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出田 健一 NTT西日本配転事件、大阪高裁で一七名勝訴
橋田 直実 持続可能な反貧困対策
毛利  崇 大量解雇・失業問題対策「事実、それは違法です!」リーフレット完成
神原  元 「裁判員制度を迎え撃つ、3・7全国集会」に「事案・原稿・レポート」をお寄せ下さい
萩尾 健太 鉄建公団訴訟控訴審結審、なんとしても解決へ!



NTT西日本配転事件、大阪高裁で一七名勝訴

大阪支部  出 田 健 一

 本年一月一五日、大阪高裁は、通信産業労組組合員二一名中一七名につき大阪・兵庫から名古屋への配転(名古屋配転)の業務上の必要性を否定し、NTT西日本に対し一七名全員に四〇万円〜一二〇万円、合計九〇〇万円の慰謝料の支払を命じた。昨年一二月の団通信で配転直前までの不当労働行為につき中労委で勝利命令を得たことを報告したが、それに続く大きな勝利である。

 原審の大阪地裁では三名だけが通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるとして一部勝訴したが(城塚団員の団通信一二三四号の報告、私の二〇〇七年五月集会報告参照)、それに比べて勝訴者が飛躍的に増えただけでなく、名古屋配転自体の業務上の必要性を否定し、幅広い「共通の不利益性」を元に慰謝料も全員に認めた点で明らかに前進した。しかし、全国で一斉に提訴した地方からの配転(大阪では大阪配転という)の当事者四名は残念ながら敗訴した(上告中)。

 これらの配転は二〇〇四年の東西NTTの「一一万人リストラ」(五一歳以上の労働者の東西NTTからの退職及び賃金が三割程度に引き下げられたアウトソーシング=OS会社への再雇用の「同意」)を契機とし、同意しなかった労働者を六〇歳満了型と呼んで遠隔地に見せしめ的に配転したのである。西日本NTTでは地方から大阪・名古屋に配転されたが、大阪配転の結果、通信労組発祥の地であり拠点であった大阪に多くの組合員が集中し、大阪支部の組合員を大阪内で玉突き配転させてもへこたれないので、その後特殊大阪だけの名古屋配転を強行したのである。

 名古屋配転はBフレッツ販売グループとMI(メンテナンスインテグレーション)サポートグループという横文字の二つのグループに分かれる。全く売れない商品販売と、せいぜい大阪・兵庫でパソコンを操作して名古屋にメールで送ればよい閑職なのに、高い経費(最も高額な兵庫からの新幹線通勤費は年間二三〇万円)を使って配転させたのである。

 業務上の必要性を否定した詳細な判旨をあえて要約すると、理由は、(1)これらの業務が六〇歳満了型従業員に担当させる業務として創出されたものと認めざるを得ない、(2)いずれも成果を上げることが非常に困難で、単純で機械的、一時的なものであったり、OS会社や名古屋支店内の他の部署においても担当することが可能な業務であった、(3)一審原告らは大阪・兵庫で一旦職種転換・玉突き配転され、その後に同業務が終了したり業務量が減少したとも認められず、これらの業務より名古屋支店における業務の方が業務上の必要性が高かったという証拠がない、(4)一審原告らに長時間の新幹線通勤・単身赴任の負担を負わせてまで配転しなければならない程の業務上の必要性を認めることはできないということである。

 名古屋配転だけとはいえ、大企業の企業再編・構造改革に伴う組織的配転の業務上の必要性を否定したのは、東日本NTTの札幌地裁判決(二〇〇六年九月二九日)と大阪高裁判決が初めてではないか。

 但し、昔は不当労働行為を理由とする勝訴例が多かったが、平成に入って配転の勝訴例で最も多いのは意外と業務上の必要性がない点であることにつき、僭越ながら民主法律協会『新たな権利闘争の地平をめざして』中の私の論文参照。

 判旨のもう一つの特徴は、育児介護休業法二六条の趣旨を踏まえて検討することが必要であるとした上で、次のような名古屋配転共通の不利益性を認定した点である。厳密にはこれは慰謝料の根拠であって、配転の権利濫用の要素とは異なるかも知れないが、重要と考えるので長いが引用する。

 「新幹線通勤を選択した者は、長時間の長距離通勤による肉体的・精神的負担、経済的負担(高額の通勤費の支給による標準報酬の増加に伴う社会保険料の増加を含む)、自宅で過し余暇や地域活動に充てる自由時間の減少、睡眠時間の減少を、単身赴任を選択した者は、単身赴任に伴う精神的ストレス、日常生活のための自由時間の減少、二重生活及び帰省の必要による経済的負担を、それぞれ挙げるほか、共通の不利益として、地域活動や社会的活動への支障、組合活動の支障を挙げているところ、これらの事実は、上記一審原告らの陳述書、標準報酬の通知書等により、上記一審原告につき、多少の差はあるものの、いずれもこれらを共通の不利益として認めることができる。そして、証拠(略)によれば、長時間の鉄道による通勤が、自律神経に影響を与えるなど、身体に対するストレスとなっていること、長時間の拘束を含む過重労働がいわゆる脳心疾患のリスクファクターとして意識され、その防止のための事業者による取組も国の政策として求められていること、単身赴任者についても、単身赴任に伴うストレスが心身にさまざまな影響を及ぼしていることが、統計上も認められていること、五〇歳以上の年齢層では、より若年の年齢層に比べて、全体の有訴率(自覚症状を訴える者の割合)が上昇するほか、糖尿病、白内障、高血圧、狭心症等による通院者率が目立って増加する傾向がみられていること、との事実を認めることができる。これらの事実からすると、本件配転命令三によって、上記各一審原告らが受けた不利益性のうち、特に長距離通勤や単身赴任によって同一審原告らが肉体的・精神的なストレスを受けたことは、その年齢とも相まって、軽視できないものがある」。

 勝訴に直接連ならない判旨だが特徴的なのは、(1)職掌転換・配置転換は実際の場では多くは従業員の意向を聴取し同意を得て行われ、また、近畿圏では近傍の組織への配置転換に止まっていた事実、(2)会社が一一万人リストラの理由とした、「平成一二年度の段階で、平成一四年度以降に約一五〇〇億円規模の赤字が継続することを予測した」ことを示す書面等の客観的な証拠は提出されていないし、会社が公表した予測や見通しに関する他の情報がいずれも一審被告の主張に反するものとも考えられるとの認定、(3)本件計画の実施に至るまでの団体交渉の経過に関するNTT労組との差別の認定(但し、「地方労働委員会において不当労働行為にあたると判断されているところである」と自らの判断は回避する文言)、(4)配転における適正手続につき、会社が個別の配転の必要性や、配転先での担当業務、復帰の時期について説明したとは認められず、一審原告らが主張するような意味での説明義務を尽くしたとまではいうことができないと認定したことである。

 名古屋配転の勝利は、何よりも特殊大阪的攻撃に対して対象者全員が提訴に立ち上がったことである。その全員提訴は、先行した地労委闘争によって弁護団・組合・当事者・支援団体が不当労働行為に敏感だったからだ(しかしまさか全員とは正直予想しなかった)。提訴に当たって余りの数の多さに個別の不利益性は全く分析・検討できなかった気がする。しかし、時間の経過とともに、全員提訴の結果初めて被害の全容が分ったのである。そして一審の途中で名古屋配転組から二名(慰謝料一二〇万円の方)、大阪配転組から三名、計五名を自力で配転元に復帰させ、結審直前に結局一名を除いて全員配転元又はその近辺に「再配置」という名で復帰させた(但しこの外定年到達者一名がいる)。従ってその方以外は配転無効確認の請求を取下げたので、これで勝つと会社は考えただろうが、三名だけだが慰謝料を勝ち取った。名古屋配転に業務上の必要性がないことは一審の若手弁護士を中心とする尋問の中心だったのだが、何故高裁で初めて勝訴できたのだろうか。先程長々と引用した不利益性の書証と人証による立証が直接的な契機だと思う。当事者の年齢に近くその苦労に理解力が働く田窪団員、やや若い西団員と若手の大前団員で構成する不利益性班の奮闘の賜物である。それとともに、四で述べた勝訴に直接連ならなかったが特徴的な判旨部分や、高裁結審後ではあったが中労委勝利命令の存在も、量から質への転換を促し、裁判所を動かす要因になったと考えられる。

 さて、最高裁のたたかいと中労委命令に対する行政訴訟におけるたたかいである。大阪弁護団はこれまでの勝利を確実に死守しなければと覚悟している。そして、大阪高裁の論法ならば大阪配転の当事者も本来勝訴可能なはずである。全国のたたかいに連なって、最高裁でさらに転機を掴みたい。

(大阪弁護団は河村武信団長、田窪五朗、横山精一、城塚健之事務局長、西晃、増田尚、中西基、井上耕史、成見暁子、大前治の団員と主任の私。なお文責は出田)



持続可能な反貧困対策

岐阜支部  橋 田 直 実

  現在岐阜では、ぎふ反貧困ネットワークを通じて、派遣切りによる貧困問題などに対応しています。住居も職も無くした人たちに、住居を見つけ、生活保護の申請を手伝う等の支援をしていますが、現在、これらの活動は基本的にボランティアや弁護士らの寄付等で運営しています。

 各地でも貧困問題への取り組みが行われていますが、ボランティアを基礎にしている状況はどこもあまり変わりがないと思われます。

 しかし、これからも派遣切り等が続けば、支援を必要とする人が激増し、ボランティアによる活動ではいずれ対応しきれなくなることが予想されます。

 そこで、以下述べるような方式(以下、「岐阜方式」と言います。)によって、貧困への取り組みをできないかと岐阜の一部の団員と考えてみました。

 「岐阜方式」の概要は以下のとおりです。

(1)まず、反貧困のための基金を設立し、この基金から賃金を捻出し、当事者からの聞き取りや、住居の手当等を専従で取り仕切ってくれる職員を雇います。(大所帯の事務所なら基金という形ではなく、専従の事務員を置くという形式にすることも可能かと思います。)

(2)生活保護が必要な場合は、この専従職員が生活保護申請に同行してくれる弁護士を手配します。日弁連の法テラス委託援助業務で、弁護士が生活保護申請同行の援助を行うと、約八万円の費用を得ることができるので、申請同行についてはこの制度を利用します。

(3)弁護士は、この約八万円のうち一定割合を手数料として、基金に納める。(もしくは、事務所の売上になる。)

 この先も生活保護申請は増加することが予想されますので、申請同行の費用は安定した財源になると思われます。。

 まだ、思いつきの域を出ないものであり、非弁提携になるのではという点で配慮が必要と思いますが、厳しい現状に対応するためのたたき台になればと思い投稿しました。

 岐阜での成果については、また改めて報告したいと思います。



大量解雇・失業問題対策

「事実、それは違法です!」リーフレット完成

京都支部  毛 利   崇

 昨年末からの大量解雇・大量失業問題を受けて、自由法曹団京都支部では、(1)京都における解雇・失業の実態を調査する(2)労働者の方々に解雇や雇止に関する法的な権利を知ってもらう(3)問題が起こった際の窓口として自由法曹団京都支部の存在を知ってもらうことの三点を目的として、リーフレットを作成することを決定しました。特に、年度末に向けて期間満了を理由とする雇止が増加することを予想し、年始から街頭宣伝で配布できるよう作成を急ぎ、一月一六日に「事実、それは違法です!」と題するリーフレットを完成させました(一月一七日の自由法曹団常任幹事会で配布しました)。

 内容は、(1)契約期間中の解雇(期間社員の場合と派遣社員の場合)(2)期間満了を理由とした解雇(雇止)(期間社員の場合と派遣社員の場合)(3)正社員の解雇(特に整理解雇について)(4)偽装請負の四点を網羅し、これまでに起こった問題とこれから起こると予想される問題の両面に対処できる内容となっています。

 また、このリーフレットには受取人払いのハガキが付いており、アンケートに答えていただいたり、フリースペースに記入をいただく形で実態調査ができるようになっています。

 このリーフレットの完成を受けて、京都支部では、週一回の街頭宣伝を実施し既に一〇〇〇枚以上のリーフレットの配布を致しました。宣伝場所の性格に応じて、午前七時半や午後二〇時といった街頭宣伝時間を設定し、今後も、三月末に向けて週一回ペースでの街頭宣伝を予定しています。受け取る方の関心は非常に高く、飛ぶようにリーフレットが無くなっていく状況が続いています。

 街頭宣伝や学習会のツールとして使えるリーフレットができたと自負しており、今後、このリーフレットを京都にとどまらず全国に広げていきたいと考えています。現在は、自由法曹団京都支部のクレジットや連絡先が入っていますが、内容は同じまま、他支部等のクレジットや連絡先に変更して一部二〇円前後(全体の注文枚数によって多少前後いたします)で増し刷りすることが可能です。是非、各支部名のリーフレットをご注文いただいて今後の街頭宣伝などに活用いただきたいと思います。

【お問い合わせ】

  京都南法律事務所

    電 話  〇七五―六〇四―二一三三

    FAX  〇七五―六〇四―二一三五 

毛利(自由法曹団京都支部労働法制プロジェクト担当事務局)まで



「裁判員制度を迎え撃つ、3・7全国集会」に

「事案・原稿・レポート」をお寄せ下さい

事務局次長 神 原   元

 裁判員制度は、いよいよ今年五月に実施される。自由法曹団は、「裁判員制度についての意見書」「緊急改善提言」などを通じて、国民の司法参加自体に意義があることを強調しつつも、その制度にいくつか問題点があること、このまま実施されればえん罪の温床になりかねないことを指摘し、制度改善要求運動を行っている。

 私たちの危惧する問題は、既に実施されている公判前整理手続(これは裁判員制度とワンセットである)や、模擬裁判に現れている。模擬裁判では数十頁の鑑定書を一枚に要約した例があった。検察官が同意した情状証拠を「必要性がない」という理由で却下したり、重要な争点、証拠を「公判をスリム化する」という名目で裁判から切り捨てる例、アリバイ証拠・弾劾証拠を予め提出することによる不都合なども、既に多くの実例がある。

 裁判員制度は、私たちの運動によっても、制度改善が行われず、今のまま実施されてしまう可能性は高い。私たちは、制度がこのまま実施され、自分が弁護人の立場に立った場合に備え、裁判員制度の運用上の問題点を学び、弁護人として最大限、これに抗しうるよう、準備をしておかなければならない。

 そのために団が設定したのが「裁判員制度を迎え撃つ、三・七全国集会」(IN大阪)である。「三・七集会」では、最高裁の「運用モデル」を批判した上で、全国の模擬裁判、公判前整理手続で現れた実例を出し合い、弁護人として執るべき対応を検討したいと思う。「実例」から出発することこそが、もっとも実践的な方法論であり、今回の集会のひとつの柱である。

 そこで、団員のみなさんにお願いです。みなさんが経験した模擬裁判や公判前整理手続で争いになった点、弁護人の立場から見て問題だと思われた点(争点・証拠の切り捨て、アリバイ・弾劾証拠の事前提出等)証拠開示など成果をかちとった点をレポートして頂きたいのです。

 まずは、団通信への投稿を呼びかけます(一〇〇〇字程度が目処)。現場の思いを原稿の形にして下さい。

 自分の体験だけに限る必要はありません。身近な団員から問題事例を聞きつけたら投稿を呼びかけて下さい。問題事例があることを団本部に教えて下さい。

 投稿呼びかけについて、支部で話題にして下さい。各県で実施された模擬裁判の情報が集まっているはずです。問題事例がないか、各支部で点検して下さい。公判前整理手続についても同じです。

 集会での討論の充実のため、どうかよろしくお願いします。



鉄建公団訴訟控訴審結審、なんとしても解決へ!

東京支部  萩 尾 健 太

はじめに 鉄拳公団訴訟控訴審結審

 二〇〇八年一二月二四日、鉄建公団訴訟控訴審(東京高裁第一七民事部、南敏文裁判長)は結審した。当日は、一審原告、一審被告双方から最終準備書面が提出され、双方の代理人が口頭で弁論をした後、一審原告二名の意見陳述がなされた。判決期日は「追って指定」とされた。

一 国鉄闘争と鉄建公団訴訟の経緯

 一九八七年四月、国鉄分割・民営化が強行されJR各社が設立された。これに対して、国民の財産・国鉄を財界に売り渡し、庶民の足を奪い、安全を疎かにし、一〇万人もの労働者の雇用を奪うものとして一貫して反対してきた国労・全動労などの組合員らは、差別されてJRに採用されず、七六二八名もが国鉄清算事業団に収容され、三年間の飼い殺しの期間を経て、JR復帰を求め続けた一〇四七名は清算事業団から解雇された。

 組合員らは、全国各地の労働委員会にJR各社を相手にして不当労働行為救済命令を申立て、地労委、中労委で勝利の命令を得たが、行政訴訟に移行し、一九九八年五月に逆転敗訴判決を得た。その敗訴の理由は、採用名簿を作成した国鉄の行為の責任をJRは負わないとする、およそ社会常識に反するものであった。

 この判決を受けて国労は動揺を開始し、二〇〇〇年には四党合意という屈服路線の受け入れを表明するに至った。解雇されてから長年、各地で闘争団を結成してカンパ、下請け、アルバイトなどの収入で生活し、「国家的不当労働行為は許せない」と闘い続けてきた闘争団員らは、この四党合意に反対して、自力で闘い抜くことを決意した。そして、約二八〇名の闘争団員らが原告となって二〇〇二年二月、国鉄を承継した鉄建公団に対する解雇無効と損害賠償を求める訴訟(鉄建公団訴訟)を提起した。

 二〇〇三年一二月には前記の行政訴訟が最高裁で敗訴し、JRの責任を法的には問い得ないことが確定してしまった。しかし、これをうけて、二〇〇四年一二月には、鉄建公団を承継した鉄運機構に対して、国労闘争団有志の二次訴訟、動労千葉争議団の同種訴訟、全動労争議団の損害賠償請求訴訟が提訴された。闘いは継続されたのである。

 二〇〇五年九月一五日、東京地裁民事三六部は、国鉄の不当労働行為を認めながらも、「差別がなければ採用されたとの立証がない」として権利侵害を期待権侵害の程度に切り縮め、原告一人につき五〇〇万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。

 原告・被告双方が不服として控訴したのが、冒頭の控訴審である。

 他方、この地裁判決を契機に、それまで分裂してきた当該組織に共闘の機運が生まれ、二〇〇六年一二月には提訴していなかった国労闘争団員五四五名も提訴し、闘いの陣形が整うに至った。

 運動方針の違いから動労千葉が離脱した後、国鉄労働者の解雇撤回を求める国鉄闘争は、四者四団体(当事者:鉄建公団訴訟原告団、二次原告団、全動労争議団、国労闘争団全国連絡会議 支援団体:国労、建交労、中央支援共闘、国鉄闘争共闘会議)の共同により勧められている。

二 鉄拳公団訴訟控訴審の審理経過

(一)鉄建公団訴訟の控訴審は、地裁判決を受けて、法律論で反論するとともに、一審原告一人一人について、差別がなければ採用されたはず、との積極的事由や、能力が劣っていても他組合であれば採用された、との消極的事由、そして、一審被告が指摘してきた一審原告中一二七名に対する懲戒処分の不当性を主張・立証していたため、長期の審理を経ることとなった。 

(二)二〇〇八年一月二三日の全動労事件の判決が言い渡された。それは、「不当労働行為」の存在を認め、不十分ながら弁護士費用、慰謝料等として一人当り金五五〇万円の支払いを命じた。一方、鉄道運輸機構訴訟事件(二次訴訟)では、判決は、解雇無効を否定し、被害者の認識を重視する従来の最高裁判例に反する消滅時効の解釈で救済を切り捨て、「不当労働行為」の存在については全く認定しないという極めて不当な判決を言い渡した。

(三)この不当な中西判決を受けて、鉄建公団訴訟控訴審の闘いはますます重要となった。

(四)二〇〇八年六月二日、「国鉄改革」・差別採用を主導した葛西敬之証人(当時国鉄職員局次長、現在、JR東海会長)の証人尋問を行った。葛西は、国鉄改革当時から「法律で禁じられた不当労働行為はやらない、ということは、うまくやること」と豪語した人物である。

 葛西の二冊の著書「未完の国鉄改革」「国鉄改革の真実」に基づいて追及されるなかで、葛西は

ア 中曽根の決断を背景に、八五年六月に仁杉総裁更迭による「宮廷革命」で実権を握るや、改革派は専制支配と迅速意思決定で、時間的余裕のないことを口実として「問答無用」の姿勢で分割・民営化施策を強行したこと

イ 徹底した「団交無視」と厳格な「規律の押し付け」と、これに対する国労の抵抗運動への「懲戒処分乱発」による恫喝で国労切り崩しをなしたこと

ウ 労使問題の「労労問題」へのすり替えと国労切り崩しをなしたこと

などを示す諸事実を証言していった。

 裁判官からの補充尋問に対しても、第二次労使共同宣言を巡って、国労が大混乱をきたし、分裂に至ったことは想定どおりであったと認め、九州での露骨な他労組との間の採用率の違いの理由も説明できなかった。また、南裁判長からも中曽根の「国労を潰すためにやった」の公言についての尋問にも、「子の心、親知らず」などとして、中曽根と「親子関係にある」ことを自白した。

 その上、葛西は、自らがJR設立委員長斉藤英四郎に頼みこんで「差別できる」JR採用基準を作成したことを法廷で否定したが、後にこれを認める「井手(後のJR西日本会長)のJR連合幹部との懇談録」が一審原告らから提出されるに至った。

(五)次いで、葛西証言の内容を、国労側から丁寧にフォローしたのが七月一四日に行われた元国労副委員長嶋田俊男氏の証言であり、葛西証言が如何に詭弁に満ちたものであるかは、白日の下に更に明らかとなった。

 このように追いつめた結果、同日の法廷で、南裁判長は「裁判外での当事者の話し合い」を提起した。そして、一五日には冬柴国交大臣が、南発言を受けて「誠心誠意これに応じる」として、「政治解決への流れ」も生じた。昨年一〇月二四日には、一万人もの当事者・共闘を結集して、日比谷野外音楽堂で集会を開催した。

 ところが、その後の福田内閣の改造と政権放棄、その後の麻生内閣の迷走や官僚の抵抗、一審被告代理人の頑なな態度の前に、政治解決は成就していない。

(六)このような中で結審した鉄建公団訴訟は、国鉄闘争の中で、最初に「採用差別についての国鉄の責任」について高裁の司法判断を受ける判決となる。その意味で南判決の持つ意味は大きい。

三 最終準備書面の内容

(一)我々は、一審判決を踏まえながら、シャープ・ショート・ショックの「三S」方針で最終準備書面を作成し、出来る限りの力を注ぎ込んだ。

 その争点は以下のとおりである。

(二)まず、第一は「解雇無効」である。

 国鉄改革法において、国労差別の道具とされたのは、(1)国鉄改革法二三条で「選別」し、(2)「選別」されたものは再就職促進法の三年の時限立法で「解雇」するという構造であった。国鉄改革法二三条でJRへの責任を問えなくし、そのうえ「排除」した者については、三年の時限立法で切り捨てたのである。

 鉄建公団訴訟原告弁護団としては、(1)このような三年の「時限立法」自体が憲法の保障した団結権を無視するもので無効であるとし、また、(2)先行する「振り分け」に違法がある以上、「再就職必要職員の指定」も無効であり、「再就職必要指定職員」となっていない一審原告らは三年で解雇される余地はないとし、更に、(3)先行する「不当労働行為」に鑑みれば三年目の解雇は「解雇権濫用」にほかならないし、(4)一連の「不当労働行為」の完成行為である以上無効であるとして、解雇無効を訴えた。

(三)そして、第二は「不当労働行為」という不法行為に基づく損害賠償で、最大限の救済を得られるよう、一審被告との対決点である、

ア 不当労働行為存在論

イ 因果関係論

ウ 損害論

エ 消滅時効論

の全てについて、最大限の理論的な攻撃を行った。

 アについては、全動労事件判決の指摘する大量観察方式の有効性を援用し、イについては、証拠の偏在と条件関係公式の問題点を明らかにした。

 ウについては、民法四一六条の解釈と、JRの組合別採用確率による割合的損害賠償を論証し、エについては、二次訴訟中西判決がいかに最高裁判例から逸脱するかを松久三四彦北海道大学教授の意見書を基に論じた。

四 国鉄闘争全面解決の意義と現状

(一)すでに述べたように、我々は、最終準備書面の中で、国鉄改革法や再就職促進法の仕組みの「狡猾」さを曝露し、存在した国家的な「不当労働行為」に対する救済を、「憲法の番人」であるはずの裁判所がなさねばならないことを力説した。

 しかし、判決の枠組みでは、原告らが希望するJRへの雇用回復には直結しない。

(二)我々が「実質的な解雇撤回」を勝ち取り、「路頭に迷わない納得のいく解決」を掌中にするためには、政治解決を勝利判決と併行して求めていく必要がある。

 四者四団体の要求は、JRを含む雇用、年金資格の回復、解決金の支払い、そして、闘争団が営む事業体への資金援助である。それらは、大不況のもとで雇用問題が政治的焦点となっている現在、雇用対策・地域の活性化のうえでも重要な意義を有するものといえるだろう。

(三)そもそも、現在の雇用不安の元凶となっている派遣法は、国鉄分割・民営化が閣議決定された一九八五年に制定されたものである。そのことからも、国労潰しを狙った国鉄改革と表裏をなす、「労働組合の無力化」を狙った「搦め手からの団結破壊法」である、と脇田滋龍谷大学法学部教授も指摘しているところである。

 そして、国鉄の被解雇者らの多くが、二〇〇万円程度の年収で、長年、非正規雇用で働いてきたのである。だからこそ、派遣法が問題とされている今日、それと結んで国家的不当労働行為を断罪する国鉄闘争を勝利させることの意義は大きい。

(四)昨年の臨時国会で、金子国土交通大臣は、JR不採用事件の損害賠償支払いのために鉄運機構は資金をプールしている答弁した。さらに、この問題で、野党に加え、公明党にも対策チームが作られた。

 当事者・共闘は、議員会館前や鉄運機構前での座り込み、裁判所前での宣伝行動に取り組み、不採用通知からちょうど二二年となる二月一六日、星陵会館で四者四団体による集会も計画し、与野党の国会議員にも参加を働きかけているところである。こうして、判決が出される直前まで、全面解決を求めて大衆運動を展開していく。

 そして、南コートでの判決が出た後も、後続訴訟をも利用しながら更に「路頭に迷わない納得できる解決」を図っていく。

(五)被解雇者は、一〇四七名のうち、すでに五一名が亡くなった。その怨念とともに、今年こそ解決を勝ち取る決意である。

 皆さんにも一層のご支援・ご協力をお願いする次第である。