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齊田 紀子 ―長崎総会特集―
いっぺん、来んね!長崎・雲仙温泉へ
大久保 賢一 原爆症認定訴訟の到達点と今後の課題
毛利 正道 被爆者の声を聴き、オバマ・金正日会談を実現する努力を
田中  隆 政権交代と政治システム ……国家改造・構造改革のときを経て
渡邊 静子 ―滋賀支部だより―
潤いの八月集会
菅野 園子 民法改正問題に関心と意見を寄せてください。
吉原  稔 「徹底した実証主義的無罪の発掘」
大久保 賢一 日弁連シンポV 「東北アジアの安全と平和を探求する」のご案内
大量解雇阻止対策本部 「非正規黒書」(仮称)づくりへの協力をお願いします!
大量解雇阻止対策本部 「第三回大量解雇阻止全国対策会議(一〇・三全国会議)」ご参加のお願い



―長崎総会特集―

いっぺん、来んね!長崎・雲仙温泉へ

長崎支部  齊 田 紀 子

 今年の自由法曹団全国総会は、長崎県雲仙市の雲仙温泉「東洋館」で開催されることになりました。

 雲仙温泉は、長崎県島原半島のほぼ中心部、「雲仙天草国立公園」に位置する温泉地です。

 温泉街の中心部には、遠藤周作の「沈黙」にも登場し、キリシタン殉教の地となった雲仙地獄があり、辺りには硫黄臭と白い蒸気が立ちこめています。白濁した硫黄泉に是非浸かっていただきたく思います。

 当地は標高七〇〇メートルに位置しており、夏は涼しく、明治時代には外国人の保養地として利用されていました。日本で最初のパブリックゴルフコースが開設された由緒ある雲仙ゴルフ場もあります。

 また雲仙から西に下ると橘湾に面した小浜温泉(塩泉)、東に下ると有明海に面して島原温泉(炭酸水素塩泉)があり、様々な泉質を楽しむことができる他、豊富な魚介類、地元で栽培された野菜や新鮮なお肉、小浜ちゃんぽん、郷土料理の具雑煮、島原そうめん、ろくべえ、がんば(とらふぐ)等の名物を味わうこともできます。

 更に、山の恵みを受けた豊富な地下水が地域の生活を支えています。

 島原半島と言えば、一九九〇年一一月の雲仙普賢岳噴火災害が思い起こされます。その後の復興はめざましく、現在では、平成新山、火砕流の跡、土石流で埋まった家屋などを間近に見学して、自然の威力を目の当たりにできます。そして、地域の歴史や地質学的意義が評価され、先日、島原半島は日本初の世界ジオパーク(地球活動の遺産を主な見所とする自然の中の公園)に認定されました。

 さて、長崎支部といえば原爆訴訟、じん肺訴訟、諫早湾干拓有明訴訟、薬害肝炎訴訟等大型事件があり、プレシンポでも被団協の方の講演、オプショナルツアーでは諫早湾干拓の見学が予定されています。これ以上の事件のご紹介は、幽霊団員の私には力不足です。

 地元島原半島に住む人間として、是非、島原半島そして長崎県をご堪能頂きたく、皆様のお越しをお待ちしております(と同時に皆様の島原半島への経済的貢献を心より御礼申し上げます)。



原爆症認定訴訟の到達点と今後の課題

埼玉支部  大 久 保 賢 一

原爆症認定訴訟とは

 原爆投下による被爆者が、現在自分が罹患している疾病は、原爆放射線に起因するとして、「原子爆弾被害者に対する援護に関する法律」(被爆者援護法)に基づいて、原爆症認定申請をしたところ、厚生労働大臣がその申請を却下したので、その却下処分の取消と国家賠償を請求している事案。ちなみに原爆症とは特異の疾病ではなく、原爆放射線に起因する疾病をいう。二〇〇三年四月から、全国一七地裁で、三〇六人が原告となって集団訴訟を提起したところ、現在までに、高裁レベルも含めて、却下処分取消については原告の一九連勝という成果を上げている(ただし、一部敗訴はある)。この集団訴訟の早期解決を図るため、国との交渉が進められ、今般以下に述べるような「確認書」調印された。この成果と今後の課題について報告する。

確認書の調印とその内容

 八月六日、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)と内閣総理大臣・自由民主党総裁麻生太郎氏との間で、「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に関する確認書」が締結された。麻生氏が、内閣総理大臣と自民党総裁という二つの肩書を使用しているのは、政府と自民党の双方を代表するという含意である。政府の方針の確認と議員立法を視野に入れたものである。

 「確認書」の内容は次のとおりである。

(1)一審勝訴の原告について、国は控訴しないで(既にしてある控訴・上告は取下げて)確定させる(原爆症と認定することを意味する)。

(2)係争中の原告は一審判決を待つ。

(3)議員立法により基金を設け、原告に係わる問題の解決のために活用する(敗訴原告の救済を意味する)。

(4)厚労大臣と被団協・原告団・弁護団は定期協議の場を設け、今後、訴訟の場で争う必要のないよう、定期協議の場を通じて解決を図る。

(5)原告団はこれをもって集団訴訟を終結させる。

「確認書」についての当事者の評価

 被団協・原告団・弁護団は、「訴訟の早期解決、被爆実態に見合った認定行政への転換に道筋をつけることができた」、「集団訴訟の成果を核兵器廃絶に向けた大きな財産にしたい」、「今回の成果は、核兵器のない世界を求める国内外の人々と喜び合えるものと確信する」、「しかし、まだ解決しなければならない多くの課題が残されている。今後も力を尽くす」との声明を出している。

 内閣官房長官は、「厳しい司法判断が示されたことを厳粛に受け止め」、「被爆者の高齢化、病気の深刻化などによる被爆者の方々の筆舌に尽くしがたい苦しみや、集団訴訟に込められた原告の皆さんの心情に想いを致し、これを陳謝する」、「これまで拡大してきた選定基準に基づき、現在、待っておられる被爆者の方々が一人でも多く迅速に認定されるよう努力する」、「唯一の被爆国として、核兵器の廃絶に向けて主導的役割を果たし、恒久平和の実現を世界に訴え続ける」との談話を発表している。

「確認書」の成果

 この「確認書」の調印の成果は次のように確認できる。

(1)長期化している「集団訴訟」について解決の目処が立ったこと。

(2)敗訴原告についての配慮がなされていること。

(3)厚労大臣との間で「定期協議」の場が設けられ、訴訟を経ずして認定への道を拓いたことなどである。特に、敗訴原告の救済は裁判決着ではありえないことであるし、大臣との「定期協議」は今後の解決システムとして注目される。

検討課題

 検討課題は次のように整理できる。

(1)集団訴訟を何時、どのように終結させるか。とりわけ、国家賠償事件の取扱いである。

i却下処分取消と平行して進められているケース、

iiその分離を求められているケース、

iii既に認定され取消訴訟については訴え却下が想定されているケースなどの取扱いが問題となる。

(2)敗訴原告の処遇をどうするのか。

i現在控訴あるいは上告中の敗訴原告はその上訴を取下げるのか、

ii今後一審で敗訴する原告は控訴しないのか、

iii結局認定されなかった原告はどうなるのかなどが問題となる。

(3)集団訴訟に参加していない被爆者の処遇はどうなるのか。

i現在認定申請している被爆者が認定されなかった場合、訴訟の提起は可能なのか、

ii今後認定申請しようとしている被爆者との関係で「確認書」は障害物とならないのか、などが問題となる。

(4)被団協の「国家補償」要求との整合性あるいはその要求実現にどのようにこの成果を生かすのか。起因性の立証責任が被爆者側にある限り、根本的解決にはならないのではないのかという問題である。

(5)核兵器廃絶のための「大きな財産」というがそれはどのような含意なのか。この「確認書」と核兵器廃絶はどのような関連があるのかという問題である。

 この検討課題はそれぞれ性質の異なる問題である。

(1)集団訴訟の終結は、われわれが国家賠償請求事件は取下げるということを決定すれば解決する問題であって、後は、取下げ方の問題である。例えば、埼玉は、遺族原告と弁護団の意見陳述で締めたいと考えている。

(2)敗訴原告の取扱いについては、

iわれわれも上訴権を放棄するのかという問題と、

ii敗訴原告をどのように処遇するのか、認定されたと同様の給付を行うのか、そうでないのかという問題である。

 上訴権を相手方だけに放棄させることができるのか、敗訴原告に国庫金を使用することに問題がないのかというテーマである。

(3)集団訴訟に参加していない被爆者の問題は、

i今後設置される「協議会」の射程範囲の問題と、

iiそこで解決しなかった被爆者の手を縛ることにならないのかという問題である。

「協議会」の設置はまだ緒につこうとしている段階である。そこで解決しない被爆者の「裁判を受ける権利」を制約することなどできないであろう。

(4)国家補償の課題は、立法政策の問題であるから、被団協の掲げる要求実現にために、引続き立法府に働きかけ続けるということになる。巨大勢力となった民主党の動向が鍵となるであろう。

(5)核兵器廃絶のための「大きな財産」となるかどうかは、今後の運動にかかっている。被爆者全員が救済されたからといって核兵器がなくなるというものではない。集団訴訟の解決と核兵器廃絶問題は、関連性はあるが(「原爆症認定訴訟の全面解決のために」Q七参照)、論理的必然性はないのである。

今後の課題

 このように「多くの課題」(声明)があることは明瞭である。この「確認書」は「基本方針」に係わるものであるが故に、今後の彼我のせめぎ会いの中で、その具体的結果の様相が決定されるであろう。今求められていることは、その到達点を確認し、これを今後の橋頭堡とすることであろう。「確認書」が全ての問題を解決しているものではないことは、その文書の性質からして当然である。訴訟解決の問題(敗訴原告の処遇を含む)、訴訟に参加していない被爆者の問題、認定制度と国家補償の問題、核兵器廃絶の問題は、連関はあるが、それぞれの特殊性を持っているのである。その連関と特殊性を整理しながら、新たな地平を切り拓くことが求められているのである。とりわけ、国家補償と核兵器廃絶の課題は、国家の「戦争責任」と「核政策」に連動するテーマであるので、これまでの体制とは次元の異なる体制が求められるであろう。一層の決意と覚悟が求められている。

二〇〇九年九月二日記



被爆者の声を聴き、オバマ・金正日会談を実現する努力を

長野県支部  毛 利 正 道

 以下の書簡を、アメリカ合衆国 オバマ大統領、朝鮮民主主義人民共和国 金正日総書記、各政党、被団協など九個人・団体に、送付しました。このうち、「第二」の部分などのみここに掲載させていただきます。HP「毛利正道」を検索していただくと全文が掲載されています。

被爆者の声を届け、オバマ・金正日会談を実現する努力を
―世界国民の平和的生存権を守るために、日本国民として
北朝鮮核兵器開発保有問題にいかに対応すべきか―

二〇〇九年八月二二日  弁護士 毛 利 正 道

第一 朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮という)は核兵器を持っているのか

第二 北朝鮮はいつからなぜ核兵器を保有する気になったのか

一 二〇〇二年一〇月まで

(1)同国が核兵器の保有に公式に初めて言及したのは、二〇〇二年一〇月二五日外務省スポークスマン談話である。そこでは、「我々は米大統領特使(一〇月に訪朝したケリー国務次官補)に、増大する米国の核圧殺脅威に対処し自主権と生存権を守るため、核兵器はもちろんそれ以上のものも持つことになるであろうことを明確に述べた」とある。この表現では、核兵器を保有する方針を明示したとは言えまい。しかし、ケリー国務次官補によると、この平壌での会談において、核兵器を製造するためにウランを濃縮する計画を持っていることを北朝鮮が認めた、とのことであった(このことから、第二次北朝鮮核危機が始まった)。

(2)北朝鮮は、この時まで核兵器の開発、若しくはその計画がある旨述べたことはない。一九九三年から一九九四年にかけての第一次北朝鮮核危機の時も同様である。同国は、一九八五年にNPTに加盟しているが、本当に核兵器を保有する意思があるのであれば、イスラエル・インド・パキスタンのように、その「権利」を奪われるNPTに加盟することなく核兵器を保有すればよいはず、との指摘もある(「北朝鮮とアメリカ 確執の半世紀」ブルース・カミングス著一〇九頁・明石書店―以下、「同書」として引用するが、これは北朝鮮核兵器開発問題を探求する際の必読文献である)。

(3)但し、北朝鮮は、スカッド型短距離弾道ミサイルについては、ソ連製のものをエジプトから入手して独自に改良開発し、一九八〇年代後半から実戦配備するとともに、イランやシリアに輸出もしていたとされる。発射実験も再三行っており、米国との間での交渉の俎上にのぼってもいた。この北朝鮮製のミサイルは、「米国と同盟関係にない国にとっては、世界市場で入手できる一番性能の良いミサイルである」(同書一二六頁)。二〇〇九年八月一五日の共同通信配信記事でも、北朝鮮・シリア・イランが新型ミサイルを共同開発している、と報じられている(むろん、北朝鮮への各種安保理制裁決議を除けば、国際社会では武器のひとつであるミサイル輸出に特別な制限がない)。

二 北朝鮮による三度にわたる不可侵条約の提案

(1)二〇〇一年一月に就任したブッシュ米大統領は、同年九・一一テロとアフガニスタン侵攻開始の後、二〇〇二年一月の一般教書において北朝鮮を「悪の枢軸国」のTOPに据え、同年九月の国家安全保障戦略において核兵器を用いることを含む先制攻撃の対象に据えた。

(2)このような「危機的状況」の下で、北朝鮮は、

二〇〇二年一〇月二五日外務省スポークスマン談話

二〇〇二年一二月二九日外務省スポークスマン談話

二〇〇三年二月二五日第一三回非同盟諸国首脳会議

において、計三回にわたり、米国が北朝鮮と不可侵条約を締結するならば核兵器開発問題を交渉で解決する旨明言した。特に、この三回目の非同盟諸国首脳会議は、北朝鮮が重視している国際会議であり、一〇〇カ国以上の首脳・政府代表を前にして、「米国が不可侵条約を締結するならば核兵器開発を検証可能な方法で放棄する」旨演説したのであり、軽々に言えるものではない。

(3)このように見ると、北朝鮮としては、二〇〇三年二月までは、出来ることなら核兵器を開発保有する方向でなく、交渉によって事態を打開したいと考えていたように思われる。ところが、この後、同年三月二〇日に米国を主力とする多国籍軍がイラク攻撃を開始した。その直後、北朝鮮の姿勢が変わる。

三 「核兵器開発宣言」

(1)二〇〇三年四月六日同国外務省スポークスマン談話

 ―イラク戦争は、査察を通じた武装解除に応じる事が戦争を防ぐのではなく、むしろ戦争を招くということを見せつけている。国際世論も国連憲章も、米国のイラク攻撃を防ぐ事ができなかった。これは、もしも米国と不可侵条約を締結するとしても、戦争を防ぐ事ができないという事を物語っている。

ただ物理的抑止力、いかなる先端武器による攻撃も圧倒的に撃退することのできる強力な軍事的抑止力を保有してのみ、戦争を防ぎ国と民族の安全を守る事ができるという事がイラク戦争の教訓である。

 米国が「悪の枢軸」だと暴言を吐いた三カ国中、すでに一国が無残な軍事攻撃にさらされている姿を目にしながら、われわれが武装解除要求に応じるだろうと考えるのならそれ以上の大きな誤算はないだろう。―

(2)これ即ち、不可侵条約を結んでも、これと同時に核兵器を捨て去ってしまうと、米国によってイラクのように戦争を仕掛けられ金正日体制が崩壊してしまう、現体制を守るには米国からの攻撃を防ぐ抑止力として核兵器を保有することが不可欠である、と言いたいとしか受け取れない。違法なイラク戦争の現実を踏まえてのものだけに「説得力」がある。

(3)この「核兵器開発宣言」のわずか六日後である同月一二日、同国外務省スポークスマンが、「米国が核問題解決のために対朝鮮政策を大胆に転換する用意があるなら、我々は対話の形式にはさしてこだわらない」とする談話を発表した。それまで、あくまで米朝直接対話を主張してきた北朝鮮が米国や日本が主張する多国間協議にも応ずる可能性を示したもので、それまでの拒否姿勢を変えて対話の方向に入るという明らかな政策転換であった。事実、この後急速に多国間対話の道が引かれ、四ヶ月後の同年八月には第一回六カ国協議が開催された。「対話宣言」とでも言えよう。

(4)この一週間も隔たっていない「核兵器開発宣言」と「対話宣言」との関係をどう見るか。どちらも嘘でないとすると、北朝鮮は、核兵器を開発(製造・保有)しながら、多国間対話を進めるとの路線を採ったことになる、と見るのが自然であり、その二年近く後の二〇〇五年二月における北朝鮮の核兵器保有公式宣言など、その後の事態を見てもそれが事実であろう。

 これは、イラク戦争開戦の事態に直面した北朝鮮が、米国から攻撃されないためには核兵器を保有することが必要だが、現在は保有できていないので開発保有できるまで対話で時間稼ぎをすることを選択したということか(だとすると、二〇〇八年一二月まで続いたその後六カ国協議は、時間稼ぎの場であり、二〇〇九年四月になって北朝鮮が六カ国協議離脱宣言をしたのは、その時間稼ぎの必要がなくなった=核兵器が本当に完成したということか)。

 あるいは、そこまでを意図したわけではなく、圧倒的な物量によるすさまじいイラク攻撃を目の当たりにした北朝鮮が、対話に応じて「武装解除」するとイラクのように攻撃される、かといって対話に入らずにこのまま突っ張っていても米国から攻撃される、そのどちらも避けようとする道を採っただけともとれる(だとすると、その後の六者協議継続と核兵器開発のプロセスは、北朝鮮が生き抜くためのギリギリの剣が峰のように苦しい道だったということになるか)。

四 北朝鮮をそこまで追い込んだ米国

(1)いずれにしても明確なことは、米国の違法なイラク戦争開戦の前後で北朝鮮の態度が、核兵器開発をせずに不可侵条約を締結して対話で解決するとの姿勢から、対話しつつも核兵器開発をするとの姿勢に大きく変わったということである。この不可侵条約とは、相互に相手国に対して武力行使をしないことを約束する条約のことであり、北朝鮮にとっては、二〇〇五年九月一九日の六カ国共同声明において、「米国は、(中略)、北朝鮮に対して核兵器または通常兵器による攻撃または侵略を行う意図を有しないことを確認した」と記載されていることそのものが六カ国協議最終段階の協定(条約)に含まれれば十分である。従って、前段における「核兵器開発をせずに不可侵条約を締結して対話で解決する」との北朝鮮の方針は、十分実現可能なものであった。

(2)この方針を転換して、核兵器開発の方向に北朝鮮を追いやったのが、まさに、イラク戦争であった。米国がイラク開戦に踏み込むならば、「悪の枢軸国」北朝鮮をそこまで追い込む可能性があることは、米国にとっても十分見通しうることであったと言えよう。となると、米国には、北朝鮮をそこまで追い込んだ重い責任がある。

第三 オバマの「核兵器のない世界」をどう見るか

第四 北朝鮮に対してどのように対応すべきか

一 北東アジア非核化に向けて

二 オバマと金正日に、ヒバクシャの声を届けよう

三 オバマは、イラク戦争の謝罪をすべきである

四 オバマは金正日と直接対話すべきである



政権交代と政治システム ……国家改造・構造改革のときを経て

東京支部  田 中   隆

一 構造改革路線への断罪

 第四五回総選挙で自民・公明両党は歴史的な敗北を喫し、民主党が三〇〇を超える議席を得て圧勝した。民主党は単独で過半数を確保したが、参議院では単独過半数を有していないため、社会民主党・国民新党との連立協議が進められている。民主党を中心とした政権への政権交代が行われることは「既定の事実」である。

 劇的な政権交代を生んだ「八・三〇の審判」は、自公連立政権の構造改革路線に対する国民的な断罪の意味をもっていた。小泉政権のもとで加速された新自由主義路線は、経済格差・地域格差・教育格差などを拡大し、世界規模の経済恐慌とあいまって社会的弱者の生活を根底から破壊するまでになった。市場競争万能の構造改革への憤りこそが、政権交代を実現した最大の原動力であった。

 民主党の「マニフェスト」の冒頭には、「暮らしのための政治を」のスローガンが掲げられ、「子ども手当」「公立高校無償化」「年金制度改革」「医療・介護再生」「農業の個別所得補償」などが列挙されている。新自由主義を「本籍」としたはずの民主党に社会民主主義政党と見まがうばかりの政策を掲げさせたものこそ、構造改革に対する国民的批判であり、それぞれの分野での反対運動であった。

二 政治改革から政権交代へ

 民主党が獲得した議席は、小選挙区二二一議席(七三・六七%)、比例代表八七議席(四八・三三%)の計三〇八議席(六四・一七%)であるが、得票率は小選挙区四七・四三%、比例代表四二・四一%であった。全国の小選挙区が「民主党一色」に塗り替えられたかに見える今回の総選挙で民主党が獲得した得票は五〇%に達しておらず、「小泉旋風」のもとで惨敗を喫した第四四回総選挙(〇五年九月一一日「郵政選挙」)の得票率(小選挙区三六・四四%=五二議席、比例代表三一・〇二%=六一議席)に約一一%上乗せしたにすぎない。

 にもかかわらず、民主党に地すべり的な勝利をもたらしたのは、衆議院選挙が、膨大な死票を生む小選挙区制を中心とした選挙制度のもとで行われたからにほかならない。

 第八次選挙制度審議会が発足して小選挙区制導入を中心とする政治改革策動が本格化したのは二〇年前の一九八九年六月、五年にわたる攻防を経て小選挙区比例代表並立制が「深夜の密室クーデター」によって蘇生され強行されたのは一五年前の一九九四年一月のことだった。この五年間の政治の展開と自由法曹団の活動は、「自由法曹団物語 世紀をこえて」(下)にスケッチされている(「国家改造との激突」)。

 この政治改革策動こそが、この国のつくりかえ=国家改造のはじまりであり、行政、財政、税制、地方自治、雇用、社会保障、教育、司法、治安など、あらゆる分野で強行され続けた構造改革の序曲であった。あれから二〇年、構造改革によるくらしと社会の破壊が極限に達するなか、小選挙区制による地すべり的な政権交代が実現したことになる。小選挙区制を叫び、そのもとで構造改革を強行した自民党にとっては、「歴史の皮肉」とでも言うべき結果だろう。

三 政治改革と構造改革の一五年

 小選挙区制を推奨した福岡政行駒澤大学助教授(現在は白鴎大学教授)は、あのころこう語っていた。「社会党は当分一カ二分の一政党制を堅持して一〇〜二〇年に一度、自民党のポカで政権を獲得する可能性も高い」(福岡政行研究室「小選挙区比例代表Q&A」)。この「予測」は、社会党ならぬ民主党によって、一五年後に実現したことになる。政治改革を推進した面々にとっては、「感慨もあらた」というところだろう。

 政治改革を賛美する声も聞かれるので、はっきりさせておきたい。

 小選挙区制だから政権交代が実現でき、構造改革に歯止めがかかったわけでは決してない。

 「郵政選挙」(第四四回)で圧勝し衆議院での特別多数決を可能にした自民党(二九六議席)の得票率は三八・一八%(比例代表)にすぎず、公明党の一三・二五%(同)を加えた与党の得票でかろうじて過半数だった。第四三回総選挙(〇三年一一月九日)では自民党三四・九六%、公明党一四・七八%、第四二回総選挙(〇〇年六月二五日)では自民党二八・三一%、公明党一二・九七%(いずれも比例)と、与党の得票はいずれも五〇%に達していない。一〇年におよんだ自公連立政権は、小選挙区制による「虚構の多数」によって支えられてきたことになる。

 その「虚構の多数」のもとで、「テロ」特措法(〇一年)やイラク特措法、有事法制(〇三年)が強行されて外征国家への道を歩み、労働者派遣法「改正」(製造業派遣等の解禁 〇三年)、年金改革法(〇四年)、郵政改革法(〇五年)、高齢者医療法(後期高齢者医療制度 〇六年)など、構造改革立法も続々と強行されていった。

 歴史にIFがないことを承知で、それでもあえて言っておきたい。

 国民諸階層の要求をそれなりに反映し、地方・地域の声を受け止めざるを得ない中選挙区制のもとでなら、構造改革はあれほどの犠牲をもたらす前に、もっと早い政権交代か政策転換で阻止されていたに違いない。その危険があるからこそ、市場競争を万能として弱者に犠牲を転嫁する「痛みを伴う改革」を強行するために、民意を集約して「虚構の多数」を生み出す政治改革が断行されたのである。

 その構造改革の矛盾が無残に露呈した結果、確かに「一〇〜二〇年に一度」の政権交代は実現した。だが、その実現を見るまでに、どれだけの民衆が塗炭の苦しみのもとにおかれ、明日への不安にさいなまれてきたことか。「自民党のポカ」の犠牲者は、議席を失った議員ではなく、生活を破壊され将来を奪われた民衆なのである。

 構造改革を断罪した総選挙の意味は限りなくおおきい。だが、そのことから政治改革や小選挙区制の本質が見誤られることがあってはならないのである。

四 政治システム再改変との対抗

 民主党のマニフェストには、「ムダづかい根絶」を理由に衆議院比例代表議席の八〇削減が掲げられている。優勢と見られていた民主党は「比例削減」を掲げることで、多様な民意を反映する比例代表議席や少数政党の議席を「ムダ」と断じたことになる。その民主党の圧勝によって、比例定数八〇削減を軸とする政治システムの再改変が浮上する危険がおおきい。

 小選挙区制の導入で「虚構の多数」が生み出されるもとで、比例代表一八〇議席は、かろうじて多様な民意を反映するものとなっていた。この総選挙の議席は、民主八七に対し、自民五五、公明二一、共産九、社民四、大地一であった。

 もしこの総選挙で比例代表が一〇〇議席だったらどうなったか。ブロックごとのドント方式で試算すると、民主五三、自民三〇、公明一〇、共産四、社民〇、大地〇となる。比例代表で四二・四一%の得票率の民主党は五三%の議席を獲得し、四・二七%の得票率の社民党は議席を喪失することになる。

 四・二七%の社民党の得票率とは、四〇〇議席を比例配分すれば一七議席、比例一〇〇議席を配分しても四議席を配分されるはずの得票率であり、そうした民意は制度的に消し去られることになる。

 それだけではない。比例代表議席の削減は、敗北した政党の現職議員が復活当選する道を著しく狭くする。その結果、野党に転落した政党は有力現職議員の議席を喪失して国会内での対抗力を減殺され、政権党は磐石の地位を確保できることになるだろう。だが、国民の前での論戦を通じて政治の方向を決めるべき議会制民主主義において、野党の対抗力や論戦力を人為的に削ぎ取ることは、制度そのものの衰退・死滅をもたらすことになるだろう。

 いま求められているのは構造改革の矛盾を深刻化させた小選挙区制に検証と見直しを加えることであって、民意を反映するシステムを圧縮することではない。

 比例代表削減による政治システムの再改変は、断じて許されてはならない。

(二〇〇九年 九月六日脱稿)



―滋賀支部だより―

潤いの八月集会

滋賀支部(事務局)  渡 邊 静 子

 ここ三年滋賀支部では、八月に五月集会の滋賀版なるものを弁護士・事務局で開催しています。今年も八月一九日に弁護士一六名、事務局一八名、合計三四名の参加で成功しました。各弁護士の事件報告や規制緩和問題(内橋克人氏の著書)の学習と討論、イラク訴訟弁護団事務局の弁護士川口創先生の、イラクのビデオの上映と『自衛隊のイラク派兵違憲判決をどう活かすのか』の講演を行い、講師の川口先生を囲んでの懇親会も大いに盛り上がりました。

 とりわけ、講演会での川口弁護士のお話は、昨年の五月集会の違憲判決直後のホットな報告を聞いていた者として、楽しみにしていました。当日の講演は、リアルな事実の積み重ねから裁判官の心を動かし、書かれた判決をどう活かすかの問いかけであり、表面的に裁判の勝敗にこだわるスケールではそもそもない、計り知れないメッセージが含まれていることに気づかされました。憲法運動に携わる私たち自身、「憲法を暮らしの中に」「九条を護ろう」などのロゴマーク入りの包装紙さえ手に入れていれば安心し、改憲論議が高まれば、九条の取扱説明書ばかり読み過ぎて、道具としての憲法をどのように活用するかについて行動してこなかったのではと突き詰められた思いでした。現実から出発することは、裁判官だけに求めるのでは平和へのスタートラインにはならないのです。イラク戦争に加担し、今もそのことで人々を苦しめるに至っている加害者とは、自衛隊や政府が悪いと一言でかたづけてきた自分たちの運動の中にいる事を教えられました。

 八月集会は、事務局にとっては、毎日の仕事ばかりでなく、身近な弁護士の活動や新しい知識を得る、法律事務所間の事務局の交流と共に潤いをあたえてくれる企画となっています。

 今回の集会の感想の一部をご紹介します。(大半事務局からのものです)。

◎事件報告、今後の訴訟予定事件

・障害者自立支援について興味があったので、お話が聞けてよかったです。

・障害者自立支援訴訟、認められてほしいと思いました。

・日野町事件についてはやはり何度聞いても裁判官の判断はおかしいと思います。早く無罪が認められてほしいです。

・日野町事件につき、大変関心を持ちました。

・ブルーギル訴訟、殺人ゲーム訴訟の構成が興味深いです。

・吉原先生の話が面白かった。

・メリハリのある報告で面白かった。

・初めて聞く内容もあり、他の先生方の活躍がわかりよかったです。

◎規制緩和問題

・一番印象に残ったのが、「官から民へ」「働き方の多様化」が「民」とは民間巨大資本の民、「働き方の多様化」は働かせ方の多様化だと聞いて、本当にその通りだと思いました。

・規制緩和について深く考えたことがありませんでした。ただばくぜんと民営化になれば、サービスがよくなるし、としか考えていなかった私にとって、今回のお話はいろいろと勉強になりました。

・「規制緩和」と一言で言っても、非常に奥深い問題なんだと感じました。規制緩和イコールよいと思っていたけれど、それは大きな間違いということがわかりました。

◎川口団員の記念講演

・戦争の残酷さを改めて思った。アメリカが占領する前はイラクが分裂していなかったことを知り、ショックだった。日々のメディアで目にすることにない映像を目にすることにより、改めて考えさせられる。民主主義である以上、一人一人がもっと自覚と責任をもって行動するようにしないといけないと感じました。

・ビデオは正直目をそむけたくなるような映像も多々ありましたが、実際に起こっていることであり、絶対に逃げられない事実なんだと思いました。憲法九条を読んでみようと思いました。

・川口先生のご講演本当に良かったです。川口先生の、私達がイラクへ日本の自衛隊を送っていると聞いて自分が関係ないと思っていた事にすごく恥かしくなりました。

・自分自身戦争のことなどについても知らないことがたくさんあり、わからないことも自分で自覚できたので、自分を振り返るよい機会になりました。戦争の悲惨さを改めて感じた時でした。

・とにかく大勢の人に先生の講演を聞いてほしいと思いました。

 今回の八月集会は、川口講演の感想にあるように、「考えて行動していく事務局へ」のきっかけとなったと思います。

 集会のチラシにかかれた「ダンタマとは自由法曹団のあらゆる悪法とたたかい、人民の権利が侵害される場合には、その信条、政派の如何にかかわらず、広く人民と団結して闘う団の魂のことである」を忘れずに、来年も楽しい企画に向けてみんなで協力したいと思います。

 全国のみなさん、パワーアップの滋賀支部八月集会の成果は、いずれ五月集会で爆発することと思いますのでお楽しみに。



民法改正問題に関心と意見を寄せてください。

事務局次長  菅 野 園 子

 労働問題、憲法問題、司法問題の狭間にあって、民法もまた債権法の抜本改正という大変な局面を迎えつつある。早ければ本年秋頃にも法務省法制審議会で民法債権法の改正について検討を開始することが進められているのだ。この動きに先立ち、内田貴前東大教授を中心とする有志の民事法学者によって組織される「民法改正検討委員会」(ここには、弁護士など実務家は含まれていない)が本年三月末に債権法改正の基本方針(別冊NBL/No一二六参照)を発表した。民法改正検討委員会は私的な集まりであるが、内田貴教授自身法務省参与を務めるほか、法務省民事局関係者が委員会に毎回参加するなど、この民法改正検討委員会の基本方針は、改正案の策定にあたって重要な影響を及ぼすことは想像に難くない。債権法改正に対して民事法学者は、遅くとも数年前から内容を練り上げの範囲も債権法のほぼ全てを大幅に改変するいわば心血を注いでいるのに対して、私たち弁護士の問題意識と危機感は比較的薄いのではないか。改正によって、気がついたら、立証上煩雑になったり、解釈に融通がきかなくなり権利救済の道が狭められることになってしまった、内容が大幅に改正され予測がつかないなどの不都合が生じないように、団員の方々に民法改正に対して積極的な関心と意見を寄せていただきたく投稿した。

 市民問題委員会では、本年度より、民法改正問題について着手し始め、七月末の委員会では、六月一三日日弁連で民法(債権法)シンポジウムで消費者保護の観点からパネリストをつとめられた池本誠司弁護士から話をお聞きし、民法改正についての基本的な考え方や視点について大変貴重なご講義をいただいた。基本方針について個々の改正点を上げるときりがないので、以下に述べることは、池本誠司先生から教えていただきなるほどと感じたこと、私が勉強する中で感じたことを羅列したものである。もとより、理解不足等があればご容赦願いたい。

 第一に、民法債権法を改正しなければならない切実な理由というのが伝わってこない。抜本的な改正の必要に直面しているその理由として、経済・社会情勢の大きな変化と市場のグローバルによる前提条件の質的変化とこの間膨大に蓄積された判例法理の条文化による透明性の向上等が挙げられている。改正試案の基本理念は、(1)社会の実状にあった民法(2)わかりやすい・透明性の高い民法(3)国際的な動向と調和した民法というが、反対する余地がないほど抽象的であり、却って実務的な効果として何をねらっている抜本的な法改正なのか非常にわかりにくい点が問題であり、改正の必要性がどこまであるのかと感じた。 

 第二に、民法は一般市民も含め市民社会を規律する法律であり、一方で取引社会も規律する法律であるが、どちらの便宜を優先すべきなのかという点についてもっと議論が必要ではないか。

 例えば金銭債権の債権譲渡の対抗要件を自然人も含めてすべて登記一元化するという提案がされている。確定日付ある譲渡人の債務者に対する通知または債務者の承諾という現行の対第三者対抗要件にも不備があるものの、不動産とことなり無限に存在しうる債権についての個人間の譲渡まで対抗要件としていちいち登記し公示する必要性があるのか。債権譲渡特例法は債権流動化のための多数の債権譲渡を行う場合に生じる事務手続き上の負担を軽減するために立法化されたが、個人間の債権譲渡にそこまでの負担を課すべきなのか。登記一元化による公示の簡明性によるメリットと市民に課す負担や公示の必要性(どのレベルまで公示すべきか)という点で容易に判断しかね、その根底には民法典の位置づけをどうするかの議論も改めて行わなければならない。

 第三に、消費者契約法の視点を民法にどこまで取り込むのが適切なのかについては、議論を重ねなければならない。基本方針には、消費者契約法で定められている様々な規定と類似したものが存在している。たとえば、消費者契約法四条四項で定められる不実表示取消が消費者契約の限定を外して一般法化されている(消費者契約法四条四項による重要事項による限定もなし)。かかる場合には事業者消費者を問わず意思表示の表意者を保護すべきという価値判断から要件や適用対象が広がり、零細事業者を狙った詐欺的商法も救済可能な範囲になる。

 基本方針の改正案においては、消費者、事業者のそれぞれの定義がおかれ、消費者と事業者間の消費者契約のみに適用される特則もおかれている。例えば断定的判断の提供に基づく誤認による意思表示の取消権(基本方針は消費者契約法第四条一項二号をやや抽象化)等が消費者契約の特則として定められている。消費者契約法には第一条の目的規定で「消費者と事業者との情報の質及び量並びに交渉力の格差」がうたわれ、それを踏まえて個別規定を柔軟に解釈運用すべきとされている。一方、基本方針の改正案では、目的規定が欠落しており、目的規定であるところの「消費者と事業者との情報の質及び量並びに交渉力の格差」に着目した柔軟な解釈ができないのではないか。(例えば、内職・副業等の独立自営を誘因文句として商品購入等の契約を締結する場合に、事業者と消費者の上記の格差は存在するにもかかわらず、形式的な定義によると、共に事業者であるために消費者契約の特則が利用できなくなる)。

 また、民法の中に消費者契約の特則を置いた場合、消費者契約法の規定との関係をどう考えるのか、削除するのか、それとも残すのか、消費者被害の実態に応じて迅速に改正すべき要請の強い消費者関連法を法的安定性が重視される民法の中に位置づけることで法改正の作業が遅くなってしまうのではないかと言うことも懸念される。消費者契約法の規定を民法に取り込むといっても玉石混淆の状況であり、メリットとデメリットをよく見極めなければならない。

 第四に、裁判上の立証の変化や救済の困難という問題が生じてくるのではないか。例えば、基本方針の改正案においては債権時効の制度において、(1)債権者が債権発生の原因及び債務者を知ったとき(主観的起算点)から三年/四年/五年(2)債権を行使できるとき(客観的起算点)から一〇年、(1)(2)のいずれかの早い時点とするという二段階の時効期間が設けられた。生命・身体・名誉その他の人格的利益に対する侵害による損害賠償債権については、(1)主観的起算点による時効期間は五年か一〇年、(2)客観的起算点による時効期間は三〇年とする。債権行使の現実的可能性を得たのに債権を放置することは、具体的な帰責事由に該当するとして債権時効期間を短縮する方向に働くとしたが、そもそも、債権者が債権発生の原因及び債務者を知ったことが債権時効期間を短縮するほどの帰責性か疑問が残る。債務者及び債権の発生を知ってのち紆余曲折を経て法的手続きに踏み切る依頼者を多数見てきたが、これらの者の権利行使を急がせることになるような法改正は望ましいことなのか。また、「債権者が債権発生の原因…を知ったとき」とはどの程度のことまで知ればよいのか、例えば、過払いの依頼者は利息制限法に違反する利息を支払っていることを知っている時点から時効が進行することになるのか、解釈によっては権利救済の道は大きく狭められないか懸念する。

 以上取り上げただけでも民法典が改正されればその影響は極めて大きく、改正にあたって実務家の立場からの建設的な批判が期待されている。法的安定性の拙速な改正は断じてするべきではない。

 日々「事件」と向き合っている団員各位には、対岸の火事とするのではなく団市民問題委員会まで是非積極的なご意見をいただきたい。



「徹底した実証主義的無罪の発掘」

滋賀支部  吉 原   稔

 高見澤昭治著「無実の死刑囚 三鷹事件 竹内景助」を薦める。

 この本を著した高見澤昭治弁護士は、三鷹市に事務所を構える「貧乏弁護士」と自称しているが、修習生時代に私の事務所にひょっこりと訪ねてきて、「この事務所で仕事をしたい」と宣言し、三年間ほどいたが、その後、京都、東京と居を移した。当時から、一つの事件にドップリつかる徹底した「オタク」傾向があり、「びわこの鮎は外へ出れば大きくなる」の例え通り、たちまち頭角を顕し、豊田商事事件、ハンセン病国賠、名張毒ぶどう酒事件等の大事件に取り組んだ。その成果が今回の著書に結実した。

 一読しての印象は、もし同氏が竹内景助の弁護人をしていたら、同被告人は無罪になっていたということだ。それほど、同氏が二mにもなる刑事記録と関連著書、新聞記事、竹内景助の手紙等を読破して分析した末の無罪論には、説得力がある。全編推理小説を読むようなスリリングと迫力に溢れている。

 「弁護人過誤論」の根源は、団の先輩である弁護士(布施辰治弁護団長)に対する厳しい批判によって展開される。過誤の原因は、複数犯か単独犯かで終始した事件を、利害相反を理由に独立した弁護人が担当しなかったことにあると思われる。

 三鷹事件で、大政翼賛会時代と変わらないマスコミが「全員有罪」をあおったのは、今日と基本的には変わらない。著者も裁判員制度でこの事件が裁かれたときにどうなるという危惧を表明している。そもそも、短期、省エネ裁判を目的とする裁判員制度で、この事件を裁けるのかという懸念である。

 三鷹の地元で、記念碑設置運動の集会に参加したことを機に、この事件に取り組んで、竹内景助無罪論を世の光に当てたそのエネルギーには、感嘆するばかりである。是非、一読されたい。

高見澤昭治著「無実の死刑囚 三鷹事件 竹内景助」

日本評論社  二〇〇九・七・一五発行

東京都豊島区南大塚三―一二―四

TEL 〇三―三九八七―八六二一(販売)



日弁連シンポV 「東北アジアの安全と平和を探求する」のご案内

埼玉支部  大 久 保 賢 一

 日弁連は、この間、「憲法改正でどうなる?人権と平和!」という問題意識で、連続して憲法シンポジュウムを企画してきました。そのパートVとして、「東北アジアの安全と平和を探求する」、サブタイトル「朝鮮半島の非核化を求めて」を開催します。

 「北朝鮮」の核実験再開、ミサイル発射などが多くの国民の不安材料になっています。他方、「北の脅威」を理由として、「集団的自衛権」、「ミサイル防衛」、「敵基地攻撃論」が喧伝され、改憲の理由とされています。核拡散を止め、核軍縮から核廃絶へと世界が動いている中、「北朝鮮」の動向を座視することはできません。けれども、それを理由としての改憲も阻止しなければなりません。改憲を阻止し、朝鮮半島を含む東北アジアの非核地帯の実現、軍事力頼らない東北アジアの平和と安定の構築が求められているのです。

 そのためには、事実をよく知ったうえで、冷静な政治的意思の形成と法的枠組みの確立が求められています。このシンポでは、菱木一美・広島修道大学名誉教授の基調講演と、同氏も含め井上正信弁護士、徳永信一弁護士のパネルディスカッションが行われます。菱木さんは、元々ジャーナリストから研究者になられた方で、護憲の立場を表明しておられます。両弁護士は、立場は異なりますが、鋭い問題意識を持ち具体的な発言を展開されている方たちです。

 司会は、福山洋子弁護士です。

日 時  一〇月六日(火)午後六時から八時三〇分

場 所  日弁連クレオBC

団員の皆さん、ぜひご参加下さい。



「非正規黒書」(仮称)づくりへの協力をお願いします!

大量解雇阻止対策本部

 昨年秋からはじまった、製造業を中心とした大企業による非正規労働者の大量解雇は、いまや小売業などにも広がり、今年七月の失業率は五・七%と過去最悪を記録しています。先日の第二回大量解雇阻止対策本部第二回全国会議では、全国各地でたたかわれている非正規労働者の大量解雇とのたたかいが生き生きと報告されました。これら非正規労働者の裁判闘争を勝ち抜くためにも、また、労働者派遣法の抜本改正等を勝ち取るためにも、非正規労働者の劣悪な労働と生活の実態を明らかにする「非正規黒書」(仮称)を完成させ、広く世論に訴えていきたいと考えています。

 大量解雇阻止対策本部では、一〇月総会(一〇月二四日〜二六日)完成を目指して、「非正規黒書」をつくろうと思いますので、団員の皆様の協力をお願いします。つきましては、次の原稿の作成をお願いできないでしょうか。

一 原稿の要領

(1)書式・字数

A4サイズ二枚から四枚まで。

ただし、文字は一一ポイント。一ページあたり四〇字×四〇行(タイトル、見出し込み)でお願いします。

(2)原稿の内容

 提訴団等の一名ないし複数名について、下記(1)〜(10)の状況について、黒書原稿をお願いします。

(1)たたかいの概要(原告数、提訴日、係属裁判所など)

(2)会社の業務内容、会社の中での非正規労働者の占める位置、当該労働者の具体的な業務内容(特に正規労働者との異同を意識して)

(3)月収、年収等 

(4)年齢・性別・出身都道府県・家族関係・住居・仕送りなどの状況

(5)派遣労働者、期間労働者になった経緯

(6)期間労働者の場合−有期契約の内容、更新回数(更新の具体的な手続き)等

(7)派遣労働者の場合−派遣会社との契約内容、有期契約の内容、更新回数(更新の具体的な手続き)等

(8)偽装請負、脱法的クーリングオフ、期間制限違反など法律違反があれば具体的に

(9)解雇・雇止めされて以降の生活状況

(10)労働組合への加入の有無、派遣先が団体交渉に応じているか 

(3)原稿の編集

 原稿の作成名義は「弁護団」でお願いします。

編集にあたっては、表現や分量等について調整をお願いすることがありますので、あらかじめご了承ください。

二 スケジュール等

(1)たいへん恐縮ですが九月三〇日までに(可能な方は九月二四日までに)団本部宛てに、第一稿をお送りいただけないでしょうか。

・メールをご利用される方

     送信先は「usui@jlaf.jp」 です。

・ファクスをご利用される方

     送信先は、〇三―三八一四―二六二三です。

(2)第三回大量解雇阻止全国対策会議(一〇月三日午後一〜五時、団本部会議室)で、「非正規黒書」の問題も議論しますので、多数ご参加下さい。



「第三回大量解雇阻止全国対策会議(一〇・三全国会議)」ご参加のお願い

大量解雇阻止対策本部

●「一〇・三全国会議」に参加しよう!

 この間の派遣切り・非正規切りに対して、派遣先に直接雇用を求める訴訟が全国で相次いでいます。七月二四日に開催した第二回全国会議では五〇名以上の団員が集い、各地での労働局申告運動の成果や訴訟の現状と課題について活発な交流・討論を行ないました。今度の一〇・三全国会議では、この間の到達点を踏まえて、より深く広く、交流・討議していきます。なお、ご参加にあたり、担当・相談事件のご報告をA4サイズ一枚程度でまとめて頂きますようお願いします。

★一〇・三「第三回大量解雇阻止全国対策会議」の内容

 一 日 時 二〇〇九年一〇月三日(土)一三時〜一七時

 二 場 所 団本部会議室              

 三 内 容 (1)労働局申告と裁判闘争の現状、     

         (2)派遣先への直接雇用を勝ち取る理論と立証活動、

         (3)「日立メディコ事件最高裁雇い止め法理」の克服、

         (4)総選挙後の国会情勢と派遣法抜本改正、 

         (5)「非正規黒書」の作成

●「非正規黒書」(仮称)作成へご協力を!

 大量解雇阻止対策本部では、全国の訴訟団(弁護団)を中心に「非正規黒書」(仮称)づくりのための原稿を要請しています。非正規労働者の劣悪な労働と生活の実態を明らかにする「非正規黒書」づくりにぜひご協力ください。

●労働者派遣法の抜本改正にむけて

 総選挙の結果を受けて労働者派遣法の改正の機運が高まってきました。労働者派遣法の改正が小手先のものにとどまるのか、真の労働者のための抜本改正となるのかは、今後の「非正規黒書」などを活用した国民的な運動にかかっています。今後の運動のもち方についても一〇・三全国会議で討議しましょう。