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毛利 正道 国税不服審判所審理記録の文書提出命令出される
大崎 潤一 総会議案書起案中に浮かんだこと
笹山 尚人 団員のみなさん!首都圏青年ユニオンを支える会にご参加下さい
中野 直樹 五月集会のあとさき(一)
菅野 昭夫 NLGバーミングハム総会へのお誘い




国税不服審判所審理記録の文書提出命令出される

長野県支部 毛 利 正 道

 松本市の機械部品組立業者・瀬戸久敏さんと穂高町の通信配線工事業者・伊藤邦男さんが、十分な調査もしないままあまりに高額な更正処分をなした松本税務署長に課税処分の取消を求めている裁判で、長野地方裁判所は昨年九月二日に国税不服審判所長に対し、審理記録の一部を提出することを命ずる決定をしました。これは、情報公開を求める世論の高まりの中、二〇〇一年一二月一日から施行された改正民事訴訟法によって、公務員が作成保管する公文書についても裁判所の提出命令がなされやすくなった機会を捉え、施行と同時に申立をし、一年半の審理で国・審判所・「監督官庁である国税庁」こぞって反対する中で決定されたものです。この決定に従って裁判所に送られて来た審判所の記録を早速謄写し、これを証拠として提出しました。これまで非公開でいわば秘密のベールに包まれていた国税不服審判所の審理記録がおそらくわが国で始めて係争している当事者の目に触れた瞬間でした。この証拠提出によって、課税処分があまりにずさんになされた疑いがさらに強まり、裁判所は、課税処分をした担当係官とこれへの不服申立である異議審理を担当した係官二名の証人調を決定しました。

税務署の違法調査に足かせ

 二人のケースはいずれも、争っている納税者の所得を異なる業種の業者の資料から推計した疑いが強まり、その真偽を明らかにするために審判所の記録が必要であったもので、個人名が推測される「守秘」文書は命令で除外されており、またむろんすべての事件で審判所の記録を使えるということでもありませんが、税務署の横暴な調査や課税処分がまかり通っている今、このような方法があることによって税務署との争いにバリュエーションが広がり、また、そのために違法な調査・処分をやりにくくしたことは確かです。「民商をやめたら更正処分しない」との脅しに屈することなく、一九九六年から既に八年間闘い続けている瀬戸さん・伊藤さんは、「ここまで税務署を追いつめることが出来た。全国の皆さんの役にも立てて嬉しい」とますます意気盛んです。―事務所ニュース用に起案したので「くだけて」いますがご容赦を。お求めあれば文書提出命令書をFAXします。



総会議案書起案中に浮かんだこと

事務局次長  大 崎 潤 一

 「あきらめてはいけない」「あきらめないこと」「あきらめるな」改憲阻止闘争の中で何度この言葉に出会ったことだろう。また何度この言葉を訴えたことだろう。裏を返せば、あきらめそうになるほど情勢が厳しいということだろう。
 また打ち続く闘いに疲れ果て、くたびれはて、消耗することもあるだろう。様々な方向から攻撃がしかけられるために、それに一つ一つ反撃していくと疲弊し戦意を失ってしまう。
 戦意を維持することの重要性は言うまでもない。戦いを支える物質的な基礎は重要だが、しかし戦意がなくなければ物質的な基礎も十分に使いきれず、闘いができなくなってしまう。現実の戦争でも、戦意を破壊する戦術が用いられる。その典型がイラク戦争緒戦のショック・アンド・アウェであろう。
 逆にいえば、士気の維持が出来れば、物質的な基礎が必ずしも十分でなくとも善戦できるだろう。士気が盛んな集団は反撃する気力も高い。そのため、攻撃側も相当な被害を予想し、その回避のために作戦を延期するなどの可能性もある。そうして時間が経過する中で防御側が有利な情勢を見出すことは珍しくはない。攻撃側は、そのような時間稼ぎをさせない。兵は神速を貴ぶである。
 現時点で、高い士気を維持し、それによって改憲のための時間をかけさせることは実際に大きな意味を持っているだろう。改憲勢力がその具体的な日程を明らかにしているからである。一般的に言われるのは二〇〇七年の参院選をダブル選挙とし、改憲の国民投票も同時に行うというものである。
 改憲の日程が公然と語られるようになったことは、それ自体が大きな憲法の危機である。改憲勢力もこの日程を念頭において、攻撃を組織的体系的に行ってくるであろう。
 しかし、これは単純に憲法の危機が高まるだけを意味しはしないだろう。改憲の具体的日程が明らかにされたからといって、それだけで改憲が必至となったわけでもない。むしろ改憲日程が明白になったことを逆手に取る手段もあり得るのではないか。
 改憲の日程は、改憲勢力にとってもデッド・ラインになる可能性があるだろう。この日程までに改憲を実現できなければかえって改憲勢力にとって小さくない打撃となって跳ね返りかねない。もちろん、二〇〇七年の改憲を阻止すれば、それだけで改憲勢力が崩壊し、憲法の実現にとっての障害物がなくなるというわけではない。改憲の阻止に成功すれば、それは改憲勢力にも「教訓」をもたらす。改憲勢力は二〇〇七年の改憲の失敗から多くを学び、よりバージョンアップした攻撃をしかけてくるだろう。それが闘争の弁証法であろう。
 とはいえ、二〇〇七年の改憲を阻止すれば、次の改憲提起まで一定の時間と準備が必要になると思われる。仮に次の改憲国民投票も同時選挙時に行うとすれば、新たな改憲は二〇一〇年まで延びることになる。時間の経過はさまざまな変化を生むかもしれない。たとえば、改憲勢力の側の世代交代である。もちろん、世代交代はこちらの側にも起こる。したがって、時間の経過自体は改憲勢力にとって不利な事情ではない(仮に時間の経過が改憲勢力だけに不利なら、改憲勢力は二〇〇七年の改憲日程を絶対に死守するであろう)。しかし、時間の経過による事情の変更が新局面を開く可能性は留意したい(次のアメリカ大統領選挙は二〇〇八年である。過大視はできないが、アメリカで政権交代があれば、改憲圧力が変化する可能性も念頭におきたい)。
 したがって、改憲のため一定の時間を必要とさせることによっても改憲阻止の展望は開けるだろう。その時間を費やさせるだけの士気の高揚を勝ち取るならば、勝利の可能性が開けると考える。実際の戦争においても攻撃することは防御することよりも困難が多いとされている。改憲勢力の攻撃には難点が多いことを認識し、過度の楽観論は戒めながらも憲法を守ることには有利な事情が十分にあることをしっかりとつかみ、それによって士気を維持することであろう。
 そして現実に改憲阻止の闘いは一定の成果を上げている。二〇〇三年衆院選による保守二大政党制の出現後、国民投票法や教育基本法改悪案が二〇〇四年通常国会に上程されていれば厳しい局面を迎えていたと思われる。しかし、結局は国民投票法も教育基本法の改悪も国会に上程することすら出来なかった。
 その直接の背景にはさまざまな事情があり、自民党と公明党、特に公明党の支持母体である創価学会との調整の難航などもあったと思われる。しかし「敵失」のみがこの事態をもたらしたのではなかろう。なにゆえ調整が必要だったのか。それは日本の広範な平和意識とそれを支える運動があったからであろう。こうした市民の運動がなければ改憲勢力は速やかに調整を行い、国民投票法案や教育基本法改悪などが提案、採決されていたかもしれない。
 もとより、改憲阻止運動の側の弱点にことさら目を覆う態度は正しくない。しかしながら、それをもって国民投票法が上程されなかったのはもっぱら改憲勢力の側の都合によるもので、改憲阻止勢力の運動や力量によるものではないと考えることも一面的であろう。
 何よりここで一年間時間がずれたことは、改憲勢力にとっては我々の想像以上に大きいのではないだろうか。
 何が言いたいのかと言うと、冒頭にも書いたようにあきらめるなということである。危機意識をもつことは重要であるが、それが高じて絶望に陥りあきらめてしまっては改憲勢力の思う壺だろう。
 逆に改憲策動を断念させることができるならば、情勢の急速な変化を作り出せる可能性もある。渡辺治氏は「講座 戦争と現代」第五巻一三四ページで次のように述べている。「改憲阻止の運動に成功すれば、支配層の軍事大国化の動きに大きな打撃となるだけでなく、保守政権の存続にも赤信号が灯ります」。
 大きな制度的改変などには相当の時間が必要であることは言うまでもない。過去の例でも、消費税は、大平内閣が一般消費税を掲げてから竹下内閣が導入するまで約一〇年が必要であった。政治改革による小選挙区制の導入から保守二大政党制の実現までも一〇年がかかっている。教育基本法の改悪に至っては中曽根内閣が打ち上げてから二〇年にもなるがまだ法案の上程もされていない。
 当然ながら、改憲はこれらの制度的改変に比べても格段に大きなものである。ある意味では憲法制定以後五〇年余りにわたって改憲の攻撃がされてきたともいえるが、改憲の具体的日程が表れてきたのはここ一年ほどであることを考えれば、時間が不足しているのは改憲勢力の側だろう。
 一人一人ができることを。一人は、一億人の一万分の一のさらに一万分の一(この数字は偶然だが)。一人だと、疲れたなと感じたり、気持ちが焦ったりすることもある。そんなときには何を思い浮かべようか。「あと一年です」「時間です」とタイムリミットになり、言いたいことが言えない、やりたいことがやれないとならないように、むしろ改憲勢力こそを時間切れに追い込んでいきたい。



団員のみなさん!

首都圏青年ユニオンを支える会にご参加下さい

東京支部  笹 山 尚 人

1、首都圏青年ユニオン支える会への誘い

 首都圏青年ユニオンという労働組合があります。詳しくは後述の呼びかけ文に譲りますが、当初三〇名ほどで、しかもそのほとんどの人がお義理で入ってくれた労働組合として二〇〇〇年一二月に旗揚げしました。以降、団体交渉で連戦連勝、有名なところでは松屋やプロントを撃破して、現在一二〇名余りを組織する組合に成長しました(しかもお義理の人はもういなくなりました。)。なぜこのように成長しているか?それは広がる未組織労働者、とりわけ非正規雇用(派遣、パート、アルバイト、フリーター)を組織しているからです。色々言いながらも結局は従来の労働運動が取り組めていない、未組織労働者の青年の悩みに直に向き合う労働運動だからです。労働運動の再生のための、貴重な取り組みといえます。そのため、この動きは全国に波及しつつあり、既に山梨や広島で青年ユニオンは作られています。活動の詳細については、今年の五月集会のための特別報告集に私の原稿がありますからそれもご参照下さい。
 この組合が現在危機に陥っています。経済的に貧弱な若者中心の組織ですから、財政が弱いのです。そのため、専従がいないのです。結果、これ以上の人数を組織しようとしても、正直限界なのです。
 そこで、後藤道夫都留文化大学教授が音頭をとって、「首都圏青年ユニオンを支える会」という応援部隊を作ることにしました。会員一人から年間一万円のカンパを募り、一〇〇〇人以上の会員を組織することによって年間一〇〇〇万円の原資を作り、それによって専従を雇用し、首都圏青年ユニオンの活動を広げて貰おうというものです。当面三年間、この運動を進めます。
 たぶん、労働運動自身の力ではない社会運動で労働運動を支えることには、また、特定の労働組合を支援することにも、疑問を持たれる方もおられると思います。しかし、ぐずぐずしてはいられないのです。非正規、未組織労働者の組織化を出来るところから進めていかなければ、この日本の労働運動、民主運動は本当に死んでしまいます。そのことは、労働事件に一度でも関わったことがある皆さんなら、よくおわかりではないでしょうか。あまりに、「一〇年後にこの労働組合あるのかな?」という組合が多いのではないでしょうか。首都圏青年ユニオンの取り組みこそ、この現状から労働運動が脱却再生するための貴重なパイオニアになるだろうということで、支援していきたいのです。
 すでに、教育分野の方からは多くのご賛同を得ています。また民医連も、大量のカンパを行う予定と聞いています。私たち弁護士も、この会に多く参加していこうではありませんか。何を隠そう私はこの組合の顧問ですが、無給です。無給どころか、これからはカンパする立場になるのです。トホホです。でも、本当に貴重と思うのですよ。横で見ていて。
 この運動の詳細は、後藤教授の起案にかかる呼びかけ文があります。それを以下に添付しますので、これをお読みいただき、ぜひ奮ってこの会に参加下さい。参加されたい方は、私までご一報ください。申込用紙を送ります。

 笹山尚人
新宿区四谷一の二 伊藤ビル 東京法律事務所
 電 話  〇三・三三五五・〇六一一
 FAX  〇三・三三五七・五七四二
 メール  sasayama@tokyolaw.gr.jp

2、呼びかけ文「首都圏青年ユニオンを支える会」にご参加を

できたばかりで、まだ小さいけれども、将来とても有望な、青年たちの労働組合があります。子どもや青年たちのこれからの労働環境がとても心配だという方、日本の労働組合運動の現状を強く憂えている皆さん、この労働組合を支える会に参加しませんか。
 「首都圏青年ユニオン」は二〇〇〇年一二に、パート、アルバイトなど不安定雇用の青年たちが中心となり、「公務公共一般労働組合」(注)の一つの支部として結成した労働組合です。この組合の結成がマスコミで報道されてから、残業代未払いや乱暴な解雇などの労働相談が毎日のように持ち込まれています。その多くは明らかな法違反や厚労省が提示する基準以下の処遇にかんするものであり、労働組合として対応すれば解決可能なものがほとんどです。実際、首都圏青年ユニオンの組合員たちは、公務公共一般の先輩たちに教えられ、短期間に自分たちで交渉・解決できる能力を身につけ、多くの事件を解決してきました。現在も、ヨドバシカメラ事件の裁判などが進行中ですが、若者の生活と権利を守って闘う姿は上の世代にはまぶしく映ります。組合員もふえ、現在、一二〇名となりました。

(注)「公務公共一般労働組合」
 東京の地方自治体(都・区・市など)公社・公団・財団の職員、地方自治体職場の臨時・パート・非常勤などを対象とし、個人加盟の「都区関連一般労働組合」として一九九〇年に一二〇名で結成。
 正規公務員の労働組合「二重加盟」方式で東京都職労の支援を受けながら成長。現在は大学の非常勤講師、民間福祉職場の労働者などを幅広く組織。約三〇〇〇名。
 青年たちの雇用環境は九〇年代後半から急激に悪化し、現在、一五〜三四歳の不安定雇用と失業を合わせると、その世代の労働力数の約三割に達しています。日本の労働組合運動の実力が長期に低迷するなかで、こうした労働環境は労働トラブルを急増させ、不安定雇用をふくむ低い労働条件の労働者を組織する労働組合への期待と要求は、かつてなく高いものとなっています。
 これまでも、不安定雇用労働者を組合に組織する努力がさまざまに行われてきましたが、今のような環境の下で青年層を本格的に組織しようという試みはありませんでした。「首都圏青年ユニオン」は、急激に悪化し続ける労働環境のしわよせが集中する青年労働者を、産業、職種、雇用形態を問わないで組織する道をえらびました。発足以来の「首都圏青年ユニオン」の活動は、きわめて困難な環境におかれている今日の青年労働者たちが、労働組合を強く求めていること、そして、彼ら自身が社会正義と連帯のために闘う強いエネルギーを持っていることを、私たちに理解させてくれました。
 彼らが現在ぶつかっている最大の壁は、不安定雇用の労働者がほとんどであるため、十分な労働組合費を確保できず、専従活動家を確保できないことです。専従活動家なしには、よほど例外的な条件にめぐまれないかぎり、増え続ける労働トラブルに対応しながら、労働組合員を増やし続け、交渉力を系統的に高めていく活動をすることは困難です。
 「首都圏青年ユニオン」がその支部となっている「公務公共一般」には、若い専従者が三人います。公務公共一般は、かれらを急激に成長させ、同時に、彼らが活躍し始めてから組合員を大きく増やしています。かれらのみごとな成長と大活躍も、「首都圏青年ユニオン」に若い専従者を確保させよう、とわたしたちが決心する大きなきっかけとなりました。二人以上の若い専従者を確保すれば、「首都圏青年ユニオン」は、必ず、大きく成長すると思われます。公務公共一般自身も三〇〇〇人近くまでのびてきましたが、その支部である青年ユニオンに専従を配置する余裕はない状態です。そもそも公務公共一般じたい、都職労からの援助でなりたっている組合です。
 日本型雇用が標準であったこれまでの労働市場は、非正規雇用を大量にふくんだ流動的な労働市場へと、急速で巨大な転換をはじめています。正規雇用労働者のみからなる企業別労働組合は、これまで労働運動の長期にわたる停滞を招いてきましたが、いまや、根本的な転換をせまられることになりました。「首都圏青年ユニオン」が数年間で数千名の組合へと成長し、職種別、産業別部会を組織しながら、既存の組合と新たな労働市場に適応できる連携体制をつくりあげていくことができれば、全国の労働組合運動に大きな希望をあたえることができるでしょう。自覚的・具体的に大きな転換に向けた動きを始めなければ、今の子どもと青年をふくむ次世代は、荒涼たる労働運動砂漠のなかで砂粒のように生きることを強いられかねません。
 とりわけ、若者の未来に強い関心をよせておられる中学・高校教員、大学教員の皆さん、支える会の会員となり、教え子がすぐにでも直面するであろう労働トラブルへの「保険」を、彼らの代わりにかけてやって下さい。ベテランの労働組合活動家の皆さん、若い労働運動家がたくさん育つよう、また、新しい労働市場に対応した運動スタイルや組織形態が発展できるよう、ご援助をお願いします。
 多くの分野の社会運動家、ジャーナリスト、弁護士の皆さん、労働組合の存在そのものが危機にさらされていると考えていただきたいと思います。労働組合を社会運動が支援しなければならない現状であることをご理解下さい。「首都圏青年ユニオンを支える会」へのご参加を心よりお願いいたします。



五月集会のあとさき(一)

東京支部  中 野 直 樹

一 団通信六月二一日号は「滋賀五月集会感想

 その1」としているが、「その2」が出ていない。五四〇名もの参加者があったのにこれでは寂しい、と思い、時期はずれで、「その2」ともならないが、たぶん原稿枯れの八月でもあるので、二回に分けて投稿することにした。私にはこの二年間運営主体としての全国会議であったので、今回は気楽な参加を心待ちにしていたが、結局、プレ企画の「法科大学院と自由法曹団」、初日の監視社会分科会、二日目の司法分科会の三つの司会を担当するはめになった。

二 プレ企画

 四月からスタートした法科大学院に、全国でおそらく七〇名近い団員が教員となっている。数名の団員教員に参加をしてもらった。まだ本格的に実務科目が始まっていない段階であるが、ともかく院生が膨大な量の宿題を与えられ、睡眠時間を削りながら予習をしている様子が紹介された。過密なカリキュラムと新司法試験合格に捕らわれた院生に、人権活動に関心をもってもらいさらには自主的な活動にも参加してもらう課題は容易ではない。しかし、各地で学生・院生との接点をつくる試みが実践されており、この二年間の討論の積み重ねの力を感じる集いだった。
 青法協では、法科大学院に対する原理的な意見の対立が解消されておらず、法科大学院支部をつくるかどうかをめぐって議論が継続中ときく。弁護士集団である団には、支部をつくるという構想はないが、弁護士に触れたことのない院生に、さまざまな機会をとらえて、私たちの事務所と活動をみてもらい、現場体験をしてもらい、人権活動のやりがいを実感してもらう情報と場を提供する組織的な工夫が必要である。
 そして何よりも、仕事と教育の二つの活動を担うことになった団員教員と団との間のパイプをしっかりつくっていくシステムづくりの必要性を感じた。その後六月に大阪と東京で、団員教員との懇談会をもった。教員は所属する法科大学院と目先の授業に埋没しがちである。しかし、院生は、院を超えて、ひろい情報収集網をもっている。全国団員教員のネットワークをつくることが切実な課題ではないかと考えているが、教員の皆さん、いかがでしょうか。

三 監視社会分科会

 富山大学の小倉利丸教授の講演を柱とした。団内では、戦争と平和の課題として向き合ってきた現在の時代展開を「治安対策」の切り口からみるものであった。
 新自由主義は、先進国内部に膨大なリストラと失業、所得格差、マイノリティと女性の貧困化をもたらし、これに抗する反グローバル運動の高揚に対し、先進国政府が、国際的にその抑え込みをはかること、そして「テロ」対策として、人々が国境を越えることにともなう物、金、情報の移動への監視をすることを強化することが追求され始めた。そして、九・一一をきっかけに、経済のグローバル化の問題と戦争のグローバル化の問題がリンクし、それに対抗して、経済闘争と反戦運動とが結びついた。この運動が治安対策の焦眉の課題とされるようになっている。「テロ」対策をキーワードとして、軍事と警察双方の再編が進み、軍隊の警察化、警察の軍隊化という相互乗り入れが進行している。この通常国会で改正された警察法により、初めて国際テロ特別機動展開部隊がつくられることになったのもそのひとつである。
 小倉教授は、IT社会であることに伴う新たな課題として、(1)基幹産業がIT技術を握り、生産のみならず監視・セキュリティ産業ともなっていること、(2)DNAによる犯罪者分析が始まっていること、(3)電子政府が統治のあり方を変えるのではないか、等の指摘もされた。(3)を敷衍すれば、これまでの官僚制は、紙を手段として管理する体制であり、紙への記録を作成するために一定時間を要したことが官僚統制の限界ともなり、その分議会における審議時間の確保ができた。ところが、電子情報機器の普及により、情報の量と処理スピードが格段に速まり、議員が担当しなければならない法案の量が膨大になってきた。行政部門は国会での審議の時間を待ちきれなくなり、議員はすべての法案に対応しきれなくなっている。ここに新たな民主主義の形骸化が進行している。
 一時間が瞬くまにすぎ、小倉教授が「現在の民衆の基本的な人権や生活の安全を脅かす権力の体制に対抗できるオルタナティブを目指す学際的なアプローチが必要である」とレジュメのまとめをしているところについて深めることはできなかった。グローバルな動機をもって再編が進行している現在の治安政策が、改憲策動と無縁なはずはない。この情勢に対応する団の委員会として「警察問題委員会」という枠組みでは間尺にあわないと感じさせる分科会であった。

四 司法分科会

 もっとも司会運営のスリリングが予感された会である。弁護士報酬敗訴者負担問題を除いた司法改革関連法案がほとんど成立している時期である。今次司法改革をめぐる原理的な意見の違いの存在をはらみつつ、法成立後の具体的な制度づくりに向けたスイッチ切り替え行い、新たな段階に団と団員が向きあわなければならない課題は何かをつかむ場としての討論ができれば、と考えた。
 永尾廣久団員が団通信六月二一日号に「五月集会雑感」として書かれた一文に「司法改革問題分科会」に触れた箇所があり、その中に、「あまり参加したくなかった。…消耗感があったからだ」との感想を記されている。私は、日弁連の中枢で活動される団員と団が直接意見交換をすることのできる貴重な機会と考えていただけに、この感想は残念である。昨年永尾団員から「モノカキ 日弁連副会長の日刊メルマガ 」(花伝社)を謹呈していただいた。読むと、司法改革関連で、日弁連中枢に集まる生情報の多さと、与党・議員・官僚などの権力機関に対するロビー活動が盛んになっていることがよくわかる。なかで活動されている方々の奮闘ぶりには頭の下がる思いのする反面、一般会員との間の情報・意識のずれの拡大(これは団との関係でも生じている)、権力との距離の縮小などに不安を感じてしまう。 
 団員間にはスタンスと意見の対立はあるが、団は、一致できるところを模索し、対立関係を克服し、たたかいを前進させる気風と知恵を培ってきている。その力を発揮するためにも団員間の人間的な信頼関係が大事で、そのためにも時折は顔をつきあわせなければと思うのである。



NLGバーミングハム総会へのお誘い

北陸支部  菅野昭夫

 ナショナル・ロイヤーズ・ギルド(アメリカの進歩的法律家団体 NLG)の今年度総会が、アラバマ州バーミングハム市で、一〇月二〇日から二四日まで開催されます。例年、団は国際問題委員会を中心にして代表団を派遣し、交流を深めてきました。NLGは、現在、イラク戦争に反対し、愛国者法に反対する闘いの先頭に立ち、各種の行動を組織しています。また、アラバマ州は、アメリカ南部に位置し、「試練に立つ権利」(アーサー・キノイ著 日本評論社)が描写しているとおり、一九五〇年代から六〇年代にかけて展開された公民権運動の本場でもあります。モントゴメリー・バス。ボイコット事件(一九五五年一二月に、ローザ・パークスという黒人女工がアラバマ州モントゴメリーの市内バスに乗り込み白人のみに許された席に座ったことで逮捕されたことに抗議して組織された大運動、これが公民権運動を全米に燎原の火のように燃え広がらせるきっかけとなった)を初め、アラバマ州には、公民権運動の史跡が豊富に存在しています。今回の旅は、そうした史跡を訪ね、また、ニューオーリンズなどの観光地にも足を伸ばし、めったに行く機会の無いアメリカ南部を探訪しようと企画中です。
 一〇月一九日出国、一〇月二五日帰国を予定しています。
 参加御希望の方は、団本部または私に八月三一日までにご連絡ください。