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松井 繁明 「未曾有」の危機に直面して
井上 正信 オバマ候補が大統領に就任して日米同盟、憲法問題に変化が来るか
萩原 繁之 松川事件を深く知る旅―団総会半日旅行に参加して
永尾 廣久 きづかわ共同法律事務所「四〇年のあゆみ」
労働問題委員会 「なくそう!ワーキングプア」ブックレットの完成・発売について



「未曾有」の危機に直面して

東京支部(団長)  松 井 繁 明

 新年おめでとうございます。
 全国の団員、事務局労働者とそのご家族が良いお年を迎えられたこととお喜び申しあげます。
 昨年もまた、国の内外でさまざまな出来事があり、おかげで自由法曹団本部も多忙をきわめました。
 そうした出来事のなかでも、おそらく後世の歴史家が最も重視することになるのは、アメリカ発の地球規模の経済危機ではないでしょうか。
 サブプライムローン問題に端を発したアメリカの金融危機は、九月中旬のリーマンブラザースの破綻を契機に、またたく間に全世界に拡がりました。アメリカの消費購買力が急速に縮減し、自動車産業のビッグスリーが破綻寸前に追い込まれていることにみられるように、危機は実体経済をも直撃しています。比較的堅実とみられていたヨーロッパ経済も大混乱に陥っています。
 当初、打撃が少ないものと観測されていた日本の経済も、トヨタが大幅減益の見通しと派遣工・期間工の大量解雇を発表したことなどから、すべての業種で不況必至の状況となりました。内需を抑制し、輸出だけを頼りにしてきたツケが、一気にまわってきたのです。
 それにしても、減益とはいえなお多額の利益を見積もり、これまでの巨額の内部留保を維持している大企業が労働者大量解雇の先頭にたつとは、どういうことなのでしょうか。年末には、職も住居も失った非正規労働者があふれ、中小企業の倒産も多発しました。いまこそ大企業は、みずからの社会的責任を果たすべきです。
 もう一度それにしても、ですが、この「一〇〇年に一度の危機」を前にして麻生自・公政権の無策・無能ぶりには驚くほかありません。昨年の一時補正予算はリーマンブラザース破綻の前にまとめられたもの。危機に対応すると称した二次補正予算も、定額給付金をめぐって迷走したあげく、通常国会に先送りです。二次補正予算の規模は二七兆円といいますが、そのうち二〇兆円は信用保証枠の拡大にすぎず、実際に供給される資金(いわゆる真水)はわずか七兆円です。諸外国の対応策とくらべ一ケタ少ない、まことに心細いものです。
 自由法曹団はこれまでも、格差と貧困の拡大を社会正義に反するとして、派遣労働法の抜本的改正などにとりくんできました。しかしそのとりくみは、ともかくも日本経済の拡大のなかでおこなわれてきたものです。不況の深刻化が確実に予測されるもとで、非正規労働者ばかりでなく、正規労働者の大量リストラがありうることも見据えて、この分野でのたたかいを強化しなければなりません。
 危機は危機ですが、それを機会(チャンス)と捉えて、この社会を変革(チェンジ)するたたかいを、全国の団員の力を結集して闘いぬこうではありませんか。
 健康に留意して力を合わせましょう。



オバマ候補が大統領に就任して日米同盟、憲法問題に変化が来るか

広島支部  井 上 正 信

 チェンジをスローガンに選挙戦を戦ってきた民主党オバマ候補の大統領選挙当選のニュースを聞きながら、この原稿を書いています。事前の報道でも、オバマ陣営の運動員や支持者は、米国を変える歴史的一瞬だと異口同音にコメントしていました。選挙戦の争点は外交ではイラク問題ですが、ほとんどは国内問題に終始しました。米国民は大統領選挙になると、内向きになるのでしょうか。

 チェンジをスローガンにしてきただけに、何か日本の憲法問題、安全保障問題に大きな変化があるではないかと期待したくなるのは無理からぬことでしょう。私にとって関心があるのは、オバマ大統領になって、九条改悪と、その裏腹の関係にある、日米同盟強化路線に、私たちが期待できるような変化がくるのかという点です。
 結論から先に述べると、ブッシュ政権下で進められた日米同盟の強化路線には変化がなく、九条改悪の圧力は弱まることはないと考えています。
 オバマに対して私たちが期待を持てば持つほど、九条改憲阻止の運動の足元をすくわれはしないかと気がかりです。

 ではなぜそのように考えるのか?その根拠を説明する前に、日米同盟強化と九条改悪との関係を簡単に整理しようと思います。
 ここでの日米同盟強化路線とは、二〇〇二年一二月から始まった日米防衛政策見直し協議のことです。この日米協議は一応二〇〇六年五月に最終報告書とロードマップが合意されて終了し、現在日米合意の内容を実行する段階です。いわゆる同盟の変革と呼ばれているこの内容は、日米の安全保障政策、軍事政策の一体化、日米両軍の一体化の強化とそれにあわせた自衛隊の変革(自衛軍化)、日米同盟のグローバル化です。
 この日米協議は、ブッシュ政権の安全保障政策、軍事政策がストレートに反映し、このプロセスから生まれた新防衛計画大綱が打ち出した安全保障政策は、ブッシュ政権の国家安全保障戦略(二〇〇二年九月)を引き写しにした内容となっています。
 自民党新憲法草案による九条改憲では、集団的自衛権も行使できる自衛軍を創設し、自衛軍の任務として我が国防衛の外、国際平和協力活動と国内治安維持を挙げています。日米強化路線の実行として、防衛二法(自衛隊法、防衛庁設置法)が既に三回改正され、自衛隊の海外活動が本来任務化され、防衛庁が防衛省となって安全保障政策を主管とする政策官庁へと転換しようとしています。更に自衛隊海外派兵恒久法の制定や、自衛隊の海外活動の拡大(これまでの後方支援活動から、前線での活動)やそれに伴う武器使用権限の拡大、集団的自衛権行使の憲法解釈見直しを狙っています。
 これらはいずれも日米同盟の強化とグローバル化の為のものであり、自民党新憲法草案の先取りと言って良いでしょう。この動きを進めるために、九条の制約を乗り越えなければならないのです。

 ブッシュ戦略がストレートに反映した日米同盟強化路線であれば、ブッシュ政権から民主党オバマ政権になって、対日政策は変わるのではないかと反論されるでしょう。その反論には以下の回答を用意します。
 多くの論者がブッシュ政権の特異さを強調し、その内容は九・一一事件により形成されたと主張します。私はそうは考えません。
 ブッシュ政権の国家安全保障戦略では、米国の主要な脅威は、ならず者国家、非国家的主体(国際テロリスト)などの非対称的脅威、大量破壊兵器の拡散とし、これらの主体が何時どこから米国本土を攻撃するかもしれないし、大量破壊兵器が使われたら、その被害は九・一一を幾何級数的に上回る、これらの主体は旧ソ連のように抑止が効かない、だから危機が迫る前に先制攻撃するというものです。
 実は、ブッシュ戦略の基本的な内容はすでにクリントン政権末期には形成されているのです。

 クリントン政権は九四年に新しい核戦略である「核態勢見直し」を作成しました(秘密レポート)。この中で、核兵器の役割は核兵器保有国に対する抑止力であると規定し、抑止が効かない非国家的主体は核攻撃の標的にはしなかったといわれています。しかし、その後クリントン政権第二期に統合参謀本部が作成した核戦争ドクトリンである「統合戦域核作戦ドクトリン(Joint Pub3-12,1 96.2)」では、「大量破壊兵器を所持する非国家的主体(それらの作戦センター)」を核攻撃の標的にしたのです。
 さらに、クリントン政権末期の二〇〇〇年五月統合参謀本部が作成した軍事ドクトリン「Joint Vision 2020」で、「このような非対称的なアプローチの持つ意味は、おそらく米国にとって、極近い将来の極めて大きな危険である。そしてこの危険は長距離ミサイルやその他の直接的な合衆国市民と領土への直接的な脅威を含む」と、その後の一年四ヵ月後に起こる九・一一事件を予知するかの文章があるのです。
 ブッシュ政権の軍事戦略を形成した「四年毎の国防見直し(〇一・九・三〇)」は九・一一事件直後の発表ですが、九・一一以前にすでに完成した報告書でした。九・一一事件を引用した箇所がありますが、完成後発表前に書き加えたものでしょう。

 九・一一事件以降米国は非国家的主体を主要な脅威とし、対テロ戦争を軍事政策の最重要課題としますが、この基礎はクリントン政権時代に形成されたものに外ありません。ブッシュ政権は、クリントン政権時代に形成されてきたものを、更に発展させたものにすぎません。

 では、この米国の戦略が日本の憲法問題にどのような影響を与えるのでしょうか。日米同盟強化路線は、ブッシュ政権下で進められた対テロ戦争対応のための軍の変革と、それに合わせた同盟国軍の変革が根底にあります。日米防衛政策見直し協議はそれを実現させるために行われたのです。この路線を推し進めるためには、九条の制約を突破することは必須条件であることは見やすいことです。

 さて、わが国で憲法改正問題が現実的な政策選択の問題に浮上したのは、決して遠い過去のことではありません。二〇〇〇年一〇月国防大学国家戦略研究所対日特別報告書(アーミテージレポート)が発表されてから後のことです。アーミテージレポートは、自ら超党派レポートと称しました。その意味は、当時大統領選挙で民主ゴア、共和ブッシュのどちらが勝っても不思議ではない状況下で、日米同盟を強化するため、どの政権になっても採用されるべき対日政策として作成されました。執筆者はクリントン政権の元高官や、ブッシュ政権の高官になる人物(アーミテージ、ウォルフ・ウィッツ、マイケル・グリーンなど)の共同作業でした。
 レポートが提言した内容は、日本が第一に採るべき政策として、有事法制の制定を挙げ、集団的自衛権に関する憲法解釈が日米同盟強化の障害であると指摘したのです。

 二〇〇七年二月には第二次アーミテージレポートが発表されました。執筆者は第一次レポートとほとんど同じです(チェイニー副大統領と並んで、ブッシュ政権ではネオ・コンの筆頭であったウォルフ・ウィッツは含まれていません)。つまり超党派レポートです。発表された時期が、日米防衛政策見直し協議が終了した少し後になります。つまりこのレポートの目的は、日米防衛政策見直し協議で路線が敷かれた日米同盟の変革を、わが国が確実に実行するよう、対日政策を提言することです。レポートが日本への勧告として述べている内容は、改憲論議は日米同盟を強化する上で憲法九条の制約を意識している、憲法問題を解決すべき、自衛隊海外派兵恒久法を制定すべきというものです。
 このレポートの内容を、オバマ政権は採用するでしょう。

一〇 オバマは選挙期間中、政策綱領案でイラクからの撤退は明言しましたが、対テロ戦争政策は、米国の主要な国家戦略として継続すること、アフガニスタンを主戦場として、アフガニスタンへ米軍を増派することを述べています。
 政策綱領案では、核政策につき、「核兵器依存を辞め、究極的に廃絶することで米国は安全になる」と注目すべき内容もあります。包括的核実験禁止条約を批准するとも述べています。イランのような敵対国に対しても、軍事力行使の選択肢を残しながらも、直接対話するとも述べています。

一一 米国から日本を見ると、ブッシュ政権の対日政策を変える理由はどこにもないのです。対テロ戦争政策を進める限り(しかもこの政策の基本はブッシュ政権以前から米軍部が形成したものです)、米軍の変革は進められるでしょう。それに対応した日本の軍事政策と自衛隊の変革も進められるでしょう。日本は米軍にとってきわめて居心地がよい同盟国なのです。毎年二五〇〇億円の思いやり予算をつぎ込んでくれるし、グァムの基地建設に一兆円近いお金を使わせてくれるし、安全保障政策、軍事政策はいつも米国とすりあわせをしてくれるし、危機の際には在日米軍基地を密約まで結んで自由に使用させてくれるし、核兵器も密約まで結んで自由に持ち込むことが出来るし、出来の悪い米兵が基地外で事件を起こしても、密約まで結んで裁判権を放棄してくれるし、在日米軍基地に対して住民の抗議が起きても、日本政府は国民を騙してでも米軍をかばってくれるし、デラックスな米軍住宅を作ってくれるし、有事法制でいくらでも支援してくれるし、いいこと尽くめなのです。

一二 これがある限り、米国の対日政策は決して変わらないでしょう。
 ただ、オバマ陣営の外交顧問は、アフガン問題は武力一辺倒では解決できず、軍事力をはじめとするあらゆる国力を利用すべきであると、外交力の行使も重要であるとの発言をしています。ただブッシュ政権は最近になって、アフガン問題は軍事力では解決できないと、タリバーン勢力との和平協議を進めようとするカルザイ政権を側面援助する動きもしていますので、オバマ陣営の外交路線がどれだけブッシュ政権の外交路線を変化させるかは不明です。

一三 ここまで書くと、何かしら先行き悲観的になってしまいそうですが、そうではありません。オバマ政権に根拠のない期待を抱かないことを強調しているのです。ブッシュ政権とオバマ政権では、国際紛争へのアプローチの仕方に違いが出る可能性があります。そうであるだけに、日本が、私たちが変わるチャンスには出来るでしょう。イラクからの撤退、アフガン問題での外交力の活用は、日本が九条を実行する外交戦略を採用するチャンスです。日本が変わることによって、オバマ政権の「変革(チェンジ)」を、言葉だけではなく本当の「変革」にしなければなりません。北朝鮮問題でもブッシュ政権以上に六者協議を推進するでしょう。相も変わらず拉致問題解決が入り口であるとする政策を転換する時期でしょう。

(News for the People in Japan(NPJ)より転載)



松川事件を深く知る旅―団総会半日旅行に参加して

静岡県支部  萩 原 繁 之

 団総会とその後の半日旅行から、もう二か月を経過した。
「主戦場は法廷の外に」という団員の原点といって良いかも知れない言葉は、松川裁判闘争の中で生まれた言葉と承知しているし、松川裁判の法廷内外での戦いは、団全体にとっての重要な遺産だろう。だから繰り返し学習することに意義はあるし、私が入団してからでも、仙台秋保総会のプレ企画でも松川事件の企画があったし、確か団八〇周年総会の際にも、松川事件元被告人の赤間勝美さんのお話をお聞きした。しかし、これまで事件の現場を訪れる機会はなく、今回の旅行で現場を訪れることができたことは、非常に貴重な経験だった。
 既に大阪の増田尚団員も以前の号で書かれたことだが、列車脱線転覆の現場にある、事件の犠牲となった乗務員の慰霊碑には「過激思想も台頭し」などと、事件が、無罪となった元被告人の皆さんの仕業であるかのような文言が未だに刻まれて建ったままである。また、近所の女性が我々に語ってくれた話、事件の犠牲者の自宅と元被告人の方の自宅がいずれもすぐ近所の間柄で、事件と元被告人逮捕により、近隣の人間関係が引き裂かれたという体験談は、身近に体験した者でなければ気づかない、事件のもたらす大きな傷、被害について教えてくれた。
 かつて、「私は、まだ、てっきり松川事件というのは共産党がやったのかと思っていた」という亡母の言葉で、僕が打ちのめされたのは、司法修習生になって間もない一九八六(昭和六一)年五月頃だったと思う。現在多くが団員となっている、青法協会員修習生の有志で、松山事件の調査に出かけた後に帰省し、松山事件と併せて松川事件のことも報告した際に、亡母が発した言葉だった。
 亡母は僕にとって、もちろん最愛の肉親のひとりであり、愛着と愛惜の対象で、数年前の教育基本法改悪に反対する活動は、僕に取り、教育の機会均等原則を破壊させるな、という側面では、その母が尋常小学校などで長く級長をやりながら、貧しさのために女学校へ行けず、自分より成績の良くなかった同級生たちが女学校へ進学していったときの無念さに思いを致しながら参加していた。(そのことを、法改悪前に、この団通信に書こうかとも思っていたが結局書かなかった。)
 松川裁判は、民事国賠も含め、完全勝訴によって終わり、既に歴史上の事実となっている。しかし、事件の真相は闇に葬られたままで、真犯人たちに罰は下されることなく過ぎている。私の亡母を含め、国民の中には、未だに、松川事件が共産党の仕業と思っているような無理解が潜んでいるかも知れない。
 松川裁判は終わったが、松川事件は、あるいは、終わっていないのではないか。 松川事件と松川裁判についてよりよく知ることは、団活動の原点を学ぶ上で、まだまだ、繰り返されて良いと思う。
 福島大学の元教授である伊部正之先生や地元福島県支部の渡辺団員のお父上、さらには、地元でもお目にかかれる機会の少ない、我が静岡県支部の大先輩・石田享団員とも久々に、お目にかかれたことも、収穫だった。



きづかわ共同法律事務所「四〇年のあゆみ」

大阪支部  永 尾 廣 久

 法律事務所の記念誌には珍しい、大判の絵本スタイルです。表紙の絵は下町の人情味たっぷりの風情をよく描いていて親しみを持たせます。いつもの渡辺和恵団員の絵かな、すごくうまいなと感心していると、別の人が描いたものでした。それほど厚くはない(一六〇頁)し、手に取ったら、中をちょっとのぞいてみようかな、という気にさせます。そうなんです。本は、表紙、タイトル、それがとても大事なんです。この記念誌はそこでまず優れています。
 さあ、ページを開いてみましょう。見開き二頁に一つのテーマが基本で、読み切りスタイルです。しかも、写真があり、親しめる大きなマンガカットがあったり、事件関係者の一口コメントがあったり、いろんな工夫がされていて、とても読みやすくなっています。
 おっと、形式ばかりほめていては、お粗末な内容をカバーしているのかという、あらぬ誤解を招きかねません。いえいえ、決してそんなことはありません。読み切りの内容がまた素晴らしいのです。ともかく、「きづかわ」の弁護士の活動分野が実にバラエティーに富んでいて、感嘆してしまいました。地元に密着してやってきた私の事務所など足元に及びません。まだまだ弁護士にやるべき(開拓すべき)活動分野は大きいのだと改めて思い知らされました。
 今から二〇年も前に、少年事件の取り調べに弁護士たちが交代で立ち会ったというのには驚いてしまいました。そんなこと聞いたこともありませんでした(二〇年前に聞いたのかもしれませんが、すっかり忘れていました)。なりたての弁護士七人が毎日、午前と午後、交替で少年二人の取り調べに立ち会ったというのです。すごいですね。やっぱり若手弁護士の恐れを知らぬパワーは、いつの時代もすごいものがあります。
 労働事件で、解雇通告を受けた労働者が相談に行ったときに弁護士から言われた言葉は……。
「私たちに何をしてほしいのですか。骨を拾えというのではあれば拾います」
 うひゃあ、すごいですね。この言葉を聞いて、その労働者は「えらいことに足を踏み入れた」と腹を固めたそうです。
 大阪の法律事務所の記念誌に「肥後もっこす」という言葉が出てくるとは思いませんでした。集団就職で熊本から大阪に出て行って、整理解雇された組合員一〇人が、解雇無効・地位保全を求めて裁判を起こしたのです。正義感が強く、一度決めたらテコでも動かない。そんな熊本県民気質を反映して、地道な活動を展開していったそうです。お隣の県民がほめられると、私までなんだかいい気分になります。
 大阪にある事務所なのに、なぜか東京地裁を舞台とした裁判にも果敢に取り組み、大きな成果をあげているそうです。たとえば、株主の信頼を裏切った西武鉄道に対して、株主としての損害賠償請求事件です。アメリカ航路の船長の過労死事件も、東京地裁、高裁の事件です。そして、株主オンブズマン訴訟にも取り組んでいます。すごいですね。
 「きづかわ」は、正森成二代議士の出身事務所でもあります。田中角栄と国会で堂々と論戦する共産党の正森議員の歯切れ良い大阪弁の追及は、胸のすく思いがしたものです。五四〇回も国会で質問したとのことですが、本当に惜しい人を亡くしてしまったものです。
 私と同世代の渡辺団員が少し体調を崩されたそうですが、今後とも元気に活躍されることを願っています。私の事務所にも久しぶりに新人弁護士が入ったので、二月か三月に三〇周年記念パーティーをもち、そのとき三〇年誌を発刊したいと思います。うちにもマンガ家を目ざした人がいますので、表紙の絵を頼んでみようかな、などと考えています。



「なくそう!ワーキングプア」ブックレットの完成・発売について

労 働 問 題 委 員 会

 労働問題委員会の若手団員を中心に、昨年夏頃から執筆してきたブックレット「なくそう!ワーキングプア―労働・生活相談マニュアル―」(自由法曹団編著)がこのたび完成し、学習の友社から一月中旬発売されます。
 この本は、「労働者の権利を活用しよう」「派遣職場から違法と無権利をなくすために」「パート労働者の待遇改善のために」「外国人研修生・技能実習生の生活と権利を守ろう」「泣き寝入りせずに立ち上がろう―いろいろある救済手続」「困ったときのセーフティネット―生活保護は権利です」「多重債務に負けるな」の七つの章・四三のQ&Aからなっています。
 大企業による「非正規切り」の嵐が吹き荒れ、首を切られた労働者やその家族が生存の危機にさらされている現在の社会情勢の中で、労働者・国民の生活と権利を守るたたかいをすすめるうえで、とても役に立つ本に仕上がりました。
 是非とも手にとってお読みください。そして、労働相談や生活相談にとりくむ多くの仲間に広げてください。
 なお、執筆者は、伊須慎一郎(埼玉支部)、今村幸次郎・大山勇一・鷲見賢一郎・中川勝之・並木陽介・林治・平井哲史・三浦直子(東京支部)、大坂恭子(愛知支部)、半田みどり(大阪支部)の一一名です。

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  電 話 〇三―五八四二―五六四一
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