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永尾 廣久 出色の事務所ニュース
宮腰 直子 昨年いちばん思い出深かった事件
〜ノースウエスト航空夏季一時金仮払い仮処分
市川 守弘 憲法・平和運動と国際的取組み
毛利 正道 北朝鮮核兵器開発・拉致問題への視点
高崎  暢 司法改革の取り組み―札幌弁護士会の取り組みを中心にー



出色の事務所ニュース


福岡支部  永 尾 廣 久

 私の正月の楽しみは全国から送られてくる年賀を兼ねた事務所ニュースを読むこと。今年は弁護士報酬敗訴者負担反対の署名用紙を同封しているところが多く、全国で団事務所ががんばっていることを改めて実感した。
 さて、私の印象に残った事務所ニュースのいくつかを紹介したい。これは、もちろん私の独断と偏見によるもので、団本部とか団通信編集部とは何ら関わりがない。したがって、すべてはモノカキと編集のプロを自称する私に責任がある。

□ ちくし法律事務所
 昨年一〇月に入所した五五期の弁護士たちを紹介する事務所ニュースが多いなかで、一面に徳田宣子弁護士の上半身の写真を大きくのせ、「昭和五一年生まれ、二六歳」と紹介したセンスはすごい。同じ一面に自己紹介文とプロフィールもあり、これで読者は徳田弁護士の人となり、そして顔と名前を忘れないだろう。ちなみに彼女はハンセン弁護団で有名な大分の徳田靖之弁護士の娘さん。
 ニュースとしては、司法改革その他がのっていないことに不満は残るが・・・。

□ 京都第一法律事務所
 A4サイズ、B4サイズが多いなかで、タテ長のミニサイズ版。表紙の「八坂ノ塔」の版画も京都らしくて素敵だ。
 三人の新人弁護士が一ページずつ顔写真とともにおさまって自己紹介している。
 さすがに川中宏・日弁連副会長を送り出しているだけあって司法改革(写真がひどくボケでいるのが残念)も、有事法制も取りあげている。
 所員の抱負も主要な事件紹介もすごく読みやすい。プロが構成したのだろうか?

□ 横浜合同法律事務所
 今どき珍しい白黒で、B5サイズ一六頁のニュース。それでも読みごたえがあることが多いので、私はいつも楽しみにしている。今回の「かながわの地から平和を考える」もよかった(ただし、見出しに数字は不要だし、アミカケにするとかの工夫をしたらもっとよかったと思う)。
 有事法制の本質やイラク情勢を一般市民に分かりやすく語ることが今ほど求められていることはない(ただし、漢字が多すぎる。「闘い」はたたかい、「等」はなど、「始め」ははじめにした方がいい)。

□ 東京合同法律事務所
 ここの事務所ニュースも、従来どおり、白黒のタブロイド版を変えない。しかし、私はいつも二、三面の対談を楽しみにしている。今回は小泉武夫教授のゲテモノ喰いの話がのっていて、ゲーッとなった。といっても納豆やヨーグルトが腸の免疫力を高めることを知って意を強くした。みんなで食べている写真は本当にクモなのだろうか?

□ あべの総合法律事務所
 赤色のつかい方が優れている。読み手にインパクトを与える。

□ 名古屋法律事務所
 レイアウトと配色にもっと工夫が必要と思う。いささか読みにくい。

□ 奈良合同法律事務所
 表紙の写真はいいし、裏側(四頁目)は読みやすい。でも、残念なことに本文に小見出しもなく、内容が少し難しすぎる。

□ やまと法律事務所
 表紙の写真はいかにもソフトで、ハイセンスなニュースと思って中を開くと、本文はちょっと固すぎて読みにくい(峯田先生、見出しにナンバーは不要ですよ)。

□ その他、ほかにもいろいろ書きたいと思ったけれど、そういうおまえのところは事務所ニュースも出していないくせに、と文句を言われそうなので、とりあえず以上でおしまい。なにとぞ失礼をお許しください。





昨年いちばん思い出深かった事件
〜ノースウエスト航空夏季一時金仮払い仮処分


千葉支部  宮 腰 直 子

 弁護士一年目の昨年、試行錯誤の毎日でしたが、一番心に残った事件について、遅ればせながらご報告したいと思います。この事件を通じて少し成長できたのではないかと思います。

1 事案
 ノースウエスト航空株式会社(以下、「会社」という)は、昨年春闘で、ノースウエスト航空日本支社労働組合(以下、組合という)に対し、「ベースアップゼロ、定期昇給ゼロ」という提案を突きつけ労使間で膠着状態が続いていました。組合としては従前毎年行われていた定昇までゼロというのはとうてい容認できませんでした。そのうち夏季一時金の支払の時期になり、会社は、夏季一時金として基本給の三・五ヶ月分(例年どおり)を支給する条件として「ベアゼロ、定昇ゼロ」との会社の提示を受諾することを求めました。組合がこれを拒むと、会社は、非組合員に対しては個別にその条件を受け容れることの同意書をとって六月に夏季一時金を支払い、組合員には支払わないという暴挙にでました。組合は会社に対し、「定昇ゼロ」との条件には応じられないが、この点を除き、旧賃金額を基礎額として三・五ヶ月分の一時金を支払うとの会社提案部分に限って同意する旨を通知しました。しかしながら、会社は組合員に対する支払いを拒絶したので、昨年七月一七日、組合員三四二名が総額約四億四〇〇〇万円の夏季一時金の仮払いを求める仮処分を千葉地方裁判所に申立てました。

2 取組み
 この事件は、夏休みを目前に控えていた事務所の弁護士六人で担当しました。被保全権利の法的構成についてはたいへん頭を悩ませましたが、長くなるのでここでは省略します。私は保全の必要性の検討と債権者目録などの取りまとめを担当しました。なにしろ、債権者数が三四〇名を超えており、時間的余裕がない中で、陳述書その他の書類を集め、内容を検討し、整理し、裁判所に提出するのはそれだけでもたいへんでした。
 また、組合執行部の人達と最終的解決をどのように図っていくかという議論を何度も重ねました。夏季一時金問題が解決しても春闘問題が解決されない限り実質的な解決とはならないのが組合にとって大きな問題でした。

3 決定
 千葉地方裁判所は昨年一一月一九日に組合員三二二名に対し各請求金額の約五割、総額約二億円の支払いを命ずる決定を下しました。
 決定は、「賞与請求権については、会社が申し入れた前提条件を組合が承諾しない限り合意が成立せず、その発生が一切認められないと解すべきものではなく、従前から支給されていた経緯、支給金額、他の従業員に対する支給状況、会社の経営内容、従前支給されていた賞与の性格等の諸事情を考慮し、支給しないことが従前の労使関係に照らして合理性を有せず、支給しない状態を是認することにより労働者に対して経済的に著しい不利益を与える場合には、前提条件の存在を主張すること自体が信義則違反となり、無条件の賞与請求の申入れと解すべきであり、同申入れを組合が承諾した場合には合意が成立したものと同様に扱い、一時金(賞与)請求権の発生を認めるべきであると解するのが相当である。」とし、組合が「定昇ゼロ」の条件を受諾しないとの理由をもって会社が夏季一時金の支払いを拒絶することは信義則に反するとして、債権者らに夏季一時金請求権を認めました。
 信義則違反の判断の根拠には、一時金が過去二八年間にわたりほぼ例年一定の算定基準に則って支給されていたこと、一時金が年間七ヶ月という大きな割合を占めるため生活給としての性格が強いこと、組合員の要求額が米国系旅客航空他社と同水準であること、会社が米国では定昇を実施していること、会社が一時金の原資を捻出できないわけではないこと、不支給の場合には組合員の生活が打撃を受けることなどの事情がありました。
 また、保全の必要性については、個々の組合員の生活水準を基準として判断し、陳述書の提出がなかった者などを除きほぼ全員に請求額の二分の一の必要性を認めました。

4 感想
 この事件は私が初めての経験する労働事件でした。労働事件を知らなかった私はこの事件を通じて「定昇」や「不当労働行為」などといった言葉を知りました(恥ずかしい…)。
 労働者の権利救済がますます困難になってきている昨今、判例や友人の話を見聞きする限り、本件で被保全権利も保全の必要性も認められるのか正直言って不安でした。しかし、一方で、三四〇名余りの組合員が夏季一時金の不支給は差別だ、納得できない、と言うのももっともだと思いました。
 ノースウエスト航空では、以前から露骨な組合敵視がされており、平成一〇年にも夏季一時金不支給問題がありました。その時の仮払い仮処分では組合員らが全面勝訴していました。今回は、時代の変化もあって、前回と同じようにはいきませんでしたが、裁判所が労働者の権利救済に前向きな判断をしたことは高く評価できると思います。当初、この不況の中で勝つのは無理じゃないかと決めつけていた自分を反省しました。難しくても突破口を見つけるためにがんばることが大切であり、そこがおもしろいのだとわかりました。





憲法・平和運動と国際的取組み


北海道支部  市 川 守 弘

一 国際問題としての憲法問題
 今年の一つの大きな歴史的問題点は、平和主義をめぐる問題であろう。国内では自衛隊・有事法制問題、国外ではイラク、北朝鮮問題である。ところで、有事立法の動きは、アメリカ大統領が共和党から出ているときに強まるようなところがある。つまり有事立法は日本の国内問題であるとともに極めて国際的な問題でもあると思う。
 今回の有事法制問題はブッシュの昨年の一般教書演説によって勢いづいてきた。ブッシュのイラク、イラン、北朝鮮を名指しにした「悪の枢軸」発言はブッシュ・ドクトリンの公式表明であり、これらの国への「自衛のための先制核攻撃」体制構築への宣言でもあった。
 今の日本の平和問題は、このブッシュ・ドクトリンを抜きにはその本質を突くことはできない。ブッシュから見れば、アメリカの先制攻撃体制を作り上げるために、日本はすべてのアメリカの戦争について協力・補完国にならなければならない。そのために、日本において「反米的活動」を封じ込め、アメリカが安心して戦争遂行できる体制、つまり有事法制の完備した国にならなければならないのだ。有事法制問題をはじめとする平和問題は、憲法・国内問題であるにとどまらず、ブッシュ・ドクトリンに反対する世界的取組みなくしては打ち破れない問題なのである。

二 国際的取組みの視点からの問題点
 国際的取組みの視点から今の団の状況を見るとき、様々な問題が浮かび上がる。テロ問題、アフガン、イラク問題では、一般に「国際法と国連を中心した解決」がスローガンになっていたように思う。二〇〇一年一〇月四日の団意見書「テロを根絶し、軍事報復・自衛隊海外派兵に反対する」では、テロ問題の解決は国際法に基づいてと主張し、アメリカの軍事報復は国連決議にも反する国際法違反であると結論している。昨年の団総会でのイラク武力攻撃に反対する決議も国連憲章を根拠に反対する。「国連を中心とした解決」という言葉はないが、国際法、国連憲章、国連決議を問題にする以上、当然に解決策の一つとして「国連を中心とした解決」が含まれていると思われる。私は、これらの意見、決議内容については全く異論はないが、ここでの問題点として「国際法と国連を中心した解決」の方法が示されていないことを挙げたい。我々がどのように国際世論や国連に働きかけるのか、は団内では十分に議論されていない。これは国際法の分析にとどまらず、国連に働きかける国際的運動の提起が不十分であったからではないだろうか?
 このことはまた重大な問題点を内包する。イラク問題で、パウエル国務長官が画策しているように安保理決議がアメリカの意向で動きだしたときに、無条件に「国際法と国連を中心した解決」に従うのか、という問題である。現在の査察は国連決議1441号によっているが、これは万一イラクに重大な違法があれば、安保理で再協議できることになっている。そして再協議の結果イラクへの制裁が決議されたら、団はアメリカのイラク攻撃を認めるのであろうか?このことは、特に日本の支配層がイラク問題によって中近東・アジアへの支配を強化しようとしているときに、アメリカ主導の「国際法と国連を中心した解決」を「新国際貢献論」とし、この「新国際貢献」の理由から自衛隊派遣、有事法制、さらには憲法改正が論じられる可能性は高い。一〇年前の単なる多国籍軍派遣と国際法に則った安保理決議は質的に異なるから、一〇年前の心情的「国際貢献」ではなく、法的根拠をもった国際貢献論になるからである。
 とりわけ北朝鮮問題は、団の運動がまさに問われる問題であると思われる。有事法制必要論者からは格好の題材に取り上げられるであろうし、前記した点がまさに焦点になるからである。もし国連安保理で、北朝鮮に対する経済封鎖が議決されたら、「国際法と国連を中心とした解決」として団は全面的にこれを支持するのか?この場合には北朝鮮は日本を敵国として扱うであろうし、いわば準戦時体制に入るであろう。多くの良心的国民は国土防衛と有事法制を認めるであろうし、それはアジア支配に向けた日本支配層の悲願の達成でもある。それとも、韓国の太陽政策を支持し、国際的な経済封鎖を回避する運動を展開するのか?国際世論に何を訴え、どのように国連安保理に訴えていくのかがまさに問われてくる。

三 団は、何をなさなければならないのか?
 「国際法と国連を中心とした解決」は、それ自体は間違いではないだろう。しかし、これを国内向けのスローガンに終わらせず、具体的な行動提起にしなければならない。またこの行動提起に当っては「国際法と国連を中心とした解決」の枠組は確固としたものではないことも自覚しなければならない。アメリカ主導で動くことも十分念頭において、獲得課題を鮮明にしつつ、いかなる国際的運動を作り上げるのか、を考えなければならない。これらの運動は従来の団の運動とはかなり異なるとは思うが、アフガン視察などその萌芽は芽生えていると信じる。北朝鮮問題では、我々は韓国民衆と具体的に連帯した運動を早急に作り上げなければならないし、それはすぐにでもできることである。団はここ数年アメリカのNLGと交流している。NLG(www.nlg.org )に限らず、他にもACLU(www.aclu.org) などの弁護士を中心としたNGOがある。例えば有事法制問題で日本国内での人権侵害を問題にするとき、今、アメリカで同時進行している「国家安全保障」の名でのアメリカ国内での人権侵害問題と闘っているACLUとも交流、連帯していく必要がある。今からでも遅くは無い。国際的側面から今日本がおかれている状況を打ち破るために、日本国際法律家協会など国内の民主団体とともに、韓国やアメリカ、ヨーロッパの民主主義団体、法律家団体と交流し、連帯した運動を早急に組んでいかなければならない。私は、ブッシュ・ドクトリンに対する国際的世論と運動を具体的に作り上げることが憲法を守る運動の大きな柱の一つだと確信する。





北朝鮮核兵器開発・拉致問題への視点


長野県支部  毛 利 正 道

 北朝鮮の核兵器開発問題については、使用済み核燃料から抽出するプルトニウムによる核兵器開発と、天然ウランを濃縮してつくる濃縮ウランによるそれとを区別して論ずる必要がある。これは、当然のことではあるが、報道からだけでは必ずしも明らかではないため、冒頭断っておく。

一 これまでの経過
 北朝鮮は八五年に核不拡散条約NPTに加盟し、NPTによって締結を義務付けられている国際原子力機関IAEAとの核兵器査察協定を九二年に締結したが、IAEAによる査察の結果、それまでに寧辺(ヨンビョン)の原子炉から最大一五キログラムのプルトニウム(事実なら核兵器六個以上を作れる量)が抽出された疑いが出たため、IAEAが特別査察を要求したが、北朝鮮がこれを拒否し、NPTからの脱退を宣言。米国が同施設を精密誘導弾で攻撃する計画を立て、緊張が一気に激化したが、カーター氏の尽力もあり、九四年一〇月二一日に米国と北朝鮮二国間の枠組み合意が締結されて危機が回避された。
 その枠組み合意は、大要、以下のとおり。
 (1)核兵器に転用できるプルトニウムを抽出しやすいそれまでの黒鉛型原子炉とその関連施設を凍結し、最終的に解体する。
 (2)北朝鮮の電力不足解消のために、米国が朝鮮半島エネルギー開発機構KEDOを国際的協力の下に発足させ、〇四年までに二〇〇万キロワットの軽水型原子炉(これはプルトニウム抽出困難)を建設する。
 (3)軽水炉が完成するまで代替エネルギーとして米国が年間五〇万トンの重油を供給する。
 (4)北朝鮮はNPT加盟国としてとどまって最終段階での必要な査察を受けるとともに、両国は両国関係の完全な正常化に向けて行動し、核兵器のない朝鮮半島のために協同する。
 その後、この枠組み合意が実施され始めたが、北朝鮮から見ると米国は主に二つの点で、この合意を履行しなかった。
 一つには、軽水炉の建設が大きく遅れ、〇二年現在基礎工事が終わった進捗率二五%程度であり、当初目標から五年遅れる〇九年の完成が目標になっている状況にある。
 二つには、〇二年一月、ブッシュ大統領は北朝鮮も「悪の枢軸」国であるとして、米国から核兵器を含む先制攻撃をする対象に揚げた。
 一方、米国から見ると、北朝鮮が九八年に核実験を成功させたパキスタンから、天然ウラン(これ自体は北朝鮮にも多く埋蔵されている)の濃縮に必要なガス遠心分離機を購入していて、昨年七〜八月には核兵器を製造するための濃縮ウランをつくるための濃縮実験をしたとの情報を得た。
 この双方から見た計三点は、いずれもそれ自体、九四年の枠組み合意に反することである。ただし、軽水炉建設の遅れについては、四六億ドルという巨額な資金の分担やEUを含む一七カ国がKEDOに加わるなど大規模化する中で、工事に必要な議定書などの実務作業が遅れたことにも原因があるようであり、一人米国のみの責任とはいいがたい。
 このような中で、〇二年一〇月六日、米朝高官協議の場で、米国側からパキスタンから前記機材を購入したことを証明する文書を突きつけられ、北朝鮮高官が、濃縮ウラン製造計画があることを認めたようだ(現在に至るも正確にどういったかは不明確)。このことを同年一〇月一六日に米国が公表するや、北朝鮮は同月二五日の外務省スポークスマン談話により、
1 前記米国の不履行点二点、特に「悪の枢軸国発言」を揚げて、これは枠組み合意を「完全に無効化したものだ」と述べ、
2 「我々は米大統領特使に、増大する米国の核圧殺脅威に対処し自主権と生存権を守るため、核兵器はもちろんそれ以上のものを持つことになるであろうことを明確に述べた」と明言した。
3 ただし、末尾において、「朝鮮半島に醸成された深刻な事態を打開するために、われわれは朝米間で不可侵条約を締結することが、核問題解決のための合理的かつ現実的な方途になると認める。米国が、不可侵条約を通じてわれわれに対する核不使用を含む不可侵を法的に確約するのであれば、われわれも米国の安保上の憂慮を解消する用意がある。」と述べている。
 その後の事態は、一一月のKEDO理事会において、北朝鮮への重油供給を凍結するとともに、核開発放棄を立証せよとの声明を採択し、米国は、一二月分重油の供給を停止した。KEDOが供給する重油は北朝鮮の全消費量の約半分にもなり、供給中断によって発電量が一五%も減少するなど厳寒期に向かう北朝鮮にとっては深刻な打撃になるとみられている。
 その後、北朝鮮は、一二月一二日にこの重油供給凍結など米国が「米朝枠組み合意を事実上破棄したことへの対応措置として、核施設の凍結解除と電力生産に必要な核施設の稼動と建設を即時再開することを決定」し(一二月二七日のIAEAへの書簡)、ヨンビョン核施設を凍結していた封印と監視カメラの除去、ヨンビョン実験用原子炉建物への新たな核燃料棒の搬入、査察官の国外追放、NPTからの脱退示唆発言などを年末までに矢継ぎ早に実施。さらに、北朝鮮は、IAEAに対して、ヨンビョンの施設のうちの実験用黒鉛型原子炉を一ヶ月以内に再稼動させ、これまでの使用済み燃料棒からプルトニウムを抽出することが出来る再処理施設「放射化学研究所」を一〜二ヶ月以内に再稼動させると年末までに通告し、使用済み燃料棒八〇〇〇本の封印も解いた。
 プルトニウムの抽出は、この再処理施設の再稼動によって直ちに始めることが可能になり、これまでの使用済み燃料棒から核兵器五〜六個分のプルトニウムが生産できるといわれているが、一方、核兵器用の濃縮ウランを完成させるには一年以上かかるとみられている。
 〇二年末現在、米国は、北朝鮮に対して、北朝鮮が核開発放棄を前提としない限り直接対話には応ぜず、北朝鮮輸送船への臨検や第三国を通じての交渉など(今のところ)直接の先制攻撃以外のあらゆる方策を採って北朝鮮の核開発を阻む方針であり、北朝鮮は、一二月二九日の外務省スポークスマン談話で、「問題の平和的解決のための対話の可能性だけは引き続き開いている。朝鮮半島の核問題は、米国が不可侵条約の締結によって、我々に安全保障を与えれば解決する問題である」と述べ、さらに「どの国であれ、米国が国際合意を尊重し、前提条件なしの朝米対話に応じるよう役割を果たすべきだ。」と述べて日本や韓国などが仲介の労をとることへの期待を表明している。そして、米朝両国とも、九四年枠組み合意について、「相手の態度によって無効となった」とは述べているが、自分からこれを「破棄する」とはいまだいっていない。

二 問題解決への視点
 第一に、決定的な点は、この地で戦争が開始されたときには北朝鮮・韓国・日本の民衆におびただしい犠牲者が出るということである。一九九四年当時のペリー元米国防長官が、〇二年一〇月に発表したところによると、米軍がヨンビョンの核施設を攻撃すれば、北朝鮮軍の韓国への波状攻撃を招き、これを壊滅させるとしても、米兵数千人、韓国兵数万人が犠牲になるほか、数百万人が難民として流出、とりわけ北朝鮮側の犠牲は人命・難民いずれの点でも大きく、一九五〇年の「朝鮮戦争以後で最も激しい戦闘になる」とみていた。また、今回、パウエル米国務長官が「先制攻撃は考えていない」とした一二月二九日の発言に関連し、米紙ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は三〇日、米軍が北朝鮮・寧辺(ヨンビョン)にある核施設を空爆した場合、日本と韓国を北朝鮮の報復攻撃から守る効果的な軍事手段を持ち得ていないことが背景にあるとの米政府高官の見方を伝えている。
 第二に北朝鮮に核兵器を開発する意図があるのか。〇二年一〇月六日の北朝鮮高官発言並びに同月二五日の外務省スポークスマン談話によれば、北朝鮮は核兵器を開発するために濃縮ウラン作成装置を備えていることになる。一方のヨンビョン核施設再稼動の動きについても、その黒鉛型原子炉は発電量が極めて小さくそこからの送電設備もない。そこの核燃料再処理施設「放射科学研究所」の再稼動については、なおのこと発電との関連性が低く、ましてや使用済み核燃料棒八〇〇〇本の封印解除は発電とは無関係のはずである。少なくとも発電のみが目的とはいいがたい。濃縮ウラン・プルトニウムいずれの場合も、現実に核兵器を保有するまでには核実験をはじめ今後多くの技術的段階をクリアーしなければならないといわれているものの、北朝鮮に核兵器を開発する意図がないといえる状況にない。これ自体、核兵器完全廃絶に向けて必死に闘っている世界の民衆とこれを体現する各国に対する重大な挑戦である。
 しかし、〇二年一〇月二五日並びに一二月二九日の北朝鮮外務省スポークスマン談話は、米国が不可侵条約を締結するならば核兵器開発を放棄するとも述べている。これによれば、北朝鮮の最大の関心事は現体制の存続にあり、それが保障されるなら核兵器保有にこだわらない、逆にいうと、他に現体制存続の保障がないならば、核兵器を保有することによって軍事的均衡を図り、これによる現体制の存続を意図していると言えるのではないか。
 第三に、北朝鮮に今回のような挑発的態度をとらせている米国側の要因も軽視できない。北朝鮮は、一九九〇年以降においてはテロを実行しておらず、アルカイダとの関係が証明されているわけでもない。にもかかわらず、米国は九・一一テロ以降、「悪の枢軸」発言・国防報告・国家安全保障戦略・核兵器大量破壊兵器対応戦略など次々に、北朝鮮を名指しして核兵器を含む先制攻撃を行う対象国に揚げている。これは、それ自体、実際に武力攻撃があった場合にだけ自衛権の発動を認めている国連憲章五一条の蹂躙である。また、核不拡散条約体制NPTそのものが、五つの核保有国に不公正な特権を与えるものであり、しかもイスラエル・インド・パキスタンは非合法かつ公然と核兵器を保有し続けている。これでは、北朝鮮がかりに核兵器を保有したとしても、米国が武力を持って北朝鮮を先制攻撃することが許されるはずもない。
 第四に、このような事態において被爆国日本の責任は重い。戦争を絶対に避け、かつ北朝鮮に核兵器を保有させないためには、
A 北朝鮮に核兵器開発を断念させる。
B 九四年枠組み合意を双方に遵守実行させる。
C 米国に不可侵条約を結ばせる。
 この三点を一体として合意させるよう独自の努力を尽くすべきである。
 日朝平壌宣言は、「双方は、朝鮮半島の核問題の包括的な解決のため、関連するすべての国際的合意を順守することを確認した。また、双方は、核問題およびミサイル問題を含む安全保障上の諸問題に関し、関係諸国間の対話を促進し、問題解決を図ることの必要性を確認した。」と合意している。小泉首相は、北朝鮮の核兵器開発発言を知ったあとの〇二年一〇月一七日に、「九月一七日の訪朝前に米国から北朝鮮の核兵器開発の動きを聞いており(だからこそ共同宣言にこの文言を入れた)、この平壌宣言を誠実に実行に移すことが大事だ」と述べている。今こそ、この宣言を生かすべきだ。
 第五に、日本国としてこのような態度をとるべきこのときに、日本のマスコミは、北朝鮮がいかにひどい国であるかとの洪水のような報道並びに相変わらずの日本人拉致問題のみに焦点を当てた報道に奔走している。これをすることによってどのような影響を与えるかという点への配慮を欠いた、マスメディアの公共的責任を放棄したような報道姿勢である(むろん北朝鮮国内のひどい人権侵害事例について、国連の諸機関で取り上げてもらうなど真にその是正を求める方向で報道することまで否定するものではない)。これによって、国内で「北朝鮮に核兵器をぶち込め」式の声高な声が勢いをつけており、在日コリアンへの「皆殺しにしてやる」発言や暴力・脅しも後を絶たない。極めて憂慮すべき事態である。
 重要なことは、このような北朝鮮の核兵器開発の動きとこれに輪を掛けたマスコミの状況は、日本に有事法制を制定させる最大の「援軍」になっていることである。小泉首相が、〇二年一二月一六日、自民党幹事長・国対委員長に対して、「北朝鮮情勢にかんがみて、有事法制早期成立の必要性があるので、民主党に呼びかけをしてほしい」と述べて成立に強い意欲を示し、通常国会において予算案と並ぶ最重要案件だと強調しているとおりである。現在の有事法制は、米国の戦争に日本の自衛隊と人的物的資源を総動員するためのものであり、制定することによって北朝鮮との緊張がより激化するものであることを忘れてはならない。
 第六に、それでは我々はどうすべきか。
 一つには、小泉首相に対して、日朝平壌宣言に基づき、次の二点を求める国民的署名・アピール運動に取り組むことを提起したい。
(1) 拉致問題の全面解決・日本の植民地支配の清算(在日コリアンの人権確立の課題も含む)・非核非武力による北東アジアの平和確立の三課題を包括的に議題とする中で、北朝鮮との国交正常化を実現すること。
(2)北朝鮮核兵器開発問題について、北朝鮮の核兵器開発断念・米朝相互不可侵条約の締結・一九九四年米朝枠組み合意の遵守の三点を一体とする米朝合意が得られるよう特別に緊急の働きかけをすること。
 二つには、国の内外で北東アジアの民衆と民衆同士の対話を持つ。
 不信感は知らないところから生れる。在日コリアン・中国人は私たちの周りにもたくさんいる。彼らと大いに交流しよう。それ自体がグローバル化した世界を生きるために不可欠な姿勢であるとともにその交流によって得た「対話こそ大切」との実感は政府に対してより積極的に他国と対話していくよう求める力になるに違いない。
(2/1号で一部補正したもの)





司法改革の取り組み
―札幌弁護士会の取り組みを中心にー


北海道支部  高  崎   暢

一、はじめに
 二〇〇三年一月一日付団通信に、司法民主化推進本部の新しい本部長・高橋勲団員が就任のあいさつ文を載せ、司法民主化の運動の決意を述べられている。
 その中で、日弁連や単位弁護士会での団員の役割を強調されているが(大歓迎である)、そのことに触発されたので、年末年始の札幌弁護士会の取り組みを紹介しておきたい。

二、年頭からダッシュ!裁判迅速化促進法案に対する意見書採択
 一月九日の常議員会で、右法案に対する札幌弁護士会の意見書を採択した。
 その内容は、
(1)司法改革の目標は、適正であると同時に迅速で充実した審理が行われる裁判の実現のためには、裁判官、検察官の大幅増員などの司法の人的、物的基盤の抜本的な拡充及び証拠収集方法の拡充などの諸制度の抜本的な改革が必要である。
(2)法律で一律に民事事件及び刑事事件の一審を二年以内に終わらせるようにするという数値目標等を規定することに反対である。
ということである。
 特に、この意見書では、裁判の適正かつ充実した審理(当事者が納得できる裁判)が迅速になされるためには、証拠に基づく実体的真実が明らかにされることが制度的に保障されることの必要性を強調した。
 ややもすると、この問題に関しては、人的・物的基盤の抜本的拡充が前面に出されがちであるが(日弁連の基本的見解がそうである)、そもそも、平均審理期間(民事で八・五月、刑事で三・三月)を超える裁判は極めて一部であることは最高裁の統計からも明らかであり、時間を要している要因の多くは、民事事件では、証拠の偏在、証拠収集手続の不十分さ、刑事事件では、保釈が容易に認められず、捜査資料の全面開示がなされないための手さぐりの証拠収集や反論を余儀なくされていること等々にある。
 このように、どの裁判においても、実質的に公平で平等な証拠提出の制度の確立なしには、適正、充実、迅速化された裁判の実現は不可能である事は誰が見ても明らかである。
 従って、裁判迅速化促進法案反対の運動では、この視点を欠いてはならない。そうでなければ運動の力にはならないことを肝に命じるべきである。
 なお、この意見書では、人的・物的基盤整備の必要性にも触れているが、開廷日、常駐裁判官問題だけでなく、裁判官の資質にも触れている。記録をきちんと読み、適切な訴訟指揮を行える裁判官としての資質も、適正、充実そして迅速な裁判にとって重要であることも指摘した。
 この法案が、この通常国会に提案されるという極めて緊迫した状況にあることを、年末の日弁連理事会で知り、急遽、一二月二八日、一月六日と臨時の会議を開き、まとめあげたものである。
 早急に、全国的に、迅速化法案反対の運動を作り上げる必要がある。

三、まだまだ間に合う「敗訴者負担制度」反対の声
 一月二九日が、司法アクセス検討会の山場と言われている。
 札幌弁護士会では、昨年一〇月二六日、敗訴者負担制度をテーマに、「市民が創る司法改革公聴会」を開催し、二五〇名の市民を集め、社会派コント集団ザ・ニュースペーパーが制度導入の危険性を笑いを誘いながら判りやすく指摘し、その後六名の公述人が意見発表を行った。アイヌの方、HIV訴訟等の原告や支援者、たくぎん抵当証券被害者、中小企業家同友会の人たちが、自己の経験を通して、制度導入の弊害を述べた。「敗訴者が相手方弁護士費用の負担をすることになれば、国や企業に比べて経済的に劣る一般市民はリスクを恐れて裁判に踏み切れない。」等々。
 一方、弁護士会では、各種団体への署名集めの依頼と同時に、ニュースを出している事務所に署名用紙と弁護士会あての封筒(着払い)の同封をお願いする取り組みで署名を集め、年末には、地元北海道新聞の論説委員と面接をし、この制度の問題点、危険性を訴えた。社説での取り上げまでは約束してもらえなかったが、土曜日の夕刊紙面「私の意見」という論壇に掲載(一八日)すること、生活面で特集を組む(取材も終わりここ二〜三日以内に掲載)という成果を得ることができた。
 この問題について、率直にいってマスコミの反応は鈍い。全国紙だけでなく地元紙に対する働きかけを強めることが必要ではないだろうか。
 また、一月六日の臨時事務局会議では、二九日のデモにも札幌からも派遣すること、二七日に、札幌独自で弁護士の昼休みデモを行い、その報道を検討会に送ることをも決めた。
 多彩で、多面的な取り組みで、敗訴者負担制度導入反対の声を各地であげよう。