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西   晃 賠償範囲広げるも司法の任務放棄の差止め棄却判決―新嘉手納爆音訴訟控訴審
北神 英典 あらためて問う!労働委員会の職責とは「反リストラ産経労」行政訴訟
大河原 壽貴 二・一四シンポジウム雑感
村松 いづみ 憲法ミュージカルに出演します
西嶋 勝彦 【書 評】
スティーヴン・A・ドリズィン+リチャード・A・レオ「 なぜ無実の人が自白するのか
―DNA鑑定は告発する 」(伊藤和子訳)を読んで
森田  茂 全国常任幹事会・名古屋で開催される
田所 良平
非正規労働者からの相談に役立つ、薄くて読みやすいブックレット・『なくそう!ワーキングプア―労働・生活相談マニュアル』のご紹



賠償範囲広げるも司法の任務放棄の差止め棄却判決
―新嘉手納爆音訴訟控訴審

大阪支部  西     晃


 米空軍嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)の周辺住民五五四〇人が、米軍機の早朝・夜間の飛行差止めと、騒音被害に対する損害賠償を国に求めた「新嘉手納爆音訴訟」の控訴審判決が二月二七日、福岡高裁那覇支部(河辺義典裁判長)でありました。

一 損害賠償請求について(W値七五、八〇地域も救済対象に)

 判決では総額約二八億円(対象原告三八八一人)の支払いを命じた一審・那覇地裁沖縄支部判決を変更し、原告五五一九人を対象に、総額約五六億二六九二万円の賠償を命じるものとなりました。この点は一審判決に比較して大きく救済の範囲を広げるものでした。一審ではいわゆるコンター(W値=うるささの指数)七五及び八〇の地域については「騒音が減少しており、受忍限度を超えているとはいえない」という事で損害賠償請求が退けられたのですが、今回の控訴審判決ではこれらW値七五、八〇の地域に関しても「なお強い騒音にさらされている」とし、受忍限度を超えるものと判断しました(但しW値七五地域の一部地域については騒音レベルが低く、受忍限度内として原告二一名が請求を棄却されました)。

 この点は、これまで他地域の同種事件判決や嘉手納爆音訴訟の旧訴訟においても救済対象であったW値七五、八〇地域について、一審判決のみが異例とも言える判断で救済対象外としていたもので、今回の控訴審判決はようやくそれを元に戻したものとも言えます。ただ、利息を含め総額七二億七千万という損害賠償額は過去最大規模のものであり、さらには今度の判決で四回目となる(受忍限度を超える)違法判断のもつ意義は決して小さくありません。国が小手先の騒音対策として力を入れてきた家屋への防音工事による損害額の減額についても、その限界を認め、上限設定(損害額の二〇%減を上限とする)を明示した事も評価できます(一審では上限設定なし)。今回の控訴審判決はこれら過去の損害面での救済に関しては一定の前進と評価することができます。

二 健康被害(聴力被害)認定せず差止めも認めなかった不当性

 一方で飛行差し止めの前提となる健康被害、特に騒音性の聴力被害について、一審に引き続きこれを認めませんでした。沖縄県の実施した健康影響調査においては、騒音の最も激しい地域(W値九五)を中心として、明らかに騒音性のものと見られる難聴の住民が多発しているにも拘わらず、判決ではこの事実に目をつぶる事になってしまいました。また原告ら住民の悲願であった夜間・早朝の航空機飛行差し止め請求については、いわゆる第三者行為論(日本国に対し、その支配の及ばないアメリカの行為の差し止めを求めるものであるから認められない)を展開し、またも請求を退けたのです。米軍機が我がもの顔で沖縄の空を飛び回る事ができるのは、日本という主権国が基地をアメリカに提供しており、法的に飛行を容認しているからです。容認するか否かも含め、容認するとした場合の条件等につきアメリカに要求することは当然できるはずです。「日本国の支配が及ばない」というのは原理的にも全く理解し難い話しです。

三 司法の役割から見た今回の判決に含まれる重大な問題点

 この判決言渡しの直後、アメリカを被告とする飛行差止請求訴訟の判決も言い渡され、「主権国アメリカの行為には日本に裁判権は及ばない」として却下されました。アメリカを被告とすれば「門前払い」、日本を被告とすれば「アメリカには手を出せない」として請求棄却。すなわち、司法では「差止請求」は理論上認められないというのです。今回の判決はこの点を恥ずかしげもなく正面から自白しています。その上で「(だからこそ)・・被告(国)としてはより一層強い意味で、騒音の状況の改善を図るべき政治的な責務を負っている」と結びます。政治で解決できない重大な人権侵害の救済を司法に求めたのに対し再び「政治の責任」と投げ返されてしまったわけです。

 確かに判決の言う通り「政治」の責任は極めて重大です。しかし、政治過程のメカニズムは基本的に多数決原理です。これまで沖縄は常に少数派でした。仮に政治的には少数派であっても、そこにある人権侵害を法に従って救済するのが司法に与えられた基本的任務です。今回の判決はこの司法の命とも言える役割を早々に「裁判では無理ですので政治に言って下さい」と諦めてしまったのです。本当に残念な判断だと思います。

四 それでも私たちは諦めない(最高裁へ)

 それでも沖縄は諦めません。政治責任を求める事は当然ですが、あわせて司法に対してもその責務の遂行を求める事にしました。本当に未来永劫「日本の基地における米軍の行動に対し日本は手出し・口出しができない」という解釈を続けるつもりなのでしょうか。真正面から最高裁に挑みたいと思います。もちろん極めて厳しいたたかいになることは覚悟の上です。それでも「絶対に諦めない、諦められない」のです。今も現地の住民の方々は猛烈な爆音に曝され、墜落の恐怖とともに生活することを余儀なくされているからです。

 全国の団員・事務局の皆様の更なるご支援を心よりお願いいたします。



あらためて問う!労働委員会の職責とは
「反リストラ産経労」行政訴訟

神奈川支部  北 神 英 典

 産経新聞社のグループ企業が、少数派労働組合「反リストラ産経労」に対して行った不当労働行為認定を求める裁判の弁護団の末席に加わっている。

▽一六年越しの闘争

 九四年一月に結成された反リストラ産経労の委員長で、日本工業新聞社(現紙名=フジサンケイ・ビジネス・アイ)の論説委員でもあった松沢弘さんが解雇されたのは同年九月。実に一六年越しの事件になる。

 反リストラ産経労は、同年二月一日付で千葉支局長への配転を命令された松沢さんの配転撤回などを求めて二六回にもわたり団体交渉を求めた。しかし日本工業新聞社経営陣は、ことごとく団交の要求を拒否し、配転先での業務命令拒否を理由に松沢さんを懲戒解雇した。

▽「超御用組合」に反旗

 日本工業新聞社は、産経新聞社のグループ会社であり、従業員は全員、産経労働組合(産経労組)というユニオンショップ制の企業内組合に加入していた。しかし産経労組は、労働者が使用者と真に対等に渡り合えるよう憲法上付与された争議権を放棄し、執行委員長が産経新聞社の取締役会に出席し、経営執行機関である定例局長会の正規メンバーになるなど、組合員の要求を露骨に封じ込める「超御用組合」であった。

 松沢さんは、「産経残酷物語」の異称で知られる、相次ぐリストラ・合理化攻勢に対抗するため、産経労組とは一線を画した、真っ当な労働組合を立ち上げようと、同年一月に反リストラ産経労を結成したばかりであった。

▽名ばかり「論説委員」

 日本工業新聞社経営陣にとって、松沢さんが長く煙たい存在だったことは容易に想像できる。大蔵省、日銀担当など経済記者の花形ポストを歩み、数々のスクープ記事を書いた。その一方で、組合員としては、反主流派を貫き、組合の大会代議員選挙などに何度も立候補した。

 そこで、会社は、わざわざ論説委員会付き編集委員のポストを新設して、松沢さんを編集局から追い出し、社長の特命事項のみを担当させるかっこうで筆を取り上げた。その後、産経労組との労働協約上「非組合員」となる論説委員に祭り上げて、産経労組における反主流派活動を抑え込もうとしたのである。論説委員といっても日本工業新聞に「社説」はない。インタビュー記事程度しか書くことができない、「名ばかり」ポストであった。

▽都労委でたなざらしに

 反リストラ産経労は早くも九四年二月に、東京都労委に配転や団交拒否などに対する不当労働行為の救済を申し立てていた。にもかかわらず、東京都労委は、その後解雇された松沢さん個人の解雇無効訴訟の結論を待とうと、独自の結論を出すことなく、事実上、審査をサボタージュして、模様ながめを決め込んだ。

 解雇無効訴訟は、二〇〇二年に東京地裁で勝訴したものの、東京高裁で逆転敗訴し、二〇〇五年最高裁で敗訴が確定。結局、二〇〇六年末の都労委命令を経て中労委の結論が交付されたのは去年五月であった(ともに、不当労働行為には当たらないと判断した)。そこで、昨年一一月一八日、反リストラ産経労は中労委の再審査棄却命令取り消しを求めて東京地裁に行政訴訟を提起した。

 この問題を長期間にわたり、たなざらしにした労働委員会の責任は重い。ことし一月二九日の第一回口頭弁論では、弁護団を代表して高橋右京弁護士が意見陳述し、真っ先にこの点を指摘したのは当然のことである。

▽不当労働行為の認定目指す

 松沢さんが解雇された一九九四年九月は、自民・社会・さきがけの連立政権時代であり、首相は村山富市であった。四七歳の働き盛りであった松沢さんは現在六二歳、この間、何人の首相が就任してはその地位を去っていったことだろう。日本工業新聞社の親会社である産経新聞社は、部数が少なく経営の重荷となっていた東京地区での夕刊発行を二〇〇二年三月に打ち切り、さらに今年一月には、通常の退職金に基準内賃金五五カ月分を上乗せするという破格の好条件で希望退職の募集を打ち出した。新聞経営を取り巻く環境も一段と厳しくなり、リストラはますます進行している。

 裁判では、不当労働行為の認定を勝ち取るとともに、解雇無効訴訟との結論の整合だけに目をとられ、「労働者・労働組合の早期救済」という職責を忘れた労働委員会の責任も厳しく問い直してゆきたい。



二・一四シンポジウム雑感

京都支部  大 河 原 壽 貴

 二月一四日に行われたシンポジウム「非正規切りとたたかう」に、私も京都から参加しました。というのは、この間、京都支部では、独自にリーフレットを作製したり、街頭宣伝をしたりしてきましたので、その活動報告がてら、作製したリーフレットの紹介も兼ねて参加させていただくこととなりました。リーフレットの紹介と言うことで、シンポジウムの参加者にも直接リーフレットを見ていただこうと、私は、リーフレットを大量に背負って東京まで行くことになりました。

 さて、京都駅から新幹線に乗った私は、東京行きが直前に決まったこともあり、シンポジウムの会場がどこか分からないということに気づきました。団本部から来たFAXだけは持っていたのですが、そこには「エデュカス東京」という名称と、そこの住所・電話番号しか載っていません。これでは分からない、ということで、調べてみることにしましたが、大量のリーフレットに邪魔されて、パソコンを持ってきていませんでしたので、調べるツールとしては携帯電話かPDAしかありません。とりあえず、調べられるだけ調べてみると、どうやらJRなら四ツ谷駅が最寄り駅で、麹町口から出るらしい、ということまでは分かりました。

 とりあえず四ツ谷駅まではたどり着きましたが、そこからの道がまた分からない。駅の掲示板を見ようにも、掲示板自体どこにあるのか分かりません。仕方がないので、PDAのグーグルマップにエデュカス東京の住所を打ち込んで、だいたいの目星をつけて、あとは付近をうろうろしました。大量のリーフレットが肩に重くのしかかってくる上に、その日はとても暑かったので、「もう帰ろうかな…」と三回くらいは思いました。ちなみに、付近をうろうろしている間、私と同じようにうろうろしている人を結構見かけました。皆がそうではないとは思いますが、そのうちの一部は、エデュカス東京を探してうろうろしていた方でしょう。私が事前に下調べをしなかったのが一番の問題点であることは重々承知していますが、それでも今回のシンポの案内は、参加者、特に私のような地方からのお上りさんにはフレンドリーではなかったように思います。

 シンポジウムの内容については、すでに詳細な報告がなされていますので、あえて私が述べるまでもありませんが、パネラーの発言や問題提起と、会場発言での現場からの生の声とがうまくかみ合って、深みのある議論だったと思います。各地からの報告には、私も勉強させられました。若干気になったのが、会場発言の中で、「他の地域が発言しているので」とか、「他の単産も発言しているので」と言った前置きをして発言される方があったことです。私自身は、この手の集会での会場発言は、発言すべきものを持っている人が発言すべきだと思っています。

 今回のように発言者も発言時間も限られた集会では尚のことです。「他の地域が」、「他の単産が」との言葉も、単なる枕詞であろうと信じていますが、もし仮に「ためにする発言」だったとすれば、それはとても残念なことだと思います。

 シンポの中では、労働局への申告運動の提起もありました。この間、京都支部では、京都労働局への要請行動や、各労働基準監督署の監督官との懇談、全労働との懇談などを重ねてきていますが、一線で働く労働行政の方々は、それぞれ熱意と使命感を持って、今回の大量失業の事態に臨んでおられます。そういった熱意ある現場の労働行政と協力共同していくことはとても大切であり、有用なことだと思いますので、時宜にかなったよい提起だったと思います。

 私自身も、京都支部の取り組みとリーフレットについて発言させていただきました。シンポが閉会した後、シンポの中で発言もあったショップ99事件の当事者の方が、「周りにも配りたいので」と、受付に残っていた余りのリーフレットを一〇部ほど持ち帰られたのを目にしました。また、後日談ではありますが、しんぶん赤旗日曜版の記者さんが、このシンポでリーフレットを目にして、その後取材に来られ、三月一日付のしんぶん赤旗日曜版の記事になった、ということもありました。重いリーフレットを背負ってはるばる出てきた甲斐があったとしみじみ実感しています。

 最後に余談ですが、私は、その後の懇親会にも参加させていただきました。そこでは、共催団体である労働者教育協会の方と同席することになりました。

 実は、私はこれまで労働者教育協会なる組織があること自体を知りませんでしたので、いろんな分野で活動している方々がいるんだということを知ることができました。

 それと同時に、日々の活動のことから東アジア経済圏の問題まで、熱く(?)語り合うことができ、とても楽しいひとときを過ごすことができました。



憲法ミュージカルに出演します

京都支部  村 松 い づ み

一 京都でも始まった憲法・市民ミュージカル「時間旅行はいかが!?」

 全国各地で上演されている憲法ミュージカル。「京都でも是非やりたい!」という若手団員らの熱い声によって、二〇〇八年一月実行委員会が発足(古川美和団員が事務局長)。その後、準備・企画が進められ、いよいよこの三月一四ー一五日、京都府立文化芸術会館で開催されるはこびとなった。

二 オーディションを受けました

 「村松先生、オーディションに出てくださいよ〜」「落とすためのオーディションじゃないですから」「出演する・しないは、基礎練習(ワークショップ)を経てからでいいですから」という古川団員の甘い誘惑の声に乗ったのが「間違い」の始まりだった。

 新聞等で市民に呼びかけ、六〇人位の出演者を募るという。長年フラメンコを趣味として続けてきたが、ミュージカルで踊るジャズダンスなどは全くの素人。でもミュージカルを観ることは大好きなので、多少、人数がオーバーしても「落とさない」と聞いて、興味本位でオーディションを受けてみることにした。ところが、オーディションの記事が主婦向けの無料情報誌に掲載されたことから直前になって応募が殺到。約一五〇人もの応募があって、オーディションも三回に分けて行われた。オーディションは、ダンス部門、芝居部門、自己アピール部門のすべてを受けなければならず、丸一日かけて行われた。とりわけ芝居部門では、「熊になれ」「鳥になれ」など様々な課題が与えられ度肝を抜かれた。結局、一五歳から七三歳までの約一〇〇人が七〜八月の基礎練習に進むことになり、なんとか私もその中に滑り込んだ。

三 実行委員の苦労は底知れない

 私自身は実行委員ではないので、その真の苦労は知る由もない。だが、同じ事務所の中で、私のデスクを挟んで実行委員である古川美和・福山和人両団員の間で飛び交う言葉を耳をダンボのようにして聞いていると、本当に三月一四・一五日に開催まで無事こぎつけるんだろうかと思ってしまうようなこともあった。

 芝居・歌・ダンスの指導はすべてプロが行っている。プロの芸術家というのは、とかく個性的ないし「こだわり」がある。そのような人たちとの間で「意見」調整しながら、時には明け方までメールでやりとりしながら、脚本やポスター作成、演出方法、練習会場確保などの裏方作業を進めていく実行委員の苦労は、並大抵のものではないと推測する。

四 出演者としての苦労=アラウンド・フィフティ頑張る

 私は、練習時間もあまり取ることができないし、「踊りの場面に少し出演できれば」くらいに安易に考えていた。ところが、九月になって私に割り当てられた「その他大勢」役というのは、いくつかの場面に登場し、時には現代のサラリーマン、時には戦場にかり出される戦国時代の村人や足軽、時には二〇一九年の民衆などと色んな役になって、歌ったり踊ったり、また台詞なしの小芝居を演じなければならない。

 踊りの方は、若い人に振り付けを教えてもらって、なんとかこなせても、まず歌が問題。楽譜を与えられて、ソプラノ・アルト・テノール・バスの各パートを数回練習しただけで、「それじゃあ、はい、みんなで合わせましょう」。他のパートにつられてしまって自分のパートがなかなか正確に歌えない。まして、踊りながら自分のパートを歌うなんて・・・・。その上、演出家らは、ミュージカルは歌こそ一番重要であると強調する。本番まで一ヶ月を切った今、私は古川団員の息子の電子ピアノを借りて、密かに歌の練習に悪戦苦闘している。

 更に「その他大勢」役の小芝居は、場面設定がなされるだけで、「後は自分で考えて演じて。(台詞のある)役者の邪魔になるようだったら言うから。」式である。どのように演じたらよいのか、自分で考えねばならず、芝居経験のない私にはこれも悩みが大きいところである。

 これらの新しい体験は、アラウンド・フィフティのボケ防止に少しは役立っているかもしれない。

 なお、「その他大勢」役であっても、結果的には結構な練習時間を取らねばならず、日常の事件活動はこなせても、弁護団事件の書面分担などは、しばらくの間、暖かい目で「配慮」していただいている。

五 憲法平和を歌と踊りで表現する

 (子役を除く)約八〇人(現時点)出演者全員がオーディションを経た人たちです。憲法九条を守る運動をしてきた人から、憲法なんて全く考えたこともなく知らなかった人もいて、参加の動機は様々。そんな中で、配役が決まるまでは、イラク戦争の映像を見たりなど、自分にとって憲法とは何か、戦争とは何かを語り合う機会を実行委員が意識的に作ってくれた。また創作されたミュージカルの歌の中には実は反戦のメッセージが込められたものも多数含まれており、スタッフからは「常に歌詞の意味を考えて歌って」という働きかけも行われている。そんな中で、出演者たちも「憲法は自分とは縁遠いものではないことがわかった」「もっと周りに憲法のことを知ってもらいたい」と自分の言葉で語るようになってきていることは、次へとつながっていくことを期待させてくれる。

六 見どころ

 ストーリーは、京都らしく時代劇を交えたもの。就職活動中の大学生光太郎、光太郎に恋する女子学生穂乃佳、お金が大好きな主婦由衣、中年のダメサラリーマン孝志ら現代の若者四人が時間旅行(タイムトラベル)できる靴をはいてまず着いた先は戦国時代。年貢にあえぐ農民らが戦争へと巻き込まれていく。その次は憲法が改悪されてしまった近未来二〇一九年。愛国心の名で戦争に動員される市民たち。そんな中で、現代の若者らが悩みや葛藤を感じながら成長していく姿を市民約八〇人が歌と踊りに乗せて表現するというもの。関西らしくコメディ部分もあり、涙あり笑いありの作品である。

 東映太秦撮影所の時代劇の助監督高垣博也さんが脚本を書き、作詞・作曲・ダンスの振付と指導は、京都で長年、ダンスや音楽活動を行ってきたアメリカ出身のピーター・ゴライトリーさん、演技指導は俳優兼演出家の中田達幸さんが行っている。三人は「市民ミュージカルだからと妥協したくない。感動を呼ぶレベル高い芝居にする」と語る。

 なお、福山団員は、団本部の事務局次長を引き受けるにあたり、ミュージカルの出演や実行委員の仕事だけは確保させてくれるよう条件を出したとのこと。よって福山団員の「殿」役も見どころの一つであることを付け加えておく。

七 是非、観に来てください!

 オーディションに通過してから今日までの約八ヶ月間、初めての世界や人間関係にとまどったり、疑問を持ったり、不満を持ったりしたこともあった(あまり人には話していないけど)。でも、今は、八ヶ月前に初めて集まった素人ばかりの集団でこれほどまでの作品に仕上がりつつあることに大きな感慨を抱いて参加している。本番まで約二週間しかないけれど、最後の追い込みでもっと完成度の高い作品になるだろう。勉学や就職活動を抱えながらも熱く頑張る若者たちと、過去の人生にない体験に挑戦する中高年とのコラボレーションはきっと「みんなで力を合わせれば、戦争のない世界をつくれる」とのメッセージを観客に発信してくれると信じている。

 既に次のミュージカル作品を予定している大阪の団員の皆さん、そして特に近隣県にお住まいの団員の皆さん、今後の憲法運動の参考にもなります。是非、京都のミュージカルへお越しください。よろしくお願いします。

 なお、場所は京都府立文化芸術会館で、三月一四日(土)は午後一時三〇分開演と午後六時三〇分開演、三月一五日(日)は午後一二時三〇分開演と午後五時三〇分開演の合計四公演あります。

【チケットのお申し込み】

 京都法律事務所

  電 話〇七五―二五六―一八八一

  FAX〇七五―二三一―八五〇六 までお願いします。



【書 評】

スティーヴン・A・ドリズィン+リチャード・A・レオ
「 なぜ無実の人が自白するのか
―DNA鑑定は告発する 」(伊藤和子訳)を読んで

東京支部  西 嶋 勝 彦

本書の由来

 本書は、名張事件第七次再審の異議審・名古屋高裁刑事二部が同じ名古屋高裁刑事一部の再審開始決定を取消して再審請求を棄却したことに対して、特別抗告にとり組むため弁護人である訳者がインターネット・リサーチをしている最中に、この論文があることが判り、訳者とドリズィン・ノースウェスタン大学ロースクール教授との交信の過程で、教授から「奥西氏のために法廷意見書を作成しましょう」との申入れがあり実現した最高裁宛ての「法廷意見書」と、教授が出版を快諾された原題「DNA時代の虚偽自白の問題」を併せて訳者が翻訳したものである。名張事件再審の闘いから生まれた著作と言える。

本書の構成

 先に記したように、本書は二部からなる。

 第一部は本書の骨格となる「DNA時代の虚偽自白の問題」である。

 第一章「誤判研究における虚偽自白の役割」から第六章「結論」に至るまで八六頁にわたり、一二五の誘発型虚偽自白の例が体系的に分析されている。このほか詳細な原注(英文)三四頁もついている。

 第二部は、「ドリズィンらによる名張事件法廷意見書」である。

 この法廷意見書の作成者は、一九九八年に設立されたイリノイ州のノースウェスタン大学ロースクール内のブルーム・リーガル・クリニック所属の誤判救済センター(CWC)で、宛先は名張事件特別抗告申立が係属中の最高裁第三小法廷であり、提出日は〇八年四月一四日である。

 冒頭に再審開始決定を取消した名古屋高裁の自白についての判断に四点の異議を唱える、との「趣意書」、「事件に関する記述」、アメリカで、この一〇年間に少なくとも死刑囚を含む四〇五人がDNA証拠の利用などで冤罪が発覚して解放された事実を紹介する「序論」を掲げ、次の項目からなる「本論」において、一二五例の虚偽自白研究の成果が引用される。

I 名古屋高等裁判所刑事第二部は、およそ人が死刑を科せられる 可能性がある重大犯罪について、自発的に虚偽の自白をするはず がないということを確信しているが、これは誤りである。

II 名古屋高等裁判所刑事第二部の確信とは反対に、奥西氏に対す る長期間の取調べは虚偽自白の危険な要素の一つである。

III アメリカにおいて、裁判所により「任意性がある」と認定され た多くの自白が、のちに虚偽であると発覚している。

IV 名古屋高等裁判所刑事第二部の確信とは反対に、任意性が認め られた自白を当然に信用することはできない。

V 愛する者を殺害したという奥西勝氏の自白は、衝撃と悲しみの 中でなされたものであるため、慎重な吟味が必要である。

VI 奥西勝氏が殺人の責任を彼の妻に着せたという事実は、彼の最 終的な自白をより信用性あるものにはしない。

 本書には、以上のほか、高野隆弁護士の「序文」と訳者によるドリズィン氏らの「法廷意見書」の解題と、全体についての訳者「あとがき」がある。

 「序文」は、アメリカにおける自白研究の実情と現在警察が心理的テクニックを用いて取調べにあたり、ミランダルールが形骸化している実態を紹介し、取調べの可視化が求められる日本において本書が示唆を与えるはずだという。

 この「序文」と「あとがき」に先に目を通した方が本書の理解に便利と思われる。

本書の内容

 第一部の内容にしぼって以下紹介する。

 本論文の特徴が、「三つの目的」として、冒頭(一二〜一三頁)に掲げられている。

 すなわち、第一は、取調べ誘発型の虚偽自白事例に関する長年の研究の集大成である、という点。

 たしかに一〇年前に六〇の虚偽自白を分析したオフシーとレオの有名な研究報告があるが、本書は、事例数において二倍であり、DNA鑑定などで「証明された」虚偽自白にしぼっている上、事例もミランダ判決後の最近一〇年の自白であるから、方法論的にも正に虚偽自白分析の「集大成」の名に恥じない。

 第二に、虚偽自白が果してきた役割と自白をした者が米国刑事司法手続でいかなる取扱いを受けてきたかを分析した点。

 一二五例中、一四人が無実にもかかわらず有罪答弁の取引を選び、三〇人が公判で有罪となり、結局三分の一以上が誤って有罪判決を受けていた(六〇頁)。

 ここから、本書は「取調べ誘発型の虚偽自白は、予想以上に深刻な問題であるという結論に至った」という。

 第三に、取調べの全面可視化等のいくつかの有望な政策的改革が、虚偽自白の発生を減少させる可能性があることを提言する点。

 因みに、米国でも取調の可視化が実現しているのは、最高裁判決によるもの(アラスカとミネソタ)、制定法によるもの(イリノイ州。当時のオバマ議員が主導した)のほか、郡や市単位で警察が独自に実施しているところに限られている。

 一二五例の全体像は本書四六〜四七頁に一覧表で示され、第四章において「量的傾向」が、第五章において「質的傾向」が、それぞれ具体的事件の内容を列挙して分析されている。弱い立場の児童、少年、精神障がい者のケースが紹介され、同一の犯罪で複数(五人など)の被告人が虚偽自白する事例の多さ、一つの虚偽自白が他の多くの無実の人を巻き込むドミノ効果を発揮することなどが指摘されている。

日本と同じように、「罪ある被告人に対して未解決の殺人の責任を間違って負わせることにより未解決の事件を終結する」例(八九頁)なども興味深い。

 注目されるのは、虚偽自白を引き出した取調時間の平均が一六、三時間、二四時間以内が九割に達する、という数値である(五二頁)。代用監獄での二三日間の警察拘禁を許す日本が、いかに虚偽自白の温床であるかが判る。

 さらに、虚偽自白の八一%が殺人事件、九%が強姦、三%が放火という(五〇頁)。重い犯罪に虚偽自白が集中している事実は、事件解決への警察に対する圧力が大きいためとされるが(五一頁)、同時に、被疑者にとって、自白すれば極刑がまっているということは虚偽自白への抑制にはならないことも示していよう。

 他方で、虚偽自白をした一二五人中、起訴されなかった者一〇人、事実審理前に起訴が取り下げられた者六四人の合計七四人(約六割)が救われている事実をどう評価するか。

 本書は「自白が虚偽であることが以前よりも刑事手続における早い段階で認識されるようになっていることは明らかである。それは、DNA技術の進歩の結果である可能性が高いが、取調べ中の録音録画の使用が増加している結果とも言えそうである」(五五頁)と分析する。さらに、七人(六%)が無罪となっている事実を加味すると、以上の評価は妥当であろう。

 日本において、誤判、とりわけ虚偽自白の発生防止等を考えるときの有力な資料となろう。

若干の感想

 一二五例中の具体的ケースは、本書を手にとって見てもらうほかない。

 本書の「証明された虚偽自白」しかも、最近一〇年のケースにしぼった分析は、反論を許さない極めて説得力ある方法論と思う。

 陪審制のアメリカでも、虚偽自白が誤判を招いていること、つまり誤判が陪審制であるが故ではなく、虚偽自白が、陪審員の眼をくもらせているということであろう。裁判官と裁判員がタッグで事実を認定する日本の裁判員裁判においても、同様の危険はある。しかし、職業裁判官なら防げるということは経験に反しているので、虚偽自白を製造させない、仮りに作られても裁判員に早期に見抜いてもらう手だてを用意することが課題となる。

 なお、疑問のままなことがある。それはDNA鑑定により誤判―虚偽自白を暴く過程、特に被告人(勾留中か服役中)のDNAの入手と現場の証拠から検出されたDNAの対照作業に手続上弁護人と専門家がどのように関わっているのか、裁判所や警察、検察側が協力しているのかどうかが全く不明な点である。本書にそれを求めるべきでないのかも知れないが、心のこりではある。

 それはそれとして、本書は、裁判員裁判を迎える日本の刑事司法に有力な示唆を与えるであろう。

 最後に、訳者伊藤和子団員の本書の実現にむけた努力に敬意を表したい。

 (日本評論社 本体価格二、〇〇〇円)



全国常任幹事会・名古屋で開催される

愛知支部  森 田   茂

 二月二一日、全国常任幹事会が名古屋で開催されました。

 一年ほど前まで愛知県は全国の都道府県の中で最も経済が好調な県と言われていました。

 ところが、現在のこの不況下においては、トヨタの関連企業をはじめとする県下の企業で働いていた非正規労働者の人達の多くが職を失いました。今後その人数はさらに増えるだろうと言われています。今や愛知県は全国の都道府県の中で職を失う非正規労働者の人数が最も多い県と言われています。

 通常、東京の団本部で開催されることが多い常幹を名古屋で開催する趣旨は、全国から集まる常任幹事の方々に上記のような愛知県の現状を肌で感じてもらい、反貧困への団の取り組みをよりいっそう強化するということにありました。

 このような期待に応えるため、愛知支部としては、常幹の会議の中で特別に一時間の枠を設けていただき、次のような特別報告をしました。

 まず、トヨタ自動車の関連企業で働いていた派遣労働者の當銘(とうめ)さんから、ご自身の体験を報告していただきました。當銘さんは、沖縄から家族ぐるみで愛知県に出てきて派遣労働者として働いていたところ、いわゆる派遣切りにあったもので、現在、裁判所で係争中です。當銘さんからは、沖縄の人達が極めて杜撰な採用手続で愛知県に連れてこられた上に、労働者の人権が無視される悲惨な現場で働かされているという実態を、切実に語っていただきました。ご自身の体験だけに報告を聞いていた方々も派遣労働者の実態をリアルにイメージできたことと思います。

 次にJMIUの大平さんからも報告をしていただきました。大平さんからは、派遣・非正規労働者のほとんどが時間給制賃金でありその賃金が極めて低額であること、企業は危険な業務(例えば危険物の取扱、有機溶剤作業など)を正社員には担当させず派遣・非正規労働者に担当させていること、派遣・非正規労働者は理由とも言えないような理由(例えば有給を要求したらクビ、妊娠したらクビ)で簡単に解雇されてしまうこと、この不況下で組合には相談が殺到しており組合員数も急激に増えていること等について、統計上のデータも交えながら具体的に報告していただきました。

 最後に質疑応答がなされ、愛知の特別報告は終了しました。

 参加された常任幹事の方々がそれぞれにこの特別報告の中から何かを得ていただいたのであれば、愛知支部としてもうれしく思います。



非正規労働者からの相談に役立つ、
薄くて読みやすいブックレット・
『なくそう!ワーキングプア―労働・生活相談マニュアル』のご紹介

東京支部  田 所 良 平

 非正規労働者のたたかいの最前線で活躍する一一名の団員が執筆し、今年一月に出版されたブックレット『なくそう!ワーキングプア』(一〇〇〇円)は、非正規労働者の権利を擁護する事件活動や運動に携わる団員にとって、非常に役立つお勧めアイテムです。実際にありがちな事例を題材にしたQ&A方式で、これまで馴染みの薄かった非正規雇用に関する法制度や生活保護制度に関する疑問をわかりやすく解説しています。約一〇〇頁と薄く、移動時間等ですぐに読み終えてしまう本ですが、中身は濃厚です。これ一冊を読み終えれば、非正規労働者からの相談に適切なアドバイスをするための基本知識が十分身に付きます。

 インターネットブックショップAmazon.co.jpでも好評を博し、「ワーキングプア」部門で堂々の第一二位まで順位を上げました(三月四日現在)。

 まだお読みでない団員には、是非ともお勧めしたい一冊です。以下、ブックレットの内容を簡単にご紹介したいと思います。

一 非正規労働者特有の法的問題とその処方箋を網羅

 「第一章・労働者の権利を活用しよう」では、偽装業務委託(労働法規の適用や社会保険料等を逃れるために業務委託を偽装するケース)について、その見抜き方と偽装業務委託である場合に認められる労働者の権利の解説、有期雇用について、その悪用事例を紹介した上で、厚労省告示の「雇い止め基準」の解説や雇い止めに解雇権濫用法理が類推された判例の紹介等をしています。また、名ばかり管理職か否かの判断基準の説明や、区立保育園の民営化に伴い特別職の非常勤保育士が雇い止めされた中野区保育士事件裁判例の紹介等官製ワーキングプア問題もカバーしています。

 「第二章・派遣職場から違法と無権利をなくすために」では、派遣労働契約に関する法制度や派遣労働で起きやすい問題を解説しています。就業条件明示書等の交付義務等派遣元が負う義務や、就業条件明示書記載の業務と異なる業務指示を受けた場合の対処方法、期間制限を超えた違法派遣や偽装請負の場合に直接雇用を勝ち取るための手段、恣意的な派遣契約の中途解除に基づく派遣労働者の解雇・雇止めの問題、派遣先労働者との均等待遇に関する法律等の定め、年次有給休暇、労災保険の適用関係、派遣労働者に対するセクハラ防止義務、派遣労働者は健康保険、厚生年金保険、雇用保険に加入できるか等々、派遣労働者特有の問題を広く取り上げています。

 「第三章・パート労働者の待遇改善のために」は、普段あまり馴染みのないパート労働法についての解説など、パート労働者からの相談を想定した内容となっています。〇七年に大改正され、〇八年四月一日に施行されたパート労働法で規定される差別的取扱いの禁止、均衡処遇の努力義務の定め、パート労働者の正社員化を推進するための定め等、重要基本事項をインプットできます。

 さらに、「第四章・外国人研修生・技能実習生の生活と権利を守ろう」では、外国人研修生・技能実習生に対する違法行為への対抗手段が解説がされています。

 さらに、「第五章・泣き寝入りせず立ち上がろう―いろいろある救済手続き」では、問題の類型ごとの相談窓口が説明されており、相談者に適切な窓口を紹介するための知識も補充できます。

二 貧困からの脱出するための生活保護申請や多重債務までカバー

 このブックレットの有用性を一層高めているのが「第六章・困ったときのセーフティネット―生活保護は権利です」において、生活保護制度とその運用実務まで解説されている点です。ここでは、生活保護制度で受給できる保護内容や各種料金の減免等、制度概要を押さえた上で、「水際作戦」で横行する福祉事務所の常套手段への対抗策、「就労可能年齢だと保護は受けられない?」「両親が健在だと保護は受けられない?」「持ち家、自動車がある場合は?」「借金や貯金がある場合は?」「外国人やホームレスは?」等々、生活保護についてよくある疑問や誤解を解消してくれます。

 また、「第七章・多重債務に負けるな」では、多重債務についてのアドバイスもあり、不幸にして貧困に陥った労働者を救済する手段までフォローされています。

 各地で開催されている街頭相談会や電話相談に参加される団員も多いことと思いますが、予習に最適のブックレットです。

是非、ご一読を。