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松井 繁明 最高裁の法廷で発言
福山 和人 実り多かった一一・二一「小選挙区制と衆院比例代表定数削減を考えるシンポジウム」
伊志嶺 公一 第三回自由法曹団沖縄支部
民弁米軍問題研究委員会平和交流会の感想
吉田 竜一 日本トムソン正社員化訴訟
神戸地裁姫路支部が仮処分で不当決定
中島  晃 NHKドラマ「坂の上の雲」の放映始まる
―全国ネットワーク発足
牧戸 美佳 二〇〇九年自由法曹団女性部総会に参加して
千葉 一美
岸  松江
千葉 恵子
女性部新年学習交流会兼新人歓迎会へのお誘い
鷲見 賢一郎 米軍普天間基地・辺野古調査と二〇一〇年一月拡大常任幹事会のご案内・その二



最高裁の法廷で発言

東京支部  松 井 繁 明

 一一月三〇日最高裁第二小法廷は、葛飾ビラ事件の上告を棄却し、僧侶荒川庸生さんの有罪が確定した。この判決の評価は同日付の弁護団声明などを見てもらうとして、ここでは、判決言渡前に約三分間の発言をしたことを報告したい。

 事前の弁護団会議で判決言渡前に弁護団としての発言をおこなうことが決定され、その任が弁護団長の私にあたえられた。しかしそのような発言を最高裁が許すはずもなく、発言禁止、退廷(ばあいによっては拘束も?)が命じられるものと予測された。そのため私はとくに原稿も用意せず、その場の状況しだいで可能な限り発言するつもりだった。

 発言のチャンスは、事件の呼上げが終わって裁判長が判決の言渡を開始するまでの、わずかな時間しかない。ところが、写真撮影が終了したのに事件の呼上げがなく、裁判長は机に置いた書類をめくりはじめ、なにか発言しそうな態度である。あわてた私は立ち上がって「裁判長!」と呼びかけた。すると今井功裁判長は私を制し「まだ事件の呼上げがないので、それが終わったら発言を許します」と言うではないか。私は発言が許可されたことに驚きながら「わかりました」と言って着席した。

 すると「カメラマンの退廷が終わりました」という廷吏の声が聞こえ、事件の呼上げがおこなわれた。じつは、前を向いていた私には見えなかったのだが、撮影時間の終了後、カメラを片づけて退廷するまで一定の時間を要し、それまで事件の呼上げが見送られていたのだった。

 裁判長があらためて発言を許可したので、私は以下のとおり発言した。これは、在廷した三上英次記者(現代報道フォーラム)の記事(「日本インターネット新聞」http://www.news.janjan.jp/living/0912/0911303893/1.php)を、私の記憶で補正したものである。

 裁判長および裁判官のみなさん。

 今回の事件について国民は高い関心を持ち、同時に素朴な疑問を抱いています。その第一は、憲法二一条が表現の自由を保障している。その趣旨は、表現の内容だけではなく、適正な手段をも保障しているはずです。それなのになぜ、本件のような平穏な手段による表現行為が住居侵入罪として処罰されるのか、ということです。

 第二の疑問は、本件はあからさまな特定政党への弾圧ではないか、ということです。本件発生以来約五年が経過していますが、その間私自身、寿司やピザの業者がビラ配布で捕まったということを聞いていないし、ポスティング業者が廃業に追い込まれたとも聞いていません。本件のような、これほど明白な共産党への弾圧を、最高裁判所が司法の名において容認するのか、ということです。

 本件はまた、国際的にも注目されています。現政権はすでに、自由人権規約の選択議定書を批准して個人通報制度を導入する作業に着手しています。したがって本日の判決は、今後必ずや、国際的人権水準の視点から検討され、評価されることになるでしょう。

 どうか、おおくの国民の素朴な疑問に正面から答え、普遍的な国際人権水準にてらしても誰もが納得できる判決を求めて、私の陳述を終わります。

 ―以上の弁護側の発言に対比して、約一分半の判決要旨の朗読は、憲法論では形式論に終始し、弾圧性や国際人権水準には一言の言及もないものであった。

 判決前の弁護側の発言を容認させた、おそらく最初の例として報告するものである。



実り多かった一一・二一「小選挙区制と衆院比例代表定数削減を考えるシンポジウム」

京都支部  福 山 和 人

はじめに

 一一月二一日、団本部で「小選挙区制と衆院比例代表定数削減を考えるシンポジウム」が開催されました。民主党は、先の総選挙におけるマニフェストにおいて、衆院比例代表の議席を現行の一八〇議席から八〇議席減らして一〇〇議席とすることを掲げました。三党連立政権の政策合意にはこれは盛り込まれなかったものの、自民党もマニフェストで次回総選挙から衆院議員定数の一割以上削減、一〇年後には衆参議員定数の三割以上削減を公約しており、これが動き出したら一気に強行突破される危険があります。団は、こうした情勢を受けて、先の雲仙総会において、「民意を大きくゆがめ少数政党を排除する衆議院比例定数削減に反対する決議」を挙げ、そのような企みを許さないたたかいを呼びかけました。今回のシンポジウムは、この総会決議を踏まえて、衆院比例定数削減を阻止し、民意を正確に反映する選挙制度を実現する取り組みをいち早く構築すべく、各団体にも呼びかけて開催されたものです。

 団本部の呼びかけに応えて、この日は、東京・千葉、神奈川、愛知、埼玉、大阪、京都の各支部から参加があったほか、憲法会議、全労連、全国商団連、日本共産党からの参加も得て、さらに五名の修習生も参加し、総勢三一名で活発な討議が行われました。

坂本修団員の報告

 シンポジウムでは、冒頭に、坂本修団員が報告を行い、仮に衆院比例代表の定数が八〇削減されたら、憲法九条改悪反対を掲げている共産党は九議席から四議席に、社民党は七議席から三議席に議席の大幅な減少を余儀なくされることが明らかにされました。〇九総選挙における各党の比例代表での得票率をもとに、比例定数が八〇削減された場合の議席占有率を推計すると、民主党と自民党は合計得票率六九%に対し議席占有率は九二%となる一方、その他の政党は合計得票率三一%に対し議席占有率は八%にとどまり、二大政党が虚構の多数を享受し、その他の政党は虚構の少数を余儀なくされることも明らかにされました。

 そして、これが憲法九条改悪に反対する日本共産党や社民党の排除を狙いとするものであること、九四年のときもメディアは小選挙区制万歳という状況であったが、今回も、テレビで元バレーボール日本代表のM選手が「無駄を省くためには八〇削減なんて当たり前」と発言したり、コメンテーターのS氏が「少数政党が不利になるという議論は決着済み」と述べるなど、メディアが削減に流れていること、来年の参議院選挙後、二〇一三年の総選挙までの間に動き出す危険性が高いこと、動き出したときから反対運動というのでは遅いこと等が明らかにされ、多様な語り口で真実を伝える活動を強めようという呼びかけがなされました。

鷲見幹事長報告

 続いて鷲見幹事長も報告を行い、小沢一郎民主党幹事長が、一九九三年当時、すでに著書「日本改造計画」(一九九三)で、小選挙区制では「政権交代が起きやすくなる」として、「日本の政治が抱えているほとんどの問題が小選挙区制の導入によって解決できそうだ」と述べ、単純小選挙区制を提唱していたことが紹介されるとともに、比例定数の削減は単純小選挙区への一里塚などというものではなく、もはや疑似単純小選挙区制といってよい代物であることが明らかにされました。また、中選挙区制の下でも政権交代は可能であり、「政権交代のために必要」という議論やいわゆる「無駄」論がまやかしであること、が明らかにされました。

活発に行われた討論

 これを受けた討論では、まず「並立制のもとで二大政党化が進み、『構造改革』と海外派兵が一気に進められにもかかわらず、この時期に何ゆえ比例定数を削減しようというのか、その目的をどうみればいいのか」という問題提起がなされました。

 これに対しては、九四年の選挙制度改悪によって、保守二大政党化が進められ五五年体制の一翼を担っていた社会党が事実上解体されたこと、改憲・海外派兵と「構造改革」が強行されたこと、しかしながら依然として共産党が影響力を保持しており、そうした確固たる左翼を議会から排除することが目的であるという発言がなされました。また「今、政府が行っている事業仕分けの仕分け人には、加藤英樹など構造改革を推進してきた人物が入っており、今以上に『乾いたタオルを絞る』ような『改革』を推進しようとしている。これを本気でやろうとすれば、少数とはいえ共産党が怖い。だからこそ定数削減が目論まれている」という発言もなされました。民主党は道州制の導入による都道府県議会の削減も目論んでおり、国のみならず地方からも少数政党が排除される危険性があるとの指摘もなされました。

「国民内閣制」論への批判

 討論の中では、前東京大学教授の高橋和之氏が、イギリス型議院内閣制(ウェストミンスターモデル)に倣った「国民内閣制」論を提唱していることも紹介されました。

 イギリス型議院内閣制(多数派支配型デモクラシー)は、二大政党制を基礎として、小選挙区選挙で勝利した政党のリーダーが首相となって内閣を構成し、強力なリーダーシップによって政策決定していくことが特徴ですが、そこでは国民の多数派が直接かつ明確に政策プログラム(マニフェスト)と政策実行者(首相)を選択するのが選挙の目的であって、そもそも民意の忠実な反映は選挙の目的ではないと考えられています。高橋教授も、平成一七年四月衆議院憲法調査会報告書P三九六の中で、「現代のような『積極国家』においては、施策を行うに当たり、強い政治的リーダーシップが求められることから、内閣及び内閣の実行する政策プログラムは、国民の多数の明確な支持を受けることが必要となる。そのため、国民が、選挙を通じて、『政策プログラム』とその実行主体である『首相』とを一体のものとして事実上直接に選ぶ議院内閣制の直接民主制的な運用形態である『国民内閣制』モデルが適当」と述べています。

 同教授は、多党制・比例代表制においては、国民は選挙において自己の考えに近い選択が可能となるが、最終的な政治プログラムは政党間の連立協議で決定されるため国民は自らそれを選択できないのに対し(媒介民主政)、二党制・小選挙区制においては、選挙における選択肢は限定されるが、国民は最終的な政治プログラムを選択できる(非媒介民主政)と主張し、あたかも二党制・小選挙区制が民主主義に沿うという議論を展開しています。

 しかし、国民の多数派が政治プログラムを選択するというのは幻想にすぎません。イギリスでは戦後、政権党が過半数の得票率を得たことは一度もありませんし、我が国でも郵政選挙における自民党は四七・七七%、〇九総選挙の民主も四七・四%の得票率で過半数に到達したことは一度もありません。

 またマニフェスト(公約)違反に法的制約がないこと、そもそも小選挙区制は人物重視の選挙にならざるを得ないこと、二大政党のマニフェストは近似化するのが常であり、「洋食か、和食かの選択」(山口二郎北大教授)、「中華A定食か中華B定食かの選択」(小松浩立命大教授)と指摘されるような状況からすれば、「政策プログラムの選択」というのも幻想に過ぎません。

 本家のイギリスでさえ、脱ウェストミンスターモデルの動きがあり、スコットランドやウェールズ、ロンドン等では比例を加味した混合制が採用されるに至っています。

 シンポジウムでは、民主主義を旗印にしたこうした小選挙区制擁護論に対しても、内在的な批判を展開していく必要性が語られました。

フレッシュな意見も

 シンポジウムでは、歴戦の団員に混じって、若い修習生五名が参加し、「小選挙区制だからこそ政権交代が起こったのでは?」、「派遣法改正等に向けて動き出した民主党政権になったからこそでは?」等の率直な疑問が出されました。これについては、歴戦の戦士から「社民党や共産党が存在しているからこそ、民主も派遣法改正を言わざるを得ないのであって、そういう勢力がなくなった下での二大政党制はアメリカのように無惨なものとならざるを得ない」という懇切丁寧な?反論がなされ、老若隔てのない活発な討論が行われ、とても有意義だったと思います。

 まだ、この問題における世論は十分に盛り上がっているとは言いがたい状況にありますが、このシンポの成果を踏まえて、団内外での学習・宣伝を強めていく必要があると思います。



第三回自由法曹団沖縄支部

民弁米軍問題研究委員会平和交流会の感想

沖縄支部  伊 志 嶺 公 一

一 第三回交流会の開催

 去る二〇〇九年九月二七日、那覇市内にて、韓国民主社会のための弁護士会(民弁)米軍問題研究委員会と団沖縄支部の間で、第三回目の「沖縄・韓国法律家平和交流会」が開催された。

この交流会は、二〇〇七年に第一回交流会が行われてから、毎年一度開催されており、今年で第三回の開催になる。第一回は那覇で開催され、第二回はソウルにて開催された。そして、今回第三回は再び那覇で開催された。

 この交流会は、韓国民弁の皆さんと団員とで、双方の国・地域における米軍基地問題の現状認識を共有し、互いの基地闘争の経験を運動面、法的側面の両面にわたって意見交換などを通じて交流し、米軍基地の無い韓半島と沖縄を相互に目指していこうというものである。

 今回、韓国側からは、クォン・ジョンホ前米軍問題研究委員会委員長を団長に、チャン・ギョンウク現委員長ら弁護士七名に事務局一名を加えた八名が来沖した。沖縄側からは団員をはじめ十数名が参加した。

二 交流会での報告と討論

 九月二七日の交流会では、韓国側からシム・ジェファン弁護士から、近時の朝鮮半島情勢について報告がなされた。また、チャン・ギョンウク弁護士からは、平和的生存権事件(二〇〇七年三月、韓米連合軍事訓練の一種である「二〇〇七年戦時増員演習」を行うことに対する決定を下した大統領に対して、請求人らは二〇〇七年三月二二日、憲法上保障されている基本権として「平和的生存権」を主張し、本決定が朝鮮半島の戦争勃発の危険を高め、請求人らの平和的生存権を侵害したとの理由により、本決定に対する違憲審査を請求した事件)の却下決定についての詳細な報告がなされた。また、チョ・ヨンソン弁護士からは、今なお韓国民の平穏な生活を脅かしている国家保安法についての報告がなされた。さらに、イ・ハンボン弁護士からは、ろうそくデモ裁判の報告がなされた(ろうそくデモとは、韓国が決定した米国産牛肉の輸入再開に対する反対運動に端を発する一連のデモである。住民らがろうそくに火を点して集まったことからろうそくデモと呼ばれる。ろうそくデモは、二〇〇八年五月二日から八月一五日までの間に、二三九八回開かれ、延べ九三〇、〇〇〇人が参加し、一、四七六人が立件され、このうち四三人は身体拘束、一六五人は不拘束、一、〇五〇人は略式起訴されたとソウル中央地方検察庁により発表されている)。

 沖縄側からは、「日米の民主党政権下における在沖米軍基地の展望」と題して、松崎暁史弁護士から、民主党政権下での米軍再編の再検討問題や普天間基地移設先とされている辺野古問題などの展望について報告がなされた。また、城間博弁護士からは、那覇地方裁判所で継続中の辺野古アセスメント違法確認訴訟について法律上の問題点などの詳細な報告がなされた。さらに、山城圭弁護士からは、高江ヘリパッド建設工事に反対し監視活動を続ける住民に対して国が通行妨害禁止の仮処分を申し立てたという高江仮処分事件について、この仮処分は行政が司法手続きを利用した不当な住民弾圧事件であるとの詳細な報告がなされた(なお、高江仮処分事件は、二〇〇九年一二月一一日に、決定が下された。国が仮処分を申し立てた一四名の内の二名について通行禁止妨害排除命令を下してしまっている)。

 このように、双方から、多方面の活動報告がなされ、多角的な視点から平和問題についての有益な情報を交換し合いつつ、発展的な議論がなされた。平和交流会が第三回を迎えているということもあって忌憚のない意見が飛び交い、非常に有益な議論がなされたものである。

三 懇親会と沖縄探索

 交流会の後は、那覇の料亭にて懇親会をもった。第三回目ということもあって、話が弾む楽しい懇親会だった。懇親会は一次会では終わるわけもなく、新垣勉弁護士お気に入りのジャズバーになだれ込んだ。小粋なリズムに身を委ねながら、平和問題からキムタク談義まで語り合い、楽しい時間を共有した。楽しい宴は、三次会まで続いた。

 二日目は、高江地区にも案内し高江住民の平和への情熱を共有した。民弁の皆さんは垂れ幕まで用意して高江住民を励ましてくれた。思いを同じくする同朋からの垂れ幕のプレゼントに高江住民の情熱が更なる高まりを見せるものと感じた。また、同日は沖縄のちゅら海水族館で沖縄の豊な海について触れていただいた。

 三日目には読谷村を案内し、チビチリガマを訪問した(一九四五年四月一日、米軍はこの読谷村の西海岸から沖縄本島へ上陸し、住民を巻き込んだ悲惨な地上戦が開始された。チビチリガマへ避難していた住民約一四〇名中、八三名が、チビチリガマで「集団自決」をした。洞窟入り口には、彫刻家金城實氏により作成された「チビチリガマ世代を結ぶ平和の像」が飾られている)。二度とこのような悲惨な戦争を繰り返してはいけないという思いを共有した。また、彫刻家金城實氏の工房を訪れ、沖縄の彫刻文化にも触れていただいた。三日目の夜には、再び懇親会が行われ、二次会は自然にカラオケボックスへと足が運んだ。クォン・ジョンホ弁護士の美声に酔い、横田達弁護士のシャウトで目を覚まし、イ・ハンボン弁護士のヒップホップダンスで歓声が飛び交うなど、文化交流にも手を抜かない姿勢が露わになった。笑いと喝さいが渦巻く楽しいカラオケは深夜にまで及んだ。

四 二〇一〇年平和交流会に向けて

 今回の平和交流会もまた非常に充実した交流会だった。平和への思いをより強いものにすることができた。

 次回の平和交流会は、順番からするとソウルでの開催の予定である。二〇一〇年秋までには、しっかりと韓国語を勉強して、民弁の皆さんに会いに行きたいと思っている。



日本トムソン正社員化訴訟

神戸地裁姫路支部が仮処分で不当決定

兵庫県支部  吉 田 竜 一

 建設機器のベアリング等を製造する東証一部上場の企業である日本トムソンの姫路工場で二〇〇四年四月から二〇〇八年一二月までの間に、順次、姫路工場で就労するようになった一五名の派遣労働者が二〇〇九年三月末での派遣切りを宣告されたところ、内九名の派遣労働者がJMIU日本トムソン支部に加入し、正社員組合の支援のもと、派遣先日本トムソンと派遣元プレミアラインの双方に労働者派遣法違反、職業安定法四四条違反を認定した労働局の「雇用の安定」を図るための措置を講じるようにとの是正指導を得て、直接雇用を勝ち取った。この直接雇用を勝ち取ったこと自体が一つの大きな成果であったが、トムソンの提示する直接雇用案が期間を二〇〇九年九月末日までとする有期契約で、しかも更新が原則とされていないため、九名の労働者は、期間の定めがあり、更新が原則とされていないことに異議を留めて契約書を提出し、二〇〇九年四月二四日から就労を開始するとともに、四月二八日に正社員化を求める訴訟を提起したのところ、本訴が進行中の本年八月二六日、日本トムソンは直接雇用した九名全員に対し九月末で契約更新をしないと雇止めをしてきた。

 そのため、通常のケースとは逆になるが、本訴の進行中に仮処分の申立を余儀なくされたところ、本訴では松下(パナソニック)PDP事件の大阪高裁判決をベースに就労間もない段階で黙示の労働契約が成立していたとして正社員化を求めているが、当時、最高裁の上告受理はまだ明らかになっていなかったとはいえ、仮処分で黙示の労働契約の成立を認めさせるのは困難ではないかとの判断のもと、仮処分では既に直接雇用を勝ち取っている利点を活かし、是正指導を踏まえて実現した直接契約を更新拒絶したことの違法性を問う構成を採った。団の総会議案書(三四頁)では、この事案について「直接雇用と言っても有期契約にとどまってはいるが、一度直接雇用されれば安易な雇い止めは雇い止め法理に基づき許されないことから、直接雇用を勝ち取ったことは大きな成果」であると評価してくれているとおり、最高裁の確立した雇止め法理のもとでも、「雇用の安定」を図る措置として実現された直接契約に継続雇用の合理的期待が認められるのは当然のことと考えたからである。

 このように「雇用の安定を図れ」との労働局の是正指導によって実現した契約が有期契約である場合、数か月先の初回の契約更新時に雇止めをすることが許されるのかということを正面から問う仮処分であったが、一一月二〇日に下された決定は、本件では継続雇用の期待は認められないから解雇法理(労働契約法一六条)は類推適用されないとして、九名全員の申立を却下するという不当極まりないものであった。決定が解雇法理の類推適用を否定する論拠は、(1)労働局の是正指導によって「雇用の安定」を図る措置として実現したものであっても、日本トムソンの直接雇用案(六か月の有期契約)を労働局が受理した以上、(2)日本トムソンが労働局にも労働組合、労働者にも「更新は難しい」と最初から説明していること、(3)直接契約を締結するに際し、労働者が期間の定めがあり、原則不更新となっていることに異議を留めたとしても、それは契約内容を変更するものではないこと、大きくは以上の三点に集約される。

 しかし、これでは偽装請負等の事案で派遣期間制限の違反が認められることを理由に労働局が派遣先に直接雇用を指導しても、期間数か月の有期契約を「更新はない」と説明して締結しておいて、最初の更新時に雇止めしてしまう企業が続出するであろう。そのような直接雇用が「雇用の安定」を図る措置であったなどと言えるものでないことは明らかで、今回の決定は、裁判所が労働者派遣法の脱法行為を慫慂する決定との批判を免れるものではない。また決定は、製造業派遣の禁止や「みなし雇用」制度を導入するなどして労働者派遣法を業法から労働者保護法へ抜本的に改正するための法案が二〇一〇年の通常国会に提出されることが確実となっている社会情勢とも明らかに逆行するものである。

 当事者は、「トムソンに二度首を切られ、今回、裁判所にも首を切られ、この一年間で、三度首を切られた思い」と怒りで声を震わせているが、却下決定に対しては、一一月二五日、大阪高裁に即時抗告の申立を行った。今後は本訴と仮処分の抗告審で引き続き労働者としての地位の確認を求めていくことになる。

 二〇〇九年一一月一八日、最高裁で松下開かれた松下(パナソニック)PDP事件の弁論が開かれ、当事者の吉岡さんは、「必死に生きようとしている人間を否定する社会は間違った社会です」と意見陳述で訴えたとのことであるが、日本トムソンで働いていた労働者たちの気持ちも吉岡さんと全く同じである。

 最高裁が松下(パナソニック)PDP事件でどのような判決を下すのか、この原稿の執筆時ではわかっていない。

 しかし、どのような判決が下されようと、必死に生きようとしている人間が救われる当たり前の社会を実現するため、裁判闘争と立法闘争を車輪の両輪にして全国で立ち上がっている労働者と共に闘っていく決意である



NHKドラマ「坂の上の雲」の放映始まる

―全国ネットワーク発足

京都支部  中 島   晃

 NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」の放映が、今年一一月二九日から、いよいよ始まった。このドラマは、今後三年間にわたり、毎年一一月下旬から一二月にかけて、日曜日午後八時のゴールデンタイムに一時半の番組として、一三回にわたって放映される計画になっている。NHKは、このドラマの製作に、通常の大河ドラマをはるかに上回る巨額の費用を投入して、本木雅弘、阿部寛、香川照之、高橋英樹、西田敏行、菅野美穂、松たか子といった人気俳優を多数出演させ、海外ロケをふんだんに行う一方で、「坂の上の雲」の宣伝広報に異常なまでに力を入れて、予告番組を頻繁に放映して、PRにつとめている。こうしたことから、「坂の上の雲」は、これから三年間通して、通年で放映されるに等しい状態にあるといっても過言ではない。

 また、文芸春秋や中央公論などの総合雑誌に大型特集が組まれているのをはじめ、「坂の上の雲」に関連する出版物が次々と出され、いまや出版界では、「坂の上の雲」現象ともいうべき、ちょっとしたブームがおきようとしている。これらの出版物の大部分は、「坂の上の雲」の追従本や提灯もちをするものによって占められている。こうした状況を見るにつけ、作者の司馬遼太郎自身が懸念した、この作品が映像化されると、「ミリタリズムを鼓吹」することになるとの恐れが現実化しつつあるといえよう。

 こうしたなかで、NHKの「坂の上の雲」放映を批判する取り組みを組織し、これを全国的な運動として広げていくことがいま緊急に求められている。すでに、今年七月に京都で、シンポジウムが開催されたのを皮切りに(「自由法曹団通信」一三一八号、〇九年八月二一日号参照)、一一月には神戸でも三〇〇人を超える参加者を集めたシンポジウムが開かれ、一一月下旬にはこの問題に関する「全国ネットワーク」が発足し、運動を全国的に広げていくための取り組みが始まった(正式名称:「『坂の上の雲』放送を考える全国ネットワーク」http://kakaue.web.fc2.com/)。

 NHKの放映計画によれば、「坂の上の雲」は二年目の第八回から日露戦争を中心にした本格的な戦争ドラマが展開され、「日露開戦」「広瀬死す」「旅順総攻撃」「二〇三高地」「敵艦見ゆ」と続き、「日本海海戦」でフィナーレを迎える。明治の若者たちが祖国日本の防衛のために、いかに勇敢に戦い、大国ロシアを打ち破ったかを描くものとなっている。それは、NHKがいかに取りつくろうとしても、日露戦争を祖国防衛戦争として正当化し、賛美するものであり、これを戦った秋山兄弟をはじめとする明治の軍人たちを英雄視することにつながることは明らかである。そしてまた、それが憲法九条改悪の世論操作に使われる危険をはらむものであることはいうまでもない。

 こうした状況のなかで、NHKの「坂の上の雲」放映を批判する取り組みをいかに強めるかは、憲法九条の改悪をめぐる国民世論の動向に重要な影響をあたえるものといわなければならない。このように見てくると、私たち団員がさまざまな形で、この問題について発言し、NHKの「坂の上の雲」のドラマ化を批判する世論を形づくるうえで、積極的な役割をはたしていくことが求められていると考える。

 すでに、中塚明氏などの歴史学者が出版物(「司馬遼太郎の歴史観―『朝鮮観』と『明治栄光論』を問う」など)を通して、批判の論陣をはっているが、最近金沢大学の半沢英一氏が「雲の先の修羅」(東信堂)を出版し、歴史学者以外の分野からの発言もなされている。ともあれ、いまこの問題に対して、いかにきちんとした批判がなされるのかは、憲法改悪をめぐる今後の世論の行方を左右するものであり、この点で、歴史研究者は勿論のこと、私たち団員の役割が問われていると言わなければならない。



二〇〇九年自由法曹団女性部総会に参加して

東京支部  牧 戸 美 佳

 一 はじめに

 二〇〇九年度の自由法曹団女性部の総会が、九月一一、一二日の二日間、宮城県仙台市の秋保温泉で開催されました。

 総会の内容もすばらしかったのですが、総会が行われた佐勘というホテルがとても素敵なところでした。館内には歴史的な調度品や工芸品などが多数展示され、建物も立派でお料理もとても美味しかったです。私は、事情があって、このホテルに宿泊することも出来ず、また、温泉に入ることも出来なかったのですが、秋保温泉は一〇〇〇年以上の歴史がある日本三古湯(有馬温泉・道後温泉)のひとつでもあり、温泉もとてもすばらしかったそうです。もしまた秋保温泉に来る機会があれば、是非このホテルに宿泊したいと思っています。

 さて、本題の総会の内容ですが、一日目は、情勢報告と女子差別撤廃条約についての報告が行われました。また、秋田支部の金野和子先生の貴重なお話を伺うことができました。二日目は、今期の活動報告と来期の活動指針等や各地の活動報告が行われました。

二 情勢報告

 まず、情勢報告についてですが、八月三〇日に衆議院議員総選挙が行われて間がなく、また、民主党政権が発足する前でもあり、先が読めない状況でしたが、オバマ政権が発足したアメリカの動向(核問題・アフガン増派問題等)、比例定数削減問題、憲法審査会始動の問題、新テロ特措法の延長問題、派遣法改正問題などについての議論を行われました。

 そして、民主党政権化で団女性部として今後どのような活動を行っていくかという点について、女性議員との懇談会を行って、団女性部の意見を政治に反映させるような活動を行うべきという提言も行われました。

三 女子差別撤廃条約についての報告

 今年が女子差別撤廃条約採択三〇周年にあたるということもあり、今回の団女性部の総会では女子差別撤廃条約について、様々な報告と意見交換が行われました。

 東京支部の倉内節子先生からは、同条約採択までの歴史的経緯や同条約の内容、今後の取り組みについての報告がありました。倉内先生の報告は、一九六七年の「婦人に対する差別撤廃宣言」から一九七九年に「女子差別撤廃条約」が採択されるまでの道のりや、固定化された男女役割分担概念の変革を中心理念としてあらゆる差別の撤廃を規定している同条約の内容など同条約の基本的な点まで網羅した、私のような初学者でもわかりやすい報告でした。また、日本が条約を批准するにあたって(1)国籍法改正の問題,(2)高等学校の家庭科共修の実現の問題,(3)男女雇用機会均等法の問題などが障害になっていたことや、日本がまだ批准していない個人通報制度に関する選定議定書の問題などについても丁寧に報告してくださり、ほとんど知識のなかった私にとって大変勉強になる報告でした。

 次に、女子差別撤廃条約の現状報告として、日本政府が国連に提出した第六回報告書を受けて日弁連が提出したカウンターレポートの作成に関わってこられた仙台支部の佐藤由紀子先生から、女性差別撤廃委員会(CEDAW)の仕組みや活動内容、日本政府第四,五回報告書に対する女性差別撤廃委員会の勧告、日本政府第六回報告書に対するカウンターレポートについての報告がありました。第四,五回報告書に対して女性差別撤廃委員会は、女性に対する差別の定義が国内法に取り込まれていないことやコース別雇用管理区分の問題などについて厳しい勧告を行っていること、日弁連の行った「第六回政府報告に対する女性差別撤廃委員会からの課題と質問についてのアップデイト報告」の内容などの報告を聞いて、日本の女性差別の現状が同条約の内容からはまだまだ程遠いということを実感しました。

 そして最後に、日弁連の両性の平等の委員会から女性差別撤廃委員会に参加された福島支部の安藤ヨイ子先生から、女性差別撤廃委員会の「女性に対する差別撤廃に関する総括所見」についての報告がありました。安藤先生の報告は、もっとも新しい第六回日本政府報告書に対する女性差別撤廃委員会からの勧告に関するもので、前回の勧告よりもさらに厳しい勧告がなされ、また、日本政府が女性差別撤廃委員会から毎回同じような内容の勧告を受けているにもかかわらず、一向に女性差別解消に向けた取り組みが進んでいないというものでした。

 諸先生方の各報告を聞いて、日本の女性差別の解消がほとんど進んでいない現状に唖然とするとともに、このような大切な条約についてほとんど関心を持たず、また勉強もしてこなかったことを大変後悔しました。報告後の意見交換で、同条約や女性差別撤廃委員会の勧告を裁判の中も積極的に活用していくべきだという意見が多数出て、私も、同条約の内容と日本の現状についてもっと勉強して日々の活動に活かして行かなければならないと痛感しました。

四 金野先生のお話

 一日目の総会の最後に、秋田支部の金野先生(一六期)から、戦前の軍国主義下での教育や女性差別の問題、東京大空襲で家が焼けてしまって大変な生活を送られたことなどのお話を伺うことができました。

 戦争を知らない世代である私にとっては、とても考えられないようなお話で、改めて平和の尊さを実感するとともに、現在もまだ解消されない女性差別の問題ですが、当時と比較すれば格段の進歩があったのだと感じました。

五 今期活動報告・来期の活動方針等

 二日目は、団女性部の今期の活動内容の報告や来期の活動方針についての議論、各地の活動報告等が行われました。

 今期の活動報告では、女性差別撤廃条約に関する日本政府第六回報告に対するカウンターレポートの学習会、憲法リーフの普及、労働局のブロック化に対して反対の声明を出す等様々な活動を行ってきたことなどの報告がありました。特に、憲法リーフはデザインがよく読みやすいと好評でした。

 来期は、憲法改悪の動きに対する運動を強める、女性の労働問題に取り組む、団女性部の歴史を学ぶなどの提案が行われ、さらに、女性議員との懇談会を行う、会務の改革に取り組む、女性部の活動を団全体に広げるなども含めるべきであるとの意見が出されるなど、活発な議論が行われました。

六 最後に

 今回で女性部の総会に参加するのは二度目ですが、一度目のときは二日目しか参加できずとても残念な思いをしました。今回一〜二日目と参加でき、女子差別撤廃条約についての報告や議論、金野先生の貴重なお話を聞くことができ、大変勉強になりました。女子差別撤廃条約についてはほとんど知識がなかったため、議論についていけない部分もあり、また、私自身とても発言できるような状況ではありませんでしたが、今後は同条約の内容をしっかり勉強し、団女性部の活動や裁判に活かして生きたいと思っています。

 また、私と同じようにこれまで同条約についてあまり関心がなかったという方も、是非一度同条約を勉強されてみることをお勧めします。女性差別問題などが絡む事件を受任した際など、きっと日々の仕事にも役立つことと思います。



女性部新年学習交流会兼新人歓迎会へのお誘い

東京支部  千 葉 一 美(女 性 部・部 長)
東京支部  岸   松 江(事務局長・兼会計)
東京支部  千 葉 恵 子

 皆様いかがお過ごしでしょうか。

 下記のとおり新年学習会兼新人歓迎会のご案内をします。準備の都合・予約等がありますので、出欠席についてお知らせ下さい。

 なお、来年の女性部総会は、二〇一〇年九月一〇日、一一日を予定しています。

☆新年学習交流会☆

日 時 二〇〇九年一月二九日(金)一六時〜一七時四五分

場 所 第二東京弁護士会(弁護士会館一〇階一〇〇七号室)

テーマ 仕事も自分も大切に〜先輩弁護士になんでも聞いてみよう

 集団事務所に所属しながら三人の子育てをし、医療弁護団など社会的活動もやってきた千葉一美弁護士、公設事務所を経て個人事務所開設,「憲法と少年に偏った」(本人談)弁護士活動をしながら,趣味のアロマテラピーを業務に役立たせている西田美樹弁護士のお話を聞きます。アロマの香りでリラックスしながら楽しく交流しましょう。

☆新人歓迎会☆ (一八時00分〜)

場 所 銀座 レストラン ライム(東京都中央区銀座七―二 銀座コリドー二F) アクセス  地下鉄銀座駅 C3出口
     徒歩五分 地下鉄日比谷駅 徒歩五分 
       電話 〇三―五五三七―一四五五
       http://r.gnavi.co.jp/g743200/
   熱帯魚を鑑賞しながらモダンエスニック料理を楽しみます。

会 費 五〇〇〇円程度を予定しています(六二期は無料)。

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下記のいずれかに○をつけて一月一五日までにご返送下さい
弁護士 岸 松江 行き(FAX〇三―三三五七―五七四二)

●学習会に        出席します     欠席します 

●新年会兼新人歓迎会に  出席します     欠席します   

                    支 部 (            )
                    お名前 (            )



米軍普天間基地・辺野古調査と二〇一〇年一月拡大常任幹事会のご案内・その二

幹事長  鷲 見 賢 一 郎

 前号団通信にてご案内いたしましたが、二〇一〇年一月一六日(土)の拡大常任幹事会は、沖縄県那覇市で開催し、その前日の一月一五日(金)から米軍普天間基地と辺野古調査を予定しております。

 多数の団員・事務局が参加されることを再度呼びかけます。

◆行程・航空券等のご案内及び参加申込書は、前号に同封しておりますので、早めにお申し込みをして頂きますようお願いいたします。

 格安団体便の設定金額での期限は、一二月二四日(木)までと間近に迫っておりますので、必ずFAXにて富士国際旅行社へお申し込みをお願いいたします。

【富士国際旅行社の連絡先】

  ・電 話〇三―三三五七―三三七七
  ・FAX〇三―三三五七―三三一七

一 米軍普天間基地・辺野古調査

 1 一月一五日(金)午後

    米軍普天間基地調査と宜野湾市訪問、名護市内宿泊 

 2 一月一六日(土)午前

    辺野古調査と新基地建設に反対する人たちとの交流 

二 拡大常任幹事会

 1 日時:一月一六日(土)午後一時〜五時

 2 場所:沖縄県那覇市松尾一―一九―一七
       TEL〇九八―八六六―五四〇一
       沖縄レインボーホテル

 3 議題

  (1)米軍普天間基地撤去、辺野古新基地建設反対のたたか(辺野古新基地建設反対の運動をしている方からのお話を聞く予定です。)
  (2)国会改革法と衆院比例定数削減反対の取組
  (3)非正規大量解雇阻止と労働者派遣法抜本改正の活動
  (4)裁判員裁判と捜査の全面可視化に関する取組
  (5)その他