中国を理解することのできるまたとない機会です。会議は、抗日戦争記念館で行う予定です。
 こうした団体等との交流のほかに、万里の長城や故宮などの観光も北京では企画しています。
 北京で三日間滞在した後は、北と南の二手に分かれて旅をします。

北へ南へ コース別旅のご案内
 北のコースは、撫順(平頂山)、ハルピンを予定しています。ハルピンは、旧満州の中心の奉天です。落ち着いたきれいな街です。また、中国東北の広大な雰囲気に触れることができます。平頂山は、日本軍が虐殺した村民の遺骨がそのままの状態で保存されており、侵略戦争とは何かを教えてくれます。戦争被害者の話も企画しています。
 南のコースは、上海、南京、蘇州を予定しています。上海は、中国の経済成長を眼のあたりに見ることができます。蘇州は、きれいな田園風景が心に残ることでしょう。南京では、南京虐殺記念館を訪問し、館長さんや被害者の話を聞くことにしています。
 自由法曹団独自での中国訪問は、初めてのことです。多くの団員が参加される事が、中国に対し、我々の気持ちの大きさを伝えることになると思います。
 全国から、多くの団員が参加されるよう呼びかけます。
 日程は、九月一四日から九月二〇日までです。出発・到着は成田と関西空港の二便を用意します。次号団通信(五月一一号)に同封の企画・申込み要項の詳細をご覧いただき、早めに申し込まれるようお願いいたします。国際問題委員会では、訪中前に中国の司法事情、戦後補償問題などの学習会なども企画中です。
 申込者多数の場合は先着順とさせていただきますことをご了承ください。


明解な無罪判決を獲得した痴漢冤罪事件

東京支部  佐 藤 誠 一

 四月一二日、東京簡裁で、いわゆる「痴漢冤罪三事件」の一つであるO事件に対する無罪判決が言い渡された。この事件は、九八年一月二七日、朝の通勤ラッシュの総武線快速電車の中で、船橋駅から錦糸町駅までの一〇数分間、女性の背後から両腕で下腹部を押さえたままさぐり、勃起した男性器を女性の尾てい骨上付近に押しつけていたというものであった。
 この種の事件はほとんど全てがそうであるように、「証拠」としては「被害者」と称する女性の供述しかない。本件も同様であった。
 判決はこれを踏まえ、女性の供述の信用性が問われるとして、論点毎に女性の供述と被告人の供述あるいは弁護団が提出した証拠との対比を行い、被告人が行ったとする痴漢行為、被告人が犯人であるとの女性の供述はいずれも「不自然」「不合理」で「全面的に信用できない」と、極めて明解に断定し、一点の曇りもない無罪判決を言い渡したのである。
 弁護団の立証活動の中心は、女性の供述がいかに客観的状況と食い違うかを明らかにすることにあった。周囲の乗客から白い目で見られながらラッシュ時の総武線の混雑状況を写真撮影した。単産の労働者を中心とした支援者の協力で女性の供述に従って犯行現場・犯行状況を再現し、写真・ビデオ撮影した。
 勃起した男性器であることはその温かさを尻に感じたから分かったとする女性の供述を弾劾するため、泌尿器科の医師に依頼し、勃起した際の表面温度を測定し、他の部位の表面温度と有意な差のないことまで明らかにした。これらの活動を通じ、弁護団も女性の供述が「絶対」に嘘であることを確信した。しかし現在の「痴漢撲滅キャンペーン」の渦中にあり、また三月の「三事件」の一件である長崎事件の有罪判決もあって、予断は許されなかった。しかし結果は最良であった。
 弁護団提出の証拠は全てが無罪判決獲得に役立った。加えて本件では、女性の様子がおかしいので「痴漢ですか」と現場で声を掛けた男性が検察側証人として登場したが、その証言もむしろ無罪判決を導く証拠となったことは幸いであった。
 判決以来連日の「控訴するな」の要請行動にもかかわらず、四月二四日、区検は控訴した。先に有罪判決となり控訴中の長崎事件とともに控訴審の闘いを強いられることになった。弁護団は、改めて「痴漢冤罪三事件」ともどもの勝利を追求する決意である。


安保条約廃棄の課題の政策化の提言(試案)

広島支部  井 上 正 信

一、提言の趣旨
 安保条約一〇条による廃棄通告があれば、安保条約はその一年後には終了する。そのためには廃棄通告により安保条約を終了させるという国民的合意と、そのための政府が必要である。ここまでは従来からの政策論・政権論で明らかにされている。問題はこのような国民的合意を勝ち取るためには、我が国の安全保障と安保条約廃棄との関係、安保条約を廃棄することでアジア諸国が我が国の軍拡・核武装に対して脅威を感じアジア全体の安定と安全、平和に悪影響を与えることの可能性の問題、等について積極的で説得力ある政策提言が必要である。この点での政策化は未だなされていない。国会内で憲法調査委員会の議論が進み、自民党も改憲試案を検討すると公言している。我々の側も総合的な政策提言が必要となっている。

二、提言の骨子(私見)
  1. 我が国の非核化と外交路線・安全保障政策の明確化と透明性安保条約廃棄後の路線として非同盟中立外交路線を採用する事を明確にし、米国との密約をすべて明らかにする。密約の一部は米国の公文書公開により明らかとなっている。米国が密約を明かさないのは主として我が国の政府の要請によるもの。 NCND政策も同様である。我が国が進んで明らかにする障害はないはず。核の傘からの離脱を宣言すること。我が国を核攻撃しないことの法的な保障のため、米・中・露と我が国との間で消極的安全保障取り決めを結ぶ。
  2. 我が国の軍縮とそれを将来にわたり保障する制度の確立非核三原則・武器輸出三原則の法制化、自衛隊法の改正により領域外での武力行使を禁止する。正面装備を大幅に廃棄する。イージス艦、おおすみ、AWACS,P3C、90式戦車、MLRS,F-2等
  3. 中国・米国・ロシア・南北朝鮮と我が国との間で相互不可侵と友好条約の締結、戦後補償問題の解決が不可欠である。
     条約の内容は、国連決議XX\(侵略の定義決議)・XXV(友好関係宣言)を引用した相互の不可侵、武力不使用宣言、紛争の平和的解決
  4. 北東アジア非核地帯条約の実現
     中国、ロシア、日本、南北朝鮮、が条約当事国。米国などその他の核保有国は条約の有効性を保障するための議定書に調印。南北朝鮮は朝鮮半島非核化宣言をし、米国と北朝鮮は九四年一〇月枠組み合意で北朝鮮は核開発を凍結している。中国は非核保有国に対し、先制核攻撃をしない誓約をしている。
  5. 北東アジアの安全保障機構の構築
     我が国と米・中・露・韓・朝が参加する北東アジア安全保障委員会を設立し、将来非武装国家となる我が国の安全を共同で保障する地域機構とする。
  6. これらの仕組みができあがった後の自衛隊の解散・徹底した非軍事国家へ憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持」できる国際環境を整えて、憲法の完全実施を実現する。

三、政策化のための政策グループの結成
 個別の悪法・憲法破壊策動に反対運動を組織しただけでは我々の側の運動のエネルギーが分散されるし、憲法改悪策動にトータルで対抗できる戦略が必要な時期になってきている。単に理念ではなく現実的で具体的な政策を示さなければならない。官・民の政策提言グループはいずれも安保条約をいかに機能させるか、という観点からの提言ばかりが目立つ。二一世紀の展望を持った政策を提言するために、我が方の陣営の英知を集めた政策グループを結成することを提案する。九〇年代の改憲策動に反対し、核兵器廃絶の世界法廷運動を進め、国内外の人権課題に取り組んできた運動の力量はとても大きいものとなっている。二項の提言は雑炊のようなごった煮であり、安保条約廃棄までのものから廃棄後の政策まで含み、短期的な目標から長期的な目標までをも含むもので、多面的な議論の上で政策化しなければならないであろう。また思いやり予算の削減・廃止や周辺事態法・国連平和維持活動協力法の廃止も必要であろう。 団内で今後議論が進むことを期待します。

「会社分割」及び「労働契約承継」各法案についての国会議員への要請

東京支部  八 坂 玄 功

 自由法曹団の先輩のみなさん、同期のみなさん、はじめまして。五二期の司法修習をこのたび終了し、代々木総合法律事務所で弁護士活動を開始しました。東京での修習期間中は、東京支部主催の連続講座「憲法判例を読む」などに参加し、白鳥事件、朝日訴訟など自由法曹団の先輩が取り組んできた事件、現に取り組んでいる事件や課題についてたびたび勉強させてもらいました。私も、自由法曹団の一員として、憲法の平和主義、民主主義の諸原則の擁護や司法の充実のために微力ながら貢献したいと思います。
 ただし、いまのところ法律家としての知識や技術ははなはだ不充分であり、武器の扱い方もわからないのに戦場に送り出された兵士のようなものです。最初のうちは間違えて味方を撃ってしまうこともあると思いますが、お許しください。
 さて、四月一七日、会社分割法案と労働契約承継法案についての国会議員への要請に私も参加しました(参加者・坂本修、中野和子、松井繁明、八坂玄功)。
 私は松井先生といっしょに、法務委員会の公明党、民主党の理事の議員控室を訪問しました。総選挙が間近の状況のため、議員本人は選挙区に帰っていて不在でしたが、北村理事(民主党)の秘書は各法案について民主党も重視しているとして熱心に話を聞いていました。
 坂本先生は法務委員会の自民党理事、中野先生は法務委員会の民主党・社民党の委員を中心に訪問しました。
 その後全員で法務委員会の木島理事(共産)と、労働委員会の大森理事(共産)を訪問。
 木島議員(本人)からは、緊迫した国会の情勢について説明がありました。また、日本共産党は会社分割法案に対しては明確に反対し労働者保護法については対案を対置しているが、今後の国会論戦、連合を含む労組の闘争の発展の中で、会社分割法案と労働契約承継法案についての問題点の追及や修正提案なども検討しているのかどうかなどの点について、意見交換しました。
 自由法曹団の意見書『「会社分割」法案及び「労働契約承継」法についての意見と私たちの立法提言』はわずか四〇ページの簡潔なものですが、今回の法案の問題点を鋭くわかりやすく解説したすばらしい内容です。
 国会議員要請に参加する前にちゃんと読んでおけば自分も一言くらいは意見を言えたのに、と後悔する私でした。
 同期のみなさん! 国会議員に要請に行くときは、事前に準備していきましょう!

韓国の市民運動と司法改革から日本の改革を考える

京都支部  村 山   晃

 四月八日、訪問した韓国は、総選挙の真っ只中にあり、多くの市民団体が「落選運動」に燃えていた。私たちは、はからずも、その運動の中心を担っていた市民運動団体「参与連帯」の事務所を訪れることとなった。目的は、韓国の司法改革の動きを知ることであった。韓国では、一旦、法曹人口の大幅増加政策が打ち出され、毎年百人の増員政策が取られたが、法曹界の強い反対にあって、それが中座するという状況があった。私は、昨年秋、京都弁護士会が立命館大学と共催した日韓合同シンポを通して、裁判批判・司法改革を進める市民運動や法律家達の運動があることを知り、韓国の市民は、大幅増員に抵抗する法曹界に強い不満をもっていることを知らされた。法曹人口の増加に反対するのは、自らの特権的立場を守りたいということでしかなく、司法改革を進めるには、法曹人口の大幅増加が不可欠であるというのが、彼らの主張であった。
 韓国で、司法改革を進める市民運動の中心にあったのが「参与連帯」である。
 この市民団体の代表は、弁護士であり、昨年秋、来京の折り、彼は「弁護士会には、敵のように思われている」と述べていた。この市民運動団体は、専従の弁護士をかかえ、メンバーには、ソウル大学等の法律関係の学者も多い。
 ソウルの中心街にある、「参与連帯」の事務所には、全ての裁判官と検察官の個人別情報を収集した個別の名前入りファイルが置かれていた。その「徹底したウオッチング体制」に私たちは驚かされたが、その姿勢は、今回の「落選運動」からも伺うことができる。
 その韓国で、中座していた法曹人口問題で、一つの決着がつけられた。司法試験合格者を、今年八〇〇人にし、来年一〇〇〇人にするというのである。また、「司法改革推進委員会」(韓国版改革審議会)の報告書によれば、将来的には、人数制限を取り除く方向をも打ち出している。韓国の人口は、日本の約三分の一であり、今では、人口比でも日本より少ない弁護士人口は、近い将来人口比で日本を追い越すことは、間違いがない。
 法曹人口の大幅増加を求める韓国の市民運動グループにとって、日本で起きている事態は、同じように写っている。確かに、韓国の弁護士会の「体質」は、日本とは大きく違う。しかし、数の増加に対する日本の弁護士会の消極的姿勢には、一脈通ずるところがあることも確かである。
 改革論議では、常に攻めの姿勢にいるはずの、日本の弁護士会も、「数」の問題や「業務改革」の問題では、とたんに受身に回る。日弁連の理事会でも述べたが、日弁連の常識が社会の非常識になっている懸念すら覚えることがある。一度、理事会の論議を、市民にオープンにして、意見を聞いてみてはどうかとも思う。そして何より残念なことは、最も市民に近いところにいるはずの自由法曹団員の中にも、根強い「数」の消極主義があることである。
 市民に身近な法律家が増えることは、それ自体最大の司法改革である。弁護士が、市民にもっと身近な存在となり、弁護士を通して市民の司法へのアクセスが増えれば、市民の司法への関心が高まり、司法全体への改革が進むことも間違いがない。大幅増加を大前提にして、それに伴い懸念される事態を克服する道筋をしっかりと示していくこと、そのことこそ私たちに課せられた最大の課題である。
 「韓国では、司法改革論議で、何時も日本が比較に出され、改革を妨げる口実に使われている」と、参与連帯に参加している法学者は私たちに語った。日本の司法改革は、アジアの国々からも注目をされているのである。

 故上村進先生の肖像画が団本部に寄贈されることになりました。上村先生ご逝去のあと、ご家族が引き取られ、先だってご家族の方が亡くなられたことから、関係者から肖像画を団本部に、という話をいただいたという経過です。肖像画について、当時を知る上田団員に述懐していただきました。

故上村進先生の肖像画について

東京支部  上 田 誠 吉

 上村先生は、一九一六年に弁護士となり団創立以来の団員で、戦後に再建されたときに、幹事長に選ばれて、ながくその任にあたって来られたが、一九五〇年の団解散論をしりぞけて、改組がおこなわれたときに、幹事長を辞任し、一九五三年の総会で団長に選ばれ、一九六〇年まで団長をつとめた。その後は病の療養につとめ、一九六九年五月一六日、逝去された。
 「自由法曹団ニュース」一九五一年九月二五日・再刊第一号に「上村進先生感謝記念品報告」と題する報告が掲載されている。  この報告を引用しておく。
上村進先生感謝記念品報告
 戦後、再建自由法曹団の幹事長として、昨年末、団改組の直前まで、我が団のために、上村先生がつくされた功績は大きい。先生は共産党に加入せられ、その代議士とまでなられたが、その単純、豪放、素朴でかつ人なつこい性格は、党員外の団員からも敬愛せられたばかりではなく、広く団外の弁護士からも、好感をもって迎えられていたのであった。そのために、戦後の混乱期における人権擁護の任務に忙しい団をよく統一していくとともに、団の対外関係も、極めて円滑にいっていたのであった。ところが国内外の情勢の変化によって、団を改組するの余儀なきにいたったときに、進んで幹事長の辞任を申し出でられ、団の統括を吉田新団長にゆずられた。われら団員は上村先生の多年の功績に感謝するために記念品をお送りしようということになり、全国の団員諸君によびかけたところ、多数のご賛同をえ、一万八千六百円の寄付をいただいた。なお昨年改組に際し、退団された長野氏外数名の方も欣然この企てにはご賛同をいただいたことは感謝したい。なお記念品については種々協議した結果、昨年、古稀祝賀の布施先生の肖像画を描いて好評を博した永井潔画伯の油絵肖像画をおくることにしました。ここにど報告をかね、寄付者各位に謝意を表します。
 このあとに七八名の名が列記されている。そこには吉田三市郎、山崎今朝弥、布施辰治らの長老をはじめ、長野国助、正木昊らの名がみえる。
 なお、「自由法曹団ニュース」一九五二年一月一五日・再刊第四号によると、絵は一九五一年十月に完成し、東弁相談室に十日間掲げられ、好評をえたことが伝えられている。

沖縄アピール実行委員会へのご参加を

─沖縄サミットに対抗して、平和と人権を訴えよう!─
事務局長  小 口 克 巳

 今年の七月二一日から二三日まで、沖縄名護市でサミットが開かれます。普天間基地にかわり、新たに名護の辺野古に強力な基地の建設が行われようとしていますが、まさに、そのお膝元でサミットが行われるわけです。
 沖縄サミットに対抗して、アメリカ、アジア、日本(とりわけ沖縄ーたとえば大田元知事)の法律家等が集まり、平和と人権を訴える国際シンポを開き、日本と世界にアピールしようという企画が準備されています。
 私たちは、沖縄の基地建設は新たな基地被害をもたらすこと、ジュゴンの生息する辺野古の海を破壊すること、新ガイドラインを実行に移す拠点となり日本国民の平和に重大な害悪をもたらすこと、などの点から、これを阻む広範な運動を展開したいと考えています。
 そこで、自由法曹団としても、上記企画に協力していきたいと思います。

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