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宇賀神 直 暑中お見舞い申し上げます
島田 修一 集中しよう!弁護士報酬敗訴者負担反対の声〜八月・意見募集の取り組みのお願い
中野 直樹 弁護士業務を危くする「犯罪」の創設
坂 勇一郎 導入派は市民間訴訟、中小零細業者関係訴訟への導入に強い意向〜七月二三日司法アクセス検討会
小口千恵子 公務執行妨害罪・傷害罪で無罪判決
川名 照美 齋藤喜作氏著「無実の人々とともに」及び宇賀神団長の裁判交流集会報告について
齊藤 園生 ●発作的連載映画評論●「二重スパイ」を観る



暑中お見舞い申し上げます

団長  宇 賀 神  直

 今年も夏の季節がやって来ました。有事三法案が可決され、自衛隊をイラクに派遣する法案も可決されました。小泉内閣の閣僚や与党幹部の女性蔑視、品性ゼロ、人権無視、時代錯誤の発言がくり返されています。こんな人物が政治の舞台にいることに激しい怒りがこみ上げて来ます。そして悲しい。でも、腹をたて、悲しいと言っているだけではどうしようもない。国連無視、国際法違反のアメリカのイラクに対する軍事占領に加担・協力し、自衛隊の派遣を強行しようとしているのはこの与党と政府なのです。私達はアメリカの覇権主義反対を叫び、平和、民主主義、人権擁護を目指して闘うしかありません。
 思えば、一昨年のアメリカへの同時テロに端を発した米英軍のアフガンへの攻撃、小泉内閣の有事法制の国会提案という情勢を受けてアフガンへ調査団を派遣し、有事法制阻止闘争本部の立ち上げ、激列な闘いを自由法曹団は展開し、全国的な闘争の火蓋を切った。悔いの無い闘いと思う。
 目を司法改革にうつすと、今、弁護士費用の敗訴者負担、刑事司法と裁判員制度、労働裁判の参審制など重点課題でせめぎあいを続けています。どれも予断をゆるしません。仲裁制度で労働、消費者について成果をあげ、労働基準法の解雇ルールの改悪問題では合理性、正当性のない解雇は無効とすることが出来ました。
 その他、裁判事件など多くの分野の活動で団と全国各地の団員は情勢の要求する活動を展開し困難な壁を切り拓く成果をあげています。それが夏を迎えた私達の立っている処です。
 さて、そんなこと思いながらも、夏の日々を有意義にすごしましょう。海の外への旅は発想を新にする、山の旅も快い、それも家族とともに団欒を楽しむ。
 また、この機会に朝鮮問題の勉強をしてみるのもよい。団本部では八月二三日(土)にこの問題で全国会議を団本部事務所で行います。この問題について認識を深め、その解決のため、私達は何をなすべきか、そんな討論が出来たらと思う。
 では、団員の皆さん、よい夏をお過ごし下さい。



集中しよう! 弁護士報酬敗訴者負担反対の声

八月・意見募集の取り組みのお願い

幹事長  島 田 修 一

 司法制度改革推進本部は、意見募集を開始しました。その趣旨として「これまでの検討の結果を踏まえて、より具体的な検討に入ることを予定しておりますが、今後の検討に資するため、広く国民の皆様の御意見を伺い、どのような御意見があるのかを把握させていただく」と述べています。
 これまで外からの粘り強い反対運動と声が導入反対の立場の委員を励まし、賛成派の暴走を食い止めているという構図となっています。今回の意見募集に対し、推進派が経営団体等に意見を求め、賛成意見を組織することが予想されます。夏休みの時期ですが、私たちもかまえをもって取り組むことを心から呼びかけます。

 方針は二つ
(1) 反対意見の圧倒的な数を追求。まず団員と事務局労働者が短文でよいから一人一人書くこと。さらに事件支援団体、友好団体、依頼者などに広く応募を呼びかけること。
(2) 同時に内容のある意見も追求する。検討会では、裁判の実態や社会的紛争の実情が十分な共通認識となっておらず、抽象的議論にとどまっている。実態・実情に基づいた意見を検討会に届けることが重要である。この点では、すべての事務所が一通はきちんとしたものを書くこと。さらに、弁護団でも事件を素材に意見を準備して欲しい。

 締め切り 九月一日一七時必着
 (1)書式 自由 
 (2)送付方法(郵送の場合)郵便番号一〇〇―〇〇一四 東京都千代田区永田町一・一一・三九 永田町合同庁舎三階 司法制度改革推進本部事務局 『弁護士報酬敗訴者負担」意見募集係
 (電子メールの場合)司法制度改革推進本部のホームページ上の「『弁護士報酬の敗訴者負担の取り扱い』についての御意見募集について」のページからフォームのページに入る。

告知板

司法制度改革推進本部が次の意見募集を行っています。
 1 「行政訴訟制度の見直しについて」 〆切 八月一一日
 2 「労働紛争処理システムについて」 〆切 九月一日(予定)



弁護士業務を危くする「犯罪」の創設

事務局長  中 野 直 樹

一 「共謀罪」意見書第一弾
 団は、六月常幹で「共謀罪の創設に断固反対する」声明をあげ、衆議院法務委員会の委員に届けた。さらに七月常幹で「共謀罪の創設に反対する」意見書を確認した。まだ法律論文調で、労働組合・市民に広く宣伝していく武器としては活用できないかもしれないが、まずは私たちが理解をし、問題の所在をつかむための一助となる。ホームページにアップしたので、ぜひ読んでいただきたい。引き続きもっとかみくだいた資料作成に取りかかっている。
 この「共謀罪」は「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」を立法理由と説明され、「犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」として打ち出されたものである。この法律案のなかには、弁護士業務をも犯罪化するおそれのある犯罪の創設も盛り込まれている。

二 強制執行妨害行為等に対する罪の創設
 これは先の「国際連合条約」の系統ではなく、司法制度改革審議会意見書が民事執行制度を改善するための新たな方策として「占有屋等による不動産執行妨害への対策」導入を打ち出したことに対応するものである。現行の封印破棄罪・強制執行妨害・競売等妨害罪の改正、強制執行行為妨害・強制執行関係売却妨害・加重封印等破棄等の罪の新設を内容とする。
 企業倒産の場合に、労働組合が雇用確保、労働債権の確保などのためにとる行為が、文言上、これらの構成要件にあたる事例も想定される。弾圧立法となりうるのである。日本労働弁護団が四月一四日付けで出した意見書が同弁護団ホームページに掲載されており、参考となる。
 日常の弁護士業務との関係でも看過できない「犯罪化」がある。たとえば、現行刑法九六条の二は、「強制執行を免れる目的で、財産を隠匿し、損壊し、若しくは仮装譲渡し、又は仮装の債務を負担した者」を処罰する。今回の改正案のなかに「金銭執行を受けるべき財産について、無償その他の不利益な条件で、譲渡をし、又は権利の設定をする行為」が盛り込まれている。これは真実譲渡であってもいわゆる詐害行為にあたることを広く犯罪化しようとするものである。負債が増えた夫名義の自宅を夫婦間贈与で妻名義にすると夫婦とも処罰されるのである。これをアドバイスした弁護士はその教唆犯となってしまう。

三 証人等買収の罪
 共謀罪と同じく五五〇を超える犯罪(長期四年以上の懲役・禁錮)に関し、「証言をしないこと、若しくは虚偽の証言をすること、又は証拠を隠滅し、偽造・変造すること、若しくは偽造・変造の証拠を使用することの報酬として、金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者」を処罰する犯罪の創設である。「共謀罪」と同じく先の「国際連合条約」(二三条・司法妨害の犯罪化)が立法理由と説明されている。
 現行刑法には証拠隠滅罪(一〇四条)、証人威迫罪(一〇五条の二)、偽証罪(一六九条)、証人不出頭罪(刑訴一五一条)などが用意されており、この教唆・幇助の組み合わせで国内犯罪対策は十分であろう。さらに「条約」の履行義務の範囲もカバーされているのではなかろうか。
 政府は、その点についてまったく説明しないまま、しかも「条約」の前提とする「国際的犯罪」の要件や「犯罪組織集団」の要件による限定をしない一般的な構成要件で犯罪化しようとする。
 弁護人が、証人予定者(被害者、参考人など)に会って、事実の確認をしたり、説明内容の真実性をチェックしたりすることは重要な活動である。この面談を喫茶店やレストランで行った際に、当然、飲食代金を弁護人が負担するであろう。さらに交通費や時間をとったことに対する日当を支払うことがあるかもしれない(捜査機関は組織として捜査報償費名目で予算をとっている)。この弁護人の活動を嫌悪する捜査機関が、たとえば証言をするなとの説得の見返りに「利益供与・申込み」があったと称して、刑事罰を振りかざすことがないだろうか。とりわけ、労働運動弾圧が発生したときの対策活動に牙をむくことはなかろうか。構成要件をみる限りでは、捜査段階から対象となるようにもみえる。弁護活動自体が萎縮を受けてしまう。
 以上のとおり、それぞれ見過ごせない危険性をはらんでおり、歯止めをかける声をあげていくことが必要だ。



導入派は市民間訴訟、中小零細業者関係訴訟への導入に強い意向

〜七月二三日司法アクセス検討会

担当事務局次長  坂 勇 一 郎

 七月二三日司法アクセス検討会が開催された。
 敗訴者負担問題の議論の冒頭、高橋座長が「導入しない範囲」にかんする従前の議論のまとめ的発言を行った。曰く、(1)行政事件については公権力行使に対する是正という意義があり敗訴者負担は提訴を萎縮させるという議論が出された、(2)労働事件では、賃金未払い事件は勝訴事例が多いので敗訴者負担がよいという議論や、企業と組合間には格差がないので導入すべきという議論が出された、(3)人事訴訟については、提訴を萎縮させて困るという議論もあったが、夫婦は対等だから導入すべきという議論も出された、(3)人身侵害は導入しないという意見が出された、(4)公害薬害医療過誤などの議論もあった、(4)消費者訴訟は中途半端な議論のままである、消費者が悪徳業者から訴訟される場合等も検討すべきである。
 右の後、簡裁の少額訴訟について導入すべきでないという意見が出された。しかしこの意見は通常訴訟への移行後は敗訴者負担とすべきというものであり(山本委員)、また、敗訴者負担には司法書士の代理人費用も含まれるという議論が行われた(高橋座長)。(司法書士会が反対決議をあげたことが意識されているのではないか。)
 また、この日の議論の中では、裁判官出身委員や裁判官経験を持つ委員から、普通の事件で敗訴者負担で訴訟をやめようという事例はそう多くないと思う、勝つか負けるかわからないという訴訟は許されない(三輪委員)、裁判官としてどちらを勝たせるか悩む事件はごく少ない(始関委員)、等の意見が出された。
 さらに、この日の発言の中では、弁護士費用が高いことが問題との意見(高橋座長)、有効な資源を使う以上気軽に裁判を起こされるのでは困る、裁判所は自助努力の結果としていくべきところとの意見(藤原委員)、無知は市民としての責任を果たしていないことになる(藤原委員)等、導入派の本音ともいうべき意見が出された。
 亀井委員、飛田委員、長谷川委員からは、司法アクセスという原点からの反対意見が展開された。
 この日の議論(ないしこれまでの議論)からは、次の点を指摘したい。(1)導入派は、市民間訴訟、中小零細業者関係訴訟への導入に強い意向を持っているということ、(2)「導入しない範囲」の議論の対象となった労働事件・公害薬害医療過誤・消費者事件等も予断を許さないこと、(3)導入派は、敗訴者負担は司法アクセスに影響しないとか、気軽に裁判を起こされては困る等司法アクセス論に対する反論を試みていること。夏前の検討会はこの日で一区切り、八月にはパブリック・コメント(意見募集)が行われる。このパブリック・コメントを経て、秋以降の検討会は九月一九日、一〇月一〇日、一〇月三〇日、一一月二一日と予定されている。
 まずは、パブリック・コメントへの対応が重要である。



公務執行妨害罪・傷害罪で無罪判決

神奈川支部  小 口 千 恵 子

 平成一五年六月二〇日、千葉地方裁判所において、痴漢事件と公務執行妨害事件のうち、後者について無罪判決を得ました。なお、本件は一審で確定しました。弁護団は、山田安太郎(千葉)、小口、阪田勝彦、関守麻紀子(以上神奈川)でした。
 痴漢えん罪事件では、女性が男性を犯人ではないかと駅員に突き出すと駅員は警察署の指導に従い警察官に引き渡し、これが女性による現行犯逮捕とされて、検察官や裁判官による適切なチェックがなされずそのまま有罪判決となってしまう問題点が指摘されています。
 本件は、痴漢事件を争っている被告人が、係争中に全く別の痴漢事件の犯人として間違えられたときに、駅から当職に電話をかけてきたのが始まりです。
 当職は、駅で駅員や警察官と携帯電話で話をし、ここで、逮捕ではなく任意である旨の確認を得たことから、帰宅をさせようとしました。
 ところが警察官は、事情を聞かない限り帰せないととして、帰宅するために電車に乗ろうとした被告人を二人掛かりで両脇を捕まえて引きずり降ろして、これに抵抗する被告人を公務執行妨害と傷害で逮捕したのです。
 当職と警察官らの電話は三〇分に及ぶものでしたが、当職は警察官とのやり取りの録音に失敗。現場に駆けつけた関守、阪田、浜田弁護士から公務執行妨害罪で逮捕されたと聞いて、違法な公務であるのに、それを証明できず(小口が証言しても信用できないとか認定されて)、有罪となることが予想され、非常にショックを受けました。
 そこで、その日のうちにメモを作り、翌日すぐに確定日付をもらいました。勾留裁判官に面会した折に、このメモを証拠として提出(但し、録音を失敗したという内容がある最後の頁は提出せず)、さらに携帯電話がとぎれたときの状況をもう一度詳しく報告書にして提出しました。
 これを受けてか、駅員、警察官らは、員面、検面、公判廷において、すべて、「任意同行である旨答えていた」と供述したのです。(但し、手続上は女性による現行犯逮捕と公務執行妨害罪・傷害罪の現行犯逮捕の二本立て。不同意にして証拠として顕出させず。)
 当職は証人として証言しましたが、さすがに一年三ヶ月前の電話の内容というのはメモがなければ大雑把にしか思い出せるものではないことを実感しました。メモは確定日付があることから証拠物と認められました。
 またホーム上に押し倒されて逮捕された時にできた怪我の状況は、当日接見の際に写真撮影しておいたためにこれも証拠として提出することができました。
 さらに、携帯の通話先と通話時間の記録は、料金を支払ってしまうとなくなるとのことで、直ちに取り寄せておきましたので、これも証拠で提出しました。
 なお、事件直後から数日に亘って駅で目撃者探しのビラを撒きました。数名の人が電話をかけてきてくれましたが、大捕物があった時点での目撃者からの情報提供はありませんでした。後に、ホームにビデオが設置されていることに気づきましたが、本件は録画はされていなかったようです(駅のビデオは二四時間は保存しておくものもあるようですので、場合によっては使える場合もありそうです)。
 このような初動弁護の甲斐あって、「被告人をその意思に反して電車から無理矢理降ろすなどした行為は、適法な職務の執行であるとはいえず、したがって、被告人に公務執行妨害罪は成立しないというべきである。」さらに傷害については「巡査らの行為は違法な職務執行として急迫不正の侵害に当たるところ、被告人が暴行を加えるに至ったのは、これに対抗しこれを排除しようとしてものであると認められ、自己の権利(身体的自由)を防衛するためにしたものということができる。」として正当防衛行為に当たると認定しました。
 以下、事実経過が分かり易いので右メモを添付します。
六時(会議開始時刻)少し前、事務所に電話。
根岸先生が出てOさんから、小口か阪田にということだったので電話に出る
R君のお母さんからで、悲鳴のような声で大変なことになった、R君が今、南砂町で、痴漢に間違われて助けてという電話がかかっているとのこと
別の電話でお母さんとR君が話している様子なので、直接小口宛電話をするように伝える
R君から電話 ただ立っていただけだとのこと
そばに駅員がいる 電話を替わってもらって話す
なぜ 身柄確保しているのかを尋ねたところ、降りようとしないし、駅事務所に連れてこようとしても来ない
警察からの指導で、女性からの被害申告がある以上自由にするわけにはいかないとのこと
被害者が言っているだけで、こちらは痴漢行為はしていないのになぜ、身柄を確保しているのか そのように女性の言い分だけで逮捕をする権限はなく違法と警告したが、女性が言っている以上、警察に指導されているの一点張りであった
女性はどこにいるかR君に尋ねたところ、わからないとのことでまた、駅員に替わってもらったら、駅事務所にいるとのこと
R君に連絡先を明らかにして立ち去るように伝えたが、今、警察を呼んでいるらしく、R君はそれ以上なにもできず、どうにもならない状況そうであった
警察官が来たので電話を替わってもらい、話をする
逮捕ではない、現行犯逮捕ではないと断言 事情を聞きたい、任意同行とのこと
R君にとにかく、任意同行ということなので、必要ならば令状逮捕してもらえばいいのだから、連絡先等を教えて今はそこを立ち去るように言う
警察官には、逮捕ではなく、任意同行だということなので、いつでも、連絡先はきちんと伝えるから帰宅すると話す R君は学生証があるとか電話のむこうで言っていた
警察官の名前を聞くと、大作警察官 城東警察とのこと
他に警察官はいるかを尋ねるとパトカーに乗ってきた他の警察官がいるとのこと
埒が明かず、本部にも連絡を入れている様子で、どうにもならない
途中でもう一人の警察官に替わる 業を煮やしたような感じ、この警察官の方が偉そうな態度だった
こちらの立場を説明するが、むこうは事情を聞いていないから聞きたいというばかり
逮捕なのか確認を何度もしたが、怒ったような様子で逮捕ではないと何度も断言する
任意同行を求めているとのこと
帰ることを阻止されるというので、また、警察官に替わってもらい、任意同行ならば、連絡先を明らかにした上で今は帰ると話をするが、R君は阻止されて帰れないような様子
被疑者か尋ねると被疑者ではないとのこと
被疑者ならば当職が弁護人になるからと名前と電話番号を伝える
 六五一の一とか二四三一の一が聞き取りにくい様子
 途中電車の騒音で二度中断した
連絡はこちらにすればいいんですねと言って警察官は当職の電話と名前を復唱していた その発言を聞いて今日はとりあえず帰してもらえるかと期待した
また、R君が立ち去ろうとするのに強制的に引き留めるかを確認したところ、そのようなことはしないと断言した これについては二度確認
一度阻止したのは、連絡先が分かっていないからというようなことを言う
前から、身分を明らかにしているのに、最初からこの場所では聞く気もなかったのかどうしようもないなと思ったが、ここでそのようなことを言い合ってもどうしようもないので、きちんと伝えた方がいいと思い、さらにR君に伝えるように指示する
学部や学科、その所在地も、学生証を見ながら逐一メモ 
誕生日も聞かれていた R君は月日だけ答え、警察官から何年と聞かれて西暦で答えようとしたがすぐに出てこず昭和で再度答えていた
また携帯の電話を教えた方がいいかとR君から尋ねられたので、教えた方がいいと言ってそれもメモしてもらう
メモにずいぶん時間がかかった
書き終わったかを二度ほど確認の上、三度目に書き終わったということだったので任意同行ということと、連絡先が本人と弁護人がわかったので、事情聴取が必要ならば適切に処置することを約束して、この場は任意同行に応じるつもりはなく帰宅させると断言した
警察官がなぜかと聞くので、法的に判断して私が決めたと伝える
警察官は、私は法律に詳しくないので分からないが、事情聴取の必要があるとのことをしきりに言うので、事情聴取の必要があればきちんと対応すると約束する
また、現行犯逮捕でないのにおかしいといったところ、事情聴取の必要がある、女性から話を聞いてから、事情聴取をしなければならないということなので、その必要があれば、きちんと対応すると約束した
R君に替わってもらい、手をかけないと約束しているので、今何をしているか尋ねたら、出口の方に向かうというので、次の電車が来たら乗るように指示
Rくんは途中で録音しなければと言って心配していたが、録音しているというと安心していた
電車がきたが、R君が乗ろうとするとR君は手を捕まれた、離してもらえないと、ずいぶん長く(一〇秒くらいか?)何度も叫んでいたが突然電話が切れた
時計を見たら、六時三〇分頃だった 会議が六時からなのに三〇分も電話していたんだと思った
なお、途中で畑山、関守、浜田、阪田弁護士がいたので報告
どうしようと相談して、他の東京の弁護士に行ってもらおうかとか相談
電話の録音の仕方を、途中でボタンを押すのではと聞いたら、切る前に再度押してと言われた
若い弁護士は途中メモを残して南砂町に向かう
録音の仕方もメモを残して行った
電話が切れたあとテープ録音されているか確認したらだめだった
 その理由を確認したところ
伝言ボックスボタンでなく、通話録音ボタンを押してしまった
そもそも相手からかかってきた電話は相手が切る前に押さなければだめであった
会議に参加
会議中、関守弁護士からの電話「南砂町にはもういないので、城東警察に向かう」
二本目関守弁護士からの電話「迷惑防止条例違反・公務執行妨害で逮捕されたが、接見ができず、接見は九時半ころになると言われた」私に来てと言われたが、正式に逮捕されたということだったので、とりあえず接見してもらうことが必要と思いその旨指示 
その後浜田弁護士から電話「接見ができない」 取調中は難しいので、ともかく要求して、そして接見してと伝える その直後に接見出来た模様
会議終了時にテープがとれなかったので、今日寝られないと話をしたら、畑山、根岸、高橋弁護士等が「証人にならなくてはならないな」と言うので、電話内容を忘れては困ると思いメモを残すことにした

二〇〇一年一〇月一〇日午後九時



齋藤喜作氏著「無実の人々とともに」

及び宇賀神団長の裁判交流集会報告について

東京支部  川 名 照 美

 日本国民救援会中央本部顧問の齋藤喜作氏が、二〇〇二年一〇月一二日、光陽出版社から「無実の人々とともにー松川救援から国民救援会へ」を出版された。同氏は、高津事件(高津年夫元立川市議の選挙弾圧事件)について、「弁護側の証拠調べも行わず、更に最終弁論もおこなわないで、公民権停止付きの有罪が東京地裁八王子支部で宣告された。そして控訴棄却、上告も棄却されて有罪が確定してしまい、高津市議は次の選挙に立候補できなかった。そもそも、東京地裁はファッショ的訴訟指揮で有名な裁判官を八王子支部に転任させ、高津公判を担当させたのであった。裁判官は、「被告人が在廷していない」とか「弁護団が退廷した」などの口実でファッショ的訴訟指揮を強行したのである。この公判を傍聴していた私は、せめて公民権停止を外すよう関係者が対処すべきだと強く思った。この事件もまた、弁護団と国民救援会の意思統一の不十分さが不当判決を強行させてしまったと言わなければならない。」と記述している(同書二五三頁から二五四頁)。
 そして、二〇〇三年六月八、九の両日、自由法曹団、全労連、国民救援会主催による「第一三回裁判勝利をめざす全国交流集会」が熱海で開催され、団長宇賀神直弁護士が第一分科会で行った報告が「二〇〇三年七月五日付救援新聞」に掲載された。宇賀神弁護士は、救援会・弁護団・被告の団結が大衆的裁判闘争の要であることを強調し、その悪い例として、斉藤喜作氏の著書前記部分を引用して、「『弁護人は五分では(弁論)できない』と弁論せず、有罪判決となり、高津さんは公民権停止となってしまいました。私は一五分でも弁論するのがよいと思います。」と述べている。
 この交流集会には、三〇都道府県から六九事件二二四名の多くの人たちが参加し、また、報告集が九月に刊行される予定とのことです。私は、高津事件弁護団であった者ですが、高津事件が、救援会・弁護団・被告の不団結の事例として、斉藤喜作氏、宇賀神団長によって、このように引用されることについては、決定的な事実の認識が欠けているという点において異議があり、高津事件の真相が誤って伝播していくことを見ているわけにいかないので、団通信に寄稿します。
高津事件の真相
 一九七四年六月一六日投票日の立川市会議員選挙に日本共産党から新人として立候補した高津年夫氏は、事前運動、戸別訪問の公選法違反で逮捕・捜索を受け(六月二三日)、起訴された。同年七月七日は参議院選挙日であり、共産党へのイメージダウンと高津市議の選挙妨害・議席剥奪を狙った弾圧であった。公判は、東京地裁八王子支部において同年九月一四日から始まり、毎月一回、土曜日(高津氏の議員活動と公判を両立させるため)に大きな法廷(傍聴人多数のため)を使い、弁護団がテープレコーダーを用いる(次回公判準用のため)ことが裁判官との間で合意されて、審理は三年半進行していた。事件は、高津氏再選の選挙が行われる一九七八年の四月、裁判官が交代してから起こった。新裁判官は、何ら問題なく実施されていた右合意を一方的に破棄し、すでに指定済みの次回公判期日を取消して、職権で期日を指定(平日)した。被告、弁護団は、従前合意を変更すべき合理的理由を問いただした(法廷外では裁判官は弁護人と面談しなかった)が、裁判官は、これに関する発言を認めず、弁論更新手続、さらには検察官立証を強行して行った。その過程で弁護人、被告本人からの意見や様々な異議(特に公判調書の正確性に関する異議に収斂していったが)に対し、異議理由を述べる前に発言禁止、異議理由を述べだすと簡潔でないとして発言禁止、発言禁止に従わないとして退廷命令、このように弁護人、被告人、傍聴人への退廷命令が連発された。そのため、公判を重ねるごとに裁判官の強権的進行による手続的違法が累積し、これら違法の是正を求める(忌避申立の理由陳述も五分と制限)と、弁護人の訴訟行為(例えば、更新における意見陳述、反対尋問、被告人質問など)を「しないもの」と一方的に看做して次々に予定スケジュールだけを進め最終弁論期日となったが、「弁論を命じる、弁論の時間は、弁護人一人について五分とする。」と命じた。弁論時間についての意見や異議を述べると、発言を禁止し、「弁論をやらないものと認める」として結審して判決言渡期日を指定し、同期日にまだ行われていない被告人の最終陳述を求めたら発言禁止、これに従わないとして被告人に退廷命令を出して判決を宣告した(一九七九年六月八日)。裁判官の強権的訴訟進行は、訴訟指揮に名を借りてなした高津氏の議席剥奪を狙った新たな弾圧というべきであった。東京弁護士会法廷委員会、日弁連中央法廷委員会は、調査の結果、「被告人、弁護人の防御権、弁護権行使に配慮を欠き、これを全く省みないものである」と批判した。弁護団は、公判記録を配布して全国の団員弁護士に上告趣意書作成を呼びかけた。四二二名が弁護人になり、四五通の上告趣旨書が提出された。高津氏は、国民救援会の指導と協力のもとに、全国的に裁判支援の訴えを開始し、事件の真相を広めた。立川市議会本会議では、公正裁判要請決議が超党派で提案・可決され、過半の議員が最高裁へと出向き、文化人七〇〇人が公正裁判要請の署名を行い、三多摩地区労協、都職労、新聞労連、全日自労で支援決議がされた。党派性の強い公選法事件でその枠を乗り越えていく裁判運動の大衆的な広がりとなった。
「植木敬夫遺稿集 権力犯罪に抗して」
 所属事務所(東京合同法律事務所)の弁護士「植木敬夫遺稿集権力犯罪に抗して」(二〇〇二年一一月九日、日本評論社発行)に、高津事件の主任弁護人植木敬夫弁護士の論文が掲載されている。高津事件の困難な状況に直面したとき、どのような弁護方針で臨むかについての厳しい論述である。この「遺稿集」は、青梅事件、辰野事件、松川事件などの担当事件に際して執筆した、大衆的裁判闘争における真実解明の方法と弁護団の役割など、現在において学ぶべきところの多い論点について、緻密かつ正確に論述されたものである。是非、ご参照ください。



●発作的連載映画評論●

「二重スパイ」を観る

東京支部  齊 藤 園 生

 夏は団通信の原稿が少ないそうである。紙面づくりに、調子に乗って、少し映画のことを書いてみたいと思う。
 今回は「二重スパイ」。キム・ヒョンジョン監督、主演は名優ハン・ソッキュ。二〇〇〇年の「シュリ」、二〇〇一年「JSA」に続く、南北もの第三弾と言っていい。時は一九八〇年代全斗煥政権時代。「脱北」した主人公が「南」の厳しい尋問にも耐え、「南」の国家安全企画部(要は南のスパイ組織)で働くようになる。実は彼は偽装脱北した北のスパイ。南にいるスリーパースパイの女性と接触し、二重スパイとして活動を始めるが、二人はある事件から、北からも南からも追われる身になる。そして二人は国外に逃亡するのだが・・、というお話。
 映画の作りとしては、イマイチだよなあ。設定に無理があるし、ストーリー展開も説得力が無い。韓国一の演技派ハン・ソッキュがでると必ず女を絡ませて恋愛ものにするところも、私は嫌いだなあ。
 では終わった後に「けっ、くだらねぇ」と感じるかと言えばそうではない。やっぱり観た方がいい映画だ、と思う。そして何とも重い気持ちになる。南のスパイ組織の上司は、「アカの野郎」といって、あからさまに北の人間に対する敵愾心を表す。南北の国民の思いは複雑である。朝鮮戦争では、南北の国民はお互い敵として戦い、多数の被害者を出しているのだから、当然であろう。しかし、こうした分断国家のもとで、国家に翻弄され、犠牲を強いられているのは個人だ。個人の立場からみれば、同じ民族であり、隣人である。歴史的事実や恨みも乗り越えて、「南北統一」にかける強い思いが、希望とか夢とか言うものではなく、ほとんど情念に近い気持ちとして漂ってくるのである。
 韓国でここ数年、これでもかというほど、しつこく南北ものが制作され、これがまた例外なくヒットしているときく。政治の世界でも選挙でも金大中の「太陽政策」を受け継ぐ盧武鉉大統領が選出された。朝鮮半島は徐々に統一に向かって動いているものと思いたい。翻って、拉致問題等で、北朝鮮脅威論を振りまいている一部の日本人を見ると、朝鮮半島の人々に比べ、何と軽薄で、罪深いものかと思うのだ。