<<目次へ 団通信1018号(04月21日)

「裁判所を変えよう!4・4東京集会」に八〇〇名を超える参加者

東京支部  今 村 幸 次 郎

一 去る四月四日、千代田区公会堂において「裁判所を変えよう!4・4東京集会」が開催された。会場の定員は八一二名であったが、その定員をはるかに上回る参加者がつめかけ立ち見がでるほどの大盛況であった。

二 司法改革をテーマにした集会にこれだけ多くの人々を集めることができたのは、実行委員会のメンバーをはじめとした関係者の努力に負うところが大である。「司法改革」というと、難しい議論が先行しどうしても「業界」内の問題とみられがちであったが、今回は、実行委員会参加の組合・民主団体の方々と弁護士が一緒になって、司法改革は「二一世紀の国のかたち」をめぐる労働者・国民と支配層との闘いであるということを訴えて回った。

三 オルグをして感じたのは、今の裁判がおかしいと思っている人や実際に裁判で酷い目にあったという人が意外に多かったということである。にもかかわらず、これまでは、これらの人々の要求が「司法改革」に結びついていなかったように思う。
 集会に参加してくださった方には、「裁判に自分たちが参加できれば、或いは、自分たちの代表が裁判官になればこれまで理不尽な負け方をしていた裁判だって勝てるようになるんだ」という感想をもっていただけたのではないかと思う。

四 集会は、社会派コント集団・ニュースぺーパーによるコント「そりゃないぜ裁判官」ではじまった。裁判所、裁判官の実態をリアルに演じてくれた。会場には笑いの渦が起こった。誇張等はほんのわずかにすぎず、裁判所で実際に起こっていることを題材にしていたのであるが、観客にそれがわかってもらえたかどうかは若干不安である(裁判所の実態があまりにも漫画的なので、ニュースペーパーの創作と思われた方も多かったのではないかと思うが、あれこそ裁判所の現実の姿なのである)。
 続いて、当事者からの怒りの訴えが行われた。舞台にたったのは、ケンウッド事件の柳原さん、日立事件の田中さん、草加事件の犯人とされた少年の父親である篠田さん、痴漢冤罪事件の長崎さんである。今の裁判の矛盾をそれぞれの実体験を踏まえて切々と訴えて頂いた。
 最後は、川田悦子氏(衆議院議員)、熊谷金道氏(全労連副議長)、安倍晴彦氏(弁護士・元裁判官)、坂本修氏(弁護士)らによるパネルディスカッション(コーディネーターは四位直毅弁護士)。官僚裁判官制度の弊害、裁判への国民参加、大きな国民的運動の提起等々の発言があいつぎ、参加者からは力強い拍手が沸き起こった。「楽しく『運動』しよう」「いっしょにがんばろう」とのパネラーの発言に力づけられた人も多かったと思う(参加者に対するアンケートでは、このパネルディスカッションの時間が少なかったという感想が非常に多かった)。

五 集会は、成功裏に終わったが、「司法改革」をめぐる闘いは始まったばかりである。政府・財界は今回の司法改革を「二一世紀のこの国のかたち」づくりの最後の「かなめ」ととらえている。現在の社会経済の危機的状況について「企業活動の自由確保」を中心とする構造改革によって乗り切ろうとする考え方である。「企業にはたてつくな」、これが弁護士報酬敗訴者負担の本質である。今回の「司法改革」には、このような政府・財界の思惑がちりばめられている。
 私たちは、これとは全く逆に、私たち国民自身が主人公となって生き生きと生活できるような「この国のかたち」をめざして運動していかなければなるまい。国民の立場からする司法改革は、まさにその「かなめ」である。


危機にさらされる住民の監視活動

ー住民訴訟制度の改悪に反対するー

東京支部  土 橋  実

 政府は、去る三月九日、住民訴訟制度の根幹を改変する地方自治法の改正案を今国会に提出しました。この「改正」案は、これまで地方公共団体の不正や腐敗を追求する重要な手段であった住民訴訟を、骨抜きにしかねない重大な問題を含むものです。「改正」案の主な内容は次のとおりです。

一 まず、現行の住民訴訟制度は、違法行為を働いた首長や財務会計職員あるいはその相手方である第三者(以下「職員ら」といいます)を被告として損害賠償請求等を提起できるる制度となっていますが(二四二条の二第一項四号)、「改正」案は、住民がこれらの者を直接被告とする訴訟制度を廃止するとしています。そしてその代替案として、@住民は、職員らに対して損害賠償請求等を行うよう地方公共団体を被告として訴訟を提起し(第一次訴訟)、Aこの第一次訴訟で職員らに損害相賠償求等を命ずる判決が確定した場合に、今度は当該地方公共団体が原告となって、職員らに損害賠償請求訴訟等を提起する(第二次訴訟)という二段階構造に変更するものです(改正案、法二四二条の二第一項本文、同項四号、同条の二第六項ないし一二項追加部分など)。
 第二次訴訟は、第一次訴訟における訴訟告知の効力を受けるものの(改正二四二条の二第七項)、職員や第三者は請求に関する違法性・責任・損害等について独自に争うことができ、第一次訴訟の結果を覆すことも可能な制度となっています。そして、第一次訴訟の判決結果を覆さないまでも、第二次訴訟において地方公共団体の執行部が職員らの責任を宥恕して低額な和解を成立させるなどのおそれもあります。この第二次訴訟に、第一次訴訟で勝訴した住民が参加することは認められていません。しかも、職員に対する賠償命令に対し職員から取消訴訟が提起された場合には、その訴訟が確定するまで第二次訴訟の訴訟手続きは中止しなければならないとされているなど(改正案二四三条の二第七項)、訴訟経済上も非常に迂遠なものとなっています。

二 つぎに、「改正」案は、現行住民訴訟制度において認められている法律関係不存在確認の請求、原状回復請求、妨害排除請求は廃止するとしています(改正案二四二条の二第四項)。こうした訴訟類型が廃止されてしまうと、例えば、贈収賄に基づく公有地売買契約に対し、公序良俗違反による無効を理由として原状回復請求を認めるような住民訴訟(横浜地裁平成一一年九月二二日、認容判決)は、提起できなくなってしまいます。

三 さらに、「改正」案は、住民訴訟の対象となる違法な行為または怠る事実について、民事保全法に規定する仮処分をすることができないとの規定を新設しています(改正案二四二条の二第一〇項)。先に述べた二段階訴訟構造の問題点などに照らすと、一般的に民事保全法の適用を否定する規定を新設することは、はなはだ疑問といわざるを得ません。
 こうした「改正」案の提案理由は、現行の住民訴訟制度は住民が違法と判断すれば長や職員が被告として提訴されるため、長や職員は裁判に伴う精神的・時間的・金銭的負担を負わされ、職員らの政策判断に対する過度の慎重化や責任回避、勤労意欲や士気の低下による公務能率の低下などを回避する必要がある、というものです。
 しかし、例えば金銭的負担の問題についていえば、現行法で被告とされた職員が勝訴した場合の弁護士費用は地方公共団体が負担することができますし(二四二条第八項)、実際の訴訟では地方公共団体が職員側に補助参加するなどして、事実上支援活動を行っています。
 また、住民訴訟は職員ら違法な財務会計行為の責任を追及するものであって、政策判断の当否そのものを問うものではありません。実際に職員の責任が認められた事案は、自己の政治責任追及を回避するため破綻した第三セクターに違法に補助金を支出したり(下関日韓高速船)、博覧会の赤字を隠すため違法な契約に基づいて法外な金額で施設等を買い取ったり(名古屋デザイン博)した事案、いわゆる官官接待やカラ出張に対する公金の支出、公務とは無関係な議員野球大会への旅費等の支出など、明らかに違法な事案に限られています。
 そもそも、住民訴訟による責任追及が活発になったのは、地方公共団体において住民の付託を受けているという意識が欠如し、長年にわたって違法な財務会計行為を繰り返してきたことに対する住民の強い怒りが背景となっています。これに対し、住民の信頼を回復するため、職員らの意識改革を行ったり、問題を生じさせる土壌を払拭させる取り組みを行わないでおいて、公務能率の低下を回避するため必要だなどという「改正」案の提案理由は、本末転倒といわざるを得ません。
 このように、「改正」案は、地方公共団体の財務会計行為に対する住民の統制機能を著しく弱めることになります。そればかりか、「地方自治の本旨に基づく住民参政の一環」として導入された住民訴訟制度を、異質なものへと改変する危険な内容を含んでいます。今後、地方への分権によって、住民の監視権をますます強めるべき時代にあって、住民の地方公共団体に対する監視・是正請求権を奪おうとすることはとうてい容認できません。反対の声をあげ、住民訴訟制度の「改悪」を断固阻止しましょう。


司法修習生の自衛隊体験入隊問題

東京支部  笹 山 尚 人

1、自衛隊体験入隊問題

 いきなり団外の話で恐縮であるが、私は、青法協で憲法委員会と修習生委員会に所属して活動している。そこで耳にし、また調査もしたところ、自衛隊に、修習生が社会修習として体験入隊している、という驚くべき事実をつかんだのでこの点について若干報告する。

2、実態

 自衛隊を見学するということは、かなり前から行われていたのではないかと思う。私の実務修習でも行われたと、五二期の先輩から聞いている。しかし、五三期から、修習内容に、社会修習が盛り込まれた。これは、「労働経験もない若年合格者が増えたので、修習生には社会の実相をよりよく知ってもらおう」との趣旨であり、ただ見学するだけでなく、実践的に体験してみるということが導入されることになった。私も、老人ホームでの老人の介護や、養護学校での授業参加といったメニューに参加した。この一環として、自衛隊への体験入隊というものが行われているのである。
 私たちがつかんだところでは、平成一一年度において、このような参加型、体験型で自衛隊修習を行ったのは一一庁に及ぶ。その内容は、以下のようなものであることがわかっった。
 修習地@。検察修習において、一泊二日で自衛隊に体験入隊し、自衛隊基地内の外来用自衛隊宿舎に泊まり込み、自衛隊の戦闘服を修習生全員が着用し、自衛隊車両・兵器の見学はもちろんのこと、隊列を組んで号令をかけるなどの軍事教練や、実際の行軍、戦車の試乗が行われた。
 修習地A。検察修習において、航空自衛隊基地に行き、自衛隊資料館を見て自衛隊の必要性について説明を受けたうえ、修習生全員と指導担当検事が軍事輸送飛行機に乗ってある半島上空を横断し、隣接する湾を巡って戻ってくることも行われた。
 修習地B。弁護修習において、航空自衛隊基地に行き、太平洋戦争時の特攻隊の資料館を訪れてその功績を学び、格納庫内の戦闘機を見た。他方で、騒音被害を受けている近隣住民の声を聞くことなどは一切行われなかった。
 修習地C。検察修習において、二泊三日で自衛隊に体験入隊し、三日間を通じて戦闘服と編み上げブーツを着用し、その服装での登山、一五〇〇メートル走、ジープとトラックの荷台に乗せられての移動が行われた。さらに、朝と夕方の基地内での「日の丸」掲揚時と降納時には「君が代」が流され、修習生も直立不動で日の丸の方角を遙拝することが強要された。

3、青法協の取り組み

 青法協では、三月一〇日の常任委員会において、修習生の自衛隊体験入隊の中止を求める決議を採択し、これを最高裁等に送付し、改めて中止の申し入れを行う取り組みをしている。
 決議では、この問題の問題点を以下のように整理した。
(1)青法協は、そもそも自衛隊は憲法九条に違反すると考える。かかる自衛隊を肯定する内容のみの見学や体験入隊が、憲法の番人たる最高裁の統括する司法修習の過程でおこなわれていることは極めて重大である。最高裁が憲法違反への荷担を司法の担い手になるべき修習生に強要するものとさえ言え、最高裁の憲法保障機能や政治的中立性を疑わざるを得ない。
 実際、ある修習地では、「自衛隊は違憲だなどとつまらないことは言うなよ」と、修習担当者が出発前に修習生に釘を差したとの例まである。自衛隊の違憲性は重大問題であり、この発言は、司法の担い手自身が憲法についての意識を完全に鈍磨させていることを示している。
(2)自衛隊見学や体験入隊、日の丸、君が代を自己の思想良心に反すると考える修習生もいるにもかかわらず、自衛隊見学・入隊への参加を強制し、軍事訓練を行わせ、ひいては日の丸を遙拝させるのは、意に反する苦役の強要、思想良心の自由の侵害であり、憲法一八条、一九条に明らかに反する。
(3)法曹三者は、いずれも憲法と法と自己の良心のみに従って独立して職務を遂行することが求められ、司法修習も、かかる理念に基づいて行われなければならない。自衛隊体験入隊は、上記の二点において、この法曹養成の理念に反する。

4、今後に向けて

 決議がマスコミに流れたことを受けて、これを取り上げるマスコミが出始め、国会でも法務委員会でこのことが問題になった。最高裁は、「問題ないと考えている。」と回答しているが、これには納得がいかない。前記の問題点がある上に、修習生が体験入隊を拒否することは事実上不可能である。「おまえたちは税金をもらって勉強しているのだ、だから、私がつきあえといえば、何時間でも、私の話につきあう義務があるのだ」との「修習専念義務」論を、研修所の幹部が声高に述べているのである。任官希望者はもちろん、弁護士希望のものであっても、研修のプログラムを拒否できるはずがない。まして、社会修習は受け入れ先に失礼のないよう、よほどのことがない限り休むなと事前に注意を受けている。  裁判官の中には、社会修習と同じ発想で、企業の労務管理を学ぶべく、企業に研修に派遣されている人もいると聞いている。憲法の危機が加速度的に強まり、司法改革の議論も進む中で、有事体制の地ならしをするかのような今回の問題は、断じて看過できない。私は、この問題の取り組みに微力を尽くしたいと考えている。団のみなさんにも、何かとお力添えをいただければ、幸いである。


郵便局員の分限免職処分を取り消す

秋田県支部  虻 川 高 範

一 事案の概要

 本年二月二三日、秋田地方裁判所(杉本正樹裁判長)は、分限免職処分を受けた郵便局員の訴えを認めて、同処分を取り消す労働者側勝訴の判決を言い渡した。
 原告は、処分時まで、長年、秋田県南部の大曲郵便局に勤務し、郵便外務事務(郵便物の集配業務)に従事していた。
 もちろん、全逓の組合員であったが、全逓が労使協調路線に転じてネームプレート着用等に応ずる方針を示しても、着用しないなどの「職場権利闘争」を続けていた。
 平成二年頃から、大曲郵便局が職場規律を厳しく問う職場として指定とされ、原告に執拗な職務命令、処分等が繰り返されるようになった。その結果、原告は、五回の懲戒処分(減給二ヶ月が最も重い)、一一八回の訓告、一三回の注意など、多くの「処分」を受けるに至った。答弁書の「処分一覧」は、十数ページにも及んでいた。
 当局は、原告に対し、平成九年三月に、超過勤務命令拒否とバイク乗車拒否(自転車で配達)で一ヶ月の減給処分を行い、原告がこの処分に対して人事院に不服申立をしていたにもかかわらず、それ以降も超過勤務命令に従わないなどとして、同年六月に本件分限免職処分を行った。

二 戦 略

 「多数の処分歴」を一見すれば、全逓からも支援もなく、人事院への不服申立を棄却され、その代理人から訴訟は難しいと言われたのも無理からぬようにも思えた。
 全逓と関わることもなく、郵政の職場のことを何も知らない弁護士にとって、このような「多数の処分歴」を経ての分限処分を争うのは、正直気が重かった。それでも、職場の内外に、この原告を支援してくれる人たちがいることは、この原告が単なる「変わり者」ではないことを示しているように思えた。
 ところが、訴訟に至って、被告側こそが、原告を、「公務員としての適格性を欠」き、それを「容易に矯正できない」性質を持つ「変わり者」ととらえていることが明らかになった。
 確かに、そのような「変わり者」という主張は、受け入れやすく分かりやすい論理であったかもしれない。しかし、そこに落とし穴があったことも間違いない。
 なぜなら、原告は、人事院への不服申立など、争うべきところは争いながら、その申立が棄却されれば、これを「是正改善」していたからである。「容易に矯正できない」性質を持つ「変わり者」なら、このような「是正改善」はできないはずである。そして、支援者もいないはずである。
 結局、この当局が(自分では気づかずに)作った落とし穴を、更に深く掘ることにした。

三 判 決

 秋田地裁判決は、原告は「容易に矯正できない」性質を持つ「変わり者」ではないとみて、次のように、公務員としての適格性を欠くと判断した分限免職処分は裁量判断を誤ったと判示した。
 「分限処分が免職の場合は、公務員としての職を失うという重大な結果になることから、適格性の有無の判断は特に厳密、慎重であることが要求され、裁量的判断を加える余地が狭くなることは前述の通りであるから、これまで述べてきたとおり、非違行為の多くが是正改善されたことや、是正改善されなかった非違行為も人事院に審査請求中であったり、そもそも懲戒処分に至らず、審査請求の対象とならないものであったこと、非違行為の内容も、原告の従事していた郵便外務事務と直接関わらない職場規律に関するものが多く、郵便外務事務への支障の有無は証拠上必ずしも明らかではないこと等の諸般の事情を考慮すれば、本件免職処分は、郵便外務事務に従事する原告の郵政事務官としての適格性の有無の判断につき、慎重さを欠いており、考慮すべきでない事項を考慮するなど、裁量権の行使を誤った違法があるというべきである」。

四 背 景

 恥ずかしながら初めて郵政職場の実態を見聞きする者にとって、その職場のひどさに驚いた。
 それでも、組合も「見放した」職場権利闘争に一人で立ち向かうのも、正直大変だと思った。
 例えば、就業規則に「職員は出勤後ただちに、……自ら出勤簿に押印しなければならない。」と定められているので、原告は、始業のチャイムが鳴ってから、出勤簿に押印していた。ところが、当局はチャイム前に押印せよと言う。どっちだっていいじゃない、たかが一分も違わないのだから、と思うなかれ。この「出勤簿時間内押印」(と当局は言う)を巡って、注意処分、訓告が連発されるのである。
 ことほどさように、原告の「多数の処分歴」の背景には、原告の公務員としての適格性とは必ずしも直結しない、当局の職場規律強化策にあるのであって、この点を前記判決は、正しく認識したのである。
 それでも、当局は控訴した。引き続き困難な闘いが続くので、郵政職場に無知な代理人にご支援下さい。


リレー特集 各地でひろがる憲法運動

我が町の憲法運動

岩手支部  千 田 功 平

 岩手県一関市、我が町の憲法行事が一二年間続いている。本部事務局から団通信に書いてくれと頼まれたので書く。
 一六年前故郷にUターンして弁護士活動をはじめたが、憲法の行事がないことから、提唱したところ、はじまった。いまは亡き元市長小野寺喜得氏も参加した。「一九八九年憲法記念行事実行委員会」を組織し、元校長増井嘉一氏を実行委員長とした。名のとおり、毎年一回ぽっきりの憲法記念行事である。行事が終了すると解散し、翌年また組織する、の繰り返しだった。
 主に講演会であるが、人集めもあり文化行事も合せて行った。市民への憲法の啓蒙に重点を置き、集会名は「市民のための憲法の集い」とした。ざっとひろってみると演題は「外からみた日本国憲法」「湾岸戦争後の世界と日本」「いま憲法が危ない」「長期不況と平和憲法」「沖縄の心と憲法九条」「いま憲法九条が輝くとき」「趣味と人生」などである。講師は常任講師とも言われた元東北学院大学助教授の川端純四郎氏で八回もお願いしている。ときには「上方芸能」編集長木津川計氏にもお願いした。
 文化行事としては、「ひめゆりの塔」などの話題の映画、神田香織さんの講談、遠野の語り部による民話、琉球舞踊千歳会の沖縄の踊り、劇団民芸荒巻瑞枝さんの一人芝居などである。
 何と言っても人口六万の町にしてはその参加人数の多さである。八〇名が三回、一五〇名が一回、二五〇名が四回、三五〇名が三回、一〇〇〇名が一回となっている。毎年顔ぶれのちがう市民が多く参加した。現在、市民の中に憲法行事が定着したと言ってよい。
 我が町の憲法運動が成功してきたことの一つには憲法好きの実行委員の存在である。何と言っても「憲法の虫」とも言うべき、きっちり実務を果す事務局の存在、そしてそれを取り巻く「憲法男」「憲法女」とも言うべき実行委員の存在である。毎年一月、二月になると誰となく動きはじめ、喜々としてやっている。
 今年も五月一九日、岩波新書「豊かさとは何か」の著者である埼玉大学名誉教授の暉峻淑子(テルオカイツコ)氏の「あなたにとって豊かさとはーいま憲法が輝くときー」と題して講演会を行い、合せて映画「郡上一揆」も上映する。
 増井氏が高齢を理由に実行委員長を辞退され、私が今年から引き継いだ。
 また、一年一回ぽっきりからぬけでて、恒常的組織とし、憲法改悪阻止に向けた運動に発展させることも確認しており、秋に向けて、憲法情勢の学習会や憲法を読む会などを企画している。


布施辰治弁護士の業績(その二)

「誕生七十年記念人権擁護宣言大会」資料集のすすめ

大阪支部  石 川 元 也

 団通信一〇〇九号(一月二一日号)で、布施辰治・韓国文化放送のビデオ鑑賞を紹介したところ、多くの団員から注文をいただいた。
 この三月一六日から韓国済州島での第三回日韓法律家交流会にも持参して、席上、大阪の梅田章二団員からその内容を紹介しつつ、韓国の民弁(民主社会へ向けての弁護士集団)の宋斗喚会長に贈呈した。布施辰治のことも、このテレビ放送は、ご存知なかったようであるが、大変喜ばれて「早速みんなで鑑賞会をしたい、また民弁の新人弁護士の研修にも使用したい」とあいさつされた。
 さらに、梅田弁護士は民弁の渉外担当の方との間で、団と民弁との交流についても話を進めてこられたので、その報告は別途あろうと思う。
 本号では、このビデオの中で解説を担当された名古屋の森正先生(団通信の愛読者でもある)から、私のところへ送られてきた『石巻文化センター所蔵・「弁護士布施辰治誕生七十年記念人権擁護宣言大会」関連資料』をご要望にそって、団員のみなさんに紹介する。
 この資料集は、A4版九三頁に及ぶもので、九点の資料の写真と次のような記事である。
 1、森正先生の資料解説
 2、「布施辰治氏生誕七十年祝賀人権擁護宣言大会」(全文)二四頁
 布施の母校明治大学講堂に三〇〇〇人、うち在日朝鮮人八〇〇人の大集会の速記である。
 各界五七人の発起人の中から、司会難波英夫、議長長野国助、平野義太郎。祝辞では、自由法曹団を代表して上村進、各界から宮本顕治、高チョウイフ、藤森成吉、中野重治、浅沼稲次郎、望月新太郎、岩佐作太郎、大山郁夫。面白いのは、発足したばかりの最高裁の三渕忠彦長官から祝辞が朗読・披露されていること、ただしその文面は掲載がない。そして布施の「人権擁護宣言」と題する講演で終る。
 3、布施先生七十年記念懇談(親)会」(全文)二二頁
 上村進座長の「どんどんやって下さい」という司会で、細川嘉六、神道寛次、守屋典郎、久松儀作、尹鳳求、望月新太郎、難波英夫、蓬田武、北浦(名不詳)、渋谷定輔という人びとの話に、布施は自由に割りこんでしゃべっている。布施夫人のお礼のあいさつで終っている。懐かしい名前も多く、人間味あふれる懇談会である。
 4、伊藤優雅璃(お孫さん)の思い出
 5、「顕彰前史・・市民の会結成まで」桜井清助
 布施辰治顕彰に一筋に尽力されてきた石巻市の元古書店店主が、「三十回忌追悼会」含めて話されている。
 6、布施辰治年表と研究・顕彰小史
 この冊子は、桜井清助さんの長年のご尽力と、これに共感した元同店常連の黒田大介さん(岩手日報記者)らが、石巻文化センター所蔵・「布施辰治資料研究準備会」を立ち上げ、黒田さんがワープロ化して、弁護士や大学教員、図書館司書らのカンパで、森先生の解説など附して一〇〇部印刷されたもので、殆ど残部はないそうだ。
黒田大介さんに連絡したところ、増刷することにした、四月か五月にはできあがるだろうということである。
 先のビデオとあわせて、団創立八十周年の行事の中に何らかの形で組み込んでいただければありがたいし、これらを契機に韓国民弁との交流に役立てば幸いだと思う。

 布施辰治誕生七十年大会資料のご希望の方は、FAXで石川元也法律事務所まで。
  FAX 〇六ー六三六二ー二七〇二
  実費・送料は、後日請求させていただきます。


教科書問題について決議を上げました

大阪支部  城 塚 健 之

 「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書が検定合格し、いよいよ教育現場に登場しようとしています。この事態に対応すべく、大阪の「民主法律協会」では、街頭宣伝活動に取り組むと共に、幹事会で以下の決議を上げました(起案は小林保夫団員にお願いしました)。
 決議は二本あり、一つは広く国民に呼びかけるもの、もう一つは教科書採択にあたる関係機関(大阪府と府下市町村の議会・教育委員会、大阪府と大阪市のPTA協議会)に「つくる会」の教科書を採択しないように求めるもので、後者は関係機関に送付執行しました。各地でこの問題についての取り組みをされるときのご参考になればと思い、後者につき、ご紹介させていただきます。

 「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史・公民教科書から子どもとわが国の未来を守るために
一、一九九七年、自民党や財界の一部からの強力な支援を受け、産経新聞などのキャンペーン報道に呼応して、「戦後の歴史教育は自虐史観に塗りつぶされている」などと主張し、新しい歴史教科書を作ることを目的とする「新しい歴史教科書をつくる会」(会長西尾幹二)が結成されました。
 「つくる会」は、同会長著とされる「国民の歴史」などを大量配布するなどして、同会の歴史観を宣伝し、また他社の教科書に対する攻撃のキャンペーンを繰り広げました。
 そして昨年にいたって、同会は、中学校の歴史教科書と公民教科書の検定を申請しました。これらの教科書については、多くの検定意見に基づく修正が行われましたが、教科書としての「合格の可能性」があると報じられています。同会はこれらの教科書を採択させるために各地の教育委員会、議会等への働きかけを強めています。

二、「つくる会教科書」は、歴史教科書について言えば、歴史認識の基本的なありかたとして、「ー歴史を学ぶとはー」との項を設けて、そこで「歴史は科学ではない」、「歴史を学ぶのは、過去の事実について、過去の人がどう考えていたかを学ぶことなのである」、「過去のそれぞれの時代には、それぞれの時代に特有の善悪があり、特有の幸福があった」という考え方を述べています。
 これらの歴史認識のありかたは、科学としての歴史学を根本的に否定する特異な見解であるというだけでなく、歴史への具体的な適用においては、その時代の政府・財界などの支配的な見解をそのまま無批判に受け入れること、あるいは戦争の悲惨な実態に眼を閉じることを子どもたちに教えることにつながるのは見やすいところです。例えばわが国による「日韓併合」などの不法な植民地支配や「大東亜戦争」、「大東亜共栄圏」などの名目による太平洋戦争の遂行をも正当化する論理となるでしょう。
 「つくる会」歴史教科書の内容における基本的な特徴のひとつは、「神武天皇」の「東征」、「即位」などの神話を事実として描くことにはじまり、今日にいたるわが国の歴史を、一貫した天皇支配の歴史としてとらえ、これを擁護・賛美する露骨な皇国史観に依っていることです。
 もう一つの特徴は、これも一貫して太平洋戦争をはじめとしてわが国のこれまでの中国・朝鮮半島・東南アジア諸国に対する侵略戦争を正当化し、また戦争自体についてもその悲惨な実態を隠蔽し美化していることです。

三、また「つくる会」の公民教科書は、明治憲法について、「国民には多くの権利や自由が保障され」ており、「アジアで初の近代憲法として内外ともに高く評価された」として賛美しています。しかしそこで規定された国民の権利はそもそも天皇によって認められた「臣民の権利」に過ぎず、憲法上も基本的に法律の制約を受けていただけでなく、実際には形骸化し暗黒の時代に化していたことはまさに歴史的な事実です。
 一方「つくる会」教科書は、現行憲法については、「憲法の解釈によれば、わが国は集団的自衛権を行使できないという意見があり、それが国際協力の障害にもなっている。そのため、日本国憲法九条の表現そのものを改正する必要が強く唱えられている」、「(国連平和維持軍や多国籍軍への自衛隊の参加にとって)日本国憲法がその障害になっている」など、現行憲法の平和主義が敵視され、憲法改正論がことさらに強調されています。

四、このように、「つくる会」の教科書は、とりわけ中国、韓国などアジア諸国との歴史認識の共有ないしそのための努力に欠けるだけでなく、ひたすら皇国史観、民族的排外主義で貫かれ、植民地支配や侵略を正当化し、戦争責任を否定する点で、アジア諸国からの強い批判にさらされています。
 このような教科書が採択され、これらによって子どもたちが教育されることは、単に憲法や教育基本法の精神や諸規定に背くというだけでなく、ゆがめられた歴史認識をもたされた子どもらの不幸ははかり知れず、あわせてわが国の将来をもそこなうことになるのは必至です。
 このような教科書は、言論表現の自由の名において、教科書として容認される資格を有するとすることには同意できません。
 私たちは、このような教科書が検定に合格し、教科書として使用されることを許すことはできません。
 私たちは、教科書採択にあたる立場の人々が「つくる会」の歴史・公民教科書の危険な性格と内容を理解され、このような教科書を採択しないように求め、同時に広く父母・国民のみなさんの理解と行動を訴えるものです。

【二〇〇一年三月二八日 民主法律協会第七回幹事会】


子ども全国センター「少年非行プロジェクト」発足のご報告

東京支部  小 笠 原 彩 子

一、四月四日、団も構成団体になっている子どもの権利・教育・文化全国センターに「少年非行プロジェクト」が発足しました。このプロジェクトの目標は、少年法「改正」前・後の家庭裁判所の調査・審判状況を追跡して、五年後に予定されている「再度」の少年法「改正」に備えるために実証的調査研究を蓄積することにあります。そして、これによって少年事件等の中での子どもの権利保障のあり方について考えていこうというものです。

二、ご承知の通り、少年法「改正」は昨年議員立法という形で短期間のうちに可決成立してしまいました。新たな少年法は、従来の少年法のもつ教育的側面をないがしろにして、いたずらに取締り・処罰の強化と治安維持を図ったものです。
 しかし、新たな少年法は、死亡事件であっても家裁の裁判官の判断によって逆送しない余地等も残されていますので、今後の付添人活動や世論の状況によっては、この少年法を運用面で阻止することも可能です。
 さらに注目しなければならないことは、新たな少年法は、五年後に運用状況をみて再度の改正を予定していることです。ですから、今後五年間のたたかいが重要となります。

三、そこで当プロジェクトは、これまで及び今後の家裁の審判ケースを取り上げ、ケース研究を継続していきます。そして家裁調査官・臨床心理士・鑑別技官等の隣接異職種の人々の参加を得て、ケースを多角的に分析し、問題をより深めていこうと考えています。

第一回少年非行ケース研究会は、
     日時 六月六日(水)午後六時〜
     場所 全国教育文化会館・エデュカス東京(東京・麹町)
        〇三ー五二一一ー〇一三三

 報告ケース〈中学生が父親を刺した殺人未遂事件から〉
 ナイフを持った子どもがそれをふり回すとき、子どもの心と認識はどんな状況なのでしょうか???
   報告者/質問者:弁護士・黒岩哲彦/全司法・井上博道
 ケース研の持ち方
 ケースの報告後、それを深めるために予定された質問者が、いくつかインタビューします。その後、参加者からの質問及び討議を続け、このケースを深めたいと思います。
 団員の方々も連続的に開催されるこのケース研究会に是非ご参加いただきたいと考えます。
 なお、子どもの権利・教育・文化全国センターは、自由法曹団も入って昨年発足したものですが、代表委員の一人に団員が入り、本部から幹事を出しています。