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中村 洋二郎
「私は雇用調整弁でもレンタル商品でもない!」
―偽装請負・偽装派遣に振り回されて怒りの提訴―
関守 麻紀子
逆転勝利決定! 資生堂アンフィニ事件

菅野 昭夫
オバマ大統領就任一年の評価

黒澤 いつき
就職難がもたらすもの〜元修習生の立場から〜

渡辺 輝人
残業代等計算ソフト(エクセルシート)「給与第一」の無償頒布開始しました
篠原 義仁
「風の会」結成一〇周年企画
『司法改革』を検討する― つどいのご案内
労働問題委員会
大量解雇阻止対策本部
「労働者派遣法の抜本改正を求める院内集会」への参加のよびかけ



「私は雇用調整弁でもレンタル商品でもない!」

―偽装請負・偽装派遣に振り回されて怒りの提訴―

新潟支部  中 村 洋 二 郎

一 六年半働いて突然解雇された「派遣」労働者

 甲君は、新潟県新発田市の派遣会社・サンクスから同じ新発田市の電子部品の製造販売会社・ホクリュウに「派遣」され、六年半もの間、派遣先のホクリュウで、正社員と同じ作業に組み込まれ、同じ制服、タイムカード、休暇届等を使用し、ホクリュウの上司の指示監督を受けてきた。甲君が正社員と違うのは、ただ、給与が派遣元のサンクスから銀行に振込まれてくることと、二ないし数ケ月ごとに送られてくる形式的なサンクスとの雇用契約書に署名捺印して届けること、でしかなかった。

 その甲君が、平成二〇年一二月中旬、派遣先のホクリュウから、突然、不景気で受注減になったから一ケ月後の二一年一月二〇日限りで退めてもらう、と言い渡された。雇用契約内容の説明を求めても、「その問題は、サンクスとの問題でホクリュウとしては話し合う必要はない」と拒否された。甲君はサンクスに赴いて、生活に困るから他の仕事先を紹介してくれと要請したが、「紹介できる仕事はない」と断られ、二月二〇日限りでサンクスをも退職すれば「会社都合の離職票」を出してやると言われ、直ぐに雇用保険金をもらう必要から退職届を提出してしまった。

二 青年ユニオンに加入して

 しかし、怒りはおさまらず、釈然としない甲君は、新潟労働局に善処を求めたが、「いま現在の違法行為は是正できるが、過去のことは遡って是正できない」と言われ、次いで、弁護士会の無料法律相談に赴いたが「損害賠償裁判を起こしても一、二割もとれれば良い方」と言われ、私宛に相談にくる。私は新潟青年ユニオンを紹介した。甲君は青年ユニオンに加盟し、青年ユニオンはサンクスとホクリュウに対し、甲君の正社員化と損害賠償を要求して団体交渉を数回もって追及した。最終的に、解決金としてサンクスは六〇万円、ホクリュウは一二〇万円を提示してきたが、ホクリュウへの正社員化は拒否した。

 甲君は、生活上の困難さはあるものの、労働者を人間扱いせずに品物のように使い捨てする会社側のやり方に憤慨し、同じように非人間的な扱いを受けている多くの派遣労働者の代表として闘うことを決意し、昨年一二月一七日、ホクリュウとの正社員としての雇用関係の確認、サンクスとホクリュウにピンハネ分の賃金相当額の損害賠償金の支払を求めて提訴に踏み切った。

三 四回も繰り返された偽装請負と偽装派遣

 甲君が解雇されてから判ったことは、甲君が勤務中の六年半の間に、派遣元のサンクスと派遣先のホクリュウとの間では、請負契約、派遣契約、請負契約、派遣契約、と四回もめまぐるしく契約形態を変えたことである。そのことは甲君には全く知らされていなかった。 何故、そのようにクルクルと変えられたのか。

 当初契約の平成一四年七月当時、サンクスは派遣事業の許可を受けていなかった。そこで請負契約の形式をとる。勿論、請負の実態はなく、「偽装請負」であり、実質は違法な「派遣」である。

 次の平成一六年八月からは、サンクスも派遣事業の許可を受けたのでホクリュウとの間に派遣契約の形式をとる。しかし、実態は、ホクリュウの正社員と全く同様に働いていたから「偽装派遣」である。

 次の平成一七年六月から一八年六月までは、再び請負契約の形式がとられた。これは、製造業の派遣が一八年三月まで一年の期間限定であったため請負契約の形をとったもので「偽装請負」である。

 さらに平成一八年六月から二一年六月までの契約は派遣契約とされた。これは、一八年三月から、製造業の派遣期間が三年まで延長できるようになったことで、前の請負契約を止めて再び派遣契約の形式に戻したものであり、「偽装派遣」である。

 このように、クルクルと契約形式を変えること自体が、実態から離れて、甲君の雇用が法律の形式を悪用しての偽装にすぎないことを物語っている。

 そのことを熟知しての悪質なやり方をとった派遣元と派遣先の会社は、共同不法行為としてピンハネ分の賃金相当額を賠償すべきである。

 また、実態にしたがって、派遣先のホクリュウは、甲君を正社員としての労働契約関係を確認すべきである。

四 早速に利用してきた「最高裁・松下プラズマディスプレイ判決」

 提訴当時、私らは、大阪高裁の優れた判決を援用して被告会社を非難したが、直後に、大阪高裁判決を取り消す不当な最高裁判決がでたので、サンクスもホクリュウも、得たりや応とばかりに、この最高裁判決を援用して、原告の請求が失当であると主張してきた。

 最高裁判決は、違法な派遣であっても「派遣契約」であり、職安法の労働者供給事業にはあたらず、職安法違反にはならないとする。 「職安法違反」が「違法な派遣で免責される」という、この奇妙奇天烈な理屈! 法律を無視し違反した方が得するのか、と言いたい。これが法律と人権の最後の砦であるべき最高裁のいう事か、と呆れてしまう。

 しかし、負けてはおられない。違法な偽装派遣を助長し、世論と真っ向から逆行する最高裁判決が、早晩、是正されることは明らかである。

 私共は、第一回法廷で、この最高裁判決の不当性を暴くとともに、しかも、その不当な判決を前提にしても、サンクスとホクリュウの欺瞞的なやり方や、甲君がホクリュウの正社員としての実態しかない事実を提示して正当な判決を求め、青年ユニオンを先頭に世論にうったえる活動に取り組んでいる。一四人で結成した新潟青年ユニオンは、この闘いを契機に一年半の間に組合員を一四〇人と一〇倍に急成長させて大きく前進している。   

 甲君は、アルバイト先も見つからず(妨害が予想されるため名前も提示できない)、生活困難は続くが、闘いの決意はますます固い。

この闘いのなかで、今回の派遣弁護団の一員である渡邉幹仁弁護士は、団に新しく入団を許可された若手弁護士であるが、同じ青年ユニオンの組合員が残業手当も支払われずに解雇された労働者が闘いに立ち上がったのを受けて、先日、裁判所からタイムカードや作業日報等の証拠保全決定を得て派遣先の会社にのりこみ、証拠の確保の執行に及んだ。

 これから第二段の闘いが始まる。

 私は四年前に団より古稀の表彰をいただいた古老団員であるが、若手新人団員とともに新しい闘いと運動にとりくめるのを嬉しく思っている。



逆転勝利決定! 資生堂アンフィニ事件

神奈川支部  関 守 麻 紀 子

 派遣社員が不当に解雇され、仮地位確認及び賃金仮払いを裁判所に申し立てた事件で、一審の不当な決定を覆し、雇い止めは信義則上許されないとして、当初の契約期間満了までの賃金請求権を認めた高裁決定を得ましたので、報告します。

二 事案の概要

(1)申立人らは、派遣会社アンフィニに所属し、資生堂鎌倉工場で化粧品製造に従事する女性の工員たちである。 申立人らは、資生堂鎌倉工場で勤務するために、派遣会社に所属し同工場で働いてきており、古い人だと平成一二年から働いている。この間、雇用主である派遣会社は何度か変わっているが、申立人らが、派遣会社に所属して、資生堂鎌倉工場で業務に従事する、という関係は一貫している。

 平成一八年六月、派遣元である派遣会社がアンフィニとなったが、従来と同じ条件で雇用契約が締結された。

 雇用期間は、一月一日から一二月三一日までの一年間であるが、これまで例外なく更新されてきている。契約書の作成はずさんで、たいていの場合、期間満了後の翌年一月になってから、一二月付けの日付で作成する、ということがされてきていた。一年の間に二回契約書を作成したこともあった。

(2)二〇〇九年四月一〇日頃、アンフィニは、工場で作業に従事している社員を一人づつ呼び出し、「資生堂工場の就業時間が変更になったので契約書を作り直さなければならなくなった」とだけ述べて、新しい契約書への署名を求めた。新契約書の契約期間欄には「四月一日から五月三一日」と記載されていたが、そのことについて明確な説明はなく、「二か月更新になった」、「就業時間以外は変更がない」という程度の話しかされなかった。契約期間が変更されていることに気がつかない者もいた。他方で、二か月後にはきちんと更新されるのかを尋ね、会社側から更新されるとの回答をもらった者もいた。

 更新されるとの言葉を信じて、あるいは、これまでの契約書の作成に重きを置いていない会社のすることだからよもや一か月半後の五月三一日に契約を打ち切られることなどあるはずがないと考えて、申立人らは、契約書にサインをした。

 ところが、五名が、その数日後の四月一七日、五月一七日付の解雇を言い渡された。

 さらに、会社のやり方に疑問を覚え、解雇を言い渡された五名と共に労働組合に加入した二名は、五月三一日付けで雇い止めされた。

三 一審 横浜地裁七民

(1)申立人らは、二〇〇九年七月一〇日、横浜地方裁判所に、仮地位確認、賃金仮払いを求める仮処分を申し立てた。

(2)期間を五月三一日までに短縮する新契約が有効であると言えるためには、新契約の締結を求める際、契約期間を二か月に短縮し、期間満了後は従来と異なり更新されない(あるいはその可能性がある)ことを会社が従業員に説明することが必要不可欠である。

 この点、アンフィニは、審尋期日において、更新されない(あるいはその可能性がある)とは言っていない、と明確に認めた。

 また、アンフィニは、資生堂からの受注が減少したことによるやむを得ない解雇であると主張しながら、経営に関する資料を全く提出しないなど、でたらめな対応ぶりであった。

(3)一〇月九日、横浜地裁は、申立却下の決定をした。

 決定は、(1)本件契約の有効性、(2)解雇の有効性、(3)保全の必要性の三点であると整理し、(1)について、決定は、本人らが、契約期間四月一日から五月三一日までの契約書に署名・押印しているから、従前の契約(一月一日から一二月三一日)は有効に変更された、と認定した。(2)については、五月三一日まで待たずにした五月一七日付けの五名の解雇は無効、二名の雇い止めは有効、(3)については、五名について解雇は無効だが、一四日分の賃金の仮払いをする必要性は認められない、と判断した。

 決定は、アンフィニが、雇い止めあるいはその可能性について説明していなかったと明確に述べた事実を、あろうことか、アンフィニは必ず契約を更新する旨の説明はしなかった、とすり替えて、本件契約が有効である、との認定をしたのである。

 のみならず、申立人は、上記以外にもさまざまな事実を指摘して、本件契約に瑕疵があることを主張したのだが、決定は、これらの事実について全く検討していない(そもそも、主張の整理に挙げられてすらいない。)。また、決定は、「署名・押印」のある契約があることをよりどころに本契約が有効であるとしたのだが、そもそも、契約書に「署名・押印」があるのは、七名のうちの三名だけであった(他の四名については、押印する暇すらなく、サインをしたのみである)。このことは、書証を見れば一目瞭然の事実であるが、決定は、このような基本的な事実すら見落とし、理由もわずか一四行しか書かれていなかった。

 地裁の決定は、このように、結論先にありきの極めてずさんな内容であった。

 裁判所は、結審時、決定は一〇月下旬から一一月初めくらいになる、と言っていた。その予定を大幅に早めて、労働者を切り捨てるずさんな決定をしたのであり、許しがたいものがある。

四 東京高裁決定

 東京高裁は、このような地裁決定を取り消し、アンフィニに対し賃金仮払いを命じる決定をした(二〇〇九年一二月二一日)。

 高裁決定は、新契約書作成の意図に関して「会社は人員削減のため、整理解雇の対象者が解雇の効力を争っても当該従業員を雇い止めすることにより五月三一日には確実に雇用関係を終了させる目的で本件契約を成立させたと推認することができる」と認定し、本件契約が申立人らにとって現実にも著しく不利益となるにもかかわらず、アンフィニがそのことを申立人らに告げずに契約を成立させたことは、「著しく不当」であり、アンフィニが申立人らの意思に反して五月三一日以後の更新を拒絶し、雇い止めをして雇用契約を終了させることは「信義則上許されない」と判断した。

 さらに、本来の契約期間である一二月三一日までの賃金請求権を認めた。

 もっとも、仮払いの必要性については、五割の限度で、として五割分の仮払いを命じたに止まった。

 高裁決定は、当方の主張を全面的に認めたもので、申立人らは、自分たちの言い分を理解してもらえた、と喜び、「最高のクリスマスプレゼントをもらった」と喜びあった。

 申立人らは、いずれも家庭を持っており、多くは養わなければならない子どもを抱えている。いずれの家庭も、妻であり母である彼女らの収入を前提にして家計を成り立たせてきており、解雇は、本人のみならず、家族にも多大な影響を及ぼした。子どもに学業を断念させなければならないという瀬戸際に追い込まれるなど、悲惨な状況にある。

 申立人ら七名は、本件以前は、裁判にも、組合活動にも全く関わったことがなく、さして親しい間柄でもなかった。その彼女らが、困難な事態に直面して、日々の生活の苦労にうちのめされながらも、互いに支え合い、一人も欠けることなく、高裁決定を勝ち取った。その様子には、私たち弁護団もとても勇気づけられた。

 (実働弁護団は、高橋宏、藤田温久、川口彩子、志田一馨、石井眞紀子、関守麻紀子)



オバマ大統領就任一年の評価

北陸支部  菅 野 昭 夫

 今年の一月一七日に行われたマサチューセッツ州上院議員補欠選挙での民主党の敗北は、「変化」を約束して当選したオバマ大統領に対して、アメリカ国民が失望の眼で見ていることをまざまざと示しました。マサチューセッツ州といえば、ボストン市を初めとして民主党の金城湯池とされ、昨年一二月に死亡したエドワード・ケネディ上院議員が四〇年間議席を守り続けてきた州であったからです。しかし、その補欠選挙では、大統領選挙で、「変化」を求め選挙運動に参加した黒人やマイノリティは、オバマ大統領の一年に幻滅して、投票を放棄したといわれています。オバマ大統領の支持率は、今や五〇%をわずかに上回る程度であり、就任一年目としては最近六〇年間の歴代大統領の中で最も低い支持率となってしまいました。

 私が、昨年一〇月にシアトル市を訪れたとき、ピーター・アーリンダー弁護士は、アメリカの現状とオバマ大統領について、次のように語りました。「アメリカは、沈みつつあるタイタニック号である。われわれは、危機を脱出すべく、最も有能な船長を選んで船を託した。しかし、その船長は、まず、一等船室の乗客のみに救命胴着を配ったのみで、三等船室で水に浸かっている大多数の乗客には何の救助の手も差し伸べていない。そして、もっと悪いことに、船は再び氷山に向かっている。」

 この言葉にあるとおり、オバマ大統領は、就任直後に、リーマン・ショックを引き起こしたAIGなどの巨大金融資本に対し、一二兆円もの税金を投入して、その危機を救いました。その結果、ウオール・ストリートの銀行・証券会社は、再びマネーゲームと法外な役員ボーナスを再開しています。しかし、公式の失業率が一〇パーセントにも上る勤労者の現状は有効な対策のないままに悪化の一途をたどり、今では、アメリカ国民の六人に一人が失業または半失業状態にあるといわれています。健康保険の改革は、公的健康保険が全く無いという根本的な欠陥はそのままにして、無保険者を減らすために民間の医療保険に税金を投入して契約者を増加させるという、保険会社と製薬会社がほくそ笑む「改革」でお茶を濁そうとしているのです。ブッシュ政権による人権侵害を改善する課題についても、グアンタナモ基地の閉鎖は、一部の囚人について司法審査なしの無期限の身柄拘束を認めるなど、中途半端に終息しそうな情勢にあり、愛国者法には手をつけず、拉致・拷問の被害者のブッシュ政権閣僚に対する責任追及の訴訟では国家機密を理由として却下を求めるなど、合格点はつけがたい状況です。

 こうしたオバマ政権の失政の根本原因は、軍事的に世界を支配しようという産軍複合体の政策を忠実に継続させていることにあります。せっかく核兵器の廃絶を唱えたというのに、ノーベル平和賞授賞式におけるオバマ大統領の演説は、アメリカは世界の平和を守る責任があり、時には戦争も必要な手段であるなどという論理で、アメリカの覇権主義を正当化し、世界の人々を失望させるに十分でした。今や、アメリカは、全世界に一〇〇〇ないし八〇〇もの軍事基地を持ち、約一二五万人もの軍人、約七〇万人もの民間人を駐留させています。イラク戦争、アフガニスタン戦争を遂行し、海外の軍事プレゼンスを維持するための軍事費は、アメリカに膨大な財政赤字をもたらし、アメリカ経済を疲弊させているのです。そのために、アメリカ政府はドル札を発行し続け、また国債を増発しても追いつかず、アメリカ国内の道路、橋梁、上下水道などのインフラは老朽化したまま更新もままならず、福祉や教育のための予算は削減の一途をたどっています。

 オバマ政権が、アフガニスタン戦争は正義の戦争であるとして、増派を実行し、普天間基地からの海兵隊の移動について、鳩山政権に対し、あくまでも辺野古への移転を迫っているのも、こうした覇権主義政策の必然的な結果ということになります。オバマ政権の安全保障スタッフが、アーミテージ元国防次官補のような、日本の憲法九条は日米安保にとって障害であるとの認識を持つ人たちによって固められていることも周知のところです。

 しかし、オバマ政権が、ブッシュ政権に比べて積極的に評価できる面が多々あることも事実です。何よりも、アメリカ大統領の中で初めて核兵器の廃絶を表明したことは、高く評価されます。オバマ大統領は、マサチューセッツ州の補欠選挙に敗れるや、一月二一日に金融規制案を発表しましたが、その内容は、リーマン・ショックの原因となった金融規制緩和を見直す(銀行と証券業を再び分離し、銀行には投機取引を禁止し、合わせて金融機関の巨大化を規制する)というもので、信用取引の規制などは含まれていないものの、カジノ資本主義を是正する正しい方向のものとなっています。この規制案を発表したときに、オバマ大統領が、ウオール・ストリートとの闘いを宣言したことも重要な「変化」といえます。

 オバマ氏がこれらの「変化」を約束して大統領選挙に当選したとき、その勝利の原動力は、イラク戦争などの戦争政策に飽き飽きし、新自由主義がもたらした格差と貧困の是正を求めるアメリカ国民の草の根の運動でした。しかし、オバマ大統領は、就任以来、こうした国民の運動に依拠することをせず、かえって、大資本や軍の意向に従い、閣僚やスタッフを保守層で固め、共和党を刺激しないで、超党派的に政策を遂行することに主眼を置いてきました。

 一九二九年の世界大恐慌後にアメリカを立て直したルーズベルト大統領は、保守的な人物であったとはいえ、進歩的な閣僚を登用し、産業別労働運動に依拠して、ニューデイール政策を進めていきました。オバマ政権の今後は、オバマ大統領が、フランクリン・ルーズベルト大統領のような姿勢を持てるどうかに大きく左右されるといえましょう。タイム誌の本年二月八日号は、金融規制の強化とウオール・ストリートとの闘いを宣言したオバマ大統領は、再び、大統領選挙と同じく、「ポピュリスト」として共和党や大資本と対決する道を選択したと報道していますが、はたしてそうであるかは、わが国の沖縄の基地問題、憲法九条の改訂の動きにも大きな影響を与えることになるので、注目したいと思います。



就職難がもたらすもの〜元修習生の立場から〜

東京支部  黒 澤 い つ き

一 はじめに

 「日弁連会長選挙の最大の争点は法曹人口増員」という新聞の見出しを見て、初めて、それが「最大の」争点だったことを知った。ともあれ、法曹人口増員という政策は、様々な問題を巻き起こし、現下の司法修習生が就職口を探し回る光景は、大げさでなく悲惨である。昨年末まで渦中の修習生だった私は、ここ数年の状況変化があまりにも急激だったがために「採る」側の先生方が状況をリアルに把握しきれていないという現状に、この上ないもどかしさを感じていた。団の先生方にも、修習生の叫び声を聞いて頂き、現状や問題を知って頂くことが、民主的法律家団体としての団の発展、ひいては我が国の健全な司法の発展の、一つの足がかりになるのではないか…というような壮大な趣旨のボヤきを、団女性部の学習会にてうっすら二〜三言つぶやいてみたところ、それは団通信に書くべきとご教示頂いたので、書くことにした。本題に入る前がこんなに長くて申し訳ありません。

二 新六二期の就職難

 弁護士過疎の地方なら就職できる、というような単純な話ではない。仮に、○○市は県庁所在地なのに事務所が二つしかない、としても、その二つの事務所が「人手不足なんだけど経費的に新人採用はちょっと」「うちの事務所はスペース的にちょっと」であれば、即独しかないのであり、それは東京となんら変わりがない。また、地方ならではの排他的な空気もあり、人手不足よりも既得権益を奪われることの方が危機、とお考えの先生方は、とことん採らない。ある地方の県で、指導担当弁護士に「この県で働きたい」とうち明けた途端に、冷たい態度をとられるようになった、という修習生の話も、女性部の先生から伺った。いずれは独立してもいいが、せめて最初の二〜三年はどこかの事務所でイソ弁として修行したい、と考える大多数の修習生には、どこの誰が法曹人口増員を望んだのか、不思議に思えてくる。

三 人権問題に取り組みたい修習生もまた同じ

 この就職難は、平和や民主主義、人権問題に取り組みたいと日頃から研鑽を積む修習生にとっても同じである。団とは別の団体ではあるが、新六二期の青法協修習生部会は四五人で組織され、それなりに活発な活動をしていた。彼らは当然、民主的活動に打ち込んでおられる先生方に憧れ、そういう事務所に入りたいと考える。しかし、「採用予定」の看板を出す「民主的」事務所の絶対数が少ないがために、一つの枠をめぐって競争するハメになり、同志なのに、図らずもここでライバルになる。どこの事務所の面接に誰が行ったのか、誰が落とされたのか、誰が残ったのか、不安のあまり、誰も就職について話題にしなくなり、一種の疑心暗鬼状態になってしまう。これが、青法協の活動にも大きく悪影響を及ぼす。就職先が決まらないことには青法協運動に打ち込む精神的・時間的余裕ができない。加えて、修習地が地方の場合、説明会や面接の度に長距離移動するため、多くの場合が宿泊を伴う。地方の部会員に聞いたところ、交通・宿泊費だけで結局三〇〜四〇万円以上かかったという。週末の度に、新幹線で飲み会(のような面接)に駆けつけ、必死にアピールし続けたあげく、「今年の採用は無しということに決定致しました」の通知。経済的余裕まで失って、このやるせなさを何に訴えればいいんだ、という叫びを、実にたくさんの仲間から聞いた。

四 女性修習生を取り巻く苦境

 上記のような急激な「買い手市場」化は、「採る」側と「採られる」側の上下関係をもっと「上下」化させた。そして必然かのように、女性修習生に対するセクシャル・ハラスメントの被害が出てきている。最終面接の後でボスに食事に誘われ、スリーサイズを聞かれた、男性経験について聞かれた、帰り道に肩を抱かれた、など序の口である。せっかくここ(最終面接)までたどり着けたのに、ここで拒絶したらまた最初からやり直しになってしまう…電車内の痴漢に遭ったのと同じように、何も言えない。必死な思いで仕事口を探す修習生の立場の弱さを逆手にとった、あまりに卑劣な行為である。

五 民主的法律家団体として

 私がこの稿で最も訴えたいのは、実は三よりも四である。もちろん三についても声高に叫びたいが、個々の事務所の「そうはいっても予算が無い」の抗弁には、正直、歯が立ちません。ただし、三について、団も個々の事務所も全く手を打たない(とりあえず説明会は開いてみて、いい人がいれば、とは思ってみたけれど、やはり予算がないから採用無し、という方法を繰り返す)場合、「一緒に闘ってくれる新人が欲しいかのように説明会では言ってたのに、嘘じゃないか」と、修習生の「民主的」事務所(=弁護士)に対する信頼が揺らぐことは間違いない、と思う。それよりも民主的法律家団体である団として早急に手を打てるのは、四である。圧倒的な上下関係の下で繰り返される人権侵害の撲滅は、「上」自身が問題意識を持たないことには始まらない。声をあげられない女性修習生のために、例えば(発想が貧困で申し訳ないが)セクハラ防止のパンフレットを配ったり、実態を調査して世に警鐘を鳴らしたり、この状況を見逃すわけにはいかないという姿勢で、一刻も早く様々な形で取り組むべきである。法曹人口増員という政策の陰にひそむ、弱者の涙・人権問題を決して見逃さずに、許さずに、対策を講じて頂きたい。



残業代等計算ソフト(エクセルシート)「給与第一」の無償頒布開始しました

京都支部  渡 辺 輝 人

(1) ソフトの紹介

 先日、一年半にわたって改良を続けてきた残業代計算ソフト(エクセルシート)「給与第一」を事務所のホームページ上に公開したので、この機会に御報告したい。

 訴訟で残業代を請求する際、最も面倒な作業の一つが、タイムカード等の資料を基に労働時間を算出し、場合分けの複雑な計算をして未払残業代を計算することだ。今、インターネット上を検索すると、使用者の立場から給与管理をするためのソフトは存在する。しかし、労働者の立場から未払残業代等を請求するものは沖縄県労連作成のものくらいしかなく、様々な例外的事例に対応しつつ、深夜早朝勤務手当、週四〇時間超の残業代や遅延損害金を正確に計算するものはない。そこで、残業代等を正確に算出し、訴訟で請求する遅延損害金や付加金(制裁金)の計算を容易にし、かつ計算結果をそのままプリントアウトして訴訟資料に使える汎用ソフトがあれば便利ではないか、という発想に基づいて開発したのが「給与第一」である。

(2) 導入とその成果

 最近、多くの人はパソコンを使える。エクセルシートに始業時刻、終業時刻を記入するくらいは原告本人にお願いすれば難なくこなす場合が多い。弁護士は基礎データ入力に悩まされることなく、結果のチェックを中心に行えば良い。「給与第一」の開発後は訴訟の事務処理の手間が大きく省けた(もっとも、ソフトの開発には残業代等の計算時間を遙かに上回る時間が必要だったが・・・)。

 実戦での結果も出ている。「ちゃんこダイニング若」の残業代請求訴訟の地裁判決(現在、高裁の判決待ち)は、原告六人に対して未払残業代等一五〇〇万円に加えて付加金一〇〇〇万円まで認めた「完勝」だった(なおフランチャイズ先の被告が不払いのまま現在のところほとんどの金額を回収できていない)。裁判所が高額の付加金まで認めた一因に、請求の二年前より過去に遡って残業代等の計算結果を平易に示した主張とそれを裏付ける証拠を示し、時効にかかっているとはいえ大量の未払賃金があることを説得力を持って裁判官に示したことがあったと思う。その他にも、緒戦で圧倒的な資料を示した結果、使用者が満額の示談に応じてきた事例もあり、「給与第一」導入の成果は上がっていると思う。

(3) ソフトを開発することのより深い意義

 残業代請求がそれとして単独で行われることは必ずしも典型的事例とは言えない。解雇、雇い止め事件に付随したものであったり、様々な不本意な理由で退職後の請求であったりすることの方がむしろ多いように思う。そして、そのような事案でも相談者が「残業代請求」をキーワードにして相談に来ることは希ではない。残業代請求事件は、実は、労働事件全体への入り口としての意味をもつのである。この間、私が取り組んだ事件も、退職後の請求と、解雇を伴う請求が多く、残業代請求だけが問題になる案件はむしろ少なかった。

 言うまでもないが、自由法曹団の先輩弁護士は、場しのぎの解決ではなく、労働者の権利向上、労働戦線の前進のために労働事件に取り組んでこられたし、解決水準についてもそれなりに注意を払ってこられた。しかし、今、インターネット上では、司法書士が「残業代計算支援」と謳ったり、過払訴訟で「一山あてた」法律事務所が残業代請求を前面に掲げる広告宣伝をしたりしている。労働弁護士の「聖域」に焼き畑農業的な考えに基づく新規参入が容赦なく迫っているのである。弁護士向けのホームページ開発業者も「今、専門分野として打ち出すことをおすすめなのは労働者事件の労働者側です」と言ってはばからない。実際、疑問符の付く「労働事件専門」のホームページもある。

 過払訴訟にしても、派手な広告やテレビ出演をする弁護士ばかりが目立ち、長年この問題に真面目に取り組んできた消費者族の弁護士の影が薄まるという「悪貨が良貨を駆逐する」状況だったのは周知の事実である。先に述べたように、残業代請求は他の様々な労働事件の入り口になる例が多い。我々には、労働弁護士としての本丸である労働事件について「悪貨」に駆逐されないよう、今以上に残業代請求の案件に積極的に取り組み、質、量ともに陣地を拡大していく姿勢が求められているのではないだろうか。テレビ宣伝をやれ、とまでは言わないが、「労働弁護士」を全面に立てたどん欲な姿勢は必要だと思う。その見地から、「給与第一」の利用主体については、当事者、労働組合と団、労弁所属の弁護士に勝手に限定させていただいた。

 事務所のホームページを見ていただければ分かるが、「給与第一」にはまだ課題もある。よりよい計算ソフトを作るためには実戦で鍛え、コンピューターに関するより高い技術を投入する必要があると思っている。「給与第一」は事務所のホームページの次のURLからダウンロードできる。このソフトを使っていただき、積極的なご意見、ご批判を頂ければ幸いである。

http://www.daiichi.gr.jp/syoukai/work/overtime.htm



「風の会」結成一〇周年企画

『司法改革』を検討する― つどいのご案内

神奈川支部  篠 原 義 仁

 「司法に国民の風を吹かせよう」を合言葉にして、今次「司法改革」の諸課題に取り組んできた、「司法に国民の風を吹かせよう」実行委員会(団も参加。というより当時の豊田誠団長が「言い出しっぺの一人」)のたたかいも、本年三月をもって一〇周年を迎えるに至りました。

 この間における「風の会」の取り組みとして、最も記憶に残るものは、消費者団体、公害環境関係団体が、日弁連をはじめ、いくつかの法律家団体と連携して取り組んだ、弁護士報酬敗訴者負担制度の導入阻止の取組みをあげることができます。

 私たちは、刑事裁判(裁判員制度問題を含む)、民事裁判はもとより、行政訴訟の課題にも目を向け、制度「改革」に伴う諸課題の検討とともに、具体的な事例検証をも併せ行い、国民(市民)の目線から具体的、実践的にこの取り組みを進め、そして、現在も「風の会」を解散することなく、今次「司法改革」のあり様について、また、その前進面と課題についての中間的検証を追求しつづけています。

 会を結成して一〇年。そんな思いから、表題にあるようなつどいを二〇一〇年四月三日に開催することとしました。

  と き 二〇一〇年四月三日(土) 午後一時〜五時

  ところ プラザエフ(主婦会館)地下ホール「クラルテ」

  参加費 (資料代) 五〇〇円

 ちなみに、法律家団体として実行委員会に加入しているのは自由法曹団と全国公害弁護団連絡会議ということもあって、四・三企画の報告は、そこに参加する弁護士の方々にお願いすることとなりました。そう、みんな団員の報告者です。

 具体的には、次のような斬り口、運営の方法で企画を進めてゆけないかということで「風の会」で検討を進めています。

《基本的位置づけ》

 今次「司法改革」を記念講演において総体的、総合的に検討す る。

 その上で、「現場」の視点から検証(中間総括)する意味で、現在、国民に提起されている「事件」を中心にして、「司法が国 民のためのものになっているか」という問題提起型の報告をうける。

 同時に「風の会」参加団体からの参加だけでなく、報告をうけ る各参加団体、参加者の一定程度の参加をえて、その確保を行い、

 参加者(団体)相互の交流をめざす。

《内 容》

 企画の冒頭に「二〇年の回顧と所感」というタイトルで会の顧問的存在の清水誠先生にお話しを頂き、その上で次のような要領で「事件報告」を受ける内容となっています。

《事件報告 ─ 当事者本人+弁護団》

一 安保条約と米兵犯罪

 ─ 横須賀基地米兵犯罪・国賠訴訟 ─ 高橋宏団員(米兵犯罪・弁護団事務局長)

 事件の本質的把握とともに日米安保条約の密約問題、地位協定の見直し問題(刑事事件、民事事件)にも斬り込む。

二 表現の自由と裁判所

 ─ 葛飾ビラ配布弾圧事件 ─ 加藤健次団員(自由法曹団前事務局長)

 最高裁判決の内容検討とわが国の「表現の自由」についての後進性(「司法改革」と裁判所の後進性)、国際水準以下の実態の告発とその克服の展望について討論する。

三 市民の手による行政監視と住民訴訟

 ─ オンブズマン活動と住民訴訟 ─ 土橋実団員(全国市民オンブズマン・代表幹事)

 地方自治法を活用しての住民訴訟の前進と課題についての経験交流と国レベルの取り組みの現状と今後について意見交換する。

四 非正規労働者の権利と裁判闘争

 ─ 日立メディコ、松下PDP最高裁判決をのりこるたたかい─ 鷲見賢一郎団員(自由法曹団幹事長)

 前記事件に係る最高裁判決の具体的検討と全国に広がる非正規労働(派遣)の取り組み、民主党政権下での労働法制の改正のたたかいについて意見交換する。

五 大気汚染裁判と和解後の取組み

 ─ 東京大気裁判と「三本柱」の取組み ─ 原希世巳団員(東京大気裁判弁護団事務局長)

 一審判決(道路の設置管理者には勝訴。自動車メーカーには敗訴)をふまえての裁判の到達点と司法の「限界」の総括、それを克服しての大衆的裁判闘争と高裁和解をかちとった立法(条例制定)闘争をも視野に入れたたたかい、そして、今後の「三本柱」(PM二・五問題、被害者救済制度の確立の闘いを含む)の取組み。そして、その報告をうけて、意見交換と交流を行います。

《その視点》

 各事例毎の報告をふまえ、「司法」の社会的機能とその限界(行政追随主義、司法消極主義その他)につき討議し、司法に国民の風をどこまで吹かしきれているか検証する(本当に司法は国民の要求に応えきれているのか)。

 「司法の限界」に対するその克服の闘いの展望を明確にしうるよう、意見交換のやり方を工夫する。

 裁判闘争と大衆運動、裁判の実践と立法闘争(国会闘争)との関係をも意識して討論を組織する。

 裁判には敗訴 ─ しかし、ダムは止った(八ツ場ダム)。裁判に勝訴し、ダムも止った(川辺川利水訴訟)→裁判闘争と大衆運動の相互関係、「車の両輪」関係を明確化する交流を行う。

 「国民のための司法」の確立をめざすという視点、「司法に国民の風を吹かせる」視点を握ってはなさず意見交換する。

 「理屈」に埋没せず、参加者みんなにとって力がわいてくるような「わかり易い交流」を心がける。

 「言うは易し…」で当日の運営はどうなるのか。司会を受けもつ私としては、心配な側面もありますが、成功をめざしてみんなの力を合わせてゆこうと思っています。

 関心のある団員の参加を心から歓迎します。



「労働者派遣法の抜本改正を求める院内集会」への参加のよびかけ

労 働 問 題 委 員 会
大量解雇阻止対策本部

 労働者派遣法抜本改正をめざすたたかいは、いよいよ正念場です。現在、二月に法案要綱を審議し、三月初中旬に法案を国会に提出する予定と伝えられています。自由法曹団では、労働者派遣法抜本改正のための取組の一つとして、労働法制中央連絡会、全労連、自由法曹団の三団体の共催で、次の要領で、「労働者派遣法の抜本改正を求める院内集会」を開催することにしました。院内集会では、労働者派遣法抜本改正を勝ち取るために、全国の裁判闘争の状況等も出し合いたいと思います。

 全国から多数の団員・事務局の皆様が参加されることをよびかけます。

 労働者派遣法の抜本改正を求める院内集会

 ○日 時:二〇一〇年三月二六日(金)午後一時〜五時

      (終了後、懇親会を予定しています。)

 ○場 所:衆議院第一議員会館第一会議室

 ○主 催:労働法制中央連絡会・全労連・自由法曹団

 ○内 容:(1)国会議員からの情勢報告

       (2)労働者派遣法改正案をどう見るか

       (3)全国の裁判闘争の現状とたたかいの展望

       (4)たたかいの当事者からの訴え

       (5)その他

  (適宜国会議員要請を行うことも検討します。)