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秋元 理匡 立て続けの弾圧に怒る
吉原 稔 無駄な公共事業にとどめ!!
―栗東新駅の起債差止めに高裁勝訴判決―
中村 晋輔 東弁シンポジウム
「米軍基地と人権−基地再編がもたらすもの」
佐藤 博文 国民保護協議会と同計画策定について、札幌市のケース
後藤 景子 坂本修先生の憲法講演会を聴いて
谷村正太郎 書評 伊藤和子著「誤判を生まない裁判員制度への課題 アメリカ刑事司法改革からの提言」
井上 正信 朝鮮半島有事の際の日本からの後方支援(上)



立て続けの弾圧に怒る

千葉支部  秋 元 理 匡

一 千葉でまたも軽犯罪法弾圧が

団通信一二二二号(〇六年一二月二一日号)にて、千葉県船橋市で発生したビラ貼り弾圧事件を報告した。

ホッとしたのも束の間、〇七年二月四日、またも軽犯罪補違反(はり札)の弾圧事件が発生した。千葉市花見川区幕張で、河川敷フェンスにくくりつけられていたベニヤ板に共産党幹部の演説会のポスターを貼り付けていた男性が千葉西警察署に現行犯逮捕されたのである。

現場を見ると、すぐ隣には英会話学校や金融業者のポスターが貼られていたり、幼稚園の立て看板があったりと、フェンスといえど、もはや公認の掲示板といって差し支えない状況であった。それにもかかわらず、当日午前一一時前、警察は、現場に来るなり、注意もせずにいきなり男性に氏名を尋ね、男性が黙秘するや、直ちに後ろから羽交い締めにして地面に押し倒し、後ろ手にしてその場で手錠をかけるというもので、おそろしく乱暴なことをしてくれたのである。

二 逮捕後のベルトコンベアー

午後一時半ころ、白井幸男団員が接見に赴き、警備課長に釈放要請を開始した。午後二時半には山田安太郎団員が、午後三時ころには私が接見し、山田と私は弁護人に選任された。このころには、警察は釈放を示唆していた。

警察署には、県警本部の公安担当者が来ていた。昨年の弾圧事件の際に会ったのと同一人物で、先方も私を覚えていた。どうせ黙秘するのだからさっさと捜査を止めて釈放するよう求めると、傍らにいた刑事は「私たちだって、法令や判例を調べる。裁判になって負けるようなことはしないのだから、今、所定の手続をとるところだ」などと言っていた。私は、耳を疑った。自分たちの手続の違法性を十分認識したうえで逮捕権を濫用していると、こう言っているに等しい。

そうして、地域の支援者が午後五時ころから抗議行動を開始すると、その一方で、警察は、拡声器規制条例を適用すべく警告の準備に入った。無茶な逮捕をしておいて、抗議されたら脅しを加えるとは何事か。本当に許せない。

そうこうしている間に、警察も、午後八時ころには釈放することを明言し、そのとおりにはなった。二月一六日には証拠物の還付を受けるとともに検察官送致、同月二六日付で不起訴となった。

それにしても、逮捕後の流れは、どうも、直ちに弁護士が駆けつけ釈放するということが当初から折り込みであったように思われてならない。逮捕そのものには不服申立手段がないことをいいことにやりたい放題である。これを逮捕権濫用による言論弾圧といわずして何というのか。

三 どんなことがあっても

翌日の各紙朝刊は、連続した二度目の弾圧事件を報じた。ただし、逮捕の事実だけを伝えたのではない。いずれも、当日中に釈放されたこと、昨年一〇月にも同様の事件があったが翌月には不起訴になったことも報じている。淡々と事実を伝えるその行間から、無謀な逮捕を繰り返すことへの疑念を抱く記者の姿を思い浮かべるのは、思いこみに過ぎるだろうか。

千葉では、東金事件以来、大小の干渉は散見されたものの、これほどの弾圧事件はなかった。それが、突如、船橋市丸山地区、幕張と、共産党の活動が活発な地域で立て続けに弾圧事件が発生している。この時期に行われることは、偶然ではあるまい。

しかし、現場は負けていない。いずれの地域でも、弾圧によって体制は奮起し、運動はますます盛んになった。このようなことで足が止まる程、国民は柔ではない。いや、このようなことで黙っていられる程、現下の国民生活は楽なものではないのだ。これを、軽犯罪法だの拡声器規制条例だのを持ち出して押さえつけること自体、どだい間違っている。

公安警察よ、不毛な弾圧は二度とするな。権力の横暴さを示すことは自らの目的に反していることを知れ。



無駄な公共事業にとどめ!!

―栗東新駅の起債差止めに高裁勝訴判決―

滋賀支部  吉 原   稔

 新幹線栗東新駅の起債差止訴訟の大阪高裁(若林涼裁判長)判決が三月一日にあった。一審判決を支持して、控訴を棄却した。

 この訴訟は、滋賀県と栗東市が、東海道新幹線の京都―米原駅間に栗東駅を請願駅として建設することを決めた。この区間は、盛土であるため、駅を作るのに工事用のバイパス(仮線)をつくる必要がある。これだけに一〇〇億円かかるが、その半分を栗東市が負担し、それの財源を全額起債(借金)でまかなうことにした。

 これは、地方財政法五条の適債事業ではなく、同条に違反するとして、二〇〇六年一月に起債差止めを提起、大津地裁で同年九月二二日に勝訴判決、大阪高裁は一回結審で三月一日に控訴棄却をした。

 高裁判決は、一審判決以上に、明確かつ直裁に、地方財政法違反と断定した。そして、滋賀県が栗東市に道路工事を起債の口実とすることを教え、それによって、県と市の財源の分担を協定で決め、その後、栗東市に起債を県に申請させ、県が許可したという、県と市の一体化共謀性を明確に認定している。

 また、栗東市が1審判決後提出した膨大な証拠についても、判決後に作ったものは価値がないと一蹴した。そして、「仮線工事が八六億九九〇〇万円と道路拡幅工事の六億円に比して巨額であること、仮線工事が立体交差の際の道路拡幅工事に必要となるという論理が世人をよく納得させうるものではない」、また、「JR線に架道橋を設置させた後に道路拡幅工事を行なえばよい」として、栗東市のいう仮線工事と道路工事の「同時一体性」を退け、その欺瞞性を明白にした。

 この判決によって、新駅建設は、財源として止めを刺された。

 争点は、被告栗東市長が、起債の対象となる仮線工事は駅の建設工事のためではなく、市道の拡幅工事のために必要だとして、すり替えの論理を用いた脱法行為であるかどうかである。

 誰の目から見ても、「ごまかし」、「すり替え」であることは明らかなので、私は勝利を確信していた。

 昨年七月の知事選挙は、これが最大の争点であったので、「もったいない」を公約に当選した嘉田知事の援護射撃にするため、1審では四回の弁論で結審した。そして、控訴審では、知事の「本年三月末、決着」の方針に間に合わせるため、一回結審をした。

 だから、提訴以来一年二ヶ月で高裁判決まで行った。

 この事件は、無駄な公共事業の「打出の小槌」である地方債について、法違反として差止めをした初判例である。

 この判決は、徳島の牟岐線高架化問題、京都亀岡駅の駅建設自由通路開設問題、神奈川県寒川町の新幹線新駅問題など、各地の住民運動に影響を与えている。(一審判決は、判例タイムズ一二二八号P一六四登載)

 公共事業の財源は、ほとんどが起債によってまかなわれる。そして、起債によって作られた公共事業の建設費は、基準財政需要額に算入され、「地方交付税措置」によって国が大部分を肩代わりしてくれる(地方財政法五条の三第四項)。地方債と地方交付税措置は、無駄な公共事業の「打出の小槌」であり、「贅沢三昧の生みの親」である。地方分権一括法により、地方財政法五条の三第五項で、「協議さえすれば同意がなくても首長は地方債を専決で発行できる」とされたので、地方債の濫発の可能性が大きくなった。

 全国で、大企業の進出のための補助金として、数百億の金が地方自治体によって補助されている。これも、起債を財源とすれば、地方財政法違反であり、法違反の支出負担行為は無効(地方自治法二三二条の三)であるから、受け取った大企業は自治体に返還すべきものである。

 無駄な公共事業を、その財源の面から過去の事業を洗い出せば、いろいろ面白い事件が掘り起こせるだろう。

 高裁段階では、河村武信、藤原猛爾両弁護士に参加していただいた。



東弁シンポジウム

「米軍基地と人権−基地再編がもたらすもの」

東京支部  中 村 晋 輔

 二月九日、霞ヶ関の弁護士会館において、東京弁護士会主催のシンポジウム「米軍基地と人権─基地再編がもたらすもの」が行われ、約一八〇名の参加があった。このシンポジウムは、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会、沖縄弁護士会、広島弁護士会、山口県弁護士会、横浜弁護士会共催で行われた。まず、我部政明琉球大学教授が米軍再編と国内政治について基調講演を行い、続いて、東門美津子沖縄市長、新垣勉団員(沖縄支部)、呉東正彦弁護士(横浜弁護士会)がパネラーとして加わり、滝沢香団員(東京支部)をコーデイネーターとしてパネルデスカッションが行われた。リレートークでは、厚木基地、横田基地の各爆音被害の報告、横須賀強盗殺人事件、八王子ひき逃げ事件の各米軍犯罪事例の報告、岩国基地、麻布ヘリ基地、キャンプ座間の各運動報告が行われた。主催側の我々からすれば、盛りだくさんの内容であった。

 米軍再編が国家レベルで行われる一方で、一九九五年の沖縄少女暴行事件以降も、米軍基地が存在することによって被害を受けている者が相変わらず絶えないという事実を見落とすことはできない。日米地位協定や基地被害の問題を棚上げにしたままで、基地や訓練をどこへ持って行くかという話ばかりが先行しているが、順番が逆である。今回、シンポジウムが行われた同じ日に閣議決定された米軍再編特別措置法についても、なぜ外国の軍隊が日本から移転していく費用を日本政府が負担しなければならないのかという根本的な疑問に答えないまま話が進んでいる。日本側が海兵隊のグアム移転費を出す仕組みも、日本政府が国際協力銀行を通じて事業体に融資・出資を行うというもので、アメリカ政府のために「からくり」を作ってあげたという批判を受けてもやむをえないであろう。しかも、防衛省首脳は、普天間基地の代替施設設置が進まない名護市や、空母艦載機受け入れ反対を示した岩国市には再編交付金を出さないという発言までしている。日本政府が金で地方自治体に圧力をかけてまで米軍再編を進めている手法は糾弾されてしかるべきである。

 話を戻すと、シンポジウムでの新垣団員の発言にもあったように、米軍基地を抱える全国の各弁護士会が一緒にシンポジウムを行ったというこの取組み自体に大きな意義があったといえる。アメリカの世界戦略の中で米軍再編が進んでいる以上、市民が日本全国レベル、さらには韓国をはじめとする米軍基地を抱える他の国々の市民とも広く連帯しなければならない。我々法律家としても、各地で基地被害の救済に日々取り組むとともに、日米地位協定の改定に向けて行動を行うことが必要である。今回のシンポジウムでは、原子力空母母港化阻止のために横須賀市を動かそうと奮闘された呉東弁護士のお話や、嘉手納基地へのパトリオットミサイルやF二二戦闘機の配備問題に対し全力で取り組んでいる東門市長のお話は、会場の参加者に力を与えるものであったし、地方自治体との協力の重要性を再認識させられるものであった。憲法改正問題とも絡むが、すでに日本に米軍基地が存在し続けていることを前提として思考停止するのではなく、本当に米軍が日本にいないといけないのかということを考える必要がある。米軍基地が存在することによる人権侵害を根絶するために、今回のシンポジウムを出発点として、さらに大きな運動につなげていきたい。



国民保護協議会と同計画策定について、札幌市のケース

北海道支部  佐 藤 博 文

 昨年六月より、札幌弁護士会からの推薦で任命された札幌市国民保護協議会の委員として活動してきました。一一月三〇日第三回協議会をもって札幌市国民保護計画案は決定されましたが、この間、弁護士会のパブコメ作成に関わるほか、協議会の場での質疑・論戦、具体的修正案の提起などを行ってきました。三回の協議会の他、協議会の間に開催された三回の幹事会にも全部傍聴出席し、さらには事務局(札幌市危機管理室)との個別打合せも四回行うなど、計画案策定過程にできるかぎり具体的に関与するようにしました。

 その結果、事務局・幹事会が作成した案に対して、一五か所の修正を実現することができました。弁護士会・弁護士が、戦争法制の確立及び実施の過程で、一方で根本的な批判をしつつ、他方で住民の人権保障のために少しでも現実的な成果を確保するという、難しい対応だったというのが実感です。なお、任期は二年であり、今後は、計画の改訂や運用、避難訓練などに引き続き関わっていくことになります。

 以下、国民保護協議会における私の活動の一端と、感想を述べたいと思います。

 札幌市における国民保護計画は、委員五八名からなる協議会と、委員の属する機関の職員のうちから市長が任命する幹事四九名から構成される幹事会によって作成作業が進められました。

 このうち協議会は、法で定められた指定地方行政機関、指定公共機関等から三七名が任命され、約六割を占めているほか、市長が「国民保護措置に関して知識・経験を有する者」として任意に任命した二一名も、約半数の一〇名が市内各区消防団団長となっていました。 その結果、女性委員は中央区長一名に過ぎず(女性比率一・七%)、学校関係者は教育長一人のみで学校現場や保護者からは選出されておらず、障害者や高齢者などの福祉施設や団体、女性団体、外国人に関わる団体などからも選出されていませんでした。

 これは、国民保護計画の策定にあたり、住民の生命、身体、財産の安全を保護すべき地方公共団体の使命に照らし、軍事的な行動を優先することで住民、特に社会的弱者の人権や生命、財産の安全が侵害されることがないよう十分検討されるべきであることに鑑みると、極めて問題です。特に、男女共同参画が推進されている中、もし中央区長が男性だったならば女性委員が一人もいなかったことになり(今後の人事異動でそうなる可能性あり)、「戦争をやるのは男」を地で行くような、異常な構成です。私は、市長が任命できる「国民保護措置に関して知識・経験を有する者」を活用して、前述した観点から委員の追加任命を積極的に行うべきであると提言しましたが、前向きの回答は得られていません。

 さらに問題なのは、指定地方行政機関、指定公共機関等から任命された委員は、中央省庁や市長とは上命下服の関係にありますから、個人の見識と責任で発言することができません。これを、国民保護計画は議会に諮る必要がないことと併せ考えると、「協議」とは名ばかりで住民参加を排除した「官」のシステムであることが明瞭です。そこで私は、第一回協議会で、会議開催の招集要件を二分の一とする事務局案に対して、四分の一にするよう修正を求めました。そうすれば、六割を占める指定地方行政機関、指定公共機関の委員以外で協議会開催を要求できるからです。私の修正案に対して、事務局は先例がないなどと渋りましたが、私が折れず、会長(市長)も容認を示唆したことから、事務局も応じて採用となりました。

 保護計画作成のスケジュールは、以下のとおり、実に早いペースで進められました。各協議会の所要時間は一時間三〇分の予定でしたので、総時間でも僅か四時間半にすぎません。

 六月二七日第一回協議会、七月二六日第一回幹事会、八月三〇日第二回幹事会、九月二一日第二回協議会、一一月二〇日第三回幹事会、一一月三〇日第三回協議会、一二月北海道知事との協議、二月計画決定、三月市議会へ報告・公表(予定)

 私は、国民保護計画は議会へ報告がなされるだけで審議も承認も不要とされており、議会制民主主義や人権制約ルールの観点から厳しく批判されているところである、従って、計画策定にあたっては、多様な市民の意見を直接かつ広く聴取し、反映させるよう格段の配慮を行い、慎重な審議を行うべきであると強調しました。具体的には、北海道知事と行う「協議」は「同意を得るために努力することであり、必ずしも同意は前提としない」と理解されていること(磯崎陽輔『国民保護法の読み方』時事通信社参照)、専門的、科学的な知見や委員がカバーしていない分野の知見などを協議会に十分反映させる審議を行うべきこと、従って既定のスケジュールや審議方法にとらわれるべきではないことなどを強調し、協議会の開催を増やし審議の充実を図る、市民と意見交換する機会を設けるべきだと提言しました。

 また、幹事会は協議委員を補佐する機関にすぎないので、実質的に幹事会で決めていくのは問題であるとし、具体的には、八月三〇日開催の第二回幹事会において「武力攻撃事態及び緊急対処事態」の想定について自衛隊幹部が出席し説明したのに対し、九月二一日開催の第二回協議会では行わないなど、協議会の審議に対する軽視が見られるのは問題であると、批判しました。

 最後の第三回協議会において、「国民の協力」が強制されないものであることを、基本方針から始まり計画案全体を通じて一貫させ文面化させました。これは、事務局作成の計画案に対する私の修正提案が採用されたもので、重要な成果だったと思います。具体的には、事前に文書で提案していたところ、協議会当日、事務局から私の提案と同旨の修正案が示され、私も含めて全員一致で採択されたという経緯でした。

 すなわち、計画案の第一編「第二章国民保護措置の実施に関する基本方針」「? 国民の自発的協力」第二文の規定を、以下のとおり改めました。

(当初案)「この場合において、国民は、その自発的な意思により、必要な協力をするよう努めるものとする」

(修正案)「この場合において、住民はその自発的な意思によって協力するのであって、強制にわたることがあってはならない。」

 当初案では、「自発的な協力」を「強制」することになります。ここの主旨は、国民の協力はあくまで自発的な意思に基づくものであって、強制にわたることがあってはならないとする国民保護法四条二項の確認にあるのですから、その旨住民の立場から分りやすく文章化されなければ意味がないと強調しました。その結果「基本方針」が変更になりましたから、同じ趣旨で計画案の規定全体を見直し、関係所団体、ボランティア団体、自主防衛組織等に対する訓練参加なども含め、「強制にわたることがあってはならない」という文面を計五カ所に書き込むことができました。

 国籍を問わず等しく扱うことを明確にし、それを計画案全体を通じて一貫させるよう努力しました。外国人は、高齢者、障害者などとは本質的に異なり、情報伝達の問題に止まらず、日本人による差別や排外的行為が行われれば直ちに国際的緊張を生むなど、独自かつ不断に、人権を尊重し、またそのための啓蒙・教育活動が必要だからです。かような観点から、以下の修正案を提起しました。

 第一編「第二章国民保護措置の実施に関する基本方針」において、国民保護措置の対象として「国民」という言葉が多用されていますが、これは法的にも一般的にも日本国民を指す言葉です。ところが、国民保護措置は、日本に居住し、滞在している外国人についても適用されるものですから、両者を含む「住民」という用語で統一し、あるいは「高齢者、障害者」等の例示的表現ならば「外国人」も入れ、そして、外国人の特質に応じた措置がとられることを明記すべきである、と。そして、かかる観点から、基本計画案の規定全体を見直し、用語の使用を統一するという提案です。

 私の修正案に対し、事務局より、法が「国民」という用語を使っている、道からも指導があったので採用できない、しかし、私の提案の主旨を容れ「その特質に応じた」という表現を入れ、外国人の人権保障に配慮する旨を明らかにしたいとの修正提案がありました(一〇カ所)。私はそれでは不徹底、不明瞭だと反対しましたが、賛成多数で採決されました。

 最後に、私が内容的に一番力を入れたのが、武力攻撃事態等を招来させないことが何よりの住民保護であり、自治体としてその旨尽力する旨明記すべきだとして、第一編・第一章「一 市の責務」に、第二項として以下の文章を付け加える提案をしたことです。

「武力攻撃事態等を招来させないことが何よりの国民保護であるとの立場にたって、国による外交努力を促すとともに、国際的及び国内的に自治体、市民、民間の交流と協力、平和や人権に関する教育・啓蒙活動を推進する責務を有する。」

 残念ながら、賛成二人(公募委員の連合町内会長さんが賛同)で否決されました。

 札幌市は平和都市宣言をしている街です。上田文雄市長は、二〇〇五年八月四日広島で開催された第六回平和市長会議に出席して「反核、核廃絶は、広島と長崎に任せておいていいということではございません。日本の全ての国民が願うものです。私はまだ平和市長会議のメンバーではありませんが、日本にも、そういう都市がたくさん生まれてくるのだという運動を展開できればというふうに考えております。」と発言しています。札幌には、市民レベルでの活発な国際交流、民間平和外交の取り組みが存在しています。このような市・市民の取り組みを広げ、国内外にアピールしていくことを自治体として積極的に応援することを宣言してほしかったと、残念でなりません。今後の課題となりました。

(追) 国民保護計画に関する今後のスケジュールその他

 国民保護計画は、北海道との協議に入っていますが(二月決定、三月公表予定)、これと並行して「避難実施要領」の作成が札幌市事務局において進められており、今年度中(従って三月末まで)に何パターンかは出来上がる予定だということです。具体的には、国民保護計画案を作成した時と同様に、作成を業者に発注しています。この国民保護計画策定の外部委託問題については、市議会の予算特別委員会で議員が質問しており、市民運動団体も着目し追及しています。

 具体的に言いますと、札幌市の場合、今年度三〇〇〇万円を計上しており、業務委託費一八九〇万円、協議委員の報酬一一〇〇万円という内訳です。議事録を見ると、横浜市は一一〇万円、広島市は〇円とのことで、なぜこういう問題を業者に委託するのか、なぜこんなに金を掛ける必要があるのかという観点から追及しています。このやりとりから推察すると、計画案及び実施要領、さらには後述するマニュアル作成を外部業者に委託している自治体が多いと思われ、どういう業者なのか(自衛隊幹部0Bなど?)、どれくらい公費が注ぎ込まれているのか(全国的に集計するとものすごい金額に上るのでは?)、といった観点からの分析も重要かと思います。

 こうして作成する「避難実施要領」について、議会に諮ることはもとより、協議会に諮ることも義務づけられていません。現に、札幌市は、もう今年度に協議会を開催する予定はありません。しかし、国民保護法(三九条)では、国民保護協議会が所掌する事務を「市町村の諮問に応じて当該市町村の区域に係る国民の保護のための措置に関する重要事項を審理すること」とありますので、「重要事項である」として、審議に付させる取り組みが肝要だと考えます。私もそういう立場で、会長(市長)に対して、全ての情報を協議委員に提供して意見を述べる機会を保障すること、さらには協議会の開催を要求していくつもりです。

 札幌市の場合、来年度以降は、「避難実施要領」に基づく「避難マニュアル」を作成していくことになっています。実施要領と同様、事務局はこれを協議会に諮る予定は全くしていません。

 ちなみに、来年度以降の国民保護協議会の開催予定を聞くと、年に一回ということで予算要求しているようです。時期は六、七月頃です。各自治体の防災会議がこの時期行なわれており、指定地方行政機関、指定公共機関のメンバーは、防災会議のメンバーとほぼ同じですので、同じ日にやる自治体が多いだろうということを事務局は言っていました。札幌市は別の日に独自に行なうことを予定していると言っています。いずれにせよ、今後の国民保護協議会が全く形骸化してしまうことは火を見るより明らかだと思います。

 札幌市のような政令指定都市はまだしも、一般の市町村では、自治体職員自体が、全体像、さらには何が問題になるかという、基本的な見識すら持てない状況ではないでしょうか。市民レベルでも、極々一部の人を除いて、量が多く複雑で難しいというイメージが強く、問題に絡んで行けないという状況にあるようです。この間、市民団体から呼ばれて話す機会が二回あったのですが、大変なことだとフレッシュに聞いてくれ、反応は大きいのですが、では今後どういう取り組みをやるかという点では、具体的なものが出ず、事実上私の報告会で終わるというパターンになっています。まさに市民は疎外されています。

 そういう意味で、弁護士・弁護会が、一通り国民保護計画ができたところで、今後に向けて課題を整理し、情報提供する意義が大きいと感じています。



坂本修先生の憲法講演会を聴いて

福岡支部  後 藤 景 子

 二月二五日(日曜日)の午後、坂本修先生のお話を目当てに多くの北九州市民が集まりました。

 国民投票法の盲点と、本当の狙いをコンパクトにわかりやすく、そして熱い眼差しで語られる坂本先生のお姿を見ているだけで胸が熱くなり、パワーをいただきました。

 私もこれまで、病院や報道関係の方面から憲法講演の要請を受け、お話をしてきましたが、最後に集められる感想文の内容が毎回非常に気になります。若い病院関係者を対象とした講演会において、一回目は司法試験受験時代の憲法の本を引っ張り出して話をしましたが、感想文では「難しかった。」というものが非常に多く、反省しました。

 二回目の講演では、日常の出来事を交えて、あまり堅苦しい準備をしないでざっくばらんに自然体で話をしました。まず、「皆さん、朝起きて何を思いましたか?」という問いかけから始めました。前日夜に、爆撃を受けた町のニュースを見ていたため、「私は、夜安心して眠れて、昨日と同じようにまた穏やかな朝を迎えられましたが、これが当たり前ではないのだと思いました。」という話から始めました。その後も、戦争で人が死ぬっていうのは、実際にどんなことなのか映像を見たことのある人はいますか?イラクの爆撃で人の頭が破裂したり内臓が飛び散ったりして亡くなった家族を前に途方に暮れている人の映像を見たことがありますか」という問いかけをして、聞いている人の想像力をフル稼働してもらえるような話をしました。すると、若い方の肝臓文の内容が「わかりやすかった」という趣旨の内容に変わって来ました。

 私を含め、戦争を知らない若い世代の人々に「平和」がどういうものなのか、「平和」はなぜ守っていく必要があるのかを伝えるためには、想像力を働かせてもらうことが不可欠だと思います。若い世代の人々は生まれた時から平和で、平和以外の非常事態や戦争状態の経験がないので比較の対象がありません。でも、人類の長い歴史の中で「戦争」がなかった時代はいまだなく、日本はたまたま六一年間という短い期間平和を享受しているだけなんだ、平和憲法は、多くの人命の犠牲のもとで人間がやっとたどり着いた歯止めなんだ、だから守っていかなくてはという話をして、もしその歯止めがなくなったら、日本そして世界はどうなるでしょうか、想像してみてくださいと問いかけることはできます。

 私は、なるべく自分自身も想像力を働かせて、今、平和憲法を失えば、日本・世界はどう変わってしまうのかを話すように心がけています。

 「日本が軍隊を持てば、アジアの皆さんの信頼を完全に失ってたちまち世界情勢は不安定になり、アメリカのいいなりで派兵して人命が失われ、人命を奪うことは確実といえます。今予想できないような予想外の状態になるかもしれません。でも、今、日本が平和憲法を守り通したらどうなるでしょうか。たちまちアジアのみんなの信頼を得て、アジア情勢の安定は急速に進むでしょう。日本が攻撃される可能性といっても、攻撃する理由がなくなってしまいますよね。」と。

 以前、報道関係のOBの方を対象とした講演会で、どのようなお話をしたらいいのか打ち合わせに伺った際、まずは憲法がどのような法律なのかから話して欲しいと言われました。その言葉を聞いた時、一般の方々は憲法が普通の法律とどのように違っていて、どんなに大切なのかということを認識する場面がないのだということを知りました。

 坂本先生が言われていましたが、国会議員への一番の薬は、一般の方々からのメールとのことです。毎日の生活でいっぱいいっぱいの忙しい毎日を送る一般の方々に、いかに分かりやすく平和憲法の重要性、国民投票法案の本当の狙いを理解してもらうかが鍵なのだということを改めて認識しました。

 坂本先生のおっしゃるように、四〇〇万人の公務員の口を封じ、報道規制をかけて情報操作をし、本来憲法上は「国会の定める選挙の際行われる投票においてその過半数の賛成を必要とする」とされているのに実際には国民の二割の意見表明で憲法を変えられるように仕組まれているという国民投票法案のまやかしを急いで広く伝えなければなりません。草の根運動に尽きると思いますが、人から人へ伝わる力を生み出すためには、一回一回の講演会で分かり易く話さなければなりません。

 それと、やはり、人に話を伝える気持ちを呼び起こすのは、人の心に強く訴えるものが必要だと思いました。私は、坂本先生のお話の最後の方で、「イラクでの爆撃ではらわたが飛び出た子供を前に泣き崩れる家族がいることを思って欲しい」というお話をされたのですが、想像すると涙が出ました。

 こんな悲しい思いをもうこれ以上、世界中の誰一人しなくていいように、今日のこのお話を伝えなければと思いました。

 最後になりますが、七四歳になられる坂本修先生に間近にお会いして、お話を伺って、憲法問題を非常に大きな視点で捉え直すことができたように思います。

 何十億年という人類の歴史の中で、未だ世界平和が実現したことがなく、今、平和憲法を持つ日本という国が世界をリードして世界平和を実現するのか、軍隊を持って再び後退するのかの分岐点にいて、そのような時代に弁護士として生きているということは、平和を守る使命を持って生まれてきたのではないか・・・ちょっとスケールが大き過ぎるかもしれませんが、そんな思いを持てた日曜の午後でした。



書評 伊藤和子著「誤判を生まない裁判員制度への課題

アメリカ刑事司法改革からの提言」

東京支部  谷 村 正 太 郎

 伊藤和子団員は二〇〇四年八月から、ニューヨーク大学ロースクールに客員研究員として留学し、「陪審制度化での冤罪」防止のための刑事司法改革について調査・研究された。

 本書は一二章からなる。序章深刻な司法の反省、一画期的な刑事司法改革、イリノイ州の挑戦、二ミランダ原則と取調べの可視化、三証拠開示の拡充が冤罪を防ぐ、四定着する可視化・証拠開示システム、ミネソタ州の改革、五目撃証言の誤りによる誤判、六DNA鑑定の発展と冤罪の発見、七公設弁護人制度の実情、八進む陪審改革、市民にわかりやすい裁判、市民が積極的に参加する制度を、九公判準備活動の保障、一〇周知徹底される無罪推定の原則、一一誤判を生まない裁判員制度へ。

 著者はカリフォルニア州他の六州について調査し、多数の陪審裁判を傍聴し、従前の制度の実情と問題点、冤罪事件の実例、立法・判例による改革の内容、改革を推進した法律家・市民団体の活動、その後の運用状況を紹介し、その上で日本での課題を論じている。調査に際しては多数の関係者に面会しているが、そのうち冤罪事件の被告人本人、裁判官、検察官、弁護士、警察官、刑事法研究者等二〇名とのインタビューの記事は改革の実態を生き生きと伝えている。アメリカの刑事手続の流れについてのワンポイント知識も制度の理解を容易にしている。

 アメリカの陪審制度については、これまでも多くの紹介がなされているが、本書は日本の裁判員制度について何が課題かという明確な問題意識が貫かれており、示唆に富む。

 著者は最後に裁判員制度への提案として取調過程の改革をはじめ一〇項目をあげている。いずれも重要な指摘である。

 読後の感想を二つ。

その一は本書で指摘された課題をどうすれば実現できるかである。

 証拠の事前・全面的開示と録音・録画による取調の可視化の実現は、日本の刑事裁判の誤判を防止する上で不可欠であろう。それだけにこの点についての日弁連の運動は重要であり、さらに強化されなければならない。

 目撃証言の誤りが誤判の大きな原因となることは日本でも同じである。かつて、日弁連が調査した誤判事件一四件の内、目撃証言が誤っていた事件は五件であった。(注1)本書が提起する「順次・ダブルブラインド法」は一つの有効な方法であろう。同時に、目撃証言については判断する側の過信も誤判の大きな原因である。裁判員制度のもとでこの点はどう変わるか。

 DNA再鑑定を受ける権利の確立も重要である。しかし一九九七年に日本DNA多型学会がDNA鑑定についての指針を作成したとき、科学警察研究所の委員は再鑑定の保障に対し最後まで徹底的に反対した。(注2)再鑑定の保障の実現も道は険しい。

 その二。あとがきにおいて著者は「誤判の原因は判断者、すなわち陪審員か職業裁判官か、に存するのではなく刑事手続そのものにその原因が存する」という。この点については私は著者と見解を異にする。日本の刑事裁判ににおける誤判の原因は、手続の不備だけにあるのではない。

 日本の国家機構において裁判官はどのような位置を占めているのか。市民の参加というが市民とは何か。陪審制ないし裁判員制のもとでは、職業裁判官の裁判とは別の原因、別の形態の誤判が生じるのではないか。誤判の防止は結局はその国の民主主義のあり方と深く関連しているのではないか。・・・とりとめのない感想はこの程度にする。

 刑事弁護・裁判員制度・誤判の防止に関心を持つ団員各位に本書を推薦したい。

1 日弁連人権擁護委員会編「誤判原因の実証的研究」

    一九九八年刊

2 同「DNA鑑定と刑事弁護」

    一九九八年刊  (現代人文社刊、二〇〇〇円+税)



朝鮮半島有事の際の日本からの後方支援(上)

広島支部  井 上 正 信

 私は、朝鮮半島有事の際の日米共同作戦にこだわって、団通信へ小論を載せてきた。「密かに進む戦争国家体制づくり」(下)(団通信一二二六号所収)では、朝鮮半島有事の際日本は、「米軍の出撃・補給・訓練・修理・休養・情報通信の拠点となる」と説明した。そのように述べたことには具体的な根拠があった。雑誌「軍事研究」九四年八月号「反撃作戦の足場、日本列島」(元陸自教官・研究員高井三郎著)、雑誌「軍事研究」九四年九月号別冊「軍事分析第二次朝鮮戦争」、陸戦研究誌平成一六年一二月号、平成一七年一月号、二月号「『周辺事態』における米軍の後方補給上の要請と我国の対応について」である。高井論文は、米韓連合作戦計画(OPLAN)五〇二七をベースにしたと思われる米軍の作戦の進展に対応して、米軍が我国をどのように反撃作戦の橋頭堡として利用するかを解説している。「軍事分析第二次朝鮮戦争」はOPLAN五〇二七について、詳細に解説する。今回私は、陸戦研究の論文を紹介しながら、朝鮮半島有事を想定した日米共同作戦(OPLAN五〇五五)が想定している日本の行う軍事支援を紹介する。

 ただし、この論文は後方補給に限定されていることを留意されたい。この論文の著者の内、矢野義昭氏は論文執筆当時、陸将補・第一師団副師団長で、その前に第六普通科連隊長、統合幕僚会議事務局第四幕僚室後方補給運用調整官を歴任している。もう一人の著者は、論文執筆当時一等陸佐・統合幕僚会議事務局第一幕僚室人事計画班長である。

 論文は、朝鮮半島有事とは言わず、周辺事態と述べている。しかしその内容は明らかに朝鮮半島有事での作戦計画である。米軍から要請される軍事支援要求を判定するため、朝鮮半島有事でどの程度の戦力を展開させるかを推定する。論文は、対処すべき敵戦力の規模・準備度・地形等から判断して、湾岸戦争での砂漠の嵐作戦と同規模と推定する。九四年にソウル新聞が初めてOPLAN五〇二七の存在を報じた記事によると、地上軍五〇万余、艦艇二〇〇余隻、航空機二〇〇〇余機と解説している。湾岸戦争規模であることが推定される。

 日本は朝鮮半島有事の際、どのような地理的位置になるであろうか。この点で論文は、米統合参謀本部「軍事用語辞典」に拠りながら、戦争の地理的側面から、「作戦戦域」、「後方地帯」、「戦闘地帯」、「戦闘地域」、「前方地域」を区分し、周辺事態法における「後方地域」(日本とその周辺地域)が、米軍の作戦概念で「後方地帯」と位置づける。上記五つの区域概念の相互関係は私の理解によると、最前線に戦闘地域があり戦闘地域を含む作戦戦域(単に戦域とも称される)の最後方に後方地帯が位置し、その間に戦闘地帯、前方地域が位置するという関係になる。後方地帯には、補給路、後方補給のための諸組織、戦闘部隊の即時支援と維持のために必要な他の諸機関が含まれる。このため日本は、米本土で動員され戦略展開を行った兵力を「受け入れ、駐留し、前方への移動を支援」するための地域となり、後方補給の観点からは、「POD(下船/荷下港・卸下空港)」を展開する地域になるとする。PODは、戦略輸送が終了する地点のことである。また、戦争に直接関与していない部隊の駐留地域や事前集積品の集積地域、あるいは輸送手段の変更(戦略輸送機から戦術輸送機への積み替えなどであろう)、貨物取扱上の所要、訓練、別の輸送手段で到着した部隊及び貨物の結合などのための中継地点が設定される。要は、米本土から戦略輸送された兵員や物資の集積/中継基地となるというのである。

 次に論文は、米統合参謀本部作戦文書「統合作戦における後方補給支援ドクトリン」を周辺事態に適用する。戦域での作戦全体を指揮する「戦闘軍指揮権」は、戦域統合軍、機能別統合軍の最高司令官のみに与えられる。朝鮮半島有事ではこの地位にあるのは戦域統合軍の一つである米太平洋軍司令官のみである。戦域統合軍司令官は、統合後方補給計画を作成する。後方補給の機能は、補給・整備・輸送・施設・衛生・その他の六分野からなり、その作成に当たっては、(1)時系列に従った主要補給品・施設の所要(所要とは軍事用語でよく出る言葉だが、軍隊が作戦のため必要としているものの量と理解すればよいであろう)、(2)送所要、(3)空港・港湾の搭載・卸下能力(制約事項、許可手続、支援施設、拡張時の能力を含む)、陸・海・空の補給路構成のための所要を満たすため利用しうる手段とそのための手続、(5)緊急事態対象地域への出入りの調整・統制、(6)計画の仮定、(7)受け入れ国支援計画などについて検討する。特に同盟国との相互支援は重要で、国家間の協定が必要となる(日米間の物品役務融通協定 ACSAがそれに該当するのであろう)。以上の項目を見ると、在日米軍・自衛隊施設だけではなく、民間空港・港湾で利用可能な施設は、統合後方補給計画に組み込まれることが分かるであろう。米軍の所要を満たしうる空港・港湾の施設の能力を平時からリストアップし、軍事作戦計画の中へ組み込むのだ。

 以上のことを周辺事態(朝鮮半島有事)に応用すると次のようになる。

 周辺事態では、米太平洋軍司令官が日本とその周辺地域を「統合後方地域」として指定し、在日米軍が統合後方地域作戦を担任する。後方補給は戦力展開段階に応じて所要が変化するが、論文では最大となる攻勢作戦の実施前後に焦点を当てている。他の戦力展開段階ではそれ以下の所要になるからである。湾岸戦争での後方補給の実績を踏まえて、以下のように見積もる。全作戦期間に、戦略空輸により約五〇万人の兵員が、戦略海上輸送により約一〇〇〇万トンの貨物が輸送される。攻勢作戦準備期間中に、一日約一二〇回の大型輸送機の空輸により約二〇万トンの補給品を空輸し、約一〇〇隻の事前集積船と約三〇〇隻のチャーター船により約六〇〇万トンの貨物・燃料を海上輸送する。アジア太平洋地域には総兵力五〇万人の約二割一〇万人が平時から展開しているので、それに応じた補給品も前方に展開されて、日本へ一旦集中することなく直接戦闘地帯へ集中されるので、日本へ集中される兵員・補給品はその総所要量の八〇%と見積もる。

 戦闘機は空母艦載機を除き約八〇〇機が戦域へ展開する。このうちどのくらいが日本へ展開するか予想をしていないが(北朝鮮との戦闘の中で、韓国内の空港、空軍基地がどれだけ使用可能かによるであろう)、在日米軍基地と自衛隊基地へ戦闘機が展開するため、これらの基地は輸送機の展開基地としては余力がない。戦域基地に展開する大型輸送機(戦略輸送機)は一二〇機と見積もり、八割(約一〇〇機)が日本へ展開すると予想する。戦域内輸送機はC─一三〇換算で約二〇〇機でそのうち一六〇機が日本へ展開すると予想する。支援機(空中給油機、偵察機、電子戦機など)は約三六〇機が戦域内へ展開し、そのうち約二九〇機が日本へ展開すると予想する。その結果、B─七四七クラスの大型輸送機が離発着可能な空港で、同時に最大で約五七〇機が離発着、駐機することになり、これを民間空港が受け入れざるを得ないのである。これらの輸送機、支援機の燃料は最大で一日あたり約四二〇万ガロンと予想する。

 港湾能力について論文は、日本へ補給品を輸送するための船舶数を五四四隻とし、この補給品を戦闘地帯へ積み出すため同数の船舶が必要なので、合計一〇八八隻が日本の港湾へ入出港すると見積もる。攻勢作戦のための作戦準備期間中に補給品が集積されるので、作戦準備期間を三〇日として、最大で一日あたり平均一五〇〇〇トンクラスのチャーター船一六四隻が日本の港湾へ入出港すると予測する。

(次号につづく)